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魔王城 大祭の注意点

 翌日、魔王城に来たお父様とお母様は、待ちかねていたように笑う皇王陛下と、私の説明に心底驚いた顔をしていた。


 そして。


「気付いておられたのに知らぬ顔をなさっておいでとは、父上もお人が悪い」


 明らかに大きなため息をついたのだった。

 でも、お父様の反応に、皇王陛下ははっきりと不満そうな表情を浮かべる。


「これの誕生から今まで、隠し事のし通しだったお前に言われたくはないぞ。ライオット」

「「申し訳ございません」」


 反論のしようもないほどの正論なので、私もお父様も素直に頭を下げる。


 文句など言えるはずもない。

 この優しいお祖父様に、私達は今もたくさんの隠し事をしているし、嘘もついているのだから。


「ですが、この子達を『大祭の精霊』の姿で外に出すのですか?

 騒ぎになりませんか?」

「黙って出て行かれるよりは、しっかり管理して外に出した方が良いだろう。どうせ、これらが外に出れば、なんであれ騒ぎは起きる」

「お祖父様ひどい!」

「事実であろう?」


 反論できずに、私は口を噤むしかない。


 いつも言ってるけれど。

 私は騒ぎを起こそうと思って、起こしたことはないんだけどなあ。


「まあ、色々と苦労はさせられるが、マリカの働きに文句のつけようはない。

 たまには羽を伸ばし、遊ばせてやりたいとは思っていた。

 マリカの外出に、其方らも力を貸すように」

「「かしこまりました」」


 お母様が、ほんの少しだけ困ったような顔で私を見つめる。

 けれど、皇王陛下の命令に反論できる者は、この国にはいない。


 こうして私達の『大祭の外出』は、正式な許可を得て始動したのだった。


「とはいえ、別に何をしろと命じるつもりは無い。

 いくつかやって欲しいこと、避けた方がいいことはあるが、好きに遊んでくるがいい」


 と、皇王陛下はおっしゃる。


「やって欲しいことと、避けた方がいいこと、ですか?」

「そうだ。まず先に、避けるべきことを言っておくか。

 神殿には近づくな。貴族街にもだ」

「解りました」


 第一の注意点の理由は、簡単に理解できた。


 神殿や貴族達に私達の存在が知られたら、面倒なことになる。

 変な目をつけられて、拉致されたりしたら……まあ、リオンがいるから簡単に捕まったりはしないだろうけれど、騒ぎを起こさないに越したことはない。


「第二に、ゲシュマック商会以外の知り合いには極力近づくな。

 祭りに孤児院やゲシュマック商会の子らを出すつもりなら、絶対に近寄ってはならん。

 会話、接触は禁止する」

「はい」


 これも納得。


 孤児院の子は、乳児以外、今年もリオンの部下に護衛を頼んで、なんとか外に出してあげられることになった。

 エリセ、ミルカ、アーサー、クリスはヴァルさんとピオさん、それから魔術師見習いのニムルも見てくれるとのこと。


 孤児院の子達が、変化した私の正体に気付くとは思わない。

 けれど、魔王城の子達は、成長した私達を何度も見ている。


 会ったら即バレコースだ。

 言えば黙ってくれると思うけれど、危険はなるべく遠ざけるべきだろう。


「当然だが、できるかぎり自重しろ。騒ぎは引き起こすな。

 トラブルが起きないように十分注意すること。

 だが、身に危険が及ぶと思われた時には、リオン。遠慮なく蹴散らせ」

「はっ! かしこまりました」


 お祭りは、誰もがハイテンションになる。

 今年は例年より多めに酒もふるまわれるし。


 ケンカに巻き込まれたり、変なのに絡まれてしまう可能性も無きにしもあらず。


 皇王陛下の指示と注意は、十分に納得できるものだった。


「そして当然、騒ぎが起きたら即撤収だ。

 去年と同じくダンスまではやっても構わんが、その前に正体が見破られたり、騒ぎが起きたりしたら、その時点で戻ってくること。

 劇を見たかろうが、ダンスを踊りたかろうが、諦めてもらう。良いな」

「はい」

「フェイは二人から付かず離れずで見守れ。そして何かあれば即座に連れ戻ってくるのだ」

「承知いたしました」

「去年の話からして、目くらまし等は可能なのでしょう?

『精霊神』様。いざというときは、お願い致したく」


『解った』

『いいよ』


 側で控えていたフェイと、一緒に神妙に話を聞いていた精霊獣達も頷いてくれる。


 この辺は、最低限の注意事項と条件。

 私が仮に『大祭の精霊』でなくても、皇女として外出するなら守らなくてはならないこと。


 無理を押してお願いする以上、守るのは必須だ。


「私が避けろという注意事項はそれだけだ。

 リオンがついていて、『精霊神』様も側にいるのだ。後は基本、自由にしてくれば良い」


「ありがとうございます。それで、やって欲しいこと、とは?」

「なるべく屋台などに立ち寄って欲しい」

「解りました。かさばる買い物はできないですけど」

「ゲシュマック商会の食べ物屋台、シュライフェ商会は香料の店を出すそうだ。

 その辺なら散策の邪魔にはならんと思うが」

「はい」


 その二店舗には、元々行くつもりだった。


 ゲシュマック商会も去年のエルディランドの食べ物屋台を見習って、今年は昼と夜に分けて店を出すんだって。

 食べ物屋台も増えているから、そんなに行列ができていなかったら、買って食べて応援したい。


「あとは、木工、鉄工の店などもな。

 服の隠しに入る程度の小さな飾り物を売る店、装飾品などを作っている店もある。

 買い物をする、しないは任せるが、してやると店の者は喜ぶだろう。

 外国の店よりも優先して国の店をな」

「解りました」


 幸せを呼ぶ『大祭の精霊』として外に出る以上、多少の客寄せパンダにはなるつもりだ。


 向こうの世界でだって、アイドルが立ち寄った店は人気になったり、客が増えたりする。

 一過性のものかもしれないけれど、頑張っている店を知らせるきっかけにはなるよね。


「それから、ガルナシア商会の店には必ず回れ。そして、そこで買い物をしてやるがいい」

「『大祭の精霊』が『大祭の精霊』の絵姿を?」

「本物を見れば、奴らも自分達がしでかした事の大胆さ、愚かさに気付くはずだ」

「『大祭の精霊』本人も買った品物! って商売ネタにされません?」

「私が駆逐したいのは『大祭の精霊』の偽物だ。

 絵姿やお守りそのものは、適正な価格で販売されるのであれば問題ないと考えている」

「そうですね」


 そういうことなら、一番安めのものを買った方が良さそうだ。

 下手に高いものを買うと、またぼったくりのネタにされる。


「後は、エンテシウスの劇だな。

 最後の挨拶の時にでも、光の祝福を贈ってやるといい。箔がつくだろう」

「解りました」


 大祭の舞台で、一般には初のお目見えとなる、アルフィリーガ伝説以外のお芝居。

 あの劇団には照明担当の魔術師もいるから、少しだけ。

 邪魔にならないように、応援しよう。


「後は、十二分に楽しみ、戻ってくるがいい。

 騒ぎを起こさずに済んだとしても、日の変わる夜の刻の鐘が鳴るまでには帰ってくること」

「はい。お約束いたします」


 当日、私は神殿での役目を終えた後、皇王陛下と皇王妃様にご挨拶に行き、そのまま労われて王宮に泊まることになっている。


 王宮にちゃんと泊まるの、初めてだ。


「ミュールズとミリアソリスは、一通りの身支度が終わった後、家族の元に帰らせる。

 カマラ、ノアール、セリーナは王宮で留守番だ」

「えー! ダメです。横暴!

 彼女達にも大祭を楽しんで貰いたいんですから!」


 側近達は祭りに出さない。

 そういう皇王陛下に、私は反論した。


 こういうところは相変わらず横暴国王だ。

 お祖父様。


「其方は王宮にいるのに、側近は遊びに行くのか?

 王宮にいるはずの其方の側近が街にいたら怪しまれるだろう?

 特にノアールは、其方の替り身として貰わんと困る」


「去年と同じように、私が休みをあげたってことにすればいいんですよ。

 王宮の奥の院は安全だからって。

 乗ってきた馬車を戻すついでに街に行ってもらって、翌朝迎えに来てねって言ったってことにすれば。

 疲れたからもう寝たって言えば、皇女の寝所に入る人なんていないでしょう?」


「お前は相変わらず側近に甘い」

「何を言われようともダメです。

 私のせいで側近達に迷惑がかかるなんて、そんなの嫌ですから!

 彼女達を祭りに連れていけないのなら、私も外出諦めます」


「マリカ!」

「マリカ様」


 お母様や側近達が眉をしかめる。

 けれど、私は譲らない。


 自分のせいで他の人に迷惑をかけるのであれば、外出なんてできないもん。


 睨み合い、暫し。


「まったく、その強情さはプラーミァの質か?

 フィエラロートそっくりだ」

「え?」

「仕方ない。其方の言うとおりにしよう」


 困ったような顔で髪を掻いた後、皇王陛下は折れて下さった。


「お前達、良い主に当たったと感謝するがいい。

 部下を大祭に行かせるのに、ここまで親身になる皇族は他にいないぞ」


 そう言って、側近達を軽く睨む。


「どうか私達の為に陛下とケンカなさらないで下さいませ。生きた心地がしません」


 カマラは後でそう言って、少し困った顔をした。

 お母様にも、やりすぎだと怒られたし。


 けれど、とにもかくにも、大祭の外出は本決まりとなった。


 今年は行けないと思っていたのに、公認で買い物も可。

 そして何より、リオンと一緒だということ。


 諦めていただけに、正直、倍嬉しい。


 私は、明日が待ち遠しいくらいに楽しみになっていた。

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