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大聖都 女性達の会談 前編

 プラーミァとエルディランド。三国の代表との会談。

 女性エリア。


「それでは、シュンシー妃はまだ不老不死を得ておられませんのね?」

「まだ、正式な成婚前ですので妃、ではございませんが……」


 プラーミァの王妃、オルファリア様は、緊張しながらも気丈に振る舞うエルディランドの新しい大王妃、シュンシーさんに優しく話しかけておられた。

 私も、シュンシーさん――いや、もう様って言わないといけないかな。

 シュンシー様とスーダイ様の結婚のきっかけが知りたい。


「きっかけ、と申しましても、実際の所は他にいなかったから、というのが大きいのです。

 貴族家の姫君に独身の方はほぼおられませんでしたし、王子の中には娘を離婚させて大王妃に、という申し出も無くは無かったのですが、そういうのは好かないとスーダイ王子がおっしゃって」


 大王として即位するなら王妃は必須。

 そう言われて、スーダイ様は一番気心の知れたスーシンさんを選んだのだという。

 身分的な問題はあったけれど、それは第二王子が養女にするということで収まったらしい。

 アルケディウスやヒンメルヴェルエクトでも、美姫を王族に嫁がせる為に貴族の養女にした事例を聞いたことがあるし。


「私は魔術師として王をお側で護り、助ける意図もあり、王妃に選ばれた存在です。

 各国で王族魔術師が復活していることも鑑み、スーダイ様に魔術を教え、同時に次代に王族魔術師となりうる子を産むことを望まれております。

 魔術師は成人し、不老不死を得ると能力が下がることもあり、当面は不老不死を得ずにお側にお仕えし、身体がもう少し成長してから必要なら不老不死を願う、ということになりそうです」

「それは、とても良い事であると存じますわ。

 プラーミァの王太子妃フィリアトゥリスは成人後、最速で不老不死を得ましたが、身体が未熟なまま固定されてしまい、色々な点で苦労しておりましたから」


 賢妃として名高いオルファリア様。

 王族として、他国の情報を探る意図は勿論あるのだろうけれど、その心遣いは本物だな、と感じる。


 個人的に、私もせめて十八歳過ぎくらいまでは不老不死になるのは止めておいた方がいいと思う。

 不老不死そのものを肯定しないけれど、まだ本当に若くて小さなシュンシーさんに妊娠出産とか、それ以前にスーダイ様を迎え入れるとか、ちょっと大変そうだもの。


「そういえば、フィリアトゥリス様の御出産、おめでとうございます。

 産後の肥立ちはいかがですか?」

「マリカ様から頂いた指導書もありますし、皆も助けております。

 子もすくすくと成長しており、何百年ぶりの新しい命に国中が夢中になっております。

 まだ首も座りませんが、もう少しすれば通信鏡でフィリアトゥリスがお顔を見せるのではないでしょうか?」

「楽しみにしております」


 本当に楽しみだ。

 両親から祝福され、愛されて生まれてきた子ども。

 そんな子がもっともっと増えて、当たり前に生きていて欲しい。


「なので、今年の同行者はグランダルフィ一人でございます。

 王太后様は『今年は遠慮する。必要なら通信鏡で顔が見られるから』と申しておりました」

「通信鏡は本当に便利ですよね。

 二台目を作って頂くことは難しいでしょうか?

 製法の流出ができないことは承知しておりますが」

「あ……その件につきましては、まだちょっと調整が難しく……」

「そうなのですか?

 あら、このケーキはとてもステキですね。

 チョコレートとミクルのものは今日の昼餐で頂きましたが、こちらに入っているのはマーロかしら?」

「はい。本当に美味しいで。

 チョコレートというお菓子の話はスーダイ様から伺っていましたが、ここまで鮮烈で魅惑的なものだとは」

「マーロの甘煮と、こちらはチリエージアの砂糖漬けを入れてみました。

 こちらは同じものにチョコレートを直接絡めたものです」

「これだと、チョコレートのざらつきが気にならずに美味しくいただくことができますね。

 国の者達も頑張っていますが、精霊術なしでアルケディウス程のきめ細かいチョコレートを作るのは大変な様なので、このような工夫したレシピは助かりますわ。

 後でレシピを買い取らせて頂けないでしょうか? 皇王妃様」

「マリカ、どうですか?」

「問題ありません。

 会議中に清書してお渡しできるようにしたいと思います」

「お願いしますね。それで、通信鏡のことですけれど……」


 残念ながら、お菓子で話を逸らすことはできなかったようだ。


 緩急をつけて話題を転がし、隙を見つけて切り込んでくる。

 流石、五百年国のトップに立つ交渉のプロフェッショナル。


 私やシュンシー様がたじたじしていると、皇王妃様がカバーして下さった。


「通信鏡については、皇王陛下が直接各国王と交渉するそうなので。

 私達が話をすることは禁止されているのです」

「あら、それは残念ですわね。

 でも、通信鏡は本当に画期的な大発明でしたから、慎重になるのも仕方ありませんわ。

 我が国も二台目の獲得に全力で挑むつもりです」

「一台目はアルケディウスと必ず繋がりますが、二台目をお渡しすると、何処と通信するのか解らなくなる。ということを皇王陛下は御懸念されているようです」

「お気持ちは解りますが、技術というのは広まってこそ。

 即時通信の有益性はこの半年で各国思い知りましたから、もう後戻りできませんわよ。

 通信鏡は、マリカ様の去就と共に今回の会議の間違いない主要議題になりますわ」

「そうでございますね。

 ですからこそ、慎重を期したいと思っております」

「解りました。王の手腕を期待すると致しましょう」


 舞踏会は本当に油断できない社交の場だ、と改めて思う。


 シュンシー様も、お二人の様子を真剣に見つめている。

 私もいつか、皇王妃様やオルファリア様のように、悠々と余裕をもって対することができるようになるのだろうか?


