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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 精霊神からの警告

「……リ……カ。マリ……カ」

「え? あ、だれ?」


 リオンを待って自室のソファにいた私は、気が付けば夢の中にいた。


 夢の中でのあれこれも、随分と慣れてきたからね。

 現実と夢空間と疑似クラウドの区別はつくようになっている。


 疑似クラウドは夢と似ているけれども、非なるもの。

 完全な異空間として、私達には見えないし触れないけれど、精霊神様達の力で成立している場所だ。


 基本的には肉体を持っていると入れないらしい。

 精霊神様が許した存在や、資質のある人は短時間だけ入ることができる。

 私達は最初から入っていたから感覚がマヒしているけれど。


 夢の空間は、私の心というか、心象風景の中にいる私に話しかけているような感じ?

 呼びかける時、皆様、私が混乱しないように、視覚というか精神イメージを疑似クラウドに合わせて下さっているようだ。


「ラス様?」

「ゴメン、マリカ」


 淡い純白の夢空間。

 現れたのはラス様で、開口一番、頭を下げて下さる。


 え? なんで?


「どうしたんですか? 何か、謝ることでも?」

「本当はもっと早く何とかしたかったんだけれど、今回は僕ら、どうしようもなく役立たずなんだ」

「役立たず? だから、どうして?」

「『言えない。言うことが許されていない』」

「でも……それは……」


 精霊の沈黙。


 権利を持たない相手に秘密を語ってはいけない、という『精霊』の絶対命令だけれど。


「君が『精霊の沈黙』と呼ぶ制限は、実はもう一つ別の意味がある」

「別の意味ですか?」

「そう。上位者の秘密を語ることはできない。命令には基本逆らえない、というものだ」

「『精霊神様』達が一体、誰に命令を受けるって言うんですか? 『神』や『星』ですか? それとも『オリジン』?」


 私の中にいる地球のナノマシンウイルスの意思、オリジンが命令しているって言うんなら、解らなくもない。

 でも、そんなのは今更ではないだろうか?


「っていうか、私の中にオリジンがいるから、私にはもう秘密の制限は無かったんじゃないですか? 一種の上位者扱いで」


 私の中のオリジンからの宣戦布告で、いろいろと秘密が明かされたし、精霊神様達もステラ様も、最近は色々と、昔の秘密主義はなんだったんだ、ってくらいに教えて下さる。


「僕達の上位者は、マリカの中のオリジンだけじゃなかったってこと。

 言えるのは、ホント。これが精一杯なんだ」

「精霊神様達の上位者が……私のオリジン以外に?」

「……言えない。

『神』の処置と判断が間違っていた、とまでは言わないけれど、正直、僕らも予想外の事態に戸惑っている」


 そこで、ハッと気づく。

 そう言えば、オリジンが言っていた。


「まさか、リオンですか?」


 リオンが魔王体になったことで、『神』をも上回るかもしれない力を得ていることは解っていた。


 宇宙空間も深海も、単独で自在に舞う黒燕。

 彼が本気になれば、アースガイアの魔王になって滅ぼすくらい、不可能じゃない。


 リオンは絶対にそんなことはしないけれど……。


 ラス様からの返答は無い。

 否定も無いということは、つまりは肯定ということで。


「最近、リオンの様子がおかしいんです。アーヴェントルクの夜から。

 私は彼はリオンだと思ったんですけれど、リオンが乗っ取られてオリジンになっているとかなんですか?」

「オリジンなら、まだ……」

「え?」

「とにかく、だ。明日から礼大祭だろう? なるべく、リオンに近づかないで」


 その口から紡がれた警告は、流れからして正しいのだろうけれど、どこかもやっとしたものを感じた。


「リオンに近づいちゃ、ダメ、なんですか?」

「君には酷いことを言っているし、強いている自覚はあるよ。

 ただ『あの方』の意図が読めないんだ。何を狙い、何をしようとしているのかも。

 僕らには現状、ほぼ見守るしかできない。その中で、少しでもできることを探したい。

 時間が、欲しいんだ」

「リオンの中のオリジンが、悪役というか、悪者みたいに。彼が何かをしようとしているとでも?」

「礼大祭は、人々から力を集める儀式だ。通常は『神』に送られるものだけれど、今のリオンなら横取りしようと思えばできるだろう。

 マリカの力と人々の力で、何かをしでかそうとしていると僕らは見ている。

 その何かは、正直、想像もできないのだけれど」

「じゃあ、礼大祭を中止した方がいいですか?」

「できるの? 明日、というか今日だよ?」

「あ、すみません。無理ですね。暴動に近い大騒ぎになります」


 礼大祭は中止できない。

 でも、なんとかしないといけない。


 そもそも、リオンの中のオリジンの目的はなんだろうか?

