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皇国 秋の戦と戦士達の思い

 余裕があると思っていた風の二月は、あっと言う間に終わってしまった。

 早い。


 アルケディウスの森が、遅い紅葉に色づき始めた空の一月。


「ライオット皇子、ティラトリーツェ様、マリカ皇女。

 来週より、暫しお側を離れさせて頂きます」


 私達は、膝をつくミーティラ様からの挨拶を受けた。

 その傍らにはユン君。


「秋の戦の編制が決まったのですね?」


 そう聞いたのはお母様。

 お父様は腕を組み、黙ってその言葉を聞いている。


「はい。私も一軍を率いて参加する事になりました」


 お父様はアルケディウス軍の統括だから、軍の編制をした方だよね。多分。


 騎士試験に参加し、新たな騎士貴族になった人物は、その年の戦への参加がほぼ義務付けられているのだそうだ。

 アルケディウス全体で五百人前後いる騎士貴族。


 その大半は小さな町や村の代官や村長、守備隊長をしたり、大貴族などに仕えたりしているけれど、十数年に一度回って来るこの戦を楽しみにしている人も多いと聞く。


 二百人編成の小隊を、長として率いる。

 全体の指揮は今回の総司令官である第二皇子トレランス様がとるけれど、軍や兵の使い方は隊長に任せられているそうだ。


「女性は多分一人ですよね。大変ではありませんか?」

「私も騎士ですから、戦が大変だなどとは言っていられません。プラーミァでも何度か戦に出た経験はありますから」


 ただ、女性と侮ったり、数に任せて不埒な行動に出る者がいないとは限らない。

 なので、副官としてユン君が付く事になったという。


「ヴィクスも俺の副官として一緒に連れて行く。戦の間は流石に夫婦として過ごさせるわけにはいかんが、万が一妙な事をする奴がいれば、軍規に照らし合わせて、きっちり始末をつける」


