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大聖都 大神官への要請 3

 なんだか、外堀を埋められたというか、嵌められたというか。


 私の、大聖都大神殿大神官就任の話。

 最初は何の冗談かとも思ったのだけれど、どんどん具体化され、逃げ場がなくなってきているような気がする。


「どうしよう……」


 私は寝所で一人。

 お行儀悪く、ベッドで大の字になって天井を見上げていた。


 事の発端は、亡き神官長フェデリクス・アルディクスの提案であったらしい。


「『聖なる乙女』マリカ皇女に、神殿における最高位。大神官を要請する」


 と。


 実は、という打ち明け話になるけれど、この一年間、神官長の立場は色々と微妙であったらしい。


 新年の最初から大火災と爆発があって、その犯人は捕まらなかった。

 各国は『精霊神』の復活によって力を増し、今まで神殿の司祭に頼ることが多かった魔術などの要請は減っていく。


 加えて各国で騒動も起きて、三人の神殿長が更迭される事態が発生。

 アルケディウスとアーヴェントルクでは王族が神殿長を務めることになり、各国での神殿の影響力が薄まった。


『聖なる乙女』の舞の成功で、夏の儀式は例年以上の成果が出たけれど。

 子どもを新しく不老不死者にする儀式は休止中。


(これは多分、本物の大神官がリオンによって転生中で、神官長にはもしかしたら不老不死の儀式はできないからかもしれない)


