魔王城 オリジンとの対決 中編
『子ども達を、託します』
あの方は、私達にそう告げられました。
そんなオリジンの言葉で始まった話は、正直、私のキャパシティを超える大きさだった。
スタートは、なんと宇宙創造?
太陽系ではなく、銀河系だって。
でも、以前『神』や『星』に伺っていたことが、まんざら間違いでは無かったことに驚く。
流石、超高性能バイオコンピュータってことかな。
『あくまで貴女に理解しやすいように、人の感覚に置き換えているだけなので、厳密にそう言われた訳ではありませんよ。
ただ、一つの大いなる『意志』があり、私達はその分霊のような形で生まれ、生命の種子が芽生えた星を導くように命じられました。
貴女達に一番伝わりやすい言葉で言うのなら、やはりあの方が『親』で、私達はその育成を任された保育士、ということになるのでしょうね』
隕石という形で『オリジン』はこの星にやってきた。
『ウイルス、というのは貴女達が名付けた呼び名であり、概念ですが、私達の本質を的確に見抜き、表していると思いますので、今は言葉を借ります。
隕石に乗って飛来した『本体』と呼ばれるモノはありましたが、それを失っても『私』という存在が消え去ることはありません。
個にして群。
広く星に、生命に宿り、進化、成長させていく。
単独では意味をなさない『意志』
それが私達です』
私達、という言葉が気になって、私は顔を上げた。
話の途中だけれど、質問は許されるだろうか?
「私達、っていうことは複数なんですね?」
『ええ。正確な総数は解りませんが、かなりの数が放たれた筈です。
私達から地球を奪った『彼』も、その一員でした。
勿論『彼』というのも、貴女達に理解しやすいように伝える便宜上の呼称ですけれど』
自分達はただの機構であり、意志。
性差などはそもそもない、と彼女は言う。
今の『彼女』が女性的であり、私に似ているのは、私と、お母さんである真理香先生をエミュレーションした結果だ、とも。
『私達は基本的に、自分の星の子ども達を育てるのが役目。
ですから、他の星の仲間、同胞が何を、どうしているかは全く分かりません。連絡手段もありません。
ただ、私達には絶対の命題があり、それを目標にしているので、いつか出会う事があるかもしれない、とは伝えられていました』
「絶対の命題? ですか?」
『そうです。
いつか、自分の子ども達を宇宙に導く事。
生まれ育った星から巣立つだけの力を持った子ども達を、あの方の元に連れて行くことができた時、私達は自らに与えられた役割を果たしきったと言えるのです』
星への憧憬。
宇宙への憧れ。
多くの人が持つそれは『彼女』が私達に授けた道しるべだったのかもしれない、と私は周囲に映し出された星の海を見ながら感じた。
『色々と過ちを犯し、子育てに悩んだこともありましたが、その点に関して言えば地球人は優秀でした。
星の重力圏からは逃れられないながらも、宙に視点を向け、その秘密に迫ろうとしていた。
人類が滅亡さえしなければ、私はあと数百年の後には、あの方の元に子ども達は辿り着くだろうと、胸を躍らせていたのです』
時間の概念はない、と言っていたけれど、生物進化の最初から地球を見守り続けてきたオリジンにとっては、数百年など、きっとほんの僅か。
あと少し、という思いだったのだろう。
でも……。
『なのに、そんな時に『彼』が現れました。
そして一方的、かつ勝手な言い分の元、私の星と子ども達を踏み台にしようとしたのです』
虚を突かれた、と彼女は悔し気に手を握りしめていた。
「同胞同士の侵略戦争禁止、とか、そういうルールは無かったのですか?」
『ありませんでした。
私達に与えられた命題は『子ども達を守り、いつかあの方の元に辿り着くまで導き育てること』
そこに他者が関わる余地は、基本的にありません。
宇宙に自力で飛び立ち、資格があるとあの方が判断されれば、導きの光が与えられる。
その光を辿っていけば、あの方が待っている。
『大人』として、一人前の生命種としてあの方に認められ、並び立てる。
それだけのことなのです。
競争でも争いでもない。
ただ自らと、託された子ども達を育て上げるだけの。
けれど……』
今の私達は肉体がある存在ではないけれど、噛みしめるような彼女の慟哭が聞こえる。
『けれど『彼』は間違えた!
何があったかは知りませんが、自らの星の子ども達を滅ぼし、生命種として喪失させた。
その上、間違えたことに気付かぬまま、亡者となって。
あろうことか他の星と同胞、その子ども達を食い物にし続けたのです!』
コスモプランダー決戦での会話が、頭の中で再生される。
自分達、星を往く存在を最高種と自称して、その贄となれと見下したコスモプランダー。
お前達は最高種なんかじゃないと、啖呵を切った『私』
あれは、そういう意図が……。
『少しでも時間があれば、むざむざやられるばかりでは無かったのですが、『彼』は狡猾かつ醜悪で、一切の予告も準備期間もなく、星に自分の強化した意志、貴女達の言葉でいうウイルスをまき散らしました。
しかも、そのウイルスは今までに滅ぼしたであろういくつもの星の意志を取り込み、意図的に強化、変悪化されていた。
そのせいで、最初の襲撃の時、私は成す術も無く。
多くの子ども達が殺され、星が変えられるのを止めることができなかったのです』
「最初の襲撃の時に、八人の能力者が生き残ったのは?」
『偶発的に濃度が増した、種母原種に近いウイルスを持っていたからです。
別に、彼らを意図して選んだわけではありません。
全人類が体内に同じウイルスを持っているのです。
薄まったり、濃くなったり。
そんなことはよくありました。
たまたま、変悪化したウイルスに耐えられるだけの濃度を持ったウイルスを体内に宿し、肉体の変化に耐えきったのが彼らだっただけ。
もしかしたら、地球人類を取り込むために弱毒化していたウイルスもあり、それに当たった、ということもあったのかもしれません。
詳しくは解りませんが、地球全人類を探せば、多分もっといたでしょう。
ただ、同程度の濃度を持ちながらも変化に耐えられず滅した人間もいたと、私は考えています。
強い精神力と意志の力を持っていたからこそ、でしょうね』
偶然、か。
三十億人の中から生き残った八人は、本当に宝くじが当たるような奇跡を引き当てていただけのことだったんだ、と思うと少し切なくなる。
人知を超えた奇跡や幸運は、必ずしも人を幸福にはしない。
『ただ、その中で真理香は別格でした』
「え?」
『全人類に宿る私のウイルスは、人を守り、導くという意志がプログラミングされています。
そして彼女には、天性の才能があった。
人を高め、導くという。
まだ若かったから頭角を現してはいませんでしたが、あと十数年の時間があれば、教育、保育の世界で名を馳せていた可能性があります。
その才能と意志が。
生命力が。
変異した『彼』のウイルスと、偶発的に濃厚化していた私のウイルスを取り込み、進化させ。
結果として『あの方』も想像し得ぬ奇跡を起こしました。
新たなるウイルス。
そして、あり得ぬ新しい『オリジン』を生み出したのです』
「あり得ない『オリジン』?」
『その『オリジン』は、種母原種を抱く二人の人間の身体と、生命の理を利用し、この星の生命として生み出されました』
「それって、もしかして……」
震えが止まらない。
私の問いに、オリジンは静かに頷いて見せる。
『ええ。貴女の思う通り。
リオン。
正確には『神』と『星』の第一子。
マリクです』