 リオンの身体を、私の中のオリジンみたいに乗っ取ろうとしている、とか?


 私の中のオリジンの言葉を信じるなら、大きなダメージを受ければ乗っ取りも可能のようだし。

 体内に潜むオリジンは簡単に剥離できない。生殺与奪を握られているので、折り合いをつけるしかないということは『神』が言った通りだ。


 なら、まずは対話かな。

 目的を聞いて、その手助けをする、と約束すれば譲歩を引き出せるかもしれない。私の中のオリジンも気にしていたし。


「……私、話をしてみます」

「! マリカ?」

「とりあえず、何を考えているか聞いてみて、それから力になりたいと伝えてみます」

「ダメだ! 彼を変に刺激しちゃいけない! 『彼ら』は精霊神(元人間)と違う。完全な別種で、何を考えているか解らないんだぞ!」

「でも、オリジンですよね。地球人類を守ろうとはして下さる筈です」

「そうであったとしても! 彼らの『守る』が僕達の望むそれと同じである保証はない。

 アルやライオも、みんなそこを心配しているんだ!

 僕らも完全に手をこまねいて見てるわけじゃない。君用に準備していた仕掛けを……。いや、とにかく今は様子を見る時だ。頼むから!」

「大丈夫です。リオンの影響を受けたオリジンなら、絶対に私達を傷つけたりするようなことはしないですって」


 普段は精霊神様達の言うことは、私なりに聞こうと思うのだけれど、なんだか今日はそんな気分になれない。


 リオンのことを悪しざまに言われているようで、もやもやする。


 この感情は、私のものなのかな?

 もしかしたらオリジンのものかもしれない。


 まあ、どっちでもいいのだけれど。


 ああ、なんだか凄く、リオンに会いたくなっちゃった。


「ああっ! もうダメか? まさかオリジンの浸食がそこまで進んでる?」

「私は、私です。今の所は、かもですけど。どっちでも変わりません。

 リオンを助けて、共に歩んでいくんです」

「だから! 違う! 待っ……うわああっ!」

「ラス様?」


 苛立つような顔つきで、ラス様が私に手を伸ばしたと同時。


 バシュン、と。


 昏い影が周囲に落ちた。

 まるでライトが一気に消されたように真っ暗。


 ラス様の声も、姿も見えない。


 何が起きたのだろう、と思っているうちに、


「あれ?」


 私は目を覚ます。


 何故か、長椅子に座っていた筈なのに、ベッドの上で。


「まさか、リオン? 来てたのかな?」


 部屋の中は静かで、置手紙も人がいた痕跡も無い。

 ただ、カーテンの隙間から白い光が射しこむのみ。


 立ち上がり、布を横に開けば、闇は瞬く間に輝く白光に吸い込まれてしまう。

 さっきとは正反対に。


 大神殿の礼大祭の初日は明日。


 今日は各国の王族の皆様に挨拶をして、禊の泉に水を入れ、潔斎所に籠る。

 礼大祭の始まりとなる大事な日だ。


 祭りの日は雨が決して降らないと言うけれど、見事な夏晴れの青空が輝き、眩しいまでの光と共に幕を開けようとしている。


「マリカ様? お目覚めですか。

 そろそろご準備の時間でございます」

「ありがとう。セリーナ。今起きた所です。身支度の手伝いをお願いします」


 さっきの夢とラス様の言葉は気になるけれど、とりあえずはリオンと久しぶりに会うのだ。

 できれば、最高に美しい私でいたいから。


 アースガイアの、私達の運命が変わる三日前。


 オリジンの影響を受けていたのかも、と言い訳するつもりはない。

 私の危機管理意識が甘かったのだ。


 後に私は悔いることになる。


 自分の甘さに。

 モンスターペアレントのとんでもなさに。

 リオンの慟哭に。

 そして何より、盛大に、致命的な勘違いをしていたことにも気付かなかったことに。

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