第10話 遭遇
少女に改めて目を向ける。背丈は半獣時より小さく、筋肉質だった四肢も今はしなやかさに目が行く。本当に彼女がアイリスなのか!?俺てっきり子供いるから(前世の)俺より年上なのかなとか思ってたんだけど、なんか申し訳ないな。
「あの、主様…。そんなにまじまじ見られると恥ずかしいのですが…。」
『あ、いや、すまない。』
…ひとまず落ち着こう。
『アイリス、そのなんで急に人の姿になったんだい?』
「はい、これは主様の役に立てると思ったからです。」
『僕のため?』
「はい、昨日主様は私に「人には適材適所がある」とそうおっしゃいました。」
「私は考えました。今の私にできることはなにか。そして主様が何を望んでいるのか。」
『僕が何を望んでいるのか?』
「はい、そこで思い出したのです。主様が人の姿になりたがっているのを!」
「そこからは簡単でした。まず、主様がそして私が人の姿になるにあたって必要な衣服を作るため森で獣を狩り、最低限ではありますが毛皮で衣服を仕立てました。」
「そして次に主様が人として十分な食事を取るために食材を確保し今に至るというわけです。」
『なるほど…。』
いや、なんというかすごい俺の言葉を拡大解釈してくれているな…。いや、嬉しいんだけど、俺がカッコつけて言った言葉をまるで金言みたいにもてはやされるとなんかムズムズする。嬉しいけど!
「ですので主様これを…。」
そう言うとアイリスは毛皮の腰巻とマントを渡してきた。
「簡単なものではありますが主様の分の衣服です。ぜひ着てみてください。」
穏やかな春の風のようなそんな間が流れる。
『…ありがとう、アイリス。』
「はい、主様!」
アイリスに少し後ろを向いてもらい着替えを済ませる。
「…よし。」
「着替えは済みましたか?主様。」
アイリスが振り返る。表情がパァっと明るくなる。
「お似合いです。主様。」
「ありがとう。」
素肌に感じる空気が心地いい。以前は重く垂れ下がるばかりだった四肢が今は軽く、血が巡るのを確かに感じる。前世で感じていたはずの全てが今は新しい。
「ウォフ!」
「主様、お食事が出来ました!」
香ばしい匂いがする。獣肉に香草を加え焼いたなかなかワイルドな料理。それが何故か地元の母の手料理を食べる時のような感じたことがない感動を呼び起こす。俺はたまらず食らいつく。
「アツっ。」
肉汁が弾けた。だが風味だけで味は無い。肉はスーパーで売っているような柔らかいものではなくかなりの歯ごたえがある。あぁ、それでも…。
「主様、美味しいですか?」
「あぁ、おいしいよ。」
俺は人の味覚を取り戻した。
旅を初めて約一月、俺は人間の身体を満喫していた。当然この鬱蒼とした森の中では蟲の姿の方が適しているのだが、楽しさを優先しこの姿で最近は動いている。せっかく服も作ってもらったしね。
「主様、今日もご機嫌ですね。」
「ウォフウォフ♪」
「フフッ、まぁね。」
アイリスも最近は人の姿でいることが多い。あの日以来かなり元気になってくれて嬉しい。最近はかなり自分から話しかけてきてくれる。しかし、嬉しい反面服装がいい意味でかなり目に毒なので気をつけて欲しいとも思う。いや、別にいいんだけどね、うん。
「それにしてもこの辺りは蟲がほとんどいませんね。どうしたんでしょう?」
「確かにそうだね。」
「ウォフ。」
そうなのだ。俺たちが人の姿でいられる理由のひとつにこの辺りに来てから蟲がほとんどいないということがある。いたとしても小型のもので気づいてから難なく対処出来る。
(でもなんとなくなにかから逃げてきたような、弱っているようなそんな気もするんだよな…。)
「ウワァーー!!助けてーー!!!」
声が響く。これは…、
「ッ…行きましょう、主様!」
「あぁ!」
声の元へと全力で走り出す。この感じ何かいる!
違和感、進むほどに辺りにあるはずの草木が消え乾燥し固くなった地面の感覚が足に伝わる。周囲には風に乗って甘ったるい匂いが香っている。
「ウォフウォフ!!」
六郎がソレを捉える。
「コイツはっ…!」
目の前にそびえ立つ巨大な植物、体からは先の匂いを臭い程に放ち、葉は獣の口のように裂けまるで意思でもあるかのように不敵に笑っている。異様、通常の生態系では生まれえない存在。
「主様あそこです!」
ソレから飛び出した触手のひとつに少女が捕らえられているのが見える。
「あの子が声の主か。」
どうやら気を失っているらしい。まだ息があればいいが…。
「アイリス、六郎。」
「はい!」「ウォフ!」
「指示を出す続いてくれ。」
「アイリスはあの子を助けてくれ、できるか?」
「はい、もちろんです。」
「よし、じゃあ六郎はここで俺の服を持って待機、アイリスがあの子を助けしだい一緒に下がってくれ。」
「ウォフ!」
「アイツの相手は任せてくれ、俺がやる。」
一歩前に出る。空気がヒリつく。相手は既に臨戦態勢だ。
ドンッ!次の一歩で一気に距離を詰める。同時に人の体が剥がれ落ちる。
「変身!!」
角が風を切る。懐かしいなんて感情を自分に対して持つのは違和感があるが、今は良い。この姿に対してはこれで良い。
『力借りるよ、カブトムシ!』
静まり返った森の中で戦いの火蓋が切って落とされた。




