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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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魔王城 オリジンとの対決 前編

 気が付けば、そこは闇の中だった。


 正確には、気が付いた訳ではない事は分かっている。

 でも、流石に二度目だしね。

 それに今回は自分が招いたことだ。


 最初の時よりは少し、落ち着いている。

 うん。落ち着いている筈だ。


『前の時のように慌てたりはしていませんね。

 少しは成長し、大人になりましたか? マリカ?』


 目の前に、懐かしくも見慣れた顔をした女性が立っていても。


「嘘つき」

『あら、開口一番がそれですか?

 言っておきますが、私は一度たりとも嘘などついたことはありませんよ』


 幼い頃、とても美しいと感じた女性の姿を、今の私は見慣れている。


 流れるさらさらストレートの金髪。

 深緑の瞳。

 桜貝の唇。

 しなやかな鼻梁。


 自分で褒めるのもなんだけれど、それは鏡の中で毎日見る自分の顔と同じだった。

 はっきり違うのは、髪と瞳の色と、ドレス。

 それから今は妊娠して膨らんだお腹、くらいだ。


「『精霊の貴人(エルトリンデ)』、じゃなくって『オリジン』だったんですね。貴女は?」

『私、一度でも自分が精霊女王マリカだと名乗りましたか?』

「…………そう言われると、はっきりとは覚えていないけれど……」

『『精霊の貴人(エルトリンデ)』と呼んでくれ、とは言いましたね。

 でも『精霊の貴人(エルトリンデ)』というのは、人と精霊の力を併せ持ち、人々を導く女性と、その力の名。

 私が名乗ってもおかしい話ではありませんし、あの時点では貴女より私の方が『精霊の貴人(エルトリンデ)』に近かったですから。

 ナノマシンウイルスの意思だ。オリジンだ。などと言っても、あの当時は理解できなかったでしょう?

 そもそも、話す事もできなかったですし』


 彼女は私の抗議などさらりと流して、微笑する。


「あの当時は、ということは、今なら話して貰えるんですか?」

『ええ。色々と警戒と誤解があるようですから、そこを解いた上で、正式に協力を仰ごうと思いまして』

「協力を仰ぐ?」

『少なくとも、私はそのつもりです。

 貴女が思うように、すぐさま貴女の身体を乗っ取って、自分が貴女になろう、とは思っていませんよ』

「……ホントに? 今まで何度か、命の危険っぽいものとか、浸食の気配とか感じたんですけど」

『それは、まあ。

 でも、一応セーブはしているのですよ。これでも』


 思いっきり上目遣いというか、ジト目と言おうか。

 不満を視線に乗せて抗議する私に『彼女』は肩を竦め、苦笑した。


『盗ろうと思えば、その機会は何度もありました。

 ただ、子ども達を守り、導いた貴女の功績と努力には感謝していますし、そもそもリオンが貴女以外の『マリカ』を認めないでしょうから。

 できるなら、貴女には自主的に私に協力して欲しい。

 その為に、貴女が聞くのなら説明をする用意はあるのです。

 ただ、聞いたらその後は、ほぼ二択ですけどね』

「二択?」

『はい。

 私と同化して新たな『オリジン』となり、地球復興の為に働くか。

 それとも、私に身体を完全に明け渡すか』

「!」


 彼女の提案に、選択の余地はあるようで、これっぽっちもない。

 私は思わず食って掛かったけれど。


「ちょっと待って! その二択?

