大神殿 リオン視点 訪れた運命
それは、マリカが休暇に入った日のことだった。
「リオン。隕石の調査と破壊に行ってくれないか?」
大神殿に戻った俺は『精霊神』から要請を受けた。
ここ数日、俺は大神殿と各国を行ったり来たりする日々を過ごしている。
七国を巡り舞を捧げるマリカについて、その護衛をしていた為だ。
もはや七国においてマリカを害しようとする者は、ほぼいない筈だ。
だが、俺が側につくことで彼女の立場を強調し、守るという意味では有意義であるとフェイに言われれば、断る理由はない。
もちろん、それが大神殿の頂点に立つという役割に括られた俺をフェイが慮っての口実であり、マリカと一緒にいられる時間を増やしてくれていたことには気付いているし、感謝している。
昨日はマリカと、ライオットの一家と一緒に、大祭を巡って思いもかけない楽しい時間を過ごした。
人の器を外れ、もう何も楽しむことはできないと思っていたけれど。
そんなことはないのだ、と。
何も変わらないのだと、マリカもフェイもアルも、ライオットもフォルトフィーグも笑う。
本当に心地好いことだ。
自分を無条件に受け入れてくれる人間、そして家族の存在というものは。
「大陸外に残っている分、ですね?」
『そうだ。マリカの休暇中に完全に終わらせてしまいたい』
代表として火の精霊神、アーレリオス様の精霊獣からそう告げられた時、周囲にはフェイとアルもいた。
二人が目を見開いたのが解る。
『前にも言ったと思うが、コスモプランダーが地上に降下させた隕石。
あれらは端的に言ってしまえば、奴らの子ども達が収容された宇宙船だ。
この星に一つたりとも残してはいけない』
「待てよ。まだ終わってなかったのか?」
「あと、いくつ残っているのですか? 全て破壊した筈では?」
『大陸部分に落ちたものは、一つとして残してはいない。ただ、奴らも後半は少しでも破壊されることのないように、か。
人類の生存域から外して落下させていたからな』
獣の顔にも声にも喜怒哀楽は見えない。
ただ、淡々と事務的に『精霊神』は事実を列挙する。
『コスモプランダーのオリジンが指揮していた『子ども達』は、住んでいた星で肉体を失った。
事情は分からない。
止むを得ず、なのか。それとも自ら選んでなのか?
ただ、確かなのは情報生命体となって疑似コンピューター。
この星の言葉で言うなら精霊石のようなものに宿って、宇宙を彷徨っていた』
コスモプランダー討伐から五ケ月。
精霊神達は、人の営みには殆ど口出しをしていなかったが、その分、色々な調査分析を行っていたようだ。
『我々は奴らの地上降下よりも先に、地球を離れた。
故に奴らが征服した土地で、どのような悪行を為していたのかは解らぬ。
ただ、この星で見られた奴らの宇宙船やその他から察するに、占拠した星の生命を喰らい、エネルギー源などにしていたのではないかと思われる。
ナノマシンウイルスの散布で星を自分達の生存に適した形にして、配下に変えた現地生物を従えて。
そして喰らい尽くしたら、また別の星に移動する。
それを繰り返していたのではないだろうか』
「聞いています。故に最優先で隕石の破壊に努めたと。
残っている隕石がまだあったことに驚いているのです。活性化のおそれは?」
『今の所はない。指揮とエネルギー供給を担っていたオリジンが消滅したことで、落下した者達は全て休眠状態に入っていることを、皆で手分けして確認した。
力の及びにくい大陸外だが、今も全力で監視もしている』
フェイの案じを察してか、精霊神は即座に否定した。
『基本的に、奴らは地上での生命活動が困難だ。
地上を事前にナノマシンウイルスで自らに適した環境に作り替え、その星の生物や住民を取り込んで初めて生活、生存が可能になるのだろうということは前々から解っていて、お前達にも伝えられている筈だ。
ステラのナノマシンウイルスによって守られたこの星では、マニピュレーターのような触手を伸ばして、取り込むための素体を探すのが精一杯。
子ども達だけでも、指示を与えればさほど苦も無く破壊することができた』
宇宙での戦闘時にコスモプランダーが地上に隕石を落下させたのは、敗色の気配を感じ、子ども達を避難させる意味合いもあったのかもしれない、とアーレリオス神は告げる。
『情報は力。
解っていなければ奴らの思い通りにされていた可能性があるが、解っていれば対処の方法などいくらでもある。
現時点で海洋部分に落ちたものはオーシェアーンの力で。
地上部分に落ちたものはエーベロイスが囲って、逃亡や活性化防止の防御壁を展開させているから、外部に奴らの毒が染み出すことも無い。
ただ、破壊には物理的な干渉が必要で、それは肉体を持たぬ我々には困難だ。
