皇国の大祭 舞台劇『アルフィリーガ』 カーテンコール
深く、真剣にツッコむと今回の舞台劇は相当に粗がある。
「『魔王』という存在と行為を維持しつつ、彼は実は『神の子』であり、人々の為に悪役を買って出た悲劇の存在である、ということを知らしめるように」
という大聖都、フェイのオーダーにエンテシウスが創作の範囲で内で十二分に応じたが、それでも細かい齟齬は多い。
最終決戦における命を賭した二人の仲間の扱いもやや雑だし、人々が不老不死を得る為に勇者が命を捧げたという流れも、説得力が薄い気がする。
『精霊国』とか女王陛下を出すと長くややこしくなるために省いたせいか、そちらの魔王にかけられた冤罪は消えてないし。
でも、事前に台本をチェックした当事者達(『神』も含む)は意外にも、このシナリオを肯定し、OKを出した。
『魔王は決して悪意を持って世を支配した訳ではない。それを虚構という形でも認識する者が現れ、少しでもあいつの悪役としての穢れた名が濯がれ、守られるのであれば私は許容する』
と言ったのは『神』。
実際は精霊神様を封じ、魔王を放った戦犯というか、主犯というか諸悪の根源、だけれども瘴気という人間由来の悪役を作ったので、作中では自らの愛し子を人間の為に与えてくれた善神扱いだったし、マリクは望み通りの存在として描かれた。
文句はないのだろう。
「む~。
なんか、いいところ取っていった気がする。僕達を封じておいてその件についての反省や謝罪は結局なしかい?」
精霊神様達はちょっとふてくされていたけれど。
この辺については後でフォローを考えた方がいいかもしれない。
で、お父様はと言えば
「今まで隆盛を極めていた、自ら命を捧げたアルフィリーガ伝説に比べれば、まだ何百倍もマシだ。
実際の別れがこういう形であったのなら、まだいくらか納得できた」
だって。
お父様がどうしようもなく怒っていらしたのは、その最期に立ち会う事さえできなかったこと。リオンの最期の意思を捏造されたこと。
あり得ない事であったとしても、実際にどうしようもない状況下で未来を託されたのであったら、受け入れられただろうって。
ただ、神官と魔術師の死の理由が粗雑に見えるので、そこは直せと後日エンテシウスにダメ出しが入った。
次からはもう少し、カッコよく見えるように直すとの返答アリ。
暴走したアルフィリーガを止める為に結界を貼ったとか、命がけで『神』への道を繋いだとするとか。
今までは隠し名のような形で、秘されていた『神官』と『魔術師』の名も今回から解禁するって。
「俺が死んだら、ミオルとリーテの名を覚えている者もいなくなるからな」
そして当のアルフィリーガ、リオンは、と言えば、ある意味一番、今回の話に頷き肯定を与えていた。
「『魔王』マリクには救いは一切なかった。
いや『精霊の貴人』との出会い、と彼女に殺されたことが救いとなり生まれ変わることができたが、愛する人に思いを伝えることも、結ばれることも、子どもを作ることも無かった。
マリクの救い、転生し、本来与えられる筈だった生きる悦びの全てを俺が奪い取った」
「でも、その後の転生の苦しみは、全部リオンが背負ったんだし……」
「奴は今も俺の中で眠っている。
でも、きっと本当は奴自身が幸せになりたかったはずだ。例え苦しい人生と道のりを歩むことになったとしても」
ふと、昔、私の所に夜這いに来た魔王の表情を思い出す。
リオンも言ったけれど、現実は物語のように美しくはなく。
人外の力を持った魔王マリクは最期まで『精霊の貴人』にその思いを伝えることなく死んでいった。
それはナノマシンウイルスによる改造で、人間性を失っていたからだと思われていたけれど、完全に無くしたわけではなく表に出せなかっただけで。
許されるなら、リオンの言う通り『精霊の貴人』の手を取り、幸せになりたかったというのは本当の所だろう。
『精霊の貴人』もきっと彼を救いたかった。
皇女アシェイラのように。
「何も知らない筈なのに、物書きというのは恐ろしいな。
俺達と随所でシンクロしていた。
『魔王マリク』は、転生直後、本気で俺を取り込もうと思ったら、きっとできたんだ。マリクの方が、少なくとも最初は力も意思も強く、濃かった。
新しい人格を呑み込んで、魔王に復帰することも可能だったろう。でもそれをしなかったのは『疲れていた』からだ。魔王としての使命に」
魂が一度白紙化され、新しい人格に上書きされたことにも抵抗は殆ど無かった。
今は生まれ変わった新しい人格に全てを委ね、眠りについている。
「俺達は同期した。これから徐々にマリクは俺に溶けて、消えていくだろう。
同じように、今でさえ『魔王マリク』は人の世に、存在も殆ど記憶されていない。
『精霊の貴人』との戦いの後、消滅の時さえ偽られてしまったから」
不老不死の時、勇者達が倒したとされる魔王は本当は魔王じゃなかった。
『精霊の貴人』。
魔王の真の最期を知っているのは、きっともう精霊国騎士団長と、ステラ様くらいなのだろう。
「だから劇の中でとはいえ、奴の活躍が語り継がれ、『魔王だった自分』を受け入れる存在が現れ、幸せな時が与えられたということは、きっと奴にとって救いになると思うんだ。
俺自身も、嬉しい。」
胸に手を当て、抱きしめるようにそう告げる。
そうだね。
今回の話は大神殿公認とし『魔王』も『神』の創造物。人に試練を与える必要悪であったと緩やかに広めていく予定だ。
そうすれば、既に薄れつつある魔王への恐怖心は徐々に消えていくだろうし、人の心の悪性が、瘴気となって魔性を生み出すという解釈があれば、もしかしたら少しは自分の行動を清く保とうとする者も現れるかもしれない。
悪役と呼ばれる存在に、悪性の全てを押し付けて切り捨てるのは勿論よろしくない。
鬼が来るよ。と脅して悪い事を止めさせるのではなく、一人一人が自覚して悪い事をしなくなることが大事。けれど、その前段階としては悪くない誘導かつ学びではあると思う。
魔性は人の心が生み出すのだと。
だから、正しい心を持って生きていこう。というのは。
まあ、そんなこんなで真実を伝えられない『勇者伝説』の新たなる落としどころ、として用意された今回の舞台劇『アルフィリーガ』は人々に喝采を持って迎えられた。
今までの勇者伝説と、最期にアルフィリーガが命を捧げる、という最終地点は変わらないのだけれど、魔王と勇者は同一人物であるということ。
そして最後に愛する人と再会したという希望を与えたのがいいと思う。
……まあ、ラストの勇者と乙女の再会が、馬小屋の皇女を意識しているっぽいのは、さておき。
最後のカーテンコールまでスタンディングオベーションは止まず、グローブ座は何度も拍手に応えて挨拶してくれた。
私役や、幼いアルフィリーガ役の子役も舞台に出てきたし、最初のモブ悪役の中に、去年の大祭で演劇沼に落っこちたダヴィドもいたりして、グローブ座の頑張りが今日の大成功に繋がったのだと思うと、とても誇らしくもある。
エンテシウスは、この劇に関しては演劇台本と上演権は大聖都に託した。
そしてフェイは台本を希望した実力のある劇団には無償提供し、上演権も解放すると宣言。
結果、この劇は驚くべき速さで世界各地に広まっていった。
魔王と勇者。
アルフィリーガの物語は、これからの大陸に永く、永く。
語り継がれていくことだろう。