 この星で、リオンと一緒に許される限り人間として生きて。

 その後は精霊として生涯を捧げるってのは無しなんですか?」

『無しです。

 そこの所は、私にとって絶対至上命令。

 譲れない存在意義(レゾンテートル)なので』

「前は、私の身体を乗っ取るつもりはない、って言ってたくせに……」


 にっこりと。

 でもどこか冷徹な『女神』の眼差しで、私を見る『オリジン』。


 最初に出会った時のような、見守るような、優しく、そしてどこか殊勝な姿は本当に無い。

 欠片も無い。


『最初の出会いの時だったら、それを許してあげるつもりではあったんですけれどね。

 今は、状況が変わっていますから。

 良くも悪くも、貴女、いいえ。貴方達は傑物過ぎた』

「どういう意味ですか?」

『それをこれから説明します。聞きますか?』


 聞いたが最後、二択だ、と彼女は言った。

 でも、聞かなくても多分、こうなってしまった以上、彼女を無視して私が私で在り続けられる可能性はない。


 ならば、情報収集は必要だ。


『まあ、安心しなさい。

 今すぐ結論を出せ、とは言いません。

 私も貴女の身体を乗っ取るのは簡単では無いんです。

 この肉体は貴女という魂と完全に紐づけられていますから。

 強制的に奪い取る為には、生死の境を彷徨い、肉体と魂が剥離するような局面にならないと難しいですね。

 少し顔を出して、肉体を借りるくらいならできなくもないですが、今は物理的にそれも難しくって……。

 貴女は愛されていますからね。

 あの子達に』


 難しい、ってことは、できないってことではないのだろうな。

 と思いつつ、できる限り彼女を私は『見る』。


 完全な敵対者では、今のところないというのは本当だろう。

 許される範囲内で私達を想ってくれているのも、多分確かだ。


 でも。

 油断はできない。


「ゆっくりと、私の中にご自分の力を染み込ませて、乗っ取ろうとしてません?」

『していない、とは言い切りませんけれど、それはあくまで、将来的な目的の為の下準備をしているだけ。

 貴女の力を高めることは、貴女がどんな道筋を選ぼうと、貴女に不利にはなりませんから。


 そう。

 私と貴女の件に関しては、最終的な決定権は貴女にあります。

 ……リオンと違って』

「!」


 私はまるで、頭の上から冷水を浴びせかけられたような気分になった。

 自分の事だったら、仕方ないとか、どうしようとか思えるけれど、リオンの事になると私は冷静さが吹っ飛ぶと自覚している。


 でも。

 私の聞き取り違いでないのなら、リオンには決定権が無いのだと、彼女は言ったのだから。


「リオンと違って?

 それは、どういう意味なんですか?」

『ですから、話を聞きなさいと言っています。

 時間はあるようで、そんなにはないのです』


 ぴしゃりと、彼女の言葉の鞭が私を叩く。

 問い縋るつもりで踏み出しかけた足を戻して、私は背筋を伸ばした。


 彼女の言っていることは、少なくとも嘘では無いし、間違ってもいないと解る。

 ならば、選択肢は他にはない。


『今の貴女でも、全てを語ることはできません。

 ただ、地球の『オリジン』の名に懸けて、語れることは語る。

 今、ここで告げることに嘘偽りはない、と誓いましょう』


 私は身構える。

 身も、心も。


 彼女は、オリジンはそう告げるけれど、油断はできないぞ。


 嘘偽りはない、と言っても、捻じ曲げたり、解釈を歪ませたり、言わなかったりすることは絶対ある。

 さっきの『精霊の貴人(エルトリンデ)』のように。


 何が真実か、見極めないといけない。

 彼女に、大切なモノを盗られないためにも。


 私自身。

 リオン。

 そして何より、お腹の中の子どもも含まれているのだから。


「『オリジン』

 話はお伺いします。

 ですが申し訳ないですが、私は、あの時と同じくリオンも、エルフィリーネも、そしてこの星の『精霊の貴人(エルトリンデ)』の地位も、貴女に譲り渡すつもりはないです。

 奪おう、っていうのなら全力で抵抗します。

 抗います」

『結構。

 それくらいの気概がなければ、この先の永劫において自分を維持し、貫くことはできませんからね』


 私の決意を、彼女は肯定してくれた。

 許してくれた、というのとはまた違うのだろうけれど。


『では、貴方達が気にしていることの、まずは答え合わせといきましょう。

 コスモプランダーと、私との関係。

 そして『私達』の存在意義について』


 漆黒の空間が、ぱあっと一気に姿を変える。


 星の海。

 宇宙空間へと。


 プラネタリウムの立体映像の中に立っているような、空中浮遊の感覚に脳がくらくらする。

 実際に本物の宇宙に立ったことがなければ、きっと酩酊していたかも。


『私達には、時間の概念などさして意味はありませんが、貴方達からして遥か遥か昔。

 一つの『生命』が生まれました。


 それが一体何なのかは、私達にも解りません。


 銀河の意思。

 宇宙の魂。

 創造神。


 人の言葉で括るなら、そんな存在なのかもしれません。


 けれど、そもそも人の概念で捉える事などできないその方は、ある時『意志』を示されたのです』


『子らよ。

 生れ、立ち、育て。

 そして、我が横に立つモノとなれ』


 その『思い』『意思』と共に光が弾け、無数の星が流れ、飛び立っていくのが見えた。


『かの方の意思と願いを受けて、私達は旅立ちました。

 そして、私は辿り着いたのです』


 星の一つは、とある星に落下した。


 海洋に落下したソレは、高い水しぶきと共に、意思と力で星を包み込んだ。


 蒼い、水の星。


 太陽系第三惑星、地球へと。


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