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皇国 頑張る子ども達 後編

 魔王城でのバカンスを終えて第三皇子家に戻ってから、私は面会と仕事に忙殺された。

 主には次に行く秋国への旅行の準備。秋冬用の訪問着の仮縫いと納品、あとゲシュマック商会との打ち合わせだ。


「いつものようにアルの派遣をお願いします。食料品なども多めに。

 秋国では食料品などがどのくらい手に入るか解りませんから」


 ゲシュマック商会との打ち合わせ。

 大量注文になるので、ガルフとリードさんが自ら来てくれるのがありがたい。


「かしこまりました。調味料も多めがいいですね」

「ええ。香辛料などもできる限り回して下さい。迷惑をかけますが、ちゃんと買い取りますから」

「マリカ様の御注文はいつも最優先です。十二分に代金も頂いております。どうぞお気遣いなく」


 分厚い注文書を見ながら、リードさんが微笑んでくれる。


 今まで各国を巡ってきて思ったことだけれど、この世界の七国にははっきりと向こうの世界。地球の面影がある。


 フリュッスカイトはイタリア、スペイン。地中海ヨーロッパ。

 エルディランドは中国、韓国、日本。西アジア系。

 プラーミァはインド、マレーシア。南国風味。

 アーヴェントルクはスイス、ドイツのイメージがある。

 アルケディウスはロシア系だ。


 最初は偶然だと思っていた。

 けれど、精霊古語などから判明した『精霊神』=異世界人説が正しいのなら、この地に七国を築いた精霊神様が故郷に寄せた、ということなのだろう。

 無意識か、意識してかは解らないけれど。


 となれば、精霊古語と向こうの世界の文化圏からして、残るのは中東アラビア方面とアメリカ関係が有力。

 シュトルムスルフトがおそらく中東、ヒンメルヴェルエクトがアメリカだと思う。

 小麦、棗、トウモロコシとかが期待できるけれど、後は何が手に入るか解らない。

 出来る限りの材料はもっていきたいところだ。


「あ、そう言えば、ギルから食料品図録用の原稿、第四巻を預かってきたんでした」


 私はセリーナに顔を向けて、魔王城から持ってきた紙の束を出してもらう。


「今回は水産物編でしたかな? 相変わらずいい腕だ」

「海産物は傷みやすいですし、扱いによっては危険なこともありますから早めに出版したいですね」

「冬の間は漁もできないところが多いでしょうから、新年までの発行を目指しましょう。

 ミルカに伝えておきます」


 ガルフはそう言って請け負ってくれた。


 アルケディウスで製紙が始まったことで、印刷、書籍の販売はかなり本格化したと思う。

 記念すべき第一冊目となった妊娠出産の本は、各国王族に贈呈後、アルケディウスの大貴族達にも届けた。

 著作権についてはこの本については放棄したので、各国で版を重ねて広がって欲しいと思っている。


 もっとも、その後に出版された食品図録の二巻と三巻の方の売り上げが、今のところは圧倒的だ。

 外国にはまだ王家以外には出してなかったけれど、大祭の時、各国の商人がわざわざ店に顔を出してまで買っていった程だから。


 そろそろガリ版印刷も限界かな?

 でも、印刷機の詳しい構造までは覚えていない。

 カイトさんと相談してみよう。

 精霊古語の本に、詳しい作り方とか載っているといいんだけれど。


「ギル君は、本当に素晴らしい才能を持っていますね。

 こちらで絵師に預けるという気はございませんか?」


 一枚一枚、丁寧に絵の内容を確認していたリードさんが私を見た。

 食品図録は、このイラストにリードさんが解説や注意点を入れて完成する。

 ギルはリードさんの発注を受けて、同じ鮭でも雄雌も解る限り描いてくれているから解りやすい。


 リードさんはギルが気に入っているようでもある。

 でも、ことは絵だからね。

 今の時点でここまで描けているギルを、無理に外に出す必要は無いと思う。


「余計な手癖はつけたくないので当面はこのままで。本人がシュウのように外での勉強を望んだら援助をお願いします」

「かしこまりました」


 リードさんは素直に引いてくれた。

 ギルにはご褒美に、後でいいペンや絵の具を買ってあげようかな。


 ゲシュマック商会との打ち合わせが終わったら、今度はシュライフェ商会との打ち合わせだ。

 今回はエリセを呼んで欲しいとの連絡があったので来てもらう。


「お待たせ致しました。以前、注文を頂きましたドレスが完成しましたのでどうぞ」

「わあ。素敵!」


 プリーツェが届けてくれたのは、以前発注したエリセのご褒美ドレスだ。

 同じサイズで冬用のコートもある。


 エリセが満面の笑みと蕩けるような喜びをその顔に浮かべてドレスを見ているのを見て、私も我が事のように嬉しくなった。


「着てみてもいい?」

「どうぞ。ぜひ、合わせてみて下さい」

「ありがとうございます」


 エリセはお針子さん達に服を脱がせてもらうのに、少し緊張していた様子。

 無理もない。

 でも服を身に着けた途端、そんなものはすぐに吹き飛んでしまう。


「凄い。着心地もいいし、暖かいし、動きやすい」

「とってもお似合いですよ」

「うん、とっても可愛い。エリセにピッタリだね」


 流石シュライフェ商会が誇るデザイナー。

 エリセの髪色や瞳の色、魔術師のペンダントや体格や雰囲気まで考えて作ってくれたのが解る。

 赤を基調にした子どもらしい可愛いデザインは、きっと私じゃ似合わない。

 これはエリセの為のドレスだ。


「今後も、成長に合わせて発注したいと思いますので、またよろしくお願いしますね」

「かしこまりました」

「? また作ってくれるの?」


 エリセは目を丸くしているけれど、子供服は直ぐにサイズが変わるものだから。


「エリセも背が伸びると思うし、頑張ってお仕事をしてくれるご褒美だから気にしないで。

 着れなくなったら下の子に回すってのもアリだしね」

「ありがとう! わたし、もっともっと頑張るからね!」


 ちゃんとした礼装ができて、礼儀作法が身に着けば、エリセを王宮、は無理でも第三皇子家や貴族街に呼ぶこともできるようになるかもしれない。

 そんな下心付きの御褒美ドレスだったのだけれど。


「うーん、素直にご厚意に甘えた方が親孝行なのかも?」

「どうしたのマリカ姉?」

「ん、なんでもない。気にしないで」


 春毛の兎みたいにぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるエリセを見て、思ってしまう。

 可愛らしい衣装を身に着けた子どもを見るのって、嬉し楽しい。

 下手したら自分の服を作って貰うよりも、エリセの可愛い姿と喜ぶ顔を見る方が好きかもしれない。


 いくら言っても私の舞用や舞踏会のドレス衣装の予算を削って下さらないお母様や皇王陛下。

 そのお気持ちがなんとなく解ってしまった。

 個人的には、年に数回しか使わない舞衣装や礼装をその都度あつらえるのは無駄だと思うのだけれど、ここは素直に甘えた方がいいのかもしれないな。


 因みに、リオンにはお父様が、フェイにはソレルティア様が、アルにはガルフが、それぞれ同じような事を言って礼装衣装とかを誂えているんだって。

 自分で買うからいい、って言っても子どもは気にするな。の一点張りだそうだ。


 リオンやフェイの新しい正装は私も見たいから楽しみだ。

 ではなく。


 でもリオンだって、アーサーやクリスには服を作ってあげている。

 従者として恥ずかしい事にならないようにって。

 自分がやってもらって嬉しかったから、自分も後に続く者にやってあげる。


 優しさ、思いやり。

 人がもつ輝かしいもの。


 輪になって続いていけば、いじめとか無くなるのに。

 せめてこの世界では、そんなことが生まれないといいな。


 そう思った。

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