水国 協力協定と与えられたヒント
フリュッスカイトの儀式については省略。
もう五回もやってきたし、各国共、基本的なところは同じ。
神殿の奥に在る『精霊石』の間に案内され、そこで舞を舞うというもの。
アルケディウスからの参加者は、私とリオン、伴奏役のアレクと二匹の精霊獣。
各国の参加者は、神殿を司る神殿長以外は、王族のトップがいらっしゃることが多い。
今回はナターティア様とメルクーリオ様が同行されていた。
儀式そのものは見慣れてきたはずなのに、国ごとに纏う空気は少しずつ違う。
その違いが、そのまま国の気質や『精霊神』様の性質を映しているようで、毎回少しだけ新鮮だった。
今回は水の国らしく、薄水色に統一された部屋の中で、私が舞えば、待ちかねていたように精霊石に光が灯り、あっという間に異空間に引き込まれてしまった。
多分、本当に待ちかねていたんだろうな。
で、異空間で精霊神を捕える軛をぶっ壊してさしあげれば力が渦を巻き、
『色々と面倒をかけたな。マリカ。『精霊の貴人』』
美しくも巨大な『精霊神』様が姿を現した。
透き通る流水のごとき白銀の髪、空の蒼を写す紺碧の水面をそのままくりぬいて瞳に填め込んだような澄んだ瞳。
うん、どこからどう見ても水の『精霊神』様だ。
立っているだけで周囲の空間そのものが静まり返り、深い湖の底にいるような感覚になる。
穏やかなのに、決して逆らえない大きさがあった。
「お初にお目にかかります。水の『精霊神』様」
『うむ、私は水。
恵みと命を子等に与え、守る者。
名を『オーシェアーン』という』
『こうして改めて会うのは久しぶりだな。オーシェ』
『久しぶり、という言葉で片付けてしまうにはあまりにも長い時が過ぎた。
アーレリオス』
無重力の空間で、ぷかぷかと浮かぶ、白い精霊獣。
プラーミァの炎の精霊神 アーレリオス様は懐かし気に呟く。
やっぱり友達同士みたいな関係なのかもしれない。
精霊神様達って。
属性面で問題があったとしても仲は良さそうだ。
長い長い時間を隔てているはずなのに、そのやり取りには妙な気安さがあって、少しだけ胸が温かくなる。
『お前にも世話をかけたな。ラス』
『うん、大変だったよ。これは貸しだからね』
木の精霊神 ラスサデーニア様も紡がれた言葉とは正反対に声を弾ませる。
獣の姿で表情は解らないけれど、きっと嬉しそうに微笑んでいるのだろう。
再会を喜んでいるのが、声だけでちゃんと伝わってきた。
『本当に……あと二日あれば、問題なく其方に封印を解いて貰い、力を取り戻して滞りなく事を運べたのだが……。
まったく、あの方の嫌がらせはたまったものではないな』
「嫌がらせ……って、あの大嵐はまさか『神』が仕掛けたものだったのですか?」
今までの様子からして、端末との情報共有は済んでいるようだ。
首を傾げた私に『精霊神』様は苦笑いを返す。
その表情は静かで穏やかなのに、言葉の内容だけは笑えない。
『嵐そのものは自然現象であろうが、魔性を潜ませたのは当然『神』だ。
嵐に介入して力を足していた可能性もあると見ている。確証は無いがな』
本当だとしたら酷い話だ。
自然の猛威だけでも十分恐ろしいのに、それに悪意まで混ぜ込むなんて。
この世界を守る『神』の所業とは、とても思えなかった。
『ヴェーネは美しいが、不安定な都。
皆からは過保護と笑われようが、心配で私は以前から時々分身を作って様子を見守っていた。封印を仕掛けられた時もそうでな。
身体に戻ることはできなくもなかったが、そうすると再び分身を作ることはできないと解っていた。だからずっと機会を待っていたのだ。
国と、子ども達、そして私を救ってくれたこと、礼を言うぞ。『精霊の貴人』』
「いえ、お役に立てたのなら幸いです。
また、精霊獣をお作りになりますか?」
『其方達が力を貸してくれるのなら、ぜひ頼みたい所だ』
「リオン?」
「大丈夫です。どうぞ」
リオンの返事にニッコリと笑顔を浮かべた『精霊神』様は金の触手を差し向け、力を吸い取ると、可愛らしい猫を作り上げた。
王宮で見た時と同じ。
ナターティア様達もきっと喜んで下さる。
小さな猫はふわりと生まれ落ちるように姿を取り、宙に浮かぶ。
その身に宿る清らかな水の気配が、何だかとても懐かしく感じられた。
『私は、其方らの旅には同行しないが、必要とあればいつでも力を貸そう。
借りもあるしな』
「ありがとうございます。その時はどうぞよろしくお願いします」
これで七柱の精霊神の半分が復活した事になる。
全ての国から協力の約束を取り付ける事が出来た。
順調と言えるだろう。
『神』とどう対するかはまだまだ想像もできないけれど。
それでも、少しずつ味方が増え、道が繋がっていく感覚は確かにあった。
「では、私は戻ります。私が言う事ではありませんが、フリュッスカイトを宜しくお願いします」
『ああ、任せておくがいい』
とりあえず、ここでできることは終わりだ。
フリュッスカイトで私ができることも、全部やったと思う。
嵐も、王権の継承も、『精霊神』様の復活も。
短い滞在の中で、出来ることは本当に全部やり切った。
『マリカ』
「何でしょうか? 精霊神様」
『よく、書を読み、学べ。
そして考える事、考える事を止めない事だ。
さすれば、星の光はそなたを導く。
どんなに暗く、遮られた道であろうとも』
「ありがとうございます。
心します」
精霊獣と、『精霊神』の祝福を得て私達は現実に戻ったのだった。
その言葉は穏やかだったけれど、不思議と強く胸に残った。
まるで、未来のどこかに続く細い糸をそっと手渡されたような気がした。
『精霊神』様が復活した事、そして精霊獣が戻って来たことをフリュッスカイトの人達は大喜びしてくれる。
新しい王族魔術師と、君主の誕生も合わせてヴェーネは熱狂に近い喜びに包まれていた。
大嵐の恐怖を知っているからこそ、その反動のような安堵と歓喜は大きい。
昨日までの張り詰めた空気が嘘みたいに、街には明るいざわめきが満ちていた。
「また、借りが増えたな。何で返せばいい?」
「今は思いつかないので、素直に借りておいて下さい。
まだ、もう少し貸しは増えると思いますし」
「?」
首を傾げるメルクーリオ様に私は柔らかい笑顔を返したのだった。
まだ残っていること。やるべきこと。
それを思えば、このくらいで貸し借りを数えて貰っては困るのだ。
私はこの時、まだ『精霊神』様が、大事なヒントを下さったことに気付いていなかった。




