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皇国 死後の世界

 新しい命について考えた時、この国における死者の扱いはどうなっているのかな、と思った。

 基本的に皆不老不死だからね。天国とか地獄の概念ってあるのかな? って。


「基本的に死者の国、というものは存在致しません。葬儀というものも神殿は行いません」


 と言ったのはアルケディウス神殿の副神殿長、フラーブ。

 私がフリュッスカイトから戻り、騎士試験の区切りがついた後、神殿に戻った時に聞いてみたら、呆れた様にそう肩を竦められてしまった。


 まあ、不老不死の世界だから。

 死者の国という概念が無いのは納得、というか理解できるけど、葬儀もないのか。

 じゃあ、不老不死前に死んだ子ども達とかは?


 一応、『神』の教え。『聖典』には目を通したけれど、あれは基本「『神様、エライ! 最高!』」って称える話だから、そういう点については殆ど書いてなかった。

 一応『シュロノスの野』という天国っぽいものと、『カサルティオル』という地獄のような存在の記述はあったけれど、詳しい事は不明。

 むしろ、詳しく書かれていないことの方が気になるくらいだ。


「わたしのような者が『神殿長』に『神』の教えに付いて説くのは不遜であると承知しておりますが、基本的なことについてご説明させて頂いてよろしいでしょうか?」

「お願いします」


 私が頼むと、フラーブは簡単に、この世界における生と死の概念について話してくれた。

 その表情は神官としてのものだったけれど、口にする言葉はどこか硬い。

 教義として覚え、繰り返し語られてきたものなのだろう。


「まず、最初に申し上げておきますと『神』の祝福を受けた存在は、須らく不老不死を得て、生の満ち溢れるこの世界に永遠に生きる事ができます。

 故に、死者は全て『神』の祝福を得られない哀れな存在、もしくは『神』の威光に背いた犯罪者。故に死後、肉体は土に還り、存在。魂とよばれるものは『カサルティオル』にてくべられ焼かれることになります」

「犯罪者はともかく、不老不死を得ずに死んだ子どもも?」

「はい。この世界で何を為す事もできず、神の祝福を得る事も叶わなかった者達もまた『星』の獄に焼かれその身を捧げることで、新たな命に生まれ変われると言われています」


 淡々とした言葉だった。

 けれど、そこに含まれる意味は、私にはとても淡々とは聞き流せなかった。


「では、死んだ者は皆、獄に囚われ焼かれる。

 平和に彼らが存在する死者の国はない、ということなのですね? シュロノスの野? というのは?」

「シュロノスの野は『神』の国です。神々が生きるこの世界とは違う世界。

 姫君は幾度も招かれているのでは?」

「え?」

「『精霊神』復活の際に神の国に何度も招かれていると聞き及んでおりますが?」


 一瞬意味が解らなかったけれど、『精霊神』が囚われていた、そして今もいらっしゃるあの白い異次元。

 リオンが聖域、と呼ぶ不思議空間を『神』の使徒は『シュロノスの野』と呼ぶのかもしれない。

 同じ場所を見ているはずなのに、呼び名が違う。意味づけが違う。

 それだけで、何かが少し歪んで見えた。


「死ぬと記憶、力の全ては『カサルティオル』の炎に苦痛と共に焼かれ全ては失われる。

 死を怖れるのなら『神』に忠実に仕えるべし。我らの教義でございます」

「新しい命に生まれ変わる、と言っていませんでしたか?」

「広義に見れば、罪に焼かれた魂が『カサルティオル』の炎に焼かれ無垢に戻る事は新しい命への再生と言えるかと存じます。

 ですが、死はその『人間』の終わり。勇者のように選ばれた者以外は記憶を持ちこしてこの世に戻る事は叶いません。唯人にとって死は全ての終わり。

 避けるべき、忌むべきものに変わりはないのです」


 要するにこの世界には輪廻転生、生まれ変わりは無い。

 広義として記憶を失い、生まれ変わって来る事はありだけれど。

 お母様と死んだ赤ちゃんが生まれ変わって来る、なんて話をしたけれど、そうだとしても誰にも解らないってことか。


 まあ、向こうの世界だって転生して記憶を持って二度目の人生やり直し、なんて小説の中だけの話だ。

 ……私自身が、その例外みたいな存在であることを棚に上げれば、だけど。


「我々は、一刻も早く神殿長が、神の祝福の名のもと不老不死となり、真実の神の御子として立たれることを願っております。

 姫君が『カサルティオル』にて焼かれることを想像するだに恐ろしいので」


 というのが『神』の側からの言い分。

 亡骸は虫や毒を呼ぶので焼かれたり、埋められたりするけど、墓地という習慣は少なくとも不老不死後はない。

 昔あった墓地も既に潰されてる。

 と聞いて、悶々とした思いは消えなかった。


 では、『精霊』の側から見た死生観はどうなのだろうか?


「ねえ、リオン。リオンは死んだ後の事って覚えてる?」

「何だ? いきなり」


 安息日に魔王城に帰った時、こっそり聞いてみた。

 言いづらいことかもしれないのでフェイも抜きで。

 穏やかな時間の中で聞くには、少し重すぎる質問だという自覚はあった。

 でも、聞かずにはいられなかった。


「少し、思ったの。前に『エルトゥリアの民の生まれ変わりが新しく生まれて来る子どもかも?』って話をしたでしょ? 

 リオンが勇者の転生で、私が精霊国女王の転生。

 この世界にも生まれ変わりの概念があって実際に生まれ変わりの実例があるのなら、命はどこからきて、どこにいくのか、解ってるのかなって……。

 言っちゃいけない事なら、言わなくていいけど」


 神殿で聞いた『神』の側からの話をすると、リオンは苦い笑いを顔に浮かべていた。

 その笑みは、呆れでも怒りでもなく、もっと深く、古い傷に触れられたようなものだった。


「……全く間違ってる訳じゃない所がいやらしいな。

 『神』が来るまでは『カサルティオル』なんて無かったのに」

「本当にあるんだ。『カサルティオル』」

「まあな。『カサルティオル(『星』の地獄)』何て名前そのものが死を恐れさせる為に『神』が付けた名前だけど。死後に送られる世界は、善人も悪人も隔てない。……一つだけだ」


 そういうと、リオンは静かに話してくれた。

 精霊視点の死者の世界を。

 その声はいつもより低く、遠いものを見ているようだった。


「俺も実際に不老不死世界になる前の死後の世界を知っている訳じゃあない。

 教えられただけだけど。

 昔から生命は循環していた。

 死者が迷わない様に導き手伝う『夜の精霊神』もいたし、『星』に捧げられる力も多かった。

 だから眠りについた魂は、穏やかで緩やかなまどろみの中、『星』と『精霊神』の護る中、現世での記憶を洗い流され、新しい命に生まれ変わって行ったという」

「じゃあ、今は?」

「…………今はこの地上に生きる者達の気力(ナトゥラム)を全て『神』に奪われているようなものだからな。

 『星』が死者の魂から『力や記憶』を預かり、心を洗浄して新しい命として送り出している。ただナハト神の手伝いも無かったから、忙しくて死者にあんまり優しく対応できないってのが現状だと思う」

「つまり静かで穏やかな眠りの世界が『カサルティオル(星の地獄)』になったってこと?」

「そういうこと。力や記憶を吸いとられるのはそこそこ苦痛を伴う。

 もっとも子どもや生まれる前の魂は大した力ももっていないから、そんなに苦しむこともないだろうけどな。そんな思いも全部消えて生まれ変わるし」


 そっか、良かった、と思いかけて、私ははたと気付く。

 違う、全然良くない。

 胸の奥が、ひやりと冷たくなる。


「ちょっと待って。じゃあ、リオンは? 

 強い力を持ってるリオンは『カサルティオル』で酷い目にあってるんじゃないの?

 そんで、その記憶も苦しい思いも全部持って転生してくるんじゃないの?」


 問い詰める私の手をそっと剥がして、リオンは首を横に振る。

 乱暴ではなく、優しい仕草だった。

 けれど、その優しさがかえって苦しかった。


「いいんだ。俺は。自分がしでかした事を思えば大したことじゃない」

「でも……」

「お前達もあんまり難しい事考えない方がいいぞ。

 死んだ後の事を考えるのは、死んでからでいい。

 今は死なない事、死なせない事を考えろ。いいな」


 結局、その後、リオンは口を噤んでしまい、リオンが今まで数十回かさねてきた転生の中。

『カサルティオル』でどんな酷い目に合わされてきたかは解らないまま終わってしまった。


 でも、多分、リオンが朗らかに話せない位、酷い所なのは確かなのだ。

『カサルティオル』は。

 名前だけではない。

 そこに在るものは、本当に誰かを傷つけてきた場所なのだ。


 だったら。

 さっきのリオンの言葉通り、私は頑張らなきゃいけない。

 気を付けなきゃいけない。


 もう、誰も死なせない様に。

カサルティオル(星の地獄)』なんかに行かせない様に。

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