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大聖都 七国を動かす娘

 舞踏会は、その後、表向き平穏に進んだ。

 収穫も実はたくさん。


「マリカ。これをどう思う?」


 その皮切りはプラーミァの国王陛下。


 女性会談の区切りに私を手招きし、男性の――つまりは国王会談に招き寄せ、楽しげな笑顔と共に見せて下さったのは、小さなガラスの小瓶に入った白くどろりとした液体だった。


「なんですか? これ?」


 瓶を差し出された私は蓋を開けて見てみる。

 兄王様なら危険なものってことも無いでしょう。


「ああ、マリカ様。どうか皿をお使い下さい。

 後、手袋を外して。衣服に付くと色々とやっかいです」


 お付きのカーンさんに止められたので手袋を外し、注意深く触れてみると、なんだかネバネバしている?


「それはな、プラーミァで最近発見されたものなのだ。

 其方の帰国後、国内の植物を大々的に調査し、『精霊の書物』の読み解きと共に研究を開始した。

 その過程で発見された、とある木の樹液なのだが……」

「まさか、ゴム、ですか?

 これ、酸を入れて固めたりすると丈夫で、伸び縮みする物体になりませんか?」

「やはり、知っていたか?」

「ゴム?」


 皇王陛下やスーダイ様、お父様が首を傾げる中、ベフェルティルング王はしてやったりという顔。


 兄王様に引っ掛けられた感はあるけれど、ゴムはあるならぜひ欲しいと思っていたものだから、素直に話を聞く。


「発見したのは、バニラの時の子どもでな。

 木材の調査をしている時に見つけたそうだ。

 子どもというのは目がいい。精霊にも愛されているな」


 最初は、どろどろとした樹液が飲めるのではないかと煮詰めたが、匂いが酷くどうにもならなかった。

 だが、それを偶然、お酢を入れていた空き瓶に入れたら固まり、不思議な弾力を持つようになったという。


「素晴らしい発見ですね。

 これは、とっても役に立つ物質なんです。

 固めた素材、あったりしますか?」

「ああ」


 運ばれてきたのは、黄土色の板状の塊。

 うーん、輪ゴム色。


 それをリオンに頼んで薄切りにしてもらう。

 そして。


「リオン、お父様。これ、両端を持って引っ張ってみて下さい」

「ん? なんだ?」「解りました」


 二人に引っ張ってもらうと、びよーんと伸びて。


「何だ? これは?」

「あ、お父様。手を放さないで!」

「あいてっ!」


 リオンの手元に跳ね戻った。

 パチン、って。


「すまん。でも……これは一体?」

「ゴムって言うんです。

 さっき国王陛下がおっしゃった通り、木の樹液からできていて、酸と混ぜて固めると弾力を帯びた物質ができます。

 衝撃を抑えたり、伸び縮みする性質を利用して色々な加工が可能です」

「これは面白いな」

「これで靴を作ると水が入らないし、足の衝撃を抑えてくれてかなり役に立ちます。

 それから、ゴムを細く切って、こうして袋や紙などを止めたりとか」


 国王陛下達が興味津々で顔を寄せていると。


「申し訳ございませんが、我々もお話に加わらせて頂けませんでしょうか?」

「まあ、メルクーリオ様」

「久しぶり……というか、ちゃんと顔を合わせて話すのは何百年ぶりだろうね。ライオット」

「顔だけなら戦でよく見かけていたがな。

 お前が出てきたのか? ヴェートリッヒ」


 後ろから、水国フリュッスカイトと夜国アーヴェントルクの公子と皇子――メルクーリオ様達がやってきていたのだ。


「プラーミァの偉大なる国王陛下と、エルディランドの新大王閣下には改めてご挨拶を申し上げます。

 この度、母公主の後を継ぎ、大公位につくことになりましたメルクーリオと申します。

 このような場には不慣れで、ご無礼がありましたらどうぞお許しを」


 メルクーリオ様も、スーダイ様と同じように今年の国王会議で承認され、新国主となった。


 私が去った後の儀式で、神殿の承認も受けた筈だから、この舞踏会でお披露目となる。


 本当だったら、挨拶に向かった国で先に話をしていたら終わるまで待つのが礼儀。

 けれど、『慣れていない』って理由をつけて吶喊してきたんだな。


 ……科学の国が、新素材の匂いに我慢できなくなったのかも?


 きっと同じ意図と理由でやってきたヴェートリッヒ様も、恭しくお辞儀と挨拶をする。


「僕はアーヴェントルクのヴェートリッヒと申します。

 父より、若き国主方々と新しい製品や貿易について話すのであれば、お前の方が良かろうと遣わされました。

 本来であるのなら会話の終わりを待つべきところであることは承知しておりますが、僕は会議には入れぬ身。

 故にどうかご無礼を、このアーヴェントルクの最新にして最高技術に免じてお許しいただけないでしょうか?」

「うわあ……」


 返事を待つより早く、ヴェートリッヒ皇子が差し出した品物に皆、息を呑む。


 それは、見事な腕時計だったのだ。


 ガラス細工の板に守られた精密な歯車や機械部品は繊細で、文字盤に隠すことなく部品を見せているのに美しい。

 地球ならスケルトンと呼ばれるタイプ。


 少し大振りではあったけれど、向こうの世界にあってもおかしくないような精密機械時計。


 これ、アーヴェントルクで作ったの?


「これは……」

「なんという見事な工芸品でしょう」

「アーヴェントルクは精霊神の復活とその導きにより、太古から伝わる知識や技術をいくつか復活させることができました。

 聞けば、各国とも新素材の発見や、精霊文書の解読による新技術開発に励んでおられるとのこと。

 ぜひ、アーヴェントルクもご協力させて頂きたいのです」


 目を輝かせる四カ国の国主様達を見て、頭の中にパチン、と稲妻のようなひらめきが走った。


 私は皇王陛下に向かい合い、一つの提案をする。


「皇王陛下」

「なんだ? マリカ?」

「これはもう、シュトルムスルフトとヒンメルヴェルエクトも呼んで、国王会議の前哨戦、やったほうが良くありませんか?」

「なんと?」

「だって、新素材とか新技術とか見ちゃったら、皆さん詳しく知りたいと思うでしょうし。

 乗り込んできた以上、メルクーリオ様だって自慢の一品を絶対持ってきておられますし」

「な、何故解った」


 従者に持たせている荷物に、無意識に目をやるメルクーリオ様。

 新化学薬品か、化粧品と見た。

 あ、もしかしたらオリーヴァの塩漬けかも。


「今年こそ、話題に置いていかれたくないって思っているヒンメルヴェルエクトと、シュトルムスルフトを置いていくのはかわいそうです。

 席が足りないとか、おもてなしが薄くなるとかはさておき、もし国主様達がお許しいただけるのなら、順番に行き来するよりその方が合理的だと思います」

「まったく、其方という娘は。

 今まで、そんな先例は無いぞ。

 だが……」


 ちらり、と場に集う四カ国の代表達に皇王陛下は視線を向ける。


「皆様方。孫がこのようなことを申しておるのですが、いかがですか?」

「私としては問題ない」


 と言うのは、プラーミァのベフェルティルング王。


「各国が新しく見出した国の特産を見せて貰えるのなら、短い国王会議前の時間を有意義に過ごせるだろう」


 今まで国王の中では最年少だったけれど、この輪の中だとむしろベテラン。

 皇王陛下と同じ年長組になる。

 悠然とした余裕が見られた。


「私も是非に」


 と頷くエルディランド大王、スーダイ様。


「マリカ皇女を救い出すのに急ぎ来てしまったし、舞踏会の場なので持ってきていないが、我が国は新技術開発の先駆。

 製紙、インクの考案、ショーユにサケなど『新しい食』を広げる発酵の研究など、自慢の一品は山ほどある。

 ぜひ、知識や意見の交換は行いたいものだ」


 先に来ていて、邪魔されたことを怒る権利があるお二人が許すのであれば、いいんじゃないかな?


 私の甘い考えを読んだように、皇王陛下は軽く睨むように見やった後、息と言葉を吐き出す。


「リオン、フェイ。ヒンメルヴェルエクトとシュトルムスルフトに連絡を。

『七国皆で話し合いを致しませんか』とな」

「はっ!」「かしこまりました」


 その後、声をかけられたヒンメルヴェルエクトとシュトルムスルフトもやってきて会談に加わった。


 ヒンメルヴェルエクトは公子が、シュトルムスルフトは国王自らがおいでになり、それぞれ石油や化学繊維の研究結果を披露して。


 椅子を急遽追加して行われた舞踏会の首脳会談は、各国の特産品が開示され、研究や技術が交換される凄い場となった。


 会議ほど固い場でないし、若い国王や皇子が多いので意見が活発。


 皇王陛下は全体の纏め役。

 ベフェルティルング王は一歩引いて調整役に徹していたけれど、みんな凄く楽しそうだった。

 ……と思いたい。


 私は途中から国王方々の席のお世話に専念してしまったので女性テーブルからは離れたけれど、向こうも皇王妃様とオルファリア様が上手く話を動かして、他国の女性達を呼び、化粧品や『新しい食』についての情報交換をしていたそうだ。

 活発な七国の交流。

 距離が縮まった各王家の方々との時間はとっても楽しかった。


 終わり間際。


「まったく、其方には叶わんな。リュゼ・フィーヤ!」

「ベフェルティルング様!」

「お前以外が提案していたら、きっと誰もこんな馬鹿騒ぎには乗らなかったぞ。

 七国を巡り、その輝きを知らせ動かす『星』の娘よ」


 ベフェルティルング様はそう笑い、私の行動を多分、褒めて下さる。


 けれど。


 神官長は、


「流石、『星』と『神』の代行者。

 意思を感じ取り、伝える生きた精霊。

 見事なお手並みでした。

 やはり貴女を俗世には置いておくことはできないと、改めて実感いたしました」


 私に跪き、囁いていく。


 何故か、心に針が突き刺さったような気がする。


「マリカ」

「大丈夫、リオン。きっと、大丈夫だから」


『星』と『神』の代行者。


 逃がさないぞ、という宣戦布告よりも。

 私は、別の言葉の方が胸の奥に突き刺さったのだった。

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