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大聖都 救いの二人

「ベフェルティルング様! スーダイ様!!」


 神官長の右側から声をかけたのは、プラーミァ国王 ベフェルティルング様。

 左側をどっしりと塞いでいるのは、エルディランドの第一王子スーダイ様。


 どちらも護衛騎士などを連れた一団でやってきている。

 あ、いや違う。もしかしたら、もう大王様なのかもしれない。スーダイ様は。


 とにかく、二カ国のトップに左右を塞がれ、神官長はあからさまに眉を顰めて見せた。


「国を導く国王であらせられる方々が、他人の話に割り込むのはよくありませんな」

「ああ、それは確かに申し訳なかった。神官長よ。

 だが、許して欲しいものだ。私は一度マリカ皇女に求婚して振られた身でな。

 大王として即位した姿を、誰よりも先に見せて悔しがらせたかったのだ」


 緊迫した場を和ませようとして、か。

 明るい冗談めいた声をかけるスーダイ様とは正反対に。


「私は姪と従弟が困っているのでな。見過ごせなかった。

 家族同士、積もる話もある。ここは譲って貰えないか? 神官長」


 ベフェルティルング様の朱色の目は射るように厳しく、神官長を睨んでいる。


「……困りましたな。こういうことは始めが肝心なのですよ。

 マリカ様は『聖なる乙女』だと、最初に各国に知らしめておかないと」

「心配するな。神官長殿。もう皆解っている」


 わざとらしく息を吐き出して、スーダイ様が肩を竦めて見せる。


「スーダイ大王様?」


「マリカ皇女が『精霊神』の祝福を受けた、並々ならぬ才を持つ『聖なる乙女』である、とな。

 我々だけではない。彼女に恩を受けた七国全ての者が知っている。

 故に今更、祀り上げなくても皆、皇女には敬愛と友愛をもって接するだろう。心配はいらぬ」


 私には、とどこか強調するような口調に、くすっと含み笑う声が聞こえた。

 ベフェルティルング様だ。


 自分にとっては後輩にあたる王に場を譲り、余裕のある表情で腕を組んでいるのは、スーダイ様のお手並み拝見、とでも思っているのだろうか。

 一方スーダイ様は多分、そんな兄王様の思惑なんて解った上で、独壇場を繰り広げている。


「私達を含め、各国王が皆、今や遅しと待っているのだ。

 彼女との再会と交渉の時を。

 このまま姫の機嫌を損ね、アルケディウスのみならず、我らも敵に回すのは大聖都としても得策ではあるまい?」


 大聖都の神官長に堂々と喧嘩を売って。


「新しい地国の大王閣下も、大聖都に、『神』に従わない、と?」

「そんなことは言ってはおらぬ。

 ただ『神』の『聖なる乙女』は神殿が祀らずとも敬愛をもって接する故、時間を無駄にさせないで欲しいと言っているのだ。去年のように六国全てが挨拶できず、などということになれば明日からの交渉にも差し支える。ほら、秋二国も凄い形相でこちらを見ているぞ」


 スーダイ様が顎をしゃくって見せるその先には、秋国ヒンメルヴェルエクトの大公様。

 そういえば、去年の舞踏会では時間切れで秋二国とはお話できなかったんだっけ。


 凄い形相、ってわけでは無いけれど、側に立つ公子様と確かに面白くない顔で神官長を睨んでいる。


「仕方ありませんな」


 肩を落とし、諦めたような風で息を吐き出す神官長。


「ここは各国王の顔に免じて、『聖なる乙女』の身柄、アルケディウスに預けましょう」


 彼の声に、周囲の安堵が揺れる。

 見ている皆も心配していたのだろうか?


「ですが『聖なる乙女』は『神』の娘。丁重な対応をお願いいたします。

 アルケディウスのみならず諸国王におかれましても、姫君に無礼なきよう」

「無礼を働いているのはそちらであろう?」


 とは誰も言わなかった。

 そこは政治。余計な言質を取られるわけにはいかないもんね。


「では、マリカ様。『聖なる乙女』。また後程」


 皇王陛下、お父様。

 地国と火国の国王二人。


 綺麗にスルーして、神官長は去って行った。

 ある意味凄いな。

 本当に『神』とその関連のこと以外どうでもいい、っていう態度。


 政教分離は正しい事だと思うけれど。


「やれやれ。其方は相変わらずもてるな。良くも悪くも。

 あの時、手に入れ損ねたのが改めて悔やまれる」

「エル・トゥルヴィゼクス。

 スーダイ様、いえ、スーダイ大王様。御無沙汰しております。

 この度は、お助け下さいましてありがとうございました」


 久しぶりのスーダイ様は、私がお礼を言うと少し照れたように顔を赤らめ、頭を掻いて見せる。

 相変わらず、くまさんのようなぷっくりお腹だけれど、見慣れれば愛嬌があって、これはこれでいいと思う。

 貫禄もあるしね。


「べ、別に助けたわけでは無いから、気にするな。

 其方と早く話したかったのに邪魔をされた八つ当たりだ」

「いや、なかなかの手腕と度胸であった。エルディランドの若き指導者。

 その見事な体躯に勝るとも劣らぬ器と度量を見せて貰ったぞ」

「エル・トゥルヴィゼクス。

 ベフェルティルング様も、ご無沙汰しております。助けに来て下さって感謝しております」


 私達の会話に割り込んでくるベフェルティルング様の声は楽しそうだけれど、ちょっと棘がある。

 新しい大王様への警戒か、嫌味か。

 その両方か。


「プラーミァを治めるベフェルティルング王にはご機嫌麗しく。

 秋の戦では大変お世話になりました」

「見事な用兵、痛み入った。

 今年は新大王の誕生を祝い、花を持たせたが、来年はそうはいかぬぞ」


 あ~。そうか。

 秋の戦でプラーミァはエルディランドに負けたのか。


 一つの国が延々と勝ち続けることは良くないとされているみたいだし、スーダイ様は意外に用兵の才があって、本気のプラーミァに勝つこともあるらしい。

 とはいえ、敗戦は面白くないよね。王様にとっては。


「戦のみならず、ベフェルティルング国王陛下には新王として、隣国王として様々な点で学ばせて頂きたいですし、力をお貸し頂きたいとも思っております」

「うむ。こちらもエルディランドの力を借りねばならぬこともあるだろう。なにせプラーミァは穀物の実りが悪い。エルディランドのように麦もリアも、ソーハもという訳にはいかぬのだ」

「我が国も『新しい食』の進歩に伴い、砂糖や香辛料の輸入が急務となっております。ぜひに……」

「両国王よ。このようなところでいつまでも立ち話をさせていては、アルケディウスの立場が無い。どうぞ、席へ」


 お二人がさらに言葉を紡ごうとしたところで、皇王陛下が声をかける。

 確かにかなり込み入った取引の話になりそうだ。

 自国のエリアで他国の王にいつまでも立ち話されては、皇王陛下も面目が立たないよね。


「孫娘を助けて下さったお礼もかねて、アルケディウスの新作菓子をつまみにいろいろと話を致しましょうか」

「それはありがたい。では、新大王陛下。邪魔かもしれんが、色々と今後についての意見交換をさせて頂くとしよう」

「こちらこそ、家族のお時間を邪魔してしまい、申し訳ありません。よろしくお願いいたします。……マリカ皇女」

「はい。スーダイ大王様」


 今回の舞踏会。

 事前打ち合わせでは私が皇王妃様と女性側、お父様と皇王陛下が男性側のお客の接待を行い、呼ばれ意見を求められた時には男性側に行くという話になっている。


 だから、神殿側の攻撃から逃れた私は取り決め通り、女性側の接待のお手伝いに行く。

 私にむけてスーダイ様が声をかけてきたのは、だからだろう。


「妻を、よろしくお願いする。このような場は初めてなので、緊張し、困っているようだ」

「まあ、奥様!」


 どこか照れた表情を見せるスーダイ様に、ちょっと驚く。

 エルディランドに赴き、王子に求婚されたのは昨年の夏のこと。

 まだ半年。

 大王即位とか色々あったのだろうけれど、随分早いご成婚だ。


「おめでとうございます。もう式は挙げられたのですか?」

「まだ、正式に式は挙げていない。だから、婚約者というべきか」


 スーダイ様は照れくさそうに頭を掻く。

 その様子が妙に可愛い。


「昨年末に公表、今年の参賀と国王会議で承認と披露目を行い、今年の大祭に合わせ式を行うことになっている。結婚式の祝いにそなたの舞を。という約束はまだ生きているか?」

「大祭には無理かもしれませんが、お祝いについては皇王陛下と相談して前向きに検討します。それで……奥様はどちらに?」

「第二王子家から娶った娘でな……。ほら、マリカ皇女と会うのを楽しみにしていたであろう?」


 後ろの方に隠れていた小さな身体が、前に促される。

 巨漢のスーダイ様と比べると、本当に小さく見えるけれど……その姿に覚えがあった。


「貴女は、魔術師の……」

「お久しぶりでございます。マリカ様。シュンシーにございます」


 半年前、森で出会った少女魔術師は、大王様の隣、真直ぐな姿勢で私達を見つめている。


 一人の貴婦人として。

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