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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 子ども達の逆襲 魔王始めました。

 口に出した瞬間、後悔した。


『それが、お前の結論か? それでいいのか?』


『創世神』に問われるまでもなく。

 でも、もう覆すことはできない。


『やはり、お前も我が身や、愛すると宣うたリオンよりも、胎の子や、星の者達。仲間の方が大事のようだな?』

「止めて下さい。そういう言い方。

 いえ、そう思われて、リオンに軽蔑されても仕方ないとは思います。

 全てを捧げた夫ではなく、外を選ぶ身勝手な女だと、哂って頂いてもかまいません」


 取り繕うのも無意味だ。

 私は『創世神』と彼の中にいるリオン。

 二人に頭を下げる。


「でも、私が全てを捨てて付いていくことは、リオンの決断と生き様を汚すことになります。

 皆の、私達の為にその身を投げうったリオン。

 私には彼の妻として、リオンが守ろうとしたものを、そして何より、彼が残してくれた愛する我が子を守っていく義務があるんです」


 お腹に手を当てる。


 私とリオンだけならともかく、娘の。

 クレアの未来を、生まれる前から創世の闇に繋ぐわけにはいかない。


 どんな道を選ぶにしても、クレアには自分の意思で、自分の道を選べるような子になって欲しい。

 そして、できるなら。

 それは、リオンや私のように定められたたった一つの道ではなく。

 たくさんの輝ける選択肢の中から。


「私達は、どうしようもなくそういう風に生まれ、育ちました。

 人々の幸せを守ることを第一義とする『精霊(保育士)』として。

 他の道も選べたけれど、選べなかった。

 そして、お互いにそんな歪んだ所も、認め合い、受け入れ、愛してきたんです」


 生きていれば、失敗もある。

 辛い事、苦しい事もたくさんある。

 逃げ出してしまいたくなることもある。


 それでも。


「全てを捨てて、二人だけで暮らすことも、それはそれで幸せかもしれません。

 でも、他の大切な人を、そして子どもを見捨てて二人きりでは、私達はきっと幸せになれないんです」


 子ども達が大好きで、彼らの笑顔が見られれば幸せで。

 その為になら、なんでもしてしまう。

 大抵のことは頑張れてしまう。


 星の保育士。

 精霊というのは、そういう生き物だ。


 絶対にこいつの前では言ってなんてやらないけれど。

 リオンが、身を捨ててでも私達を、星の未来を守ろうとしてくれたことには感謝している。

 選択そのものは尊いと解っているし、そんな夫を持ったことを誇りにも思っているのだ。


「リオンの決断を、意味の無いものにしたくない。

 彼が残してくれたモノを守る為に。

 だから……私は一緒に行けません。

 アースガイアに残ります」


 一人で抱え込んだリオンは、みずくさいと思うし、助けたかったし、一緒に肩を並べて、力を合わせて頑張っていきたかった。


 幸せになるなら共に。

 お父様の言葉ではないけれど、皆を幸せにして、私達も幸せになりたかった。


 でも。


 私は今も、身体ばかり大きくなったけれど、力不足な子どもで。

 リオンは大人で、遥かに先を行っていて。

 付いていく為の力が足りていないのだと思い知らされた。


 周囲の環境も整っていない。

 強引な大人の強い力に、抗う事ができなかった。


 まだ、助けることができないのなら。

 共に歩むことができないのなら。

 許されないのならば。


 自分のいるべき場所で、為すべきことを為す。

 彼が護りたかったものを、彼の分まで護る。

 いつか力をつけて、彼の横に並び立てるその日まで。


 それが『神』となった男。

 リオンの妻たる女の責務だ。


『そうか。なら、仕方あるまい』


『創世神』は静かな眼差しで首肯する。

 どこか、解っていた、というように。


『無理強いをしてリオンに恨まれるのも面倒だ。

 お前は星に残り、好きに生きるがいい』


 ありがとうございます。

 なんて、絶対に言ってやらない!


 リオンを連れて行くことを、まだ許したわけじゃないんだから。

 見ていろ。毒親。

 今、私達は負けたけど、リオン奪還を諦めた訳じゃないんだから!


『さて、終局だな。

 お前達にとっては地獄であったろうが。

 私にとっては、この世にあって初めてと思えるほどに楽しい時であった。

 リオンでは無いが、これから幾億の時を超えようと、この日の輝き、思いがあれば退屈はしないと思える程にな』


 随分といい話に纏めようとしているけれど。

 勝手な事言ってんじゃない、とマジで思う。


 いつか、絶対に〆る。

『創世神』


『美しい生きざま、生命の輝き、そして愛とやらを見せてくれたお前達に、最後に一つだけ餞別をくれてやろう』

「餞別?」

「マリカ……」

「リオン!!」


 フッと、影が降りるように、纏う雰囲気が変わった。


 一目で解る。

 リオンだ!


 抱き着きたくても、身動きさえできない私の前に膝を付き、リオンはそっと抱きしめてくれた。


「愛しい俺の妻。

 大切なモノたちを、護ると言ってくれて……ありがとう」


『創世神』のエミュレートではなく、感情を殺した戦士でもなく。

 共に生き、共に歩み、愛した、ただ一人の夫。


 まぎれもない。

 私のリオン・アルフィリーガが、そこにいた。


「ううん。ごめんなさい。ごめんなさい!

 一人で決断させてしまって。

 逝かせてしまって。

 そして……付いていくことを選べなくて!」


 泣きじゃくる私に、リオンは首を振る。


「いいや。

 あれこそが俺が望んでいた答えだ。

 やはりお前は俺の導きの星。

 たった一人の精霊女神」


 甘く、触れるような優しいキスが、唇の上に落ちた。


 力を分けてくれたのだろうか?

 それとも、防御を解いた?


 腕を伸ばすと、リオンの身体に触れることができた。

 変わり果てた。

 でも、変わらない愛する夫。


 この世でただ一人、全てを捧げた男。


 大きく、固い肩に腕を巡らせると、彼も同じようにしてくれて、もう一度、私達の影は一つになる。


「お前が、俺を愛して、信じて受け入れてくれたから、俺は今もこうして在る。

 やっと、自分を好きでいられる。

 これから、永き世を闇の中に縛られることになろうとも、お前や皆との記憶があれば、どんな苦難も耐えきれる。

 幾千、幾万、幾億の時の彼方だとしても、待ち続けることができる」


 私達は力不足で、リオンを理不尽な親から、史上最悪のDVから助け出すことはできなかったけれど。

 希望は、まだ途切れた訳ではない。


 私達の勇者。

 リオン・アルフィリーガは、不滅なのだから。


「マリカ……。いつか、迎えに来てくれるか?

 俺の事を」

「うん! 必ず、直ぐに!

 迎えに行くから。

 どんなに遠い星の彼方、時の向こうであっても、私はリオンを必ず見つけて、もう一度抱きしめるから」

「ああ。その日を待って、俺は立ち続ける。

 お前達を守り支える為の柱となって」

「貴方の元に辿り着いたら、助けたら今度は、今度こそ。

 幸せになろう。

 私と貴方と、この子。クレアティーネ。

 お父様や、お母様。フェイやアル。みんなと一緒に」

「ああ。……待っている。

 信じている」

「愛している。リオン」

「マリカ……俺も、愛している」


 最後に、リオンは私に深い口づけをくれた。


 互いに力と心を交換する。


 この幸福を、絶対にこれで最後になどしないと。

 心に深く刻み込んで。


『別れは済んだか?』

「はい。

 ありがとうございます。

 諦めていた仲間との再会と、マリカとの別れを許して頂き、心から感謝申し上げます」


 リオンの気配が『創世神』の中に紛れ、溶けた。


 私はお礼なんか言わない。


 感謝はしているけれど。

 絶対、絶対!


