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魔王城 最強の戦士で保護者な二人

「あ、リオンとクラージュが戦ってる?」


 アルを見送って暫くしてから私が城下町に戻るとアルとカマラが正座して、広場の中央で戦う二人を見つめていた。真剣な眼差し。多分、私に気付いてないかも。

 大きく開いた目を輝かせて戦いに見入るカマラ。

 とりあえず、カマラに関しての問題は、ほぼ片付いたと言えるかと思う。

 魔王城に入ることはできないけれど、本人は精霊石の剣というパートナーを得て、気持ちが安定した様だ。

 しかも、どうやら子ども時代に持っていた『能力』その一部が戻って来たらしい。


「危機感知、の能力です。子ども時代に持っていたものとは範囲や対象内容が違いますけれど、前はできていないことができるようになったのは、精霊の力をお借りしたからでしょうか?」


 カマラは目を輝かせてそう言っていた。


「相手の強さが感じられて、勝ち目があるか無いかが解るというのはけっこうキツイのですが。リオン様やクラージュ様の強さが自分とは段違いで、落ち込むしかないので」


 それでも彼女は、『能力』が戻ってきて良かったという。


「クラージュ様やリオン様には叶わないのですが、それでもどこを狙うべきか、相手が自分のどこを見てどう狙うかが嗅ぎとれるので、一方的にやられずに済んでいると思います」

「自分で言うのもなんだけど、俺や先生の剣筋やスピードに慣れておくといいと思う。一般の兵士ならゆっくり感じられるはずだ」

「騎士試験は相手を倒して背を地面につければ勝ち、ですからね。無理に力で圧する必要はない。相手を無力化すればそれでいい」

「無力化するって、クラージュ様は簡単におっしゃいますけれど……。

 いえ、でもその通りですね」


 クラージュさんは、けっこうな鬼教師。

 リオンも王子時代、それはもう遠慮なくしごかれたという。


 リオン曰く、


「身体能力や基礎能力は俺が勝っているけれど、戦い方や剣の使い方、身体の動かし方、人間を相手取った時の対処法は全部、先生に教えて貰った。

 俺は最期まで先生に勝てなかった」

「今なら、君の勝ちだと思いますけどね。まあ、私もただ負けはしませんが」


 クラージュさんは笑うけど、その余裕のある表情に確かな自信を感じる。

 っていうか、『星』が作り上げた最高の戦士『精霊の獣』に戦い方を教えて、一矢報いる自信があるって凄いよね。

 人間は戦いの技術を、人間の身体と努力でここまで研ぎ澄ますことができる、っていうお手本のような人だから。


「この身体になってからも、訓練は怠っては来なかったつもりです。『星』の転生者として与えられた身体の資質は悪くない。鍛えればちゃんと応えてくれますから」


 そう言って、実際リオンと対等に立ち会っている姿は、やっぱり流石だなって思う。


「あの方は俺にとっても今世で尊敬する唯一の戦士だからな。

 剣技もそうだが、心の問題でも。こうして再会できただけでも死なずにいて良かったかもしれないと思える」

「?」


 リオンとクラージュさんの模擬戦闘に夢中になっていた私は、頭上から降る声に顔を上げる。


「お父様?」


 ライオット皇子が、そこに立っていた。

 え、ここ、魔王城の島なんですけど? いつの間に?


