皇国 大祭を楽しむ家族
「そういうわけでさ、すごく、すごく、がんばったんだ!」
「ふ~ん。でも、むだづかいしたからでしょ? リオンにいさまがたすけてくれなかったら、これもかえなかったんじゃないの?」
「う……。で、でもかえたからいいじゃん! おれは、ちゃんとラウルのおみやげかえたんだ!」
「わたしもかったよ~、きぼりのにんぎょう。もらったおこづかい、むだづかいしなかったもん!」
「むだづかいなんかじゃないやい! おいしくたべたし、あそんだし。
おれようにきぼりのけんも、おもちゃもかえたし」
一通りの祭り見物と買い物を終え、合流した双子ちゃん達は、互いに祭りでの武勇譚を話し合い、戦利品を見せ合っていた。
中央広場、舞台前。
紐で区切られた升席だから、ちょっと品物を広げても大丈夫。迷惑にはならない。
まあ、ちょっと生暖かい視線は感じるけれど、微笑ましい子ども同士の会話だから、きっと周囲も聞いていて楽しいのだろう。
男の子と女の子。祭りの楽しみ方もきっぱりと個性が出るなあ、とは思う。
フォル君が買って来たのは、自分用の木の剣。色付けしてある短剣でけっこうカッコいい。
アレかな。修学旅行で男の子が木刀を買って来ちゃうノリ?
それから、水牛の角細工の動物もの。
丈夫で頑丈で、キレイっていうことで選んだらしい。
このシリーズは男の子達が大好きなんだよね。
最初のお祭りで私がお土産に買ってから、アーサーとクリス、そしてアレクは毎年コツコツと買って集めているそうだ。
軽い、子どもっぽい作りのものが多いけれど、中には精巧な芸術品がある。
フォル君が自慢げに見せてくれた蟹は驚くくらい精密で、子どもの掌に乗るくらいなのに、目や爪先などがびっくりするくらい精巧に彫り込まれている。背中の甲羅のしわまで。
職人技ってすごいなあ。少額銀貨一枚も頷ける。
ちなみに、剣が高額銅貨八枚で、普通の飾り物が三枚と五枚。
他にも色々遊んだり、買い食いしたりして、フォル君の財布には、この飾り物を買う余裕はなかったのだけれども。
「まとあてで、しょうきんをもらったんだ! だから、これは、おれがじぶんでかちとったもの!」
「うん。頑張ったね!」
「えっへん!」
「リオンにいさまに、てつだってもらったくせに~、えらそうに~」
「うるさい!」
「それでも、フォル君がちゃんとリオンの指示を聞いて、それを守れたからできたんだよ。
大人でも、狙い通りに的を射るのは難しいもの」
話を聞けば、あくどいインチキ商売をしていた的当て屋がまたいて、リオンが狂いを補正して射ることをフォル君に教え、フォル君はそれをしっかりやりとげた、ということらしかった。
四歳なのに、しっかりと弓が射れることも驚いたけど、大した度胸だ。
流石お父様とお母様の血を引いている。
「そうだよな! それにみろよ! このさいく。
おうきゅうのちょうこくだって、まけないぞ!」
「はいはい。すごいすごい。
わたしはね~、このくびかざりと、かみかざり~。それから、いいにおいのするペンダント~。
マリカねえさまと、おそろいなんだよ~。いいでしょう?」
フォル君の熱の入った語りをさらりと流す圧倒的なスルー力は流石双子。
そしてレヴィーナちゃんも自慢げに自分の戦利品を語り始めた。
レヴィーナちゃんが買ったのは、フリュッスカイトのガラス細工のペンダント。少額銀貨一枚。
それに中央広場で、花の香りを纏えるペンダント。高額銅貨一枚のものを四つ。
ラウル君へのお土産の木彫りの飾り物が中額銅貨三枚だった。
途中で見つけたシュトルムスルフト製の水色のリボンは中額銅貨二枚で、あとは綺麗な刺繍の入ったハンカチが中額銅貨一枚。
その他、買い物やちょっと買い食いをしてもまだ、高額銅貨数枚は財布に残している。
堅実で計画的。お母様に似たのだろうか?
「おそろい? いいなあ。おれもにいさまとおそろいのなにか、かえばよかった」
私とレヴィーナちゃんