大聖都 動き出す救出者達
目的の為に、改めて解ったことを再確認してみる。
人間の『魂』とか『精神』とかは、向こうの世界でもはっきりとしたことは解っていなかった。
この世界独自の概念だ。
「私も軽く聞いただけです。不老不死前の時代にははっきりと理解しておらず、転生後、向こうの世界の知識と合わせて、こうなのだろう、と考えたことですから。もしかしたら違う所があるかもしれません。
魔王城の魔術師だったら、もう少し詳しく知っていたかもしれませんが」
『言ってみるといい。致命的に違っていたら、それは教えてあげるよ』
「ありがとうございます」
講師はクラージュさん。
灰色兎に丁寧なお礼のお辞儀をする様子は、ちょっとシュールだ。
『精霊神』様は自分からは世界の秘密を人間に教えることはできない。
教えて良い事は限定されている。
けれど、本人が気付いたことを補足することはいいんだって。
積極的に協力を約束して下さった。
ちなみに神の結界内である神殿で『精霊神』ラス様が会話する為に、プラーミァの『精霊神』アーレリオス様は結界内に穴を開けてサポート中とのこと。
白い兎は香箱を組んで寝ているように見える。
「まず、人間――生命全てかもしれませんが――は『肉体』と『魂』と『精神』を有している。
損傷の無い稼働する『肉体』に『魂』と『精神』が宿っている状態を、生存しているというのでしょう」
私達は受講生。
お父様、ヴェートリッヒ皇子、アル。
カマラとヴィクスさんも一緒に聞いている。
「『魂』と『精神』は同一のようで、原則としては別種のものなのでしょう。
魔王の説明を聞いて、そう確信しました」
「どういうことですか?」
私の質問に、先生のように頷いて応えてくれるクラージュさん。
向こうの保育士時代の海斗先生とよく似た顔をしている。
「『魂』というのは肉体を稼働させる基本的な力。『精神』は人格、意識。そういうものだと思います。
極端な話ですが、意識が戻らなくても身体が生存している事がまれにあります。
また『精神』、『人格』は子どもの頃は未成熟ですし、術や薬品、介入で書き換えられてしまうこともあります。
『精神』がどういうものなのか、具体的には解りません。
ですが『肉体』を稼働させる役割を持っているのは事実。
おそらく『魂』の一部に『精神』がある。
もしくは『精神』に変化したものが肉体の稼働を行うのかもしれません」
ちらりと『精霊神』様を見る。
否定の声はまだ上がらない。
ということは、大筋では間違っていないのだろう。
「『人型精霊』は人間とほぼ同じ構造をしていると思われます。
つまり、アルフィリーガの例でいうのであれば、アルフィリーガの前世。
『神の人型精霊』マリク・ヴァン・ドゥルーフは、『神』によって『魂』と『肉体』を形作られ、目的に沿った『魔王』としての精神を育てました」
「神の人型精霊として、魔王として世界を蹂躙し続けていたんだな」
「はい。神の道具として以外の選択肢はなく、道具として重宝はされていたでしょうが、おそらく自由はほぼ有していなかった筈です」
いくつかの彼の発言から推察するに、魔王時代の彼はかなり孤独だったっぽい。
人並みの知性を持ち、会話ができる魔性はそんなに多くなかったようだし、栄光とも無縁だった。
都合の良い悪役だもんね。
「クラージュさんは、魔王時代のマリクをご存じだったのですか?」
「一応は。
『精霊の貴人』と一緒に何度か説得と戦いに赴きましたから」
「説得?」
「ええ。ここだけの話ですが、当時二人。
『魔王』と『精霊の貴人』は決して憎しみ合っていたわけでは無いのです。
むしろ世界にただ二人の同胞。
人型精霊として、敵対し合いながらも、ある意味共鳴し、惹かれ合っていたと言えるでしょう」
「本当ですか?」
「ええ。今の『魔王』にその記憶がどれほど残っているかは解りませんが」
彼に好意を向ける存在がいなかったことは容易に想像がつく。
魔性しかいない城で、孤独な王座に座す『魔王』。
ふと、エリクスの顔が頭に浮かんだ。
エリクスも、だからパートナーを欲したのだろうか?
「幾度かの戦いと説得があり、『魔王』は敗北しました。
彼には『神』に反逆する自由はなかった。
敗北し、自らの魂を委ねるという形で『精霊の貴人』の手を取ったと言えるかもしれません」
……先代の『精霊の貴人』は『魔王』をどう思っていたのだろうか?
ある種の同胞として。
もしかしたら男女の想いに似たものもあったのかもしれない。
彼を救いたくて。
だから無理を圧して『神』の呪縛から『魔王』を奪い取ったということも。
「『星』は『精霊の貴人』と『精霊長』の要請を受け、初期化された『魔王』の魂を宿す人型精霊の器を作りました。
そして生まれたのが星の精霊『精霊の獣』。
私達の知る『リオン』の精神です。
魂は『魔王』と同じですが、『精霊長』の意識が加わった上に『星の精霊』として育てられたので、『魔王』とは違う人格になりました。
今の彼の身体も『星の精霊』として作られているので、多分『魔王』よりも『精霊の獣』の方が精霊関連のあらゆる力を巧みに扱えると思います」
「現在、その精神は封じられて『魔王』の精神がリオンの精神を模倣して使っている……。
で、ここからが本題だが、『魔王』の魂の隙を突いて、封じられているリオンを救い出すことはできるのか?」
「基本的には『神』がやったのと同じ方法が効果的だと思いますよ」
「『神』がやった方法?」
クラージュさんも、おそらくリオンを救い出す方法を色々と考えてくれていたのだろう。
すんなりと返事が返る。
「ええ。『魔王の精神』の隙を見て、体内の『星』の影響力を強める。
『魔王の精神』が弱ったのを見計らって、リオンの精神を救い出す。
ある程度『神』の影響力が弱まれば、『精霊の獣』は自分で檻を破って出て来る可能性も高いので、かなり勝算はあります」
「『魔王の精神』を弱らせ、『星』の影響力を高める……か」
具体的にどうしたらいいかはまだよく解らない。
けれど、魔王城の守護精霊や、魔王城で『星』に相談すれば方法を探せるだろうか?
「その為には、フェイを味方にすることが必須ですが」
「え? フェイ、ですか?」
クラージュさんが少し意外な言葉を口にしたので、私は目を瞬かせた。
私の中でフェイは味方にするも何も、絶対のリオンの味方であり、私達の仲間。
既に協力者だと思っていたんだけれど。
「フェイは、リオンに対して一切の敵対行動を取りません。
『魔王』に対しても、私達のように『リオンに身体を返して消えろ!』という態度は取れないと思います」
「……フェイ兄さ、リオン兄を盗った『魔王』に対してもリオン兄と同じように接してるんだ。つーか、前よりも甘やかしている感じ?」
「フェイが、リオンを?」
「オレ、今、偽リオン兄の顔見たくなくて家を出て、店で寝泊まりしてるんだけど、何でも言う事を聞いて、跪いて。この間なんか、ひざ枕してる時もあったんだぜ!」
「ひざまくら……」
事実だとしたら、それは相当に甘えている。
普通の男の子同士だって、膝枕なんて普通しない。
「『外っ面がリオン兄なら何でもいいのかよ!』って怒ったんだけど、それでも変わらなくて……腹が立って。
アーサーやアレク、クリス達も違和感は感じてるみたいだ」
フェイがリオンに敵対行動を取ることはない。
クラージュさんが言う通りだ。
それがリオンの身体を使う『魔王』だから同じなのか。
それとも何か理由があるのか。
「私、フェイに聞いてみる」
私以上にリオンが大好きで、忠誠を誓っているフェイ。
フェイだって、私達のリオンの人格が封じられ、偽物が闊歩している現状を良いと思っている筈はない。
それは、あの苦しげな顔付きからも明らかだ。
何とかして、『魔王』からリオンを取り戻す。
その為には確かにフェイの協力は必須だろう。
「マリカ。機会は一度きりだと思え。
事は内面の話で、敵が圧倒的有利な場だ。
仕掛けて失敗したが最後、マリクが本気でリオンの人格を潰しに来る可能性がある。
俺達には手出しができない所でな」
「はい」
「僕らも全面的に協力する。
君とリオン、アルフィリーガの為なら各国も協力を惜しむことは無い筈だ」
「ありがとうございます」
お父様とヴェートリッヒ皇子に、私は頭を下げた。
一刻も早くリオンを助け出したい。
けれど焦っちゃだめだ。
一歩一歩、確実に。
苦しいけれど、自分に言い聞かせる。
諦めず、絶対に。
私達は必ず、リオンを取り戻す。
――と。




