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皇国 騎士試験本選2 決勝 女性騎士貴族誕生

「プラーミァのミーティラ。エルディランドのユン」


 主催者であり責任者である第三皇子ライオット――お父様が宣言するその前で、二人の人物が静かに頭を下げていた。

 会場内はシンと静まり返り、針の落ちる音さえ聞こえてきそうだ。


「騎士試験本選 御前試合決勝 最終戦を開始する。

 どちらも、悔いのない戦いをするように」


 昨年はどちらも新人、騎士階級を持たない一般人からの成り上がり同士が決勝で戦った。

 今年もこの国の騎士階級を持たないと言えば同じではあるけれど、片やプラーミァの女騎士。第三皇子妃ティラトリーツェの護衛騎士、ミーティラ。

 片やエルディランドの少年騎士。国の重鎮を約束されていた王子の子にして 王子候補だったユン。


 最高の素質を、優れた教育で磨いた宝玉とも言える騎士同士の戦いだ。

 みんなが期待に胸を膨らませているのを知っている。


「両者 中央へ」


 二人はもう一度頭を深く下げて立ち上がると、それぞれの武器を取る。

 闘技場の中央に立ち、一礼。


 そして――


「始め!」


 審判の合図で、一瞬の様子見も無く、即座に二人の目にも止まらない攻防が始まった。


 ユン君、クラージュさんは日本刀を使う居合抜きの達人。

 必殺技に近いあの抜き打ちを使えば、勝負は下手したら一瞬で決まっていたんじゃないかと思うけれども、今回は使わないと自分自身に宣言していた。

 だから、最初から抜刀して剣を正眼に構えている。


 一方でミーティラ様の武器は長柄の三叉槍。

 間合いの長さと、突く、切る、払う。全てにオールマイティの効果を期待できる。

 その代わり、間合いに入られてしまうと一気に不利になるだろう。


 だから、二人の戦いはいかに相手の間合いに入るか、入れないかの戦いになった。


 初手、ミーティラ様は遠間の間合いから、相手の攻撃の要である足。

 脛を狙おうと下段に刃を向けていたように見える。


 けれど、開始の合図と同時に踏み込み、距離を詰めて来たユン君に先行されたと気付いて、慌てて全力でバックステップ。

 間合いを維持して、初撃を三叉槍の側面で受け、払う事に成功した。


 初手を防がれるとは思っていなかったであろうユン君は少し目を見開いたようだけれど、そこから攻撃の手を緩めることなく踏み込んで来る。

 胸を狙ったかと思ったら頭、そして腰と変幻自在に剣を打ち込んで来るのだ。


 ユン君は今、十六歳。


「成人の儀式を終えて、独立したばかりですよ」


 と言っていた。高校一年生くらいだね。

 身長は160cm前後。そのくらいの男子にしては低いけれど、リオンも身長低めだし、精霊は成長がゆっくりなのかもしれない。

 でも身体能力は凄いと自分でも言っていた。


 一方、ミーティラ様は身長175cm以上。

 女性としてはかなり高めのお母様を護衛する同体格だから、リーチの差は槍の間合い以上にあるけれど、油断していれば即座にスピードと脚力で埋められる。

 だから槍を巧みに取り回して、それを躱していた。


 頭を狙ってきた攻撃を槍の柄で受けとめ、そのまま柄を半回転させれば刃は向きを変えられてしまう。

 そのまま鍔迫り合いのような押し合いと、にらみ合いをしばらく続け、二人はまた間合いを取った。


 一度間合いが開いてしまうと、今度は攻撃手がミーティラ様に変わる。

 足元を集中的に狙うけれど、その合間に上段からの攻撃を入れる。

 一手たりとも同じ動きが無い上に、三叉槍は薙刀と違って、突いても、払っても刃のダメージが効く。


 ユン君はかなり腕と身体を伸ばしても届かない。

 下手に身体を伸ばせば、そこに隙を作ってしまう。

 故に、防戦、回避一方になる。


 どちらも殆ど防具もなし。

 ミーティラ様がブレストアーマーと手甲を、ユン君が軽い手甲と足甲を使っているくらいの軽装備だ。

 なのに武器は刃潰しもされていない真剣。

 一撃が入ればかなりのダメージを受けて、即座に試合終了レベルだろう。


 あまりにも美しい技の応酬に見とれてしまったけれど、これは試合であっても試合じゃない。

 一つの気のゆるみが死に繋がる真剣勝負だ。


 そしてミーティラ様は不老不死だけれど、ユン君はそうじゃない。

 怪我をすればそれは死に直結する。

 ミーティラ様もそれが解っているから、本当の急所。

 例えば喉とかを突く事は避けている気がする。


 逆にユン君は、その辺の心配はしなくていいから、遠慮なく剣を振るっているかも。


 最初の互いの実力を測る攻防が終わり、今は互いの攻撃のパターンを把握し、隙を探る第二段階というところだろうか?


「凄い、ですね。お二人の戦い」


 私の横で、カマラが吐息を吐き出した。


「私との戦いで、本当にク……ユン様が手加減をして下さっていたのが解ります。

 無駄のそぎ落とされた人間の動きというのは、こんなに美しいものなのですね。

 姫君の舞にも似た感動を覚えます」

「うん、解る」


 剣道のような軽い竹刀じゃなくって真剣ってかなり重いだろうに、まるで重さを感じない様に振るう姿は、カマラじゃないけれど、良くできた剣舞を見ているようだ。

 それを受けとめるミーティラ様の穂先が光を弾く度、二人の滲み出る汗が飛び散る度、二人の舞に煌めきを添える。


 人の身体はここまで鍛え上げられ、ここまで美しく輝けるのだというお手本を見ているような気分になる。

 命のやり取りをする本当の戦場ではまた違うのだろうけれど、鮮烈で、輝かしい。

 人間の可能性、その輝きが、そこにある。


 ずっと、見ていたいような戦いも、そろそろ最終局面のようだ。


 何度目かの仕切り直し。

 その中でも一番大きく開いた間合いに、二人は息を整え、視線を交差させる。


「素晴らしい技の数々、心から敬意を表します。このような遣い手が数多育つとするのなら、永劫の時間というのも悪いものばかりではないのかもしれません」

「こちらこそ。不老不死を持たない若い、子どもの身体に、これだけ刃を交えても一合も入れられないなんて。星に祝福された剣士の実力を思い知らされました。

 でも……私はここで負けるわけにはいかない!」


 全ての呼吸さえ止まったような会場。

 二人の会話がはっきりと聞こえて来る。槍の拵えを強く握りしめるミーティラ様の手の音さえも。


「では、そろそろ決着といきましょうか」

「ええ、これで倒せないのであれば、私はそこまでであったということ。行きます!」


 身を低く、力を蓄えるように腰を下げるミーティラ様。

 槍は下段に。


 彼女にとっても最後の技なのかもしれない。


 それを受けとめるユン君の構えは正眼。

 自然体だ。

 けれど、その自然さが却って隙の無さを際立たせていた。


「たああああっ!」


 自分に気合を入れるように腹から声を発し、ミーティラ様が踏み込んで来る。

 狙いはおそらく下段、脛打ちから上段へ。

 避けられる、避けられる事を見越しての連続技を狙っていたのでは、と思うけれど――


 ガキン!


「え?」


 綺麗に決まった脛に、ミーティラ様の槍が止まる。

 鋼の音に止まった槍、その次の瞬間。


 バキッ!


 鈍い、信じられない音が会場に響いた。

 脛への攻撃を……多分あえて……受けたユン君が、飛翔。

 三叉槍の柄の一点に、そのまま着地したのだ。


 槍の柄が折れた。


 真っ二つだ。

 あの槍、柄は鉄とか鋼じゃなかったんだ。


 ユン君はもう一度後ろにジャンプ。

 そのまま一気に間合いを詰めて来た。


 武器を失い、弛緩するミーティラ様は、そのまま為すすべなく、勝負あった。

 と、誰もが思ったその時。


「まだだああ!」

「うっ!」


 逆に動きを止めたのはユン君だった。

 喉元に、折れた鋭利な槍の柄を突きつけられて。


「私は、何が起きようと負けるわけにはいかない。

 諦める訳にはいかない。主と、その宝を護る為に……」

「ミーティラ……」


 お母様が私の横で声を上げる。

 感嘆と感動が入り混じったそれは、どこか涙声に聞こえた。


 槍が折れた瞬間、ミーティラ様は槍の柄を引いて防御に使ったのだ。

 誰も槍を折ることができるなんて考えてもいなかったし、その折れた槍を使っても勝利を諦めず戦えるなんて思っていなかった。


 急所である喉に当たる、折れた木のざらつき。

 柄だけになった槍を握りしめ、それでも力を失わないミーティラ様の眼差し。


 硬直したように動きを止めていたユン君は、やがてスッと身体を退けると、刀を地に置き、膝をついた。


「参りました。僕の負けです」

「え?」


 対戦相手が敗北を認めたのであれば、これは試合。

 勝負は決した。


「ここまで! 優勝はプラーミァのミーティラ!」


 審判が高らかにミーティラ様の勝利を、優勝を知らせ、会場内は割れるような歓声に包まれた。

 当の本人はまだ、どこか呆然としているけれど。


 ここに、アルケディウスの歴史上初めての女性騎士貴族が誕生したのだった。

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