『聖なる乙女』を獲得する為の説得も失敗続き。

 不老不死後からずっと大神殿に君臨してきた神官長は、色々と難しい立場に立たされていたとのこと。


 司祭の中には、就任当時若く、当時の大神官の抜擢によって長となった神官長を良く思わない者もいたらしい。


 ただ、神官長は彼らを黙らせる為、ではないだろうけれど、不老不死にあたり若さを捧げ、自ら老人の姿になったという。

 結構すごい話。


 それにより『神』から、他の司祭とは一線を画す大きな力を授かったので、同じことをする覚悟の無い者達は神官長に従ってきた。

 今も、大神官が使う術の大部分は、他の神官、司祭は使えないのだそうだ。


「神官長は、術を行使する為の方法などを誰にも伝えずに逝きました。

 ですので、恥ずかしながら今現在、大神殿は不老不死者を新しく生み出すこと、司祭候補者に神の石を授けることもできない状態なのです」


 向こうの世界でも良くあったっけ。

 ワンオペで仕事を担当していた人がいなくなり、継承が上手くいかず、会社そのものが立ちいかなくなるって話。


「現在、神官長の残した書物を調べ直したり、精霊古語の本を探したりしておりますが、時間がかかりそうです。

 何より新しい年の始まり。神官長死去と魔王復活に慄く人々の心を癒し、鎮め、皆が納得する纏め役、長が必要なのです」


 神官長を追い落とそうとしていた神官達も、いざ自分が全てを統べる存在となるのは怖いらしい。


「マリカ様が神殿の長となって頂けるのであれば、誰も文句を言う者はおりません。

 ただ、もしマリカ様にお引き受け頂けなかった場合、権力闘争や再編によって大神殿。いえ、各国の信仰を司る『神殿』という機構そのものが崩壊する可能性がございます。

『神』と人を繋ぐ、もはや唯一の方。どうかご検討をよろしくお願いいたします」


 神官長がいなくなったことで、『聖なる乙女』に命令できる者は誰もいない。


 だから、これはあくまで依頼であり、要請であると大神殿側は言ってきたけれど、『神殿』の機構崩壊なんていわれると断りづらくなる。


 そして、国王会議の方でも。


「マリカに大神殿の大神官を務めて欲しい。

 そういう要請があった」


 戻ってきた皇王陛下は、肩を落としながら私にそう告げた。


「各国から、アルケディウスがあまりにも『精霊の恵み』を独占しすぎている、という意見が出てな。大神殿の『大神官』になれば、基本、平等な立場に立つ。

 お前を含む勇者、魔術師も『神殿』に置き、大陸全体を守り導いて欲しい、という話なのだ」

「ちょっと待って下さい。魔術師はともかく、勇者、リオンの存在もバレたんですか?」


 皇王の傍らに立つリオンやフェイの顔も白い。

 どうやら彼らは、私より先にお父様に知らされていたらしいから驚きは見えなかったけれども、凄く苦しそうな表情をしている。


「魔術師、フェイについては、風の王家の血を引く真なる魔術師と知れた。魔王エリクスが余計な事を言ってくれたからな。

 転移術を使う事も気付かれた為、どの国においても単身での入国、行動は厳しく制限されることになる。

 できるなら、皇女付きとして大聖都にあって、常に所在を明らかにして欲しい。一国で抱えてくれるなとはっきり言われた」

「それは……そうでしょうけれど」


 フェイに関する各国の危惧は理解できなくもない。


 私の随伴者として七国全てに足を踏み入れたフェイは、国境こそ越えられないけれど、国の中に入ればいろんなところに転移できる。

 特に王宮に侵入できるのが大きい。


 人知れず国宝を盗み出すなんてことも、可能ではあるのだから。


 アルケディウスには後二人、風の術師で転移術を使える者がいるけれど、彼らのことを知られない為にも、フェイの所在は明らかにして欲しい、という各国の要請は断り切れない筈だ。


「リオンの方も、な。義兄上に見破られた。

 奴は随分と前から気付いていたらしい。あの方は俺のこと。行動や思考を良くご存じだからな」


 頷くお父様の眉は、これ以上ないというくらいに顰められている。


「ベフェルティルング王に……」


 確かにお父様のことを幼い頃から良く知っている兄王様なら、気付いても不思議はないか。

 戦士として、リオンの実力も解っていたようだし。


「ということは、私だけでなく、リオンとフェイも大神殿に入れ、ということなんですね?」

「そうだ。一国で、お前達三人と『新しい食』を独占するな、と。

『精霊の恵み』は平等にあるべきだ、とは神官長の言葉だったがな」


 私達にとって一番の身内とも言えるプラーミァがそう言ってきたのは意外だった。

 兄王様は、私達のことを一番気にして理解して下さっていたと思ったのに。


 少し寂しいというか、残念な気持ちになる。


「無論、お前が嫌がるのなら強制はしないと言っていたがな。神官長の葬儀は次の安息日に行うと決まったそうだ。夜の神の加護が一番高まる日だから。

 できるなら、その日までに結論を出してくれと言っていた」

「少し……考えさせて下さい」

「うむ。よく考えるがいい。お前自身の事だ。

 アルケディウスは、お前の選択を尊重する」


 各国と神殿から圧力をかけられて、皇王陛下も厳しい立場に置かれているんだろうな、ということは解る。

 私がアルケディウスにいたいと断ると、多分嬉しい反面、各国からの相当な圧力と戦う事になる筈だ。


 さて、本当にどうしたものか。


「あ、そうだ」


 私は寝台から立ち上がり、装飾品が置かれている箱からサークレットを取り出す。

 プラーミァ、お母様から貰った火の国のサークレット。


 会談と食事の後、大事な伝言がある、とアルが来て言ったのだ。


「あのさ。『精霊神』が今日の夜、サークレットをして寝てくれって言ってた。お前に話があるんだって」

「『精霊神』様が?」


 新年の儀式、ううん。

 正確には、私が自分の正体に気付いた夜から『精霊神』様の姿が見えなくなった。


 私の意識が『神』に捕まっている時にも出てこなかったから、何か事情があるのかなと思って心配ではあったのだけれど。


「今、なんだか『精霊神』は大神殿の中に入れないんだってさ。オレも仕事で外に出た時、呼び止められたんだ」


 話によると今、大神殿は『神』がガッチガチに結界を張っていて、『精霊神』様は入れなくなっているんだって。

 私が神殿の外に出るか、サークレットを付けないと接触できないとか、よっぽどだな。

 私はサークレットをそっと頭に被った。


 今の所は何もない。

 と言って、気付く。


 精霊獣が神殿のエリアに入れないのなら、ここで待ってても無理じゃない。

 夢の中に出てくるおつもりなのだろう。


 私はサークレットをしたまま、もう一度寝台に横たわり、目を閉じた。


 もしかしたら『精霊神』様も、私に大神官になれって言ってくるのかな?

 だとしたら、ますます逃げられなくなるなあ。


 そんなことを考えながら。

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