第9話 仲間の形-2
自分を切り捨ててくれても構わない。そう告げる彼女の表情は真剣で焦りと責任感が現れていた。
「私は主様に命を拾われました。」
「だから、主様の役に立ちたい、そう思っています。」
「ですが、今の私は…全く役に立てていない。」
「戦闘では主様が先に動き敵を素早く仕留めてくださいます。」
「索敵では六郎がいち早く状況を把握し伝えてくれます。」
「ですが、私は戦闘に参加することはおろか索敵や道案内すらもまともにできない!」
「今の私はただのお荷物です。」
「このままではいざと言う時に主様や六郎の足を引っ張るでしょう。」
「ですからどうか、手遅れになる前に私のことを切り捨て六郎とお進み下さい。」
そんなことを言われるとは思っていなかった。むしろ自分に対し不満があるものだと思っていた。でも違った。違ったんだ。彼女が旅の最中見せた表情は俺を責めるものではなく、自分自身を責めたものだったのだ。―だから俺は…。伝えなくてはならない。
『そんな事しない。君は俺の大切な仲間だ。』
こういう時にありきたりな言葉しか吐けない自分のセンスに辟易する。それでも等身大の言葉で心を紡ぐ。
「ですがっ…。」
『君は自分のことを足手まといだなんて言うけれどそんなの当たり前だ。』
「…え?」
『良いかい普通こういう時はもっと慰めの言葉を言うものだろうけれど僕は言わない。絶対にだ。』
『僕たちは仲間だ。仲間っていうのは誰しもがある意味で足を引っ張り合っている。』
『けど、だからこそ仲間なんだ。』
『足りないところを補い合い支え合う。そうして前へと進んでいく。それが仲間の形なんだよ。』
『だから、アイリスが足を引っ張っていたとしてもそれは普通のことだ。』
「けど、それでは何も解決しないんじゃ。」
『そうだね、だから…。』
『これから一緒に探していこう。』
『人には適材適所があるんだから、無理に僕たちと同じことをしようとしなくていいんだ。』
『少しづつ、少しづつ、アイリスにしかできないことを探していこう。』
『大丈夫、僕と六郎がいるだからどうか自分を追い詰めないで。自分をもっと大事にして。君はもう仲間なんだから君が傷ついて悲しい思いをする人がいることを忘れないで。』
「ウォフウォフ。」
話しているといつの間にか六郎が傍まで来ていた。俺の横を通り過ぎるとアイリスの傍まで駆け寄る。
「ウォフ♪」ペロッ
六郎はアイリスの前に立つとアイリスの顔をペロペロと舐め始めた。
「んっちょ六郎。急に何を。」
『フフッ六郎も僕の言う通りだってさ。』
「ウォフウォフ♪」
「六郎…。分かりました。」
「主様、六郎、二人ともどうかお願いします。二人を頼ってもいいですか。」
『あぁ、もちろん。』「ウォフッ。」
夕日が落ちていく。静まり返った空には星々の輝きが灯り始めた。
『さてとそれじゃあ夕食にしようか。』
「はい、主様。」
「主様、今日は私が少し料理に手を加えてもいいですか。」
『!あぁ、もちろん。』
そうしてまた同じ食卓を囲む。確かな絆の深まりを感じながら。
真夜中になった。森のさざめきも消え辺りには新緑の優しい匂いだけが満ちている。その中で彼女は一人考える。
「私にしかできないこと…。」
その時、夜空に一筋の流星が輝いた。
「…そうだ!」
そう言うとアイリスは森の中へと駆け出した。
『やってしまった…。』
昨日のことを思い出し体をうねらせる。痛い、恥ずかしい。いや、ほんとなにあれ…。
いや、言い訳をさせて欲しい。なんと言うかあれはいいことを言う流れだったというか、むしろあそこでなんの声掛けもしないやつってそれこそ寒いやつだろ。そうだよ、うん、そうだ!俺は悪くない、なんなら良い奴だ。うん、そうだ…。
『…ってなるわけないだろっ!!』
こうして俺にまた黒歴史が追加されたのであった。
朝が来た。俺の心情とは裏腹に清々しい程の晴天である。いつもよりも遅い時間に起きたからか、太陽が顔を出し空が青く染まっている。アイリス達は…もう起きているようだ。
『ひとまず起きよう…。』
身体を起こし辺りを見回す。川辺の方に煙が見えた。どうやらアイリス達はそこにいるらしい。
『おーい、アイリス、六郎ー。』
「この声は、主様ーお目覚めになりましたかー。」
「ウォフウォフ!」
『あぁ、遅れてごめんふたりとも食事にしよう。』
二人の声がした場所まで着いた、着いたはずだが…。そこには六郎しか居なかった。
『あれ、六郎アイリスはどうしたんだい?』
「ウォフ。」
六郎の視線の先から走ってくる影が見える。おそらくは森で食料を集めていたのだろう。すぐに声かける。
「主様、おはようございます。」
『おはよう、アイリス今日も元気かい。』
茂みから出て来た影はいつもの優しい声だった。胸と腰に巻かれた毛皮、しなやかだが筋性のある五体、腰まで下げられた白くなびく髪…。
『いや、誰!?』
「え!あ、そうでした。そういえばこの姿で会うのは初めてですよね。」
「改めて私はアイリス・エーデルワイスです。よろしくお願いします主様。」
『ええええええええ!!』
森が揺れるほどの声が響いた。




