魔王城 オリジンとの対決 後編
オリジンという名称は、概念的な存在を表すものとして精霊神様達が付けた呼称だ。
実際の彼らは、違う名称や呼び名をするのだろうけれど。
『説明には適しているので、貴方達の呼称を引き続き借り受けます。
オリジンとは本来、創造主より命令を受け、星を導く力を授けられた意志。
その意志が操る、星を変え支える力。
微少媒体を、ウイルス、と。とりあえず』
地球の進化を導いてきたという存在。
人類が考え、作り上げてきたそれではなく、本質的な『神』とも言える存在は、何故だか私の顔をして説明を続ける。
保育士、というか。
先生のような顔をして。
『本来なら、かの方、創造主が作り上げたモノ以外に、オリジンもウイルスも生まれる筈はないのです。
なのに、私のウイルスを変異させ、『彼』の悪性ウイルスをも取り込んだ真理香は、本人も知らぬうちに全く新種の、新しい『力』を生み出し、側にいた人間に付与したのです』
「それがステラ様とレルギディオス神、二人の第二世代、ということですか?」
『そうです。
彼ら自身は、その力を与えられ、使うだけの存在ですが、二人の子には第二世代のウイルス、その意志としての魂が宿りました。
それがマリク。
リオンの原型です』
「マリクが……第二世代ウイルスの意志」
私はマリクと会話したことは数度しかないけれど、本人からそんな話を聞いたことは無い。
一度も。
『通常は意志が先に生まれ、その後に力の媒体としてのウイルスを手にするモノです。
あの子の誕生は全て、あり得ないくらいの特殊事例。
そして、何より。
当の本人が知りませんでした。
自分がウイルスの『意思』であることを。
今も、知らないでしょう。
私達は生まれたと同時に、かの方から使命を授けられましたが、マリクには教える者も、導くモノもいなかったので』
マリクはたった一人、宇宙船の中で目覚め、圧縮学習と強化改造処置の後、『神』の道具として仕え続けた。
『故に、第二世代のナノマシンウイルス。
つまり、この星の全てを支配できる力を有しながら、『神』の道具として、精霊と人を守る『アルフィリーガ』で在ったのです。
叶うなら、私が教え導きたかったのですが、当時の私は地球の半分を既に『彼』に奪われ、力が弱っていた上に拡散されていて、まともに力を使う事も叶いませんでした。
地球人の生命力と意志力を高めるのが精一杯。
順番が逆になりますが、オリジンとしての意志と力を取り戻し、使う為には、なるべく濃いウイルスを媒介に己を凝縮させることが必要だった。
故に、種母原種に近いウイルスを持つ能力者同士の子。
つまり、貴女に宿ったのです』
魂がどこから生まれ来て、どう宿るのかは、彼女、オリジンにさえ解らないという。
ただ、二人の子どもに魂が芽生える前。
受精卵の時から、オリジンは『私』に宿り、機を見計らっていた。
『ただ、その結果、無力な受精卵であった私は地球から引き離されてしまいました。
僅かでも能力者達の体内に在ることができていれば、少しは何か変えられたかもしれないのですが、即座に体内から取り出され、試験管の中に収められた私は、力を発揮することができなかった。
私は力の大半を喪い、何もできない受精卵として保管され。
新天地を目指す子ども達の苦悩も。
宇宙空間で一人目覚め、孤独の中、子ども達を守る、という本能的使命と『神』の命令を順守するマリクも、試験管の中から見守る事しかできなかったのです。
私の半身。
子どもとも言うべき存在だったのに』
遠い昔、同じ夢の中で出会った時。
『彼女』がリオンのことを、同じように半身だと言っていたことを思い出す。
あの時は『彼女』がリオンの育ての親である『マリカ様』だと思っていたから、違う解釈をしていたけれど。
合わせる顔の無い間違いを犯し、リオンを永劫の孤独に追いやったという言葉も、そういう意味で……。
『私が試験管から出され、肉体を得るまで、永い永い時がかかりました。
その間に子ども達は、新しい星への移住を成功させ、『彼』の機械的機構を取り込んだ第二世代ウイルスによって急速に発展していったのです。
現時点で、私の第一世代ウイルスは、もはやこの星には貴女の体内以外にはありません。