『いよいよ、この星とも別れだ』


 リオンの全身が光輝を放ち、空に浮かぶ。

 と、同時に、星の全てを取り巻いていた力が、彼の元に集まり、吸い込まれていく。


『大地に存在する全ての生命体から、リオン・アルフィリーガの情報消去を確認。

 ……。

 偽神共と、多少の取りこぼしは、お前達の愛とやらに免じて見なかった事にしてやろう』

「……」


『星界の彼方。銀河の中心へ我らは還る。

 マリカ。

 銀河に生まれた希なる砂金星。

 そして、矮小にして偉大な人の子達よ。


 大言を果たせ。

 いずれ、辿り着くがいい……。

 その日を、楽しみにしているぞ』


「リオン!」

『しっかりと導いてやるがいい。

 お前の帰還も待っている!』


 そして彼らは飛翔した。

 蒼い空に伸びて行く、紅い光。

 逆行く箒星。


 空を行く燕のように滑らかに。

 後ろを振り向くことなく。


 その光景を焼き付ける。

 瞳の奥に。


 私達の愚かさと、無力と、後悔と共に。


 いってしまった。


 私達の手の届かない、文字通り星の彼方。

 高みへと。


「う……、あ! 大丈夫ですか? マリカ?」

「お母様、リオンが……」

「リオン? 誰ですか? それは?」

「お母様?」


 夢だとか、嘘だとか。

 冗談だと思いたかったけれど。


 虚ろな眼差しと疑問符に、やっぱり、と現実を突きつけられる。


 首を傾げ、私を見るお母様の瞳が哀しい。


 どうしようもなく。


「僕は、一体、何を?

 あ・れ……なん、ですか。

 涙が、止まらない。

 何か、大切なモノを喪ったような……」

「フェイ!」

「マリカ……。俺達は……一体?」

「くそっ! 俺は、また……!」

「アル! お父様……」

「マリカ様、唇から血が……」

「いいの。これは、私の罰だから」


 事情が理解できず、困惑する皆の前で、泣き叫びたい思いを、私は必死で堪えて歯を食いしばる。

 頬を叩いて、気合を入れた。


 ダメだ。

 泣くんじゃない。


 リオンと共に行くことを拒んだ私には、彼を失った事を泣く権利なんてない。


 泣いていいのは、リオンを、全てを取り戻した時だけだから。

 そう己に強く暗示をかけて。

 悪夢のような礼大祭は、こうして幕を下ろした。


 アースガイアから、かけがえのない『精霊の獣(リオン)』を奪い取って。


『……マリカ。話があります。クレアも聞きなさい』

「オリジン……?」


     ◇ ◇ ◇


 数か月後。

 大聖都。


「しっかり! マリカ! もう、頭が出て来たわ!

 リタ! 子どもの方をお願い!」

「お任せ下さい。もうひと踏ん張りです。しっかりいきんで!」

「は、はい!!

 う……ん!!!! あっ!」

「出ました! …………おめでとうございます。

 可愛い、女の子ですよ」

「よく頑張ったわね」


 私は大聖都で、皆に見守られて子を出産した。


 色々脅されていたけれど、終わってみればかなりの安産。

 いや、勿論、死にそうなくらい痛かったし辛かったし、その前も大変だったけれど。


「ほら、お母さん。抱いておあげなさい」


 美しく柔らかい、カールした金髪。

 勇者時代のリオンと同じ色なのだろう。


 瞬きして開いた瞳は紫水晶。

 私に似たのかな?

 ちょっと嬉しい。


 どんな人形よりも美しく愛らしい、私達の娘。


「流石、神の子。生まれたばかりだというのに、信じられない愛らしさですわ」


 マイアさんとミュールズさんが産湯に浸からせ、お母様が手縫いのおくるみに包んでくれた我が子を、そっと受け取り抱きしめる。


 疲れ切った身体に、軽くて重い命が伝わってくる。


 可愛い。

 愛しい。


 私と、リオンの子。


「クレアティーネ。

 生まれて来てくれて、ありがとう」


 と、固く握られていたクレアの掌が微かに動き、何かがぽろっと私の膝に転がり落ちた。


「マリカ様。これは……」


 白金色の結晶。


 これは、きっとオリジンがクレアに頼んでいたもの。

 私達のこれからの、大事な切り札になりうる宝だ。


 クレアは、あの人からの最後の贈り物を、ちゃんと捕まえていてくれた。

 賢くて、優しい子だ。


「クレア。あのね。

 お母さんは、これから魔王になるから。

 そして、お父さんを絶対に取り戻すの。


 貴女を巻き込みたくないけれど、多分、苦労させると思う。

 許してくれる、かな?」


 頬を寄せると、開いた手に私の髪を握り込むクレア。


 私とリオンの娘。

 未来の創造主。


 解る。


 この子は、産まれる前から私の同志。

 力を合わせ、共に困難を乗り越えて行く者だ。


「ありがとう。

 一緒に、お父さんを迎えに行きましょうね。

 そして、今度こそ、家族みんなで幸せになるの」


 見ていろ。

 毒親。

 創世神。


 ここからが、私達の本当の逆襲のはじまりだ。


 マリカ、十五歳。


 母親兼、魔王始めます。

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