「あ、そう言えばオルファリア様」

「何かしら。リュゼ・フィーヤ」

「私の去就が今回の会議の課題、っておっしゃっていましたけれど、それってもう決定事項なんですか?

 というか、国王会議ってどんなことを話し合われるのですか?」

「マリカ!」


 皇王妃様にちょっと眉を上げられたけれど、気になっていたことなのでこの機会に。


 私は国王会議の流れが今一つよく解っていない。

 どういう流れで話が進み、交渉が行われるか知らないのだ。

 皇王陛下に聞いても、『任せておけ』っておっしゃるばかりだし。

 実際、お任せするしかないけれど、気になることは止められない。


 差し出したお菓子がお気に召したのか、オルファリア様は私とシュンシー様、二人に優しく教え諭すような眼差しで微笑んで下さった。


「国王会議、というのは基本的に何を決めるものでもありませんの。

 国での政策や施策を決めるのと違って、各国それぞれに思惑や事情がありますからね」

「はい」

「ですから、国王会議とは主に他国に向ける要望の場。

 個人貿易としてとは別に、国が国に向けての貿易や要請を、いかに自国に益がある形にもっていくかを調整する為のものなのです」

「要望の場、ですか?」

「ええ。

 例えば今回、アルケディウスに陛下は新しい通信鏡や貴女の派遣と共に、麦酒の作り方や設備について交渉するおつもりの様子。

 エルディランドには、さっきも言ったように穀物の輸入や栽培知識を教えてもらうよう依頼することになるでしょう。


 プラーミァは気温が高いせいか、小麦の発育は今一つなのです。

 一方でエルディランドのものとは少し種類が違いますが、リアはかなり良い手ごたえがありました。

 来年から本格栽培を始める予定なので、リアの栽培に先見の明をもつエルディランドの協力を仰ぎたいと思っています」


 エルディランドのものとは違うリア、ということはインディカ米かな、と思う。

 あれはあれで美味しい。

 ピラフとか最高だ。


「では、プラーミァからは何を差し出すか。

 香辛料や砂糖が今までの定番。それにカカオも新しく加わったけれど、嗜好品が主ですから、それでは足りないと言われたら?


 目に見えるもの、見えないもの。

 それらを上手く活用して、思い通りの結果を出せるように話し合うのが国王会議なのです」


 去年あった通り、各国王同士が行き来して要望を出し合う。

 当然、全ての国に行けないから順番などは厳選し、噛み合わない時は同伴者が代理を務める。


「でも、それって大勢がいる場では話し辛い事とかもあるんじゃないんですか?」

「ええ。だから、全体で話し合うのは基本的には最初と最後だけね。

 後は個別に根回しをして、最後に決定事項として報告することが多かったかしら」


 なるほど。

 そういう流れだと、自国と関わりを持たない遠い国に対しての関わりは薄めになる。

 七国全てと交流を持とう、っていう流れにはならないのか。


「今までは、それで済んでいたの。

 おおよその国が、生きていくだけなら自国の中だけで間に合いましたから。

 他国に興味を持たなかった、というか、興味が持てなかったというか……。


 不思議な話ですね。

 アルケディウスはライオット皇子とティラトリーツェの御縁がありましたから、まだ親しくしていましたけれど、北の国とは疎遠で、縁を繋ごうとも思いませんでした。

 私、フリュッスカイトが国策として化粧品に力を入れていると知ったのも、そもそも化粧品が自国で作れるかもしれないと気付いたのも、マリカ様の来訪以降のことなのですよ」


 個人貿易で、超高額にはなるけれど、王妃様達クラスなら他国の輸入品が手に入る。

 そういうものだと思って納得して、どういう風に作るのだろうとか、自国で作ろうとか、まったく考えなかったという。


 こんな賢夫人から思考力を奪う。

 やっぱり闇が深いな。不老不死社会。


「ただ、今までは、です」


 自らの迷いを振り払うように顔を上げオルファリア様は言葉を続ける。


「今年からは中日にも全体の会議が入りました。

 七国が一堂に会して、意見交換をしなければならないことが多くなりましたからね」

「そうなのですか?」

「主にはマリカ姫。

 貴女の今年の派遣スケジュールと去就、各国で開発された新技術の情報交換などを話し合うのだそうよ。

 アルケディウスの通信鏡、シュトルムスルフトが提案する道路交通網と転移陣についてなどが主要議題になりそうね」

「それです。なんで私の去就がそんな会議の議題に……」


 私に今年も諸国訪問が求められていて、そのスケジュール調整を、というのは解る。

 でも、去就というのは……。


 私の中の嫌な予感を肯定するように。


「それだけ、各国とも貴女の訪問で得たことが多かったということです。

 今年も、その後も、できれば訪問してほしい。

 でも、それをどこに依頼するのが得か、と考えているの」

「どこにって……」

「大聖都は、マリカ様を神殿籍にする為にアルケディウスに圧力をかける、と宣言。

 各国にそれに協力するよう依頼してきています」

「え?」


 あまりにさらりと言われたので、びっくりした。


 オルファリア様は私達の前で、大神殿の企みをリークしたのだから。

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