私から派生したウイルスではあるので、第二世代ウイルスにも強い優先命令権がありますが、それだけ。
故に『私』は、『私』の中に入ってきた元気で力強い、新しい魂にこの身を預けて、様子を見ることにしました。
自分から外に出るつもりは、本当に無かったのですよ。
貴女が、私を、力を求め、呼び求めるまでは』
そうして、話は最初の出会いに戻る。
本来、お母さんの護りと癒しの力を受け継いでいたこの身体は、オリジン由来のナノマシン。
つまり、この星の全ての生物、物質に対する優先命令権をも有していた。
それが、私の『物の容を変える力』
真理香先生の記憶をインストールされて目覚めた今の私は、子ども達とこの世界で生きる為に『オリジン』の力を必要とした。
だから、彼女は私に力を貸与してくれた。
『貴女が子ども達を導いて、この星で生きるなら、それはそれでアリかと本気で思っていたのです。
私に代わってマリク。
いいえ、今はリオンとなったオリジンの孤独を癒し、共にあってくれるなら、と。
ただ、貴女。
いいえ、貴方達は揃いも揃って傑物で。
その輝きは恒星のように闇夜を照らす光となって輝き、存在を知らしめた。
『彼』と。
そして、あの方へ』
「あの方……」
『彼』というのはコスモプランダーの事なのだろう。
そして話の流れからして『あの方』というのは、オリジン達を生み出し、宇宙に生命の種を撒いたと呼ばれる創造主。
『だから、私も欲が出ました。
一度は完全に失った使命を、もしかしたら全うできるのではないか、と。
あの方は、ずっと待ち望んでいるのです。
自らの横に並び立ち、力を貸してくれる我が子の存在を。
強く煌めき輝く生命種が、自分の元に辿り着くその時を、今も待ちわびておられます』
「つまり、私達に宇宙船を作って、その方に会いに行け、と?」
『最終的な目的は、そう。
でも、アースガイアだけの資源や技術力で、新しい宇宙船を建造するのは困難だと解っています。
だから、地球も再生させたいのです。
地球の人類は、既に失われていることを感じます。
長い時が経ているので、文明の痕跡も殆ど残ってはいないでしょう。
ですが、様々な資源はまだ十分にあります。
この星の子ども達が地球に戻り、その資源を活用すれば、知識も幾分か継承されていますし、そう遠くない未来、自力で宇宙に飛び立てるでしょう』
私の前に立つ『オリジン』は、あくまで地球を育てる『意志』
地球人の子どもが移住したから、アースガイアも守護対象ではあるけれど、基本的には地球に戻り、そこで子育てをしたいのだろう。
その気持ちは分からなくもない。
けれど……。
「地球再生、って簡単におっしゃいますけれど、ここは精霊神様達が何百年も宇宙を旅して辿り着いた浮遊惑星ですよ。
地球とどのくらい離れてると思ってるんです?」
『元々、私達には距離の意味などあまりありませんが、ここから太陽系の圏域までは、地球の単位で言うところの0.2光年弱ですね』
「へ?」
0.2光年弱?
光が一年間に辿り着く距離が光年の単位だから、それでも膨大な距離ではあるけれど……思ったより、近い?
確か、地球から最も近い恒星系までだって、三光年以上って聞いた気がするんだけど。
『この星に人類が辿り着いた時、『星』の惑星同化にこっそり介入して、軌道を変えて待つ事、約千年。
ようやく、ここまで辿り着いたのですよ』
にっこりと微笑む笑顔は、自信と輝きに満ちている。
……あれって、まさかドヤ顔?
「何か、したんですか……?」
『勿論、しました。
私は星を変革し、導く意志。
試験管の中に封じられていても、やろうと思えばそのくらいはできるのです。
子ども達を育てるのよりはよっぽど楽。
もう、太陽圏に手が届く所まで辿り着いています。
だからこそ『彼』は、私達の存在を察知したのでしょうね』
「コスモプランダーがピンポイントで私達を見つけたのって、そのせいだったんですか?
じゃあ、まさか……」
『ずるをしなくても、数十年で。
貴方達と私が本気を出せば、もっと早く、この星は帰りつきます。
私の星。
地球へ』
「えええっ!!」
驚愕に目を見開く私の足元では、蒼い星、地球の映像が大きく、サファイアのように美しく映し出されていた。




