皇国の大祭 祭りと平穏の終わり
大祭の舞台劇が無事に幕を下ろした後は、いつものように中央広場は、老いも若きも入り混じり、皆でダンスを楽しむパーティ会場になる。
「本当にいいのか?」
「はい。妊婦がダンスの輪の中に入ると色々と気を使わせてしまいますし。
お父様達と双子ちゃんは一緒に参加されてきても」
「マリカねえさまたちがやらないのなら、わたしたちはいいよ」
「だな。もういっぱいあそんだし」
「それなら、帰るか? リオン、頼む」
「ああ」
町外れに転移して、待たせてあった馬車で第三皇子家に戻ることにした。
基本四人乗りの小型馬車だけれど、王族用だから六人で乗ってもそんなにきつくない。
お父様とお母様が二人で並んで座り、双子ちゃんが私とリオンの間に並んで座った。
祭りの喧騒が嘘のように静かな帰りの馬車の中、
「ねえ、マリカ。常設劇場を作る、というのはどうかしら?」
「お母様?」
お母様がそんなことを囁いた。
「この劇の評判は早々に国中、もしくは大陸中に広まるわ。
去年のように多分、再演を望む声も高まり、王城に招待されるか、再上演の要請がかかるわね」
「はい」
「今後、今までの勇者伝説の劇にとって代わる新しい流行と伝説になるでしょう。
しっかりとした常設劇場で、もっと照明や背景などに工夫や演出を入れれば、もっと素晴らしくできそうな気がするし、多くの人が足を運びやすくなって、舞台が人々の間に浸透するのも早まるのではないかしら」
「そうですね。野外だとどうしても光や声が拡散してしまいますから。同じ演目をやっても、野外だとグローブ座程の完成度にはならないと思います」
私もそう思わなくもない。
今はまだ、劇というのは一般大衆の娯楽。
貴族達が見る機会は殆どなく、芸人は一段、低く見られていた。
演じられる場も野外が殆ど。
お代は基本、見てのお帰り、で。
おひねりなどに頼るから収入も不安定だ。
グローブ座が他の一座と一線を画すのは、太いスポンサーがついていて、劇団の維持運営に気を使わなくていい、というのもある。
派手な小道具や舞台装置は最小限にして、野外の風や騒めき、天然の夜と魔術の光を上手く使い演出したグローブ座の手腕は確かだけれど、常設劇場だったら、もっと音楽にも凝って、舞台装置や書き割りも豪華にできるかもしれない。
グローブ座は各地を回る私の密偵。
だからはっきりと常設劇場に括っちゃうのはどうかな、と思うけれど、冬季だけとか考えてみるのもいいかもしれないね。
「いつでもあのおはなしがみられるようになる?」
うとうと、と目を細め、私の肩にもたれかかっていたレヴィーナちゃんがパッと目を開けた。
同じようにフォル君も目をキラキラ輝かせて、話に入ってくる。
「そうできたらいいね、って話」
「できたら、いいな。うれしいな。またみたいから。
つぎのおまつりまでみれないの、ちょっとさびしい!」
「おれも、もういちどみたいなあ。できれば、リグやラウルといっしょに」
「あのまおーさま。とってもカッコよかった。ゆうしゃさまも!
せんしは、おとうさまのほうがカッコいいけど」
「わるいやつらを、バリバリ~ってたおすところ、よかったよなあ」
双子ちゃんたちの瞳が煌めいている。
推しを語る時、力が入るのは万国共通なのかもしれないね。
「少し、貴方達には難しいかもしれないと思いましたが、理解できましたか?」
「うん。あのまおーさま、リオンにいさまでしょ? で、こうじょさまがマリカねえさま」
「それは、レヴィーナちゃん。それはちょっと……」
「ちがわない」
「フォルくん」
「あのまおー、リオンにいさまとおんなじ。
みんなのために、だいすきなひとのために、がんばっていつもちまみれだ」
「こうじょさまもそうよ。じぶんがいたいのに、それをぜったいにみせないで、もんくもいわないでわらうの」
フォル君のお父様譲り。
レヴィーナちゃんのお母様と同じ。
宝石のように無垢な瞳が、強く私達を見据える。
「みんなのために、がんばるひとは、みんなよりしあわせにならないとダメだとおもう」
「フォル……」
「あかちゃん、うまれたら、ちゃんとけっこんしきしてね。あのおひめさまみたいに、ねえさまのしろくて、キレイなドレスみたいから」
「レヴィーナちゃん……」
逃げるな、と言うような鋭い眼差しに息が詰まる。
子どもだって、ちゃんと解っているのだと、こういう時に思い知らされる。
「そうね。私もそう思うわ」
「お母様」
「悲劇も心には残るけれど、やはり物語の終わりはハッピーエンドの方がいい。
ここ数年、グローブ座の劇を見て、私はそう思うの。だから、貴女の物語も、リオンの物語も、幸せな結末を迎えて欲しいわ。その為にできる援助は惜しみませんからね」
「はい。ありがとうございます」
そうします、とか。
解りました、とは言えないのが辛い。
私とリオンは既に人間の枠から離れて『精霊』の領域に入ってしまっているんだよね。
これから歳をとるのかとか、成長するのかとかは解らないけれど、いずれは一緒にいられない時が来ると、はっきり言われている。
それが明日なのか。
十年後なのかは解らないけれど。
でも、
「そうだ。レヴィーナちゃん。あのペンダント渡してあげたら」
「うん。おかあさま。これ、わたしと、おねえさまからのプレゼント。さんにん、おそろいなのよ!」
「まあ!」
レヴィーナちゃんが大事に差し出したガラスのペンダントに、お母様が目を輝かせる。
お母様は皇族で、生まれながらの王族だから、きっともっと豪華で綺麗なアクセサリーはいっぱい持っている。
でも、
「嬉しいわ。娘から贈り物を貰えるなんて、夢のようね」
心からの笑顔で喜んで下さった。
「え~、いいなあ。さんにんおそろいなんて」
「レヴィーナ。俺のは無いのか?」
「おとーさま。おはなのくびかざりするの?」
「もっかい、おまつりにいこう! おれらもさんにんでおそろいする!」
「それは次の機会に、な」
「うん。また一緒に行こうね」
私はリオンと顔を見合わせ、頷いた。
次を信じて、たくさんの思い出を作ろう。
いつか終わりが来ても、悔いなく笑えるように。
今日のお祭りのように。
一緒に見た舞台劇のように。
オルテンシアの花飾りのように輝く思い出を。
たくさん。
たくさん。
「あ、流れ星!」
馬車から降りて、家族みんなで見上げた夜空に、一筋、美しい虹色を宿す星が流れ、落ちる。
「流星か、なんだか嫌な事を思い出すな。せっかくの祭りの夜なのに」
「地球では、願い事を叶えてくれるって言われてましたけどね」
「ねがいごと? マリカねえさまはなにをおねがいするの?」
「う~ん。みんな、一緒にいつまでも仲良く、幸せに暮らせますように、かな?」
大祭と、私達の平穏。
その終わりを告げるように。