深海域に落下したもの三つ。氷雪地帯に落ちた分二つ。
特に深海域のものは引き上げ、破壊する必要がある。
子ども達を派遣するのも難しい。故に、お前に頼みたいのだ』
「解りました。座標をお願いします」
「リオン!」
即答した俺とフェイの視線がぶつかった。
心配してくれているのは解るが、これはやらなくてはならず、避けられない事だ。
『感謝する。座標は後で送る。
位置的には、お前達が訓練で戦った北の海洋域近辺だ。さっきも言った通り、三か所と二か所』
「今までのように完全破壊でよろしいのですね?」
『ああ。奴らのオリジンがいなくなった以上、彼らを助ける者はもういないと思うが、万が一にも奴らが時間をかけて変異、強化などされても困る。
殲滅。
情報の一欠けらも残さぬ消去を頼む』
「解りました」
マリカが休みに入った隙を狙って、精霊神が依頼してきた理由も解っている。
あいつは優しい。
もしかしたら、コスモプランダーの生存者がいると知れば、助けてやりたい、と受け入れる方法を考えるかもしれない。
それを避ける為だろう。
終わってしまった後なら、仕方ないで済む。
万が一奴らの怨念や恨みがあったなら。
それは俺が背負えばいい。
「僕も同行してはいけませんか?」
「深海域だ。宇宙空間とほぼ同じ。いや、水圧などがかかる分、キツイかもしれないぞ」
俺は送られてきた座標を確認する。
アースガイアは、大陸の在る部分は温暖だが、それ以外の箇所は氷に覆われていて、外気温も冬のアルケディウスの比ではないくらいの極寒。
地上部分で待つのも限界があるだろう。
しかも複数ある。
「風の力があったとしても、宇宙空間と同じで深海では人間は活動、生存できない。
マリカがいれば防御壁を宇宙服のように纏って、ということもできなくはないが」
「そう……ですか」
悔しそうにフェイが唇を噛んでいた。
俺は、生存に大気をほぼ必要としなくなっているし、気温の変化もさほど感じない。
宇宙空間用の装備を使えば、深海域でも問題なく活動できるだろう。
移動も精霊神達と『神』の力を借りて、転移と飛行を駆使すれば気にしないで済む。
だが、フェイやアルを同行させれば、人間の生存に気を使わないといけなくなる。
「……なら」
妥協案を考えていたらしいフェイが顔を上げる。
「ライオット皇子と連絡を取り『星の翼』で同行してもらって下さい。
リオン一人で危険な業務に従事するのは、万が一のことを考えると心配です」
「俺を今、アースガイアで害することができる存在は、そういないと思うが……」
「それでも! 何があるかは解りません。今回はマリカの補助もないのです。
リオンの強さは解っていますが、自分を過信しないで下さい。
彼女の休みの間に、リオンに何かあったら、目も当てられませんよ」
「そうだ! そうだ! リオン兄は大事な所で抜けてるとこがあるんだから。誰かが側にいないとダメだぜ!」
「信用が無いんだな。俺は」
「今までの行動を鑑みて下さい。
リオンの正しさは信じていますが、同時にリオンの行動と決断に関しては、目を離してはいけないと僕は知っています。
きっとマリカよりも」
身もふたもない言い方だ、と思うけれど、言っていることは理解できる。
正しいと感じる。
「解った。ライオットに連絡を取り、同行を願おう。
来てくれればの話だが。
『神の翼』はもう使えないが『星の翼』はまだ起動できる筈だからな」
「そうして下さい。『神の翼』が使えたら、同行して空で待機ということもできたのですが。
ただ、どうしてもの場合は呼んで下さい。長期滞在はできなくても、リオンのいる座標に飛ぶことはできる筈ですから」
フェイはあっという間に様々な手配や手続きを進め、調査への準備とライオットへの連絡を取りつけてくれた。
「外宇宙からの隕石には、今後も警戒が必要ですね。
アルケディウスの大祭の時に流れ星が落ちていましたが、あれもまさか、コスモプランダーの残党だったりしませんか?」
『時期が離れすぎているから違うと思うが、アーヴェントルクの山嶺に落ちた筈だ。ナハトに連絡を取って確認させる』
「よろしくお願いします」
本当は大祭で忙しい筈のライオットも、大神殿の要請ならという名目で、二つ返事で頷いてくれたそうだ。
俺は、フェイの判断に今も感謝している。
もし、この時一人で向かっていたら。
今の『俺』は、きっと、もういなくなっていただろうから。
『目覚めるのだ。……リオン』
燃える。
溶ける。
炎の中。
焼かれ、流し込まれ。
魔王体になった時よりも、はっきりと作り替えられて。
『新たな眷属。
……いや、求め、願い、待ち続けた貴種。
我が『息子』よ』
俺は『全て』を理解した。
『人間』としての終わりと共に。
自分の逃れられない運命を。




