大聖都 封じられた大神殿ともう一人のリオン
リオンの『説法?』は、今までにないもので、参加者達の間でも物議を醸したようだ。
と、カマラが教えてくれたのは、私が儀式を終え、禊と着替えを済ませた後。
自室で寛いでいる時のことだった。
「アル様とは、ゆっくり話をすることはできなかったのです。
私も聖堂から離れることは流石にできませんでしたし」
祝福の間、前に立つ私の両脇にはリオンとフェイがいた。
だから、その間だけカマラは少し離れた祭壇下で待ってくれていたのだ。
祝福を求める人の中に、不審者が紛れ込まないように。
私とアルの様子を察してアルを追ってくれたカマラだけれど、私の護衛があまり長く離れるわけにもいかないし、アルやゲシュマック商会が不審がられてもいけない。
軽く挨拶をするに留め、その時にこの手紙を預かったのだという。
「今までの『神々』の偉大さを伝える逸話とは違いすぎましたから。
ですが驚いた者も、苦情や責めを紡ぐことは無く、逆に殆どの者はリオン様から発せられる、威厳というか覇気というかに気圧され、その言葉を胸に刻んだ様子。
それは各国王も例外ではなく。
マリカ様の透き通るような讃美歌と合わせて、上位者からの祝福。
神の言葉として受け取ったようでした。
神官長にして『元勇者』『神の子』。
リオン様の御威光は、皆に知れ渡ったのではないでしょうか?」
実際、祝福の時にはかなり手が震えていた人や、涙ぐんでいた人もいた。
大げさだな、と思ったけれど、私でさえ感じたリオンの圧倒的な『威厳』。
神々しさは、精霊神様達どころか精霊だって見た事の無い人々には、刺激が強すぎたのかも、だよね。
「それで、これは……どういう意味なのでしょう? リオン様の中に?」
「あ、あんまり気にしないで。解っていることだから」
「解っていること?」
アルからカマラが託された羊皮紙には、リオンの中の存在に注意しろと警告されていた。
つまりはオリジン。
リオンの中のもう一つの人格の事だろう。
私は手紙を折りたたみながら、カマラに説明する。
「うんと……超大雑把すぎる話になるんだけれど、リオンの中には『神』に近いような力が宿っているの。生まれつき。
リオンの人格とは別の形で」
「ああ。今のリオン様になる前の、元魔王マリク、ということですか?」
カマラは以前、リオンがエリクス達の罠で人格が変わった時のことを覚えている。
その時にざっと事情も説明したので理解が早い。
オリジンうんぬんまでは知らせていないのだけど。
「そう。今は同化して、記憶や知識を共有しているらしいけれど」
「その人格が分離して、リオン様の中で何かまた悪さをしようとしていると?」
「え?」
「マリカ様?」
「あ、そうなのかも、ね……」
カマラの何気ない言葉に、私は脳を揺さぶられたような気分だった。
なんだか、今まで自分が大事なポイントを思い違いしていたことに『気付く』。
まさか……。
「カマラ。昨日は魔王城に戻ったの?」
「いいえ。大聖都の中で寛がせて頂きました。
リオン様から、護衛が大事な式典の最中、許可を得たとはいえ簡単に外へ出歩くなと言われまして。
マリカ様からティラトリーツェ様に御伝言があると告げたのですが……」
「リオンが、止めた?」
「はい。ですが、私も道理だと思いましたので、自室で過ごしました。
どうやら式典が始まるので、大聖都の許可が無い者の出入りは封鎖されているようです。
クラージュ様も、今は中に入れないと言っていました」
「クラージュさんが立ち入り禁止?」
「はい。通信鏡の調子が芳しくなく、切れてしまい、それ以上は聞けなかったのですが?」
「え? 通信鏡が電波障害なんて、今まで一度も……!」
カマラが所有しているのは、クラージュさんと直通のものだけだ。
仕事の時は私の多方向通信ができるものを貸しているけれど、昨日は私の手元にあったから、お母様達への連絡はできない。
カマラに言われて、私は自室に持ち込んだ通信鏡を起動させてみようとした。
でも、うんともすんとも動かない。
「うそ……」
こんなこと、はじめて……だ。
「なんで?」
「確かに不思議ですね。今まで、プラーミァに行こうとも通信が滞ったことなどありませんのに」
「あ、そうだ。リカチャンは?
リカチャン? 聞こえる? 返事をして」
私は指輪に宿る精霊に呼びかけた。
この指輪は婚約指輪だし、力のある魔術道具だから持ち込みが許されたのだ。
でも、無反応。
ただの綺麗な蒼水晶が輝いているだけ。
おかしい。
何かが起きようとしている?
いや、もう起きているの?
「カマラ。お願い!」
「マリカ様?」
「今日の夜、フェイの所に行って、この状況について伝えて。
そしてできるなら、フェイの許可を得て大聖都の外に行って、外の皆さんと話をして欲しいの。
何か、起きているのかもしれない」
「解りました。急がなくてもいいのですか?」
「リオンが目を光らせている間は、無理だと思う。
でも今日は、夜遅くになったらリオンの注意も多分、外れると思うから」
「え? それは……」
「ごめん。詳しくは内緒。
とりあえずは昨日と同じように振舞って、リオンを油断させて。
夜の刻の頃からなら、きっと……」
「解りました」
リオンが来ないうちに、と思って、私は急いでカマラを外に出した。
フェイがリオンの状況を理解していて協力しているのなら、完全な詰みだけど、昨日までの様子ならそれは無い。
いつものように、リオンは一人で抱え込み、一人で背負おうとしているのだ。
その後は、マイアさんが運んできてくれた食事を食べて、疲れたから今日は明日の為に早く眠る、と告げて一人になり、寝台に横になる。
リオンを。
オリジンを、なんとか説得する。
何をしようとしているか、そもそもが解らないけれど、リオンに一人で背負わせるのはイヤだ。
間違っている!
目を閉じただけで、眠ってはいなかったつもりだけれど、実際には疲れからか、意識は朦朧としていたのかもしれない。
そして。
気が付いた時、私は一人、外に立っていた。
見覚えのある舞舞台。
聖なる祭壇の中央に。
昏い帳が完全に降りた深夜。
夜の刻。
周囲に人影も灯りも無く、私達を照らすのは、金砂銀砂を振りまいたかのように満天に輝く星空だけ。
どこまでも見通せるような、星の海の下で。
「マリカ。お前には選択権がある」
静かな声が、そっと私に触れた。
振り返り、微笑みを作る。
解っている。
解っていた。
自分が部屋から移動させられた以上、一人ではないことは最初から。
「リオン……」
暗闇の中に、リオンが一人佇んでいることも。




