皇国 出発前の相談と偽の魔術師
割と最初の頃から思っていたのだけれど、この世界において七国は、まるで最初から取り決められていたかのように、割とくっきりきっぱりと得意分野を被らせないように分け合っている。
アルケディウスは家具や木材加工、そして鉄工業が得意。フリュッスカイトはガラス細工や化学薬品など。
エルディランドは農業国で、プラーミァは香辛料の産地。
秋国は染色や布、織物、編み物が名産と聞いていて、アーヴェントルクは鉱山と精密加工に長けている。
勿論、個人レベルでは各国それぞれに得意分野以外を行う技術者はいる。
アルケディウスにだってガラス職人も、織物職人もいるしね。故に、自分の国だけで最低限の自給自足は可能になっているみたいだ。
でも、各国の研ぎ澄まされた専門性は、単なる偶然ではなく、お互いを補い合って欲しいという『精霊神』様や『星』の思いの現れのような気がする。
そもそも、暦が七国を表している時点で、どこかの国が消えることが想定されていないのだと思うし。
ただ
「昔はそれでも戦争が少なくはなかった。
利害関係のぶつかり合いなどを解決するのは、力が一番手っ取り早いからな」
静かに、しかしどこか遠い時代を見つめるようにそう語ったのは皇王陛下。
「今よりも食料品を算出する南国の力が強かったのです。世界全体を見ても食料品の自給率はかなりギリギリでしたから。
アルケディウスは北方の割に木の『精霊神』の恵みにより穀物などが良く育ちましたが、アーヴェントルクなどは苦労していたようですよ」
穏やかに補足する皇王妃様。
「『精霊神』の命令で、勿論、他国への侵略戦争は禁止されていた。
だが、それでも全ての王が聖人君子ではない。自国の力を示さんと他国へ攻め込む王は歴史上幾人もいたのだ。
悲しいことではあるがな」
重く落ちる言葉に、その場の空気がわずかに沈む。
元プラーミァ王国王女も、静かに頷きながら口を開いた。
「プラーミァは戦士の国なので、歴史上幾人か、我こそが大陸の覇者とならん、と他国への侵略を繰り返した王がいました。
魔王出現前にはその罪で『精霊神』様に王の地位をはく奪された者もいるようです。
プラーミァの汚点なので詳しいことは伝えられていませんが」
その声音には、誇りと同時に、拭いきれない悔恨の色が滲んでいた。
以前、エルディランドの王子。現大王様は、やや苦い顔で言っていたっけ。
「かつて、王族であるということを鼻にかけた振る舞いを行い、『精霊神』の怒りをかった王がいたそうだ。
以降、エルディランドは表向き『王』は血統だけでなるものではない、と『王子』の機構を作り上げた」
それぞれの国が、それぞれの過去を背負っている。
魔王が降臨し、世界中の『精霊』の力が奪われていた時代が暗黒期であったことは言うまでもなく
さらに『精霊神』の制止が無くなり、自国だけは守らんと、国王達も魔性討伐と共に他国への侵略も繰り返した。
その頃に、魔術師、神官が人の世に生まれ、放たれ、精霊の力がより身近になって戦争も激化していく。
人々が本当に絶望していた時期だったからこそ
魔王を倒し、世界に不老不死を与えた『神』と『勇者アルフィリーガ』は、正しく全ての争いから人々を救い、幸福をもたらした存在として崇められることになったらしい。
で、ちょっと話が逸れたけれど何が言いたいかと言えば
「プラーミァでは少なくとも今は『王族魔術師』という概念そのものがないわね。
王権を示す道具は冠と剣。
王勺が無かったのよ」
というお母様の証言だ。
精霊国に伝わっていた三本の王の杖。
風の王 シュルーストラム
地の王 アーグストラム
火の王 フォルトシュトラム
についてはおそらく、魔王降臨前に『精霊神』様の怒りをかうようなことを王族がしでかして取り上げられたのではないかと思う。
おそらく『精霊神』様も、ずっと取り上げるつもりは無かったけれど、魔王降臨によって(『神』に)封印されて、返すに返せないまま何百年も過ぎてしまった感じかな?
この件について聞いても当のご本人が
『……何も言うことはない。
過去の王の過ちを子孫に負わせ続けるのも気が進まぬことだが、現実問題としてフォルトシュトラムの行方そのものも知れんのだ。
当面は計算に入れずにおけ』
とおっしゃるので、真相は闇の中、だけれど。
まあ、そんな事情もあってか。間近に迫ったシュトルムスルフトへの旅行の打ち合わせの中で。
「すみません。僕はシュトルムスルフトでの滞在期間中、『魔術師』ではなく一文官として扱って貰うことはできませんか?」
私達の魔術師は、少しだけ言葉を選ぶようにして、そんな事を告げてきた。
「それは構わないけど、どうして?」
「シュルーストラム自身に記憶は無いようですが、どうやら彼がシュトルムスルフトの王の杖であることは間違いない様子。
かの国の詳しい様子が解るまで、僕は彼の魔術師であることを名乗らないでいようと思います」
『前にも言ったが万が一にも『王の杖』はシュトルムスルフトの物。返却せよ。などという面倒な話を振られても困るからな。必要な時は手を貸すし心配するな』
そう言われれば是非もない。
状況が解るまでフェイは文官の一人として扱うことにする。
ただ
「魔術師は一人は連れて行った方がいいわ。一行に魔術師が一人もいないと低く見られるかもしれないから」
とのお母様の忠告もあり、魔王城から精霊石の装身具を一つ借りてきて、表向きの『魔術師』を用意することになった。
「誰がいいですかね?」
「魔王城の秘密を知らない連中は、ちょっと怖いな」
「となるとクレストやプリエラは除外、ですね。アーサー達年少組もやめておいた方がいい」
「じゃあ、セリーナかノアール?」
名前を挙げながら、あれこれと条件を照らし合わせていく。
誰が適任か、軽いようでいて実はかなり重要な選択だ。
色々と相談の末、セリーナにお願いすることにした。
「え? 私が魔術師役を?」
突然の指名に、セリーナは目を丸くする。
「はい。私の側にいて魔術師の真似をしてほしいのです」
「『聖なる乙女』付きの魔術師など、そんな大役が私に務まるでしょうか?」
不安と責任感が入り混じった声音。
「大丈夫です。いざというときは私もフェイもフォローしますから」
そう言って微笑みかけると、セリーナは一瞬だけ視線を伏せ
それから、きゅっと表情を引き締めた。
「解りました。全力でお手伝いさせていただきます」
と、しっかりと頷いてくれた。
装身具の精霊石を使う魔術師として、私の側に控えるのが彼女の今回の仕事になる。
生真面目な彼女は少し悩んでいた様子だけど、その瞳には覚悟が宿っていた。
私個人としては、精霊石と相性が良ければ、そのまま預けてもいいかと思っている。
妹のファミーちゃんも精霊術師見習いしているし。
次の休みに精霊石と引き合わせて……などと、のんきに打ち合わせをしていた、その時だった。
空気を切り裂くように、扉が勢いよく開かれて。
緊急連絡が飛び込んできたのは!
「大変です! 姫君! アドラクィーレ様の出産が始まりました!」




