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皇国 騎士試験本選2 騎士試験の裏側 前編

 騎士試験終了後の夜。

 王宮では騎士試験本選の出場者を招いたパーティが開催されていた。

 煌びやかな灯りに照らされた大広間は、祝福と興奮の余韻に満ちている。

 去年のリオンの時もあったんだって。

 私は一般人だったから参加できなかったけれど。

 だから、お父様はリオンの為に服を誂えたのか、と今になって納得する。


 主人として私もカマラの為に誂え用意しておくべきかなとも思ったのだけれども。


「お気持ちはありがたいですが、私はエクトール卿が下さったこの服がありますので」


 とカマラが言うので、速攻洗濯をお願いして、夜のパーティに間に合うようにしてもらった。

 今日のパーティの主役は勿論、優勝者であるミーティラ様。

 準優勝者であるユン君も、負けず劣らず人に囲まれているけれど。


「今年の戦いも素晴らしいものであった。

 今までミーティラにはティラトリーツェの護衛として世話になっていたが、今後はアルケディウスの騎士貴族として、より高い立場と広い視点で国の守護を担って貰えればと思う」

「我が全力を尽くして、アルケディウスの国とその宝を守っていきたいと思います」


 皇王陛下直々の言葉に、ミーティラ様は強い決意の籠った眼差しで頷いていた。

 その背筋は真っ直ぐに伸び、迷いの欠片も見えない。


「ユン殿、いや、我が国の騎士貴族となったのだから、客扱いは止めてユン、と呼ばせて貰うとしよう。

 其方の卓越した剣技にも魅了された。エルディランドの教育レベルの高さにも感服する。

 元は製紙技術の指導者として来て貰ったが、今後はその枠を超えて両国の友好と発展の為に力を貸して欲しい」

「我が忠誠は既に、アルケディウスと皇女マリカ様に捧げております。故国エルディランドとの橋渡しとなり、両国の発展の為に我が身命を賭けて尽くす所存です」


 ユン君の返答に満足そうに微笑む皇王陛下。

 周囲の貴族達も、その言葉に深く頷いていた。


 アルケディウスにおいて騎士試験合格というのは、国家公務員の上級職試験に合格したのとほぼ同じ。

 合格の時点で士官として一段高い位置に立つことができる。

 部下を与えられて、人の上に立つ存在になるわけだ。


 小さな村の代官を任されることもあるし、大貴族などに乞われて仕官すれば、大抵は近衛騎士か、騎士団の小隊長とかの地位を賜ることになる。

 勝ち抜けば勝ち抜く程その地位は高くなり、優勝者は、本人の希望によるけれど、大貴族領であれば荘園を賜ったり、街の町長になったりすることもある。


 で、ここが騎士試験のけっこう重要なところで、志望者が絶えない理由。

 騎士試験の突破者は、自分の意志である程度、配属を決められるのだ。

 既にその位置にいる人を蹴落とす事も可能。


 例えば、二回戦突破である町の町長になった人がいて、準決勝まで駒を進めた人物がその地位を望んだら、前町長はより地位の高い人にその地位を譲らなければならない。

 そういうことは滅多にあることではないけれど、0ではないらしい。


 王都プランテーリアは、そこで働くこと自体が大貴族領でのそれより一段格上として見られているので、騎士試験予選突破者が市街地警護の指揮とかしている。

 勿論、皇族に仕えるのは最大の名誉職だから、王宮に入る時点で最低限の試験の突破は必要。

 何度か言ったことがあるけれど、王宮に仕える人は皆、厳しい試験を勝ち抜いたエリートなのだ。


 試験に合格する実力が無いけれど、特殊な事情でその人物の技術、能力が必要な場合には、仮の準貴族としての地位を与えてとりあえず迎え入れ、その後正式な資格取得を目指す形だ。

 以前の私は仮の準貴族位で料理指導をして、資格試験を受ける前に皇家の養女、皇族になった特例。


 私の部下で言うなら、カマラ、ノアール、セリーナは仮の準貴族位で働いている。

 今回の試験でカマラは仮免許が外れ、正式な私の護衛の地位に入ることができるようになったのが、とても嬉しい。


 まあ、その分、地位に見合った立ち居振る舞いや仕事は求められる事になるのだけれど。


 例えば、さっき皇王陛下も言った通り、今までミーティラ様は


「ティラトリーツェ様の護衛ができればいい」


 と仮の準貴族位(+騎士貴族との結婚によるアルケディウス籍の取得)で満足してたけれど、騎士貴族となった今後は、お母様の護衛をしつつ、国家間の折衝や部下の指揮、お母様以外の皇族の護衛などの仕事を任されることになる。

 結構大変だ。


 因みに準優勝のユン君は、お父様の指揮下で騎士団のオブザーバーのような形に入ることになった。

 元は製紙技術の指導員だからそちらが優先。

 でも今回、結果を出した事でアルケディウス籍と準貴族の地位を手に入れたので、色々な命令や指導に話が通しやすくなるらしい。

 そしていずれは私の護衛に入って貰う事も可能……かな?


 まあ、説明が長くなったけれど。

 この無気力な世界で上に上がろうという意欲を見せ、それを実力で証明した者達は、国の宝として尊重され、大切にされる。


 カマラもユン君も、大貴族達の前で儀式として皇王陛下から叙任を受けた後のパーティでは大人気で。


「小さい身体で強敵と渡り合う姿に感動しました」

「我が領地でも子どもの育成に力を入れようと思います」


 と、大貴族やその部下から降る様な賛辞を受けている。

 優勝者であるミーティラ様は言わずもがなだ。


 勿論、その中には。


「我が領地に来て頂く事は叶いませんか? 妻の護衛に貴女のような方が来て頂けたら心強い」

「給金は惜しみませんが」


 そんなあからさまな誘いも混じっていたらしい。

 今日の私は舞台上の皇族席に座っているしかできないのが辛いなあ。


 でもどちらも。


「私はマリカ様に剣を捧げた騎士ですので」

「我が忠誠は『聖なる乙女』に」


 と、きっぱり断ってくれていた様子。ありがたい。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。


 賑やかな談笑が続く中。


「ユン殿。そういえば最後の戦いでお怪我をされたりはなさらなかったのですか?」


 ふと、大貴族配下の騎士の一人がそんな言葉を投げかけた。

 場の空気がわずかに引き締まる。


「怪我、とは?」

「いえ、ユン殿が風の精霊かと見まごうスピードでミーティラ様の槍を避けていたのは見ましたが、最後に脛を取られたでしょう?

 三叉槍は脇にも刃がありますから、あの時、絶対に足を奪われた、と思ったのですよ」

「そうですね。不老不死者でも脛をぶつければ相当痛いですし、ユン殿はまだ不老不死を得ていないと聞きますし」

「でも、動きを止めるどころか槍の上に飛び乗り、槍をへし折るという神業を見せられた。

 あれは一体?」


 周囲が少し静まった。

 皆、同じように思っていたのかもしれない。

 興味津々と言う顔で聞き耳を立てている。


 彼らの質問に、どこか困ったような顔で告白するユン君。


「小賢しい細工ですが、決勝戦にあたり足甲と手甲に鋼の棒を何本か仕込んであったのですよ」


 今日のパーティにユン君は試合の時の戦装束そのままで来ている。

 お父様が誂えたんだって、チェルケスカ。戦士の礼装を。


「鋼の棒?」

「ええ。槍使いと剣士の戦いなら、素早さを封じる為に足を狙うのが定石なので防御として。

 そのおかげで衝撃はありましたが、致命的な怪我はせずにすんで、次の行動に移れたのです」

「今も、手甲足甲をつけておられますね。見せて頂いてもいいですか?」

「……どうぞ」


 かちゃり、と手甲を外してユン君は騎士に手渡す。

 渡された騎士は、あまりに無造作な仕草に意識していなかったのだろうけれど、手に取った瞬間顔色を変える。


「うわっ! 重い。これ、2ルークはありませんか? まさかこれを両手両足に付けてあの動きを?」

「手足にぴったりと付けてしまえばそれほど重さは感じませんよ。鎧騎士が鎧を身に着けるのと同じ原理です」

「そうだとしても……これは」

「あの場で投降しなければ、まだ戦えたのでは?」

「いいえ」


 騎士達の言葉に、ユン君は静かに首を横に振る。

 その仕草は穏やかで、しかし揺るぎがない。


「今回騎士試験の優勝者、それにふさわしいのは彼女ですから」


 以降、彼は決勝戦の内容については完全に口を噤んで、誰にも語ることはしなかった。

 という。


 だから私は知らなかったし、今も知らない。


 パーティの終了後、いつの間にか姿を消した二人の主役。

 彼らが密かに交わした会話を。

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