「あなた、ミーティラを宜しくお願いしますね」


 嫁いできた時からの腹心の部下にして護衛。

 そして何より親友を心配するお母様に、お父様は心配するなと頷いた。


「私は、出なくてもいいのでしょうか?」


 カマラは心配そうだけれど、お父様は首を横に振る。


「お前が軍の上層部を目指すのであれば参加させてもいいが、お前の望む道はそちらにあるのか?」

「いいえ、私はマリカ様の護衛ができればそれで……」

「なら気にするな。自分の仕事に専念するように」

「ありがとうございます」

「戦の間は街の警備がどうしても手薄になりやすい。

 大祭の為に、移動商人達も多くやって来るしな。

 むしろ、いつも以上にマリカの護衛任務は警戒してくれ」

「かしこまりました」


 ちょっとホッとする。

 カマラが私の護衛から離れてしまったら、本当に困るので。


「今年、フリュッスカイトはかなり本気で勝ちに来るでしょうね。カエラの群生地は取り戻せないにしても。お約束しているカエラ糖採取の実地研修。

 勝って貸しを作ってと、負けて借りを作ってでは、だいぶ違うでしょうから」

「まあ、姫君に恥ずかしくない成果は残してくるつもりですよ。

 フリュッスカイトの手の内は割と解っていますし」

「クラージュさん」


 ユン君こと『星』の転生者、クラージュさんはエルディランド出身だ。

 エルディランドもフリュッスカイトと毎年戦う間柄だから、互いに研究されているのかもしれない。


 比較的余裕がある表情をしている。


「フリュッスカイトは頭がいいだけあって、定石の戦いは得意ですが奇策に弱い。

 その辺をトレランス皇子では無いですが、上手く突いていければ負けはしないと思います。いざとなればルイヴィル殿の抑えくらいならなんとかできますし」


 抑えくらいなら、ときたか。

 流石クラージュさん。


「我らが『聖なる乙女』に勝利を捧げられるように頑張ります」

「お二人共、怪我をしない様に戻っていらして下さいね」


 ミーティラ様は不老不死でも、クラージュさんはそうじゃないから気を付けて欲しいと思う。

 まあ、クラージュさんにはある程度負けない自信がおありのようだけれど。


「あ、そうだ。ミーティラ様。これを持っていって下さい」

「これは?」

「お菓子です。ミクルとアヴェンドラの飴がけ。カルネさんに作って貰ったんです。もし良ければ兵士達の人心掌握に使って下さい」


 セリーナとノアールに持ってきて貰った木箱を開けて見せる。

 中に入っているのは、白い麻布に包まれたお菓子が人数分、約二百個+α。


 去年の秋の戦。

 リオンの初陣の時は、エクトール領のビールの新酒を持って行って貰った。


 食事とビールを与えたことによる兵士の戦意向上効果は、確かにあったそうなので、今年も手助けになればと思って用意したのだ。


 と言っても、今年はトレランス様が自腹で食材やお酒を用意している。

 食事を与え、勝ったら酒をふるまうぞ、って。


 料理人や食材も、夏の戦からちゃんと予算に入れられているそうだ。


 なので今回、用意したのはあくまで嗜好品としての甘いものをちょこっとだけ。

 でも甘いものは疲労回復の役に立つし、頭の活性化にもなる。


 戦地ではきっと役に立つはずだ。


 本当は飴とかチョコレートとかも考えたんだけれども、溶けたり壊れたり、管理が難しそうだから。


「ありがとうございます。大事に使わせて頂きますね」

「使わない時は食べちゃってもいいですよ」

「使いますよ。

 正規軍にだって、酒やお菓子が癒しとして振舞われるのは普通にありますし、ましてやこの戦の兵士は寄せ集めですからね。人心を纏め的確に動かすには、表現は悪いですが、餌は確かに有効です」


 クラージュさんも、そう頷いてくれた。


「本当は、俺はこんな遊びの戦、一刻も早く無くしたいんだ」

「お父様?」


 お父様の吐き出す様な本音が零れる。

 この場にいるのは本当に身内だけだから、だろう。


 経済を回す為とはいえ、お父様が遊びの戦を嫌っているのは周知の事実だ。

 皆、真剣な眼で聞いている。


「『新しい食』が広がり、それに付随する産業も整い始めた。

 もう戦などに頼らなくても経済を回すことはできるだろう。

 魔性の襲撃も増えて来た。

 俺はこんな戦に使う労力をもっと別の、人々が生きる力を取り戻すことに使いたい。


 だが、その為には力が必要だ。

 弱い者が、戦いを止めようなどと言っても負け惜しみにしか聞こえない。

 圧倒的強者が告げてこそ、人々は納得する類の事なのだ。これは」


「ライオット皇子。

 ことはそう簡単ではありませんよ。不老不死の世の戦は、実際に戦う者以外には益しかない。

 だからこそ、求められ続いているのです。まして数百年、年中行事となっているものを覆すには……」

「解っています。

 それでも俺は、この戦いが我慢ならない。

 絶対にいつか、無くしたいと思っています」


 クラージュさんの諌めに、お父様は悔し気に唇を噛む。


 確かに長い不老不死の時代、遊びの戦は娯楽と経済に不可欠な、一つのシステムとして完全に組み込まれてしまった。

 止めさせる為には確かに、それ以上の何かと、強い説得力が必要だ。


「全ての国に食が広まったら、きっと人の考え方も変わる筈。

 俺は、そう考えています。

 ……だから、勝てよ。ミーティラ。

 アルケディウスの力と、思いを見せてやれ」


「クラージュ殿のおっしゃるとおり、戦は一人で行うものではありません。私個人ではどうにもならないこともあるかと存じます」


 お父様の挑むような眼差しで放たれる『命令』を、ミーティラ様は怯むことなく受けとめ、微笑む。


「ですが、全力をもって勝利を目指します。

 我が敬愛する主にして友、ティラトリーツェ様と、そのご家族の名誉と御名にかけて」


 私達の前でそう誓ったミーティラ様は、翌日の式典の後、戦に出陣して行った。


 私は『聖なる乙女』として、今回も全力で祝福を送ったつもりだ。


 光の精霊の祝福を受けて、手を振るミーティラ様。

 その姿が遠ざかっていくのを、私は胸の前で手を組み、見送った。


 どうか、無事に帰ってきますように。

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