魔王城 アースガイアのコッカイトショカン
図書館の精霊、チェーカに再現された国会図書館を案内して貰った。
彼女はこの図書館内であれば自由に、どこにでも映像を作れるそうで、幽霊のようにふんわり淡いアバターを作って、私達を先導してくれる。
『この図書館は日本国の国会図書館がベースとなっています。
建物は東京本館と新館を再現したもの。本館の事務棟は地上六階建て。中央の書庫棟は十七層に分かれており、そのうち五層が地下にございます。新館は地上四階、地下八階建て。
建物の延べ面積は両方合わせて約十五万㎡になります』
これは迷子防止の為。
エレベーターもエスカレーターも無い六階建てと四階建ての建物二棟分は、案内人がいないと本当にどこにどう行ったらいいか解らなくなりそうだ。
『書庫に収蔵されていた書物に関しては、まだ大半が疑似クラウドに収蔵されており、完全に物質化されているのは、本館、新館の事務棟、閲覧エリアに襲撃当時あった雑誌その他一般書籍に留まっております。地下書庫はまだほぼ空の状態。
即時閲覧可能な図書の数は数千冊。雑誌類や新刊図書、新聞などが多いでしょうか?』
数千万冊の中の数千冊っていうと少なく感じるけれど、中世ヨーロッパに等しい今のアースガイアには、とんでもない量だ。
しかも、国会図書館に収蔵されていたのは所謂、本だけでは無かった筈で。
「チェーカ。国会図書館って、本以外にも映像資料や音源なども収集していたと思うんだけれど」
『はい。映像資料、録音資料なども多数、疑似クラウドの中に収蔵されております』
「再現はできない?」
『現在、再生用の機械が喪失しておりますので、基本的に再現は不可能です。
アースガイアの文明で再生機器が製造された時に、閲覧が可能になります』
「『神』の力で再生機器は作れないの?」
『勿論、作ることは可能ですが、許可されておりません。
知識を得るには資格がいる。
資格を得るまでは知らせることはできない。というのが『神々』を含む『精霊』の絶対原則ですので』
昔、私達が何も知らなかった子ども時代。
何度も引っかかって、悩まされた。
『今は言えない。知る資格がない』
という奴だ。
で、生まれる素朴な疑問。
「その資格っていうのは、誰が決めてるの?」
『…………』
あれ、フリーズした?
知る資格がない、っていうのは今の私なら大丈夫だと思ったのだけれど、まだダメだったのかな?
でも三度、瞬きをしてフリーズから立ち直ったチェーカは、私に向かって深々と頭を下げる。
「チェーカ?」
『失礼いたしました。専門外の質問なので、情報検索に時間を要しました。
明確な基準が明文化されている訳ではないのです。
ただ、向かい合えばはっきりと解り、感じられる類なので、生体情報などに見えない所で刻まれているのでしょうか?
申し訳ありません。私自身、完全に仕組みを理解できていないようです』
「こちらこそ、ごめんなさい。専門外の質問をして困らせちゃったね」
『いえ。図書館の本の閲覧に関しては、ビブラリアンに許可を得て、入場登録カードを有する者。加えて書籍を構成する文字を理解し、読解できている者ということになります。
最終決定権限者は私。
映像、録音資料に関しては、先ほども申し上げました通り、再生用機器を再現することが資格になると思います』
本の文字を読めない人には、貸出許可が出ないとのこと。
だから、今の所国会図書館の本を読めるのはラールさんとタートザッヘ様。
それから一部の『神の子ども達』。
まだ日本人で目覚めた子はそう多くないけれど、英語の本などもそれなりにあるので、何人か英語圏の子も利用しているのだそうだ。
精霊神様達と和解してからはデータの共有などもしているそうなので、各国精霊神様がデータとして所持している本なども、最終的にはこの図書館に纏めるのもありかもしれない。
「今後、この島は『神の子ども』達の教育の場であると共に、アースガイア人にとっても学府のような場所にしたいと思っているのです。精霊古語の習得が叶った場合、彼らにも情報公開をお願いできますか?」
『可能です。現時点でも、アースガイア人の有資格者が本の閲覧に来ています。少しでも多くの人物に地球の英知に触れてもらい、この星の未来に役立てて貰えれば、これ以上の喜びはありません』
今まで、各国の皆さん、自国の精霊古語については学んできているけれど、今後は日本語も学んで貰わないといけないから、結構大変だ。
でも。
国会図書館には文字通り、地球人類の英知が詰まっている。
各分野の博士論文なども収められていると聞く。
ぜひとも有効活用して欲しいものだ。
「音源の方は、チェーカが唄ってくれる、とかはなし?」
『なしです。私には音楽の再生機能はありません。
無理に再生しても、多分、強弱抑揚のない『音』になります。
音源の中には、オーケストラやピアノ演奏などもありますが、正しく再生できないのでは演奏者達の努力を無にしますから。
楽譜も多数所蔵しておりますので、そちらをご活用ください。
オリジナルの再生がどうしても必要な場合には音楽再生ソフトウェアを使用しますが、音を聞く為のハードウェアの開発が必要なのは同じです』
「『神』やステラ様が持っていた端末を貸して下さればいいのに……」
『『神々』や、頑張って『精霊の貴人』が見るのを許可することはできますが、広くこの世界で一般化する為には、やはり自分達の力で端末を再現していただかないと……』
取り付く島もない。
ちょっと残念。
美人さんのチェーカが歌ったら、それだけでも見ごたえありそうなのに、きっぱり拒否されてしまった。
その辺はやっぱり、みんな厳しい。
でも、国会図書館には過去の地球で市販されたソフトやゲーム類も一部保存されているそうだ。
ハードは無いけれど、構造は記録されているので、作るだけの技術力を身に付ければ、開示してくれるとのこと。
コンピューターを中世異世界並みの技術力しかない現在のアースガイアで一から作るのは至難の業だろうけれど、もしかしたら。
頑張れば50年くらいでできるようになるかもしれない。
『焦らず、一歩ずつ、をお勧めします。この図書館はもう日本国の国会図書館ではなく、アースガイアのものです』
チェーカは静かにそう告げた。
『我々精霊は劣化などの心配もほぼありません。
人類の英知を未来へ繋ぐ為、皆様の成長をいつまでも待っていますから』
立体映像のアバターが笑みを形作っていたように見えたのは、私の願望かもしれないけれど。




