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風国 真実の一欠片 後編

 マクハーン王太子様は、物腰柔らかく、公平な人だ。


 最初に出会ったシャッハラール王子の印象があまりにも悪すぎるからかもしれないけれど、私的にはかなり好印象。

 ファイルーズ王女の事情も、あくまで自分達の言い分として話して下さっている。


「兄や父王、男達の意見はまた違うと思うけれど、私達は本当に、この件に関しては不満を持っていた。

 いずれ、父王や兄達からこの件について話を聞くことがあったら、私達の話を頭に入れた上で、どちらが正しいか、姫君や君達が考えて欲しい」


 と、最初におっしゃっていたのだ。


 フェイに語るという形になってからは、口調も少しラフになっている。

 それは、とても平等で正しい姿勢だと思う。


「ファイルーズには、話した通り、幼い頃から決められた許嫁がいた。

 王女、それも『聖なる乙女』を与えられる家だからね。

 南の砂漠地帯ではあるけれど、大貴族の第二位で力の強い家で、母の実家とも懇意にしていた。

 相手は不老不死だから実際年齢は相当に離れているけれど、それは仕方のないことだから、ファイルーズも理解していた筈だ。

 長く連れ添った正妃が第二夫人に下がり、ファイルーズが第一夫人として迎えられることになっていた」


 淡々と話されるマクハーン様の話を聞きながら、私は正直、うわー、やだなあ、と思っていた。


 親子ほど、どころではない歳の離れた相手と結婚させられる十代の女の子の気持ちは、完全に無視なんだ。

 この世界では当たり前なのかもしれないけれど。


 お父様がリオンを私の婚約者にしてくれなかったら、多分、私もどこか貴族家の男に嫁がされる話になっていたのかもしれない。

 いや、多分、今だって申し込みそのものは山ほどあるのだ。


 お父様とお母様、お祖父様とお祖母様が、私を尊重してシャットアウトしてくれているだけで。


「ただ、ファイルーズが『聖なる乙女』として認められるようになってくると、他の大貴族達も彼女に目をつけるようになった。

 何せ、ファイルーズが舞うと光の精霊が集まり、風が共に踊ると言われていたくらいだ。

 ずっと子どもや『聖なる乙女』が生まれていなかった王宮で、唯一、真実の若さと輝きを持つファイルーズは、国中を魅了していった」


 これは今のアルケディウスや、大聖都の『聖なる乙女』フィーバーを知っている身として解る気がする。

 子どもは純粋に可愛いし、才能のある若い女の子がアイドルとして人気者になるのは、いつの時代にもあることだ。


「ファイルーズも悪いと言えば悪かったんだろうね。

 王宮という限られた世界ではあったけれど、『聖なる乙女』として溺愛されて育った彼女は、婚約者というものを特別視していなかった。

 というか、まだ子どもで、結婚ということを本気で理解していなかったのかもしれない。

 好意を向けてくる相手に対しては、いつも笑顔で応じ、決して冷たくすることはなかった。

 別に男相手に浮名を流した、という訳では無かったけれど、誰にでも優しく、輝く微笑みを見せるファイルーズは、知らず国中の男達の憧れの的になり、争奪戦が始まった」


 婚約者よりも、もっといい条件を出すという申し出が、いくつも出てくる。


 北の方の領地を率いる者の中には、実際、砂漠という厳しい領地を与えられているが故の名誉職のように第二位となっていた婚約者の大貴族よりも、資産的に好条件を出せるところも多かった。


 一方で婚約者は、最初からの約束を盾に、ファイルーズ様との結婚を迫ってくる。


 シュトルムスルフトを南北に二分するくらいの騒動になって、このままではどちらに嫁いでも遺恨が残るだろうというくらいの騒ぎになった時、父王が一つの決定を下す。


『ファイルーズの婚約を解消し、王族に留め置く』と。


「それなら、まあいいかと我々も思っていた。

 けれど、こともあろうに兄上がファイルーズの結婚に名乗りを上げてきた」

「え? でも異腹とはいえ兄妹ですよね。そういうの、アリなんですか?」

「もちろん、無しだ。

 表向き申し込んできた相手は自分の乳兄弟。

 でも、そんな相手に嫁がせたらどうなるか、考えただけでも解るだろう?

 我々は拒絶し、ファイルーズを成人の儀まで王宮から出さないことに決めた」


 ぞわりと、背筋に冷たいものが走る。


 自分の言うことを聞く配下へ嫁いだ義理の妹。

 確かに、怖いことになる想像しか見えない。


「ただ、父上は兄上を溺愛していた。

 身分は低い女から生まれたけれど、一番自分によく似た性質を持つとね。

 成人の儀の後、父上に結婚相手を定められてしまったら手も足も出ない。

 どうしようかと考えていた時に、それは起きた。

 儀式関連の為に外出したファイルーズが襲撃にあい、身柄を奪われたのだ」


 これは、最初に伺った話だ。


 王宮に襲撃者が現れ、魔術を使い、護衛士達の眼前でファイルーズ姫を連れ去った。


「『精霊神』の怒りを受けて後、この国では精霊術が効きにくくなったと言われている。

 かつては当たり前に使えていた転移陣も動きを止め、『風国』と呼ばれながらも、王族の魔術師でさえ、当時転移術が使える者は誰もいなかった。

 まあ、自己申告だから、本当はいたのかもしれないが、いないことになっていた。

 勿論、ファイルーズには幾人もの護衛が付き、側近も多くいた。

 けれど、魔術師と思しきその人物が風の魔術で側近を一瞬怯ませ、ファイルーズに触れ、術を使った瞬間、妹達は消え失せていたという。

 フードを被り、仮面で顔を隠していた魔術師は、男か女かも分からない。

 瞬く間のことでファイルーズは、彼女が連れていた護衛士兼侍従である青年と共に姿を消した。

 その後、必死の捜索にも関わらず、今なお見つかってはいない」


 勿論、国中を総ざらいするような大捜索網が敷かれた。

 動機のある大貴族達も、徹底的に身辺調査を受けた。


 けれども怪しい人物は見つからず、事件は迷宮入りになってしまったということらしい。


 転移術の使い勝手を知っている私達にとっては、魔術師がその気になれば完全犯罪が可能なことは解っている。


 術者の力量にも依るけれど、一度行った場所なら、どこでも移動可能なのだ。

 壁とか鍵とかも、ほとんど意味がない。


 泥棒、誘拐、なんでもござれ。


 アルケディウスの二人は、そんなことはしないと信じているけれど。


「成人の儀に合わせ、父王はファイルーズが『精霊神』によって『神』の世界に迎えられたと発表し、葬式とも言える儀式と手続きを行った。

 我々は反対した。

 けれど、ファイルーズが連れ去られてしまった以上、厳しい話になるが、辱められているだろう。

 戻ってきても、もう表舞台に出ることはできないのは明らかだったから、あの子の名誉を守る為という父上の言葉に反論できず、あの子の『死』を受け入れたんだ」


 そうして約十五年の時を経て、フェイがやってきた。


 十五年の空白を埋める情報を、フェイは持ってはいなかった。

 けれど、少なくともファイルーズ王女はあの後、子を産むまで生き延びた。


 解っていたことだけれど、『精霊神』に連れていかれた訳ではない、ということも確認できたことで、王太子と王妃様は覚悟を決めたらしい。


 ファイルーズ王女失踪の真相を探す、と。


「父上はああ言ったが、私達は皇女とお約束した通り、君の意思を尊重する。

 決して無理に王家へ連れ戻すようなことはしないよ。

 勿論、君が望むなら、一族として受け入れるけれど」


 話の間、一瞬たりとも警戒を解かず、厳しい顔つきで耳を傾けていたフェイに、マクハーン様は微笑みかける。


 実際問題として、フェイが生まれた、ということは、ファイルーズ王女がなんらかの形で男性関係を持った、あるいは持たされたということでもある。


 それは『聖なる乙女』として崇められた王女の名誉を汚すことになる。

 けれど構わない、とフェイを認知したこともまた、マクハーン王太子様達の決意の表明なのだろう。


『精霊神』の子を処女受胎、と国王陛下はしたいのかもしれないけれど、無理がある。


「ただ、父上ではないが、君がファイルーズの血を受け継ぎ、精霊に愛されているのは、僕らにも解る。

 君は多分、望めば優れた魔術師になれるんじゃないかな?」


 ざわり、とアルケディウスの随員達の空気が揺れた。


 彼らはみんな、フェイが皇王の魔術師だということを知っているからね。


 でも、それを言っていない筈なのに、マクハーン様や、もしかしたら国王陛下も気付いている?

 だとしたら、なかなかに侮れない。


 フリュッスカイトの王族。

『七精霊の子』も。


「私達はファイルーズ失踪の謎を明かし、必ず全てを詳らかにする。

 もし、思い出したことがあったり、手を貸してもいいと思ったりしたら、いつでも声をかけて欲しい。

 立場上、後宮から出てくることはできないけれど、母上も君と会い、話ができる日を待っていると言っていたから」


 そう言い残して、マクハーン王太子様はお帰りになり、長い長いシュトルムスルフト第一日目は、ほぼ終わった。


「まだまだ、謎が多いけどね」

「ええ、まだ何も始まっていませんから。全てはここからです」


 王太子を見送るフェイの眼差しは、刃のように鋭い。


 一生懸命に、私達の為に何をするべきなのかを考えてくれているのが解った。


 私はそんなフェイの姿。

 家族かもしれない人物にも警戒を緩めないフェイの思いが頼もしかったけれど、少し悲しい気持ちにもなったのだった。

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