表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
802/881

魔王城 頑張る子ども達 中編

 魔王城に今、常時住んでいる子は十三人。

 エリセ、アーサー、アレク、クリスは外で仕事をしながら、基本的には魔王城で寝泊まりしている。

 念の為、エリセはゲシュマック商会のガルフの館に。アーサー達は貴族街のリオンの家に部屋もあるけれど、まだ小さいし、安全の為、毎日家に戻すことを心がけている。


 シュウ、ヨハン、ギルにジョイ、ジャックとリュウは、ライオット皇子が貴族街の奴隷を救出した時に、私達と一緒に来た所謂初期組だ。

 魔王城での生活も丸三年以上。

 最年少、多分五歳くらいのジャックとリュウですら、文字の読み書きと一桁の足し算と掛け算九九をクリアしている。


 識字率激低の中世ヨーロッパの中で、学力レベルでは日本並なんじゃないかなって思う。

 あ、強制はしてないよ。

 あいうえお積み木やカルタを使って自然に覚えたのと、兄弟たちがやっているのを見て、自然にやりたがって覚えた感じ。


 彼らはずっと私達と一緒にいたことで、色々な経験もしているし、何より自分達が幸運な場所にいること、その幸運を守るには努力が必要な事を知っている。

 それは、とても得難い才能だ。


 子どもには満たされた住環境と愛情の中で育てられるべきだと思うけれど、それがどんなに幸せなことかを知らないと、他人を思いやる心とかが育たず、いじめに走ったりするのだ。


 魔王城の子ども達には親の愛情を与えては上げられなかったけれども、私やティーナ、リオンや、フェイ、アルも、兄弟、家族としての愛は全力全開でかけてきたし、一つ一つの行動の意味も教えてきた。


 兄弟という、目指すべきモデルがしっかりある。

 だから、ふざけることはあってもやるべきことはしっかりとやるし、自分のやるべきこと、やりたいことを見つけようとしている良い子達なのだ。


 ティーナの子どものリグ以外。

 途中で入ったファミーちゃんとネアちゃんも、外で辛い目にあってきているし、そんな兄弟達の姿を見ているから、今も生活を心から楽しんでくれているようだ。


 今、二歳のリグは魔王城のおうさま、だ。

 みんなが大好きで、みんなに愛されていることが解っているから、もう好き放題している。


 この好き放題、というのは「我儘放題」とはちょっと違う。

 好きがいっぱいで、皆に好きをプレゼントしまくっている感じかな。

 いい子だよ。本当に。


「ネアちゃんは、どう? 魔王城に慣れた?」

「はい。毎日、ゆめみたいな生活をさせていただいています」

「ネアちゃんね~、おりょうりじょうずなんだよ~。今、ジョイと一緒にごはん作ってくれてるの~」

「ゆっくりですが、丁寧に、手順をしっかり守って料理をするので失敗が少ないんです。

 今はもうスープを作ったり、パンを焼いたりはできるようになっています。

 火の加減などは難しいので、私やエルフィリーネ様が手伝っておりますが」

「うわー、それは頑張っているね。今度、一緒にケーキとかも焼いてみようか!」


 中世世界のパンを焼く、は向こうの世界のトースターでチーンとは違う。

 混ぜて、こねて、寝かせて、丸める。

 単純だけど過程の多い作業だ。

 それをまだ五~六歳でやろうとして、実際にがんばっているのは凄いと思う。


「マリカ姉。今度、ネアちゃんの分もほーちょー、作って」

「解った。頼んでくるね」

「あと、新しいれしぴもほしい」

「いいよ。今度は何が作りたい?」

「うーんと、あったかくておいしいの!」

「了解。ポトフとかシチューとかがいいかな? 次までに用意しておくから」


 魔王城の料理、その次代を背負っているのはジョイだ。

 私が魔王城にいる頃から料理を始めて、今ではちょっとした腕になっている。

 六歳だけどちゃんと包丁を扱って、お肉も切るし魚も焼く。

 スープも作るし、クッキーだって焼いちゃう。


 食材の良い悪い、有毒かそうでないかを見極める目と共に、料理上手の『能力』があるんじゃないかと思ってる。

 材料さえ揃えてあれば、ベーコンだって作っちゃうのだ。


 危険が無いように火や刃物のフォローをしてくれるエルフィリーネが側にいてくれるからだけど。

 好きこそものの上手なれ。

 丁寧に慎重にやるから失敗も少ない。


「みんながおいしいって、いってくれるの。うれしいね」


 そう言ってリアルおままごとや、お店屋さんごっこを吹っ飛ばして料理人の道を歩んでいるのが頼もしい。

 本人がそれを楽しみ、望んでいるうちは全力でサポートしていきたいと思っている。


「あ、マリカ姉。しゅくだいきいて」「きいて」

「宿題?」


 食事の後、帰り支度の前に、私はジャックとリュウに服を引っ張られた。

 膝を折り、目を合わせる。


「うん、やくそくした。しゅくだい」

「やりたいのみつける。ずっとやりたいことって」


 そういえば、と思い出す。

 夏の頃かな。礼大祭の前だったから。

 何かやりたいことはないか、って聞いて『宿題』を出した。

 自分がやりたいことを見つけること。


「ああ、そうだね。約束したね。何か見つけたの?」

「うん! つよくなる!」「リオン兄みたく、カイトせんせーみたく!」


 正直、あちゃーとは思った。


 戦士系かあ。

 この年頃の子どもにとって、戦いとか戦士が憧れなのは解る。

 スーパーヒーロータイムからパンの戦士まで『強い』は正義だからね。


 まして、世界最高峰の戦士、リオンとクラージュさん、お父様が側にいて、その実力を間近で見ているから憧れが募るのも解らなくもない。


 でも……


「戦士は大変だよ。いっぱい練習しないと強くなれないし。

 強くなってもケガをする事とかあるし」

「うん。しってる。リオン兄もケガしてた」

「血ダラダラ。いたいのしってる。おぼえてる」


 ハッとした。


 ずっとずっと、昔。

 リオンが出血多量の大けがをしたことがある。

 この子達にとっては一歳か二歳くらいの小さな時の事だったのに、今も覚えているということは、相当なトラウマだったのだろう。


「それでも、戦士になりたい?」

「なりたい。こわいのやっつけるの」「なりたい。オルドクス助けたいから」

「オルドクスを、助けたい?」

「うん、時々、オルドクス、ケガしてる。僕達守ってくれるのに」

「時々ね。怖いの来るから。黒いのビューン、って」

「え?」

「魔王城の側に魔性が来るのですか?」

「時々、本当にごく稀にですが、飛行魔性と呼ばれるものが来ることがあるようです。

 一度だけ、子ども達が外に出ている時に、空を飛んでいたことがありました。

 直ぐに城に戻り、事なきを得ましたが、オルドクスはその魔性を追撃して一人で倒したようです」


 ティーナの説明に、思わず喉が音を立てた。


 私達やリオン、誰もいない時に子ども達に魔性の危険が迫る時はやはりあるのだ。

 油断はできない。


「だから、強くなるんだ。リオン兄みたいにオルドクスといっしょにたたかえるように。

 まもれるように」

「カイト先生、強くなりたいならおしえてくれるって言ってた。

 だからたのんで。マリカ姉」


 真っすぐな二人の目が痛い。


 正直、子どもに武器を持たせるのは今も嫌だ。

 戦場に出すのもきっぱり反対。


 でも。


「それじゃあね。まずは体力作り、かな。

 かけっこ、縄跳び、平均台。毎日練習してみて。

 冬の間は、カイトさんもあんまりこっちに来れないと思うし、私達もまた旅行に行っちゃうから。冬でお外に出られない間、毎日いっぱい遊んで、運動して体を鍛えて。

 そして春になっても気持ちが変わらなかったら、カイト先生にお願いしてあげる」

「わかった」「やる!」


 子ども達のやる気は止められない。


 ここは中世異世界。日本でもない。

 自分の身を守る為に、最低限の力は持たないと略取されるだけの厳しい世界なのだ。


 ましてや大人達は不老不死という大きな力を持っている。

 子どもが彼らと対等以上に渡り合う為には、努力と『力』が必要だ。

 解っている。ちゃんと。


「私達が出かけている間に、目標シートを準備するから。

 それを全部埋められるように頑張ってみて」

「うん」「頑張る!」


 嬉しそうに飛び跳ねる二人。


 ジャックとリュウ。

 最年少だった子ども達が自分で見つけた将来へのモデル。

 なりたい姿。やりたい夢。目指したい未来。


 それを否定してはいけないと、十二分に解っている。


 でも、できる限り危険からは遠ざけたい。

 安全に育ってほしいと思うのは、多分私に『日本の保育士』が身についているからなんだろうな。


 きっと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