「昼過ぎにフェイに迎えに来るように頼んであった。クラージュ殿とリオンに話したい事があったし、二人の戦いが見られるなら、たとえ手合わせでも逃したくなかったんだ」


 実際、好カードなのは解ります。

 見せる為の殺陣ではないのに、本気の立ち合いなのに、見惚れるような美しい剣戟だ。

 アルとカマラも魅入るように見つめているけれど、これは見ている方も勉強になる、正しい剣の使い方のお手本のように思う。


「う゛――、だったら事前に知らせて下さればいいのに」

「昨日はお互い忙しかったから言う暇も無かったんだ。悪かったな」


 嘘だ。

 この楽しそうな目は絶対に確信犯だ。悪いとか思ってない。

 ユン君をこっそり先に呼び寄せたり、リオンに内緒で王宮でお披露目したりした時と同じ、悪い目をしている。


「内緒で来てるんだ。秘密で頼む。

 父上や母上に抜け駆けしたと怒られる。お二人も今やこの島がお気に入りだからな」

「お母様には?」

「勿論、恨みがましい目で睨まれて来た。

 でもあいつはミーティラの騎士試験準備があるからな。今日は我慢、基、遠慮するそうだ」

「あ、なるほど。じゃあ、一つ貸しで。後でお願い聞いて下さい」

「旅ごとに心配かけられたり、後始末に苦労させられているのは借りとは思ってないのか?」

「迷惑はかけている自覚はありますが、結果も出している筈ですからその辺は相殺で」

「迷惑をなるべくかけないように自重する気は無いのか?」

「自重は常にしてます。ただそれ以上の騒動に巻き込まれているだけで」

「開き直るな。

 まあ『お願い』は後で言え。叶えられる限りは叶えてやる」

「ありがとうございます。明日の組み合わせの事なんですけれど……」


 二人でそんな会話をしていると、戦いを終えたようで剣を引いたリオンとクラージュさんが、私達を見つけて近付いて来る。


「ああ、ライオット。来ていたのですね。

 いえ、今は皇子と呼ぶべきですか」

「クラージュ殿」


 圧倒的に外見はお父様の方が年上なのだけれど、何の躊躇も無く、お父様はクラージュさんに膝を折る。


「魔王城ではライオットで構いません。貴方は今世で俺が尊敬する唯一の戦士ですから。

 向こうではちゃんとご挨拶もできませんでしたが、またこうしてお会いできた事をとても嬉しく思っています」

「私も、君が無事でいてくれて良かったと思っています。

 共にあの時『神』に挑みかかった君のその後が気になっていましたから」

「目の前で、貴方を失い、一人生き恥を晒し続けて来た。

 不老不死社会を耐えた五百年は楽なモノではありませんでしたが、無駄では無かったようです」


 お父様の眦に、うっすらと光が輝く。

 同じ戦士同士。再会にはきっと、言葉にはできない色々な思いがあるのだろう。


「俺は皇子としてできる限り、こいつらを助けていきたいと思っていますが、何分、どちらも大人しく言う事を聞いたりしませんし、目を離すとすぐ騒動を巻き起こします。

 クラージュ殿におかれましては、こいつらの側で目を光らせて、暴走を食い止める力となって頂ければ……」

「お父様!」


 ちょっと酷い言い草だと思う。

 何度も何度も言ってるけど、私は騒動を巻き起こそうとして起こした事は無いのだ。

 暴走しようと思って暴れた事だってない。

 ただ、何故か騒ぎが起きるだけで。


「解っています。私が『精霊の貴人(エルトリンデ)』と『精霊の獣(アルフィリーガ)』を押さえられるかどうかは疑問ですが、こうして帰って来た以上、二度と目の前で二人を失うような事は命に代えてもさせないつもりです。

 全力を尽くしますので、君も大変でしょうがよろしくお願いしますね」

「はい」

「アルやカマラの前でそんな会話しないでくれ。恥ずかしい」


 顔を赤らめて二人の会話に割って入るリオンだけれど――


「恥ずかしいなら、君も自重を、アルフィリーガ。

 大聖都での騒動は聞いていますよ。『神』が君をどれほど欲しているか。

 君を手に入れる為にどんなことをするか、よく解っている筈です。

 二度と軽率な行動で罠に嵌らない様に」

「俺が言っても無駄だと解っているからな。先生に頼んだだけだ」


 即座に言い返せない反論が返る。

 ばつの悪そうな顔をしてその反論を受けとめるあたり、二人の保護者に頭が上がらない、って感じだろうか?


「それから、良ければかつての約束を果たして頂けないでしょうか?

 一手、俺とも手合わせを」

「そうですね。剣の使い方を見る、と約束しました。

 今や君の方が実力は上かと思いますが」

「いえ、さっきの手合わせを見て、伝説の戦士クラージュ。

 その強さ、美しさに比類なしと言われた剣技は健在だと感じました」

「仕官する前の話をされると照れますね。でも、あの約束は私も心残りでした。

 いい機会です。こちらからお願いします」


 笑顔を交わし、また広場に戻っていくクラージュさん。

 立ち上がり、その後を子どものような笑顔で追うライオット皇子。


「二人共、良く見てろよ。

 あの二人の剣技は、剣での戦いを志す者、お前達が目指すべき頂きだ。

 見ているだけで、絶対に勉強になる」

「うん」「はい!」


 どこか誇らしげに告げるリオンの言葉に、アルとカマラが姿勢を正して二人の方を見やった。

 リオンの戦い方は確かに他の人は真似できないかもしれないけれど、クラージュさんとライオット皇子は、人が努力で身に付ける事ができる最高峰であると思う。


 私も二人の横にぺたんと正座して、一緒に五百年ぶりの約束の果て。

 最高の戦士と戦士の戦いを、思いぞんぶん堪能させてもらったのだった。


 ここしばらくサボっていた剣の練習を再開して、いつか自分もああなれたらいいな、って思うくらいには、それは素晴らしいものだったことは言うまでもない。

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