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魔王城 頑張る子ども達 前編

 魔王城の朝は早い。

 一の火の刻、大体朝の八時くらいには、身支度を整えて朝食の為にみんな大ホールに集まってくる。


「おはよう。マリカ姉!」

「やった! 今日はマリカ姉のオムレツだ」

「エナのスープもあるよ。たくさん瓶詰にしておいてくれて助かる。

 みんな、私の留守中も頑張ってくれたんだね」


 昨日の夜、皆の隠れ家でリオンと一夜を過ごした私は、オルドクスと一緒にこっそり戻って朝食の準備をした。

 今日は平日だから、昼過ぎには戻らないといけない。

 でも、その前に私は、毎日頑張っている子ども達を本気で、全力で労いたかったのだ。


 魔王城の外で私が仕事をするようになってから、ティーナとエルフィリーネの監督はあっても、子ども達は基本的に自分の意思で好きな事をやっていいことになっている。

 今、魔王城の島には戦士職がいないので、外出時にはオルドクスと一緒とか、かならずティーナとエルフィリーネに居場所を言って、とか約束はあるけれど。


 私がいない時でも、みんな約束を守って、規則正しい生活習慣を守ってくれているのはありがたいと思う。

 食材集めとか畑仕事も積極的にやっているから、春夏秋の間に食糧庫はほぼ満杯。

 足りなくなったら外から持って来ようと思っていたけれど、十数人の子どもが一年食べ繋ぐ分くらいはしっかり確保できている。


 冷蔵室には卵やヤギミルクがたくさん確保してある。

 それはヨハンが生き物たちの世話をしてくれているからだし、ギルがジョイと協力して書き溜めてくれた植物や野菜、魚の絵は、既にアルケディウスで食品図録として大人気を博している。


 ミクルやマーロ、ピアンにサフィーレ。

 果物の多くはジャックとリュウが集めてくれた。

 これだけあれば、冬の間も甘味を色々と楽しめそうだ。


「皆さま、本当に頑張っておられますわ。

 マリカ様の御指導の賜物ですね」

「うん。本当に頑張ってくれているね。ありがとう」


 私はシュウ、ヨハン、ギル、ジョイ、ジャックにリュウと、一人一人をぎゅう、と抱っこする。

 シュウやヨハン達ももう小学校一~二年生並だから、けっこう大きくなっているけれど、だっこされると嬉しそうに顔を綻ばせる。


「あ、もちろん。クリスにもぎゅう。お外でのお仕事も頑張ってるもんね。疲れてるのにちゃんと早起きして、えらいえらい」


 こういうのって、最初が肝心なんだと思う。

 最初に習慣として身に着けてしまえば、時に疲れてサボりたいなと思うことはあったとしても、やらないと違和感を感じる、くらいのノリで頑張れるものだ。

 自分の頑張りが成果として形になればなおさらで……。

 認めて貰えると嬉しくて。


 子どもにだって、頑張る力はちゃんとある。

 それを認めて、伸ばしてあげるのが大人の、保育士の仕事だと思う。

 私も今は子どもだけど。


「あのね、あのね。私達もがんばってるよ」


 男の子達を褒めたことで、羨ましくなったのかもしれない。

 エリセが見上げる様に私を見る。


「うん、聞いてる。エリセのおかげでゲシュマック商会は暑い時に冷たいものを、寒い時に暖かいものを出せるって評判になってるって。

 ありがとう。エリセがいるから、私が皇女なんかやってられるんだよ」


 素直に褒めて、頭を撫でて、頬っぺたすりすり。

 女の子達は、どっちかというと男の子達より大人だから、だっこはそこまで求めてこないみたい。

 だから、もう全開で頑張りを認めて、褒めて、お礼を言った。


 心の籠った感謝の言葉は大事。

 言われて怒る人はあんまりいない。


「ふふふ。実はね。今、魔王城の畑や、お料理の精霊術はファミーちゃんがやってるの。

 ファミーちゃんもね。精霊術が上手になってるんだ」

「それは素敵。何ができるようになったの?」

「あのね。火に待ってってもらったり、草によけてもらったり、光を灯したり!」

「エリセ程の強さではありませんが、ファミーの石も全属性なので、弱い技でも色々使えますね」

「一つの能力特化の杖と力の強さ、大きさで比べたら話にならないが、便利さ、生活魔術を使う点で言えば、装飾品の全属性精霊石の能力は優良だよな」

「あ、フェイ、おはよう。……リオンもおはよう」


 フェイやアル、それからアーサーにアレクも起き出してきたようだ。


「……おはよう。風邪とかひいてないか? 昨日は寒かったろ?」

「ううん。すっごく暖かかった。おかげで、色々悩んで、頭と体が冷えてたのがぽかぽかになった気分♪」


 リオンが私と視線を合わせて微笑んでくれる。

 それだけで私は元気充電気分なんだけど。


「? 魔王城の中、いっつも暖かいから、寒いとかないじゃん」

「そだね。街に出ると暑かったり、寒かったりするからこっちが恋しくなる」

「あっちでは暖房だってタダじゃないんだぞ。おはよう」


 アーサーとアレクは首を捻っていた。

 しまった。

 余計な事は言わない。お口はチャック。


 リオンと一緒に夜を過ごしたなんて言ったら誤解される。

 手を繋いで寝ただけだけど。

 本当にそれだけだけど。


 ふと、今朝の気持ちを思い出す。


 ……朝、隣で無防備な寝顔を見せるリオンを見て、少しだけ思ったのだ。

 私がリオンの為にできることってないかなって。


 私だって、一応、向こうの世界では成人もしていたから、男女の営みとか愛情表現とかは知っている。

 実際に経験したことは、残念ながら一度も無かったけれど。

 仕事一筋で、結婚とか考えている余裕無かったから。


 リオンは、自分と女性が身体を交わした場合、自分の体液とそれに混ざる精霊力が他者にどんな影響を与えるか解らないから、生涯誰も抱かないと決めている、と前に言っていた。

 それは、私とも同様だ、と。


 結婚とか、家族になるとか、そういうのは身体を交わすことと=ではないから、私は別にそれでもいい。

 それでもリオンと一緒にいたいと思っている。


 でも、リオンは辛くないのかな。と考えてしまったのだ。


 リオンとのキスはいつも蕩けるくらいに気持ちいい。

 私達にも性感はある。


 一説には性感って、生物が子どもを作るっていう一番大事な事を自分から行う為に、遺伝子レベルで組み込まれたものなんだって。

 それを自分の意思で封じ続けるなんて……。


「何ぼんやりしているんだ? 昼前には戻らないといけないんだろ? 早く食べないと時間がなくなるぞ」


 ポン、とリオンの手が私の頭を撫でる様に叩く。

 それだけで、嬉しいし、身体が元気になる。

 心も弾む。


「ごめんごめん。そうだね。今よそうから」

「私も手伝う!」「運びます」「ぼくも! お手伝い!」

「ありがと。じゃあ、みんなお願いね」


 いつも私はリオンに助けてもらうばかり、元気も貰うばかり。

 別に身体を結びたいとかそういうのじゃないけれど。

 何か、リオンに返したいな。

 リオンの役に立ちたいな。


 食事を皆に配りながら、そう思った。


 で、食事の時間の話題は、今後の事。


「シュウを預けられそうな親方が見つかりました。年内から通いを始めて、新年くらいから正式に修行に出したいと思うのですが、どうでしょうか?」


 フェイの言葉に、私はシュウの方を見る。


「シュウに話はした?」

「しました。鍛冶職人で酒造窯や、マリカの提案した麦の脱穀機械などを忠実に再現してくれた腕のいい職人です。木工などにも心得があり、木工と鉄工の組み合わせを得意としています」


 以前から、外の世界で物を作る技術を学んでみたい、ということをシュウは言っていた。

 シュウは精密にものを作るセンスと技術に長けている。

 本人の希望と興味、物の構造や作り方も一度で覚え、再現する『能力』と相まって、職人としての道に進んだ方が大成できると思って伝手を探してもらったのだ。


「あのね。今まで二回くらい、フェイ兄に連れられて見学に行ったんだよ。僕が作ったアクセサリーとか蒸留器の土台とか、すごくほめてくれた!」

「最初は勿論見習いから始めるけれど、シュウの腕だったら、不老不死に胡坐をかいている弟子なんか直ぐに追い越せる、と言ってましたね。弟子のお尻を叩く意味も込めたお世辞かもしれませんが」

「シュウは、その親方と上手くやっていけそう?」

「うん。厳しいけど優しくて、すごく好き。後ね、

 ホントに凄いんだよ。そんなに何回も計ってる訳じゃないのに、おーっきな窯の上と下を少しのズレもなくくっつけちゃうの!」

「醸造窯の溶接を見て感動したようですね。本人からこの工房に行きたいと強い希望があったので」

「そっか。じゃあ、頑張ってみようね」

「うん!」

「もう少ししたら、活字印刷の研究も本格的に進める予定だし、麦酒蔵も今後増えることはあっても減ることはないし、腕のいい職人は確保しておきたいところだから、フェイ、面倒をみてあげてね」

「解っています。皇女とゲシュマック商会の後見があるので大丈夫だと思いますが」

「あ、でも魔王城のこととかは絶対内緒。約束してね」

「はーい」


 七歳になれば、もうある程度は分別もつく。

 私は、子ども達の意思と思いを尊重すると決めていた。


「ヨハンは外に出なくても平気?」

「へーき。カイト……あ、鳥の方だけどもいるし、ヤギもいっぱい増えたし、馬? ロバだっけも見つけたんだよ」

「馬? この島にもいたんだ?」

「精霊国時代の飼い馬が野生に帰ってたみたいだな。ヨハンが見つけてきたんで乗り方を教えてやったら、直ぐに乗りこなせるようになってビックリだ」

「へえ、流石ヨハン。動物の気持ちをちゃんとわかってあげられるからだね」


 えへへ、と照れたような笑みを見せるヨハン。


 日々、成長していく子ども達の姿が嬉しくもあり、それを側で見ていられない寂しさもあり、ちょっぴりセンチメンタルな気分になったことは、ないしょである。

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