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風国 王の血を継ぐ者

 拡大コピーと、縮小コピー。


 そんな言葉が頭を過った。


 目の前に立つ人物は、はっきりとした成人。

 凛々しく威厳はあるけれど、シャッハラール王子と違い、外見年齢は二十代そこそこだと思う。


 でも、本当に似ているのだ。


 もちろん、瓜二つとか、見分けがつかないとかではない。


 一番はっきりと違っているのは瞳の色。

 フェイは晴天の日の空のような蒼色をしている。

 目の前の人物は紫水晶。


 背もそれなりに高い。

 百七十センチ以上はありそうだ。


 服装はシュトルムスルフトのチュニックとコート。

 見分けは簡単に付けられるだろう。


 でも、それ以外の煌めきを宿した銀の髪とか、全体に宿す知的な雰囲気とかは、本当によく似ている。


 フェイが大人になれば、きっとこういう風になるのだろうと素直に思えるくらい。


「マクハーン! 何故貴様がここにいる!

 皇女の案内は、私が王から預かった役割だというのに!」

「兄上がこういうことをしでかすと解っていたからですよ。せっかく見つかった私の一族を隠蔽し、あわよくば手の中に入れようなんて」

「貴様、私の配下の中に間者を入れていたのか?」

「それくらい王太子の嗜みです。加えて元々、姫君の出迎えは私の仕事だった筈。

 強引に奪い取ったのは兄上ではないですか?」


 あっけにとられる私達の前で、兄弟喧嘩が始まっている。


 外見も、体格も、年齢も全く違う二人の『兄弟』。

 どうやらかなりの確執が、多分、アルケディウスの比ではないくらいにありそうだ。


 だって、王太子というのは、王位を継ぐ第一位継承権保持者だもの。

 それが第一王子ではなく、この銀の青年であるということは……。


「とにかく! 私には状況が解らず混乱しているであろう姫君と、一族の者に事情を説明する義務があります。黙っていて頂けませんか?」


 ピシャリと、自分より年上の男に言い放つと、その人はもう問答は無用といった風で私達の方を見て膝を折った。


 まだ何か言い足りない様子のシャッハラール王子だけれども、部下の人に全力で押しとどめられている。

 この国にも、上位者の会話を遮るべからず、とかあるのかな?


「このような場所での初対面の挨拶となりますことを、どうかお許し下さい。アルケディウスの宵闇の星。

 『神』と『星』と『精霊』に愛された『聖なる乙女』。

 私はマクハーン。この国の正王妃の第一子にして王太子です」


 なるほど、と瞬間理解した。

 この国は一夫多妻。


 第一王子シャッハラール様は、おそらく妾筋であり、身分が高くないお母様から生まれたのだろう。


 故に、正妃から生まれたこの方の方が階位は上なのだ。


「兄シャッハラールが御無礼をしませんでしたでしょうか?

 シュトルムスルフトは心より、姫君を歓迎いたします」

「はじめまして。マクハーン王太子様。アルケディウス皇女、マリカと申します。

 まだこの国の風習や礼儀作法を完全に理解しておらず、失礼がありましたらお許し下さい」


 教えられたとおりの王族、貴族対応で礼をとると、マクハーン様はにっこりと笑い、首を横に振って下さった。


「こちらがお呼び立てしたのです。どうぞお気遣いは無用にお願いします。

 兄上は皆様に上から目線で押しつけをしたのでは? 

 躾が行き届かなくて申し訳ありません」

「丁寧に、色々なことを教えてくださいました。女性はこの国では男性の下に在る者と定められているとか、髪を隠さないといけないとか……」

「それはこの国において確かな事実なのですが、他国の皇女、しかも『神』の『聖なる乙女』を縛るものではございません。

 もし、姫君が合わせて頂けるのであれば、頭の固い一部の上の年寄りたちを黙らせやすくはなるかもしれませんが」

「では、頭や肌を隠すなど基本的な点については合わせさせて頂きます。他にも守った方がいいことなどありましたら、教えて頂けると幸いです。

 ただ、私の随員は女子どもが多いので彼らの同行を。最低でも護衛士達はお許し頂きたいのですが」

「問題ありません。父王には私から報告しておきます」


 やっぱりマクハーン王太子の方が、頭がいいし話が通じる。


 私は少しホッとした。


「それから、姫君。本来なら正式な面会の手続きをとるべきで、廊下で話すことではないと承知しております。

 宿舎に落ち着きもしていない姫君を呼び止めての立ち話が非礼であることも。

 ですが、このような状況になってしまいましたので、最低限のことだけでも、その少年と今、話をすることをお許しいただけないでしょうか?」

「少年、というのはフェイですね?」


 皆の視線がフェイの方向に向く。


 マクハーン様も、はい、とはっきりそう答えた。


「孤児として育ち、アルケディウスで高い身分についた文官であると聞いております。

 孤児という言葉が正しく、生まれ、素性が定かではないというのであれば、彼について我々には心当たりがあるのです」

「その根拠は?」

「お互いの外見が証明になりませんか?」


 確かに。


「解りました。

 ただ、どんなことであれ、最終的な判断は本人に任せることをお約束下さい。

 彼は今やアルケディウスに無くてはならない存在なのです。縁による強制などで、強引に連れ去られると困ります」

「承知しております。父王もその点はご理解下さるでしょう」


 そう言ってマクハーン様は柔らかく頷くと、立ち上がってフェイの方を見た。


 私は少し横にずれて、フェイとマクハーン様の間に線を作る。


「さて、こうして再会が叶って嬉しい。正直、二度と会えぬと諦めていた」

「……僕は、貴方と初対面です」

「勿論そうだよ。だが、私と君が他人ではないことは、お互いに見れば解るだろう」


 無礼だと怒られても仕方のないフェイの返答を、マクハーン様は笑って流して下さる。


 震えるフェイの声には、いつものような不敵さはない。


 仕方ないだろう。


 誰がどこから、どう見ても。

 二人が血縁であることは明白だ。


 顔色も、今すぐ倒れてもおかしくないくらいに真っ青。


 動揺し、震える身体を、必死のプライドとリオンに支えられて、なんとか立っている感じだ。


「シュトルムスルフトでは、銀の髪はとても珍しい。金髪も少ないが、国の始祖たる『精霊神』が愛した『聖なる乙女』と同じということで、銀の髪は金髪碧眼(勇者の色)より珍重されている」


 そういえば、中東系だからだろうか。

 男性の髪の毛は殆どが黒や茶色だ。金髪は殆どいない。

 シャッハラール王子も黒髪だ。


「現在、シュトルムスルフトの後宮で銀の髪を持つ一族は、大貴族第一位で正王妃の一族たる我々だけ。

 その祖は『聖なる乙女』の兄であったと言われている。

 まあ、我が一族でも全員が銀髪に生まれる訳ではないのだが、当主は代々、外国から娶ってでも銀髪の女を妻に迎えてきたので、シュトルムスルフトで銀髪の者がいればほぼ全て、一族の流れを汲む者だと思って間違いはない。

 そして、現在、その一族でただ一人、十数年来、行方が知れない者がいる」


 シンと、水を打ったような静寂の中、王子は告げた。


「陰謀に巻き込まれ姿を消した、私の妹。

 ファイルーズが、おそらく君の母親だと思われる。

 今となってはこの外見以外の証拠はないが、間違いないだろう」


 フェイに向けて。

 そして、アルケディウス(私達)に向けて、はっきりと宣言する。


「君は私の甥にして、風国の王と『聖なる乙女』の血を継ぐ者だ」


 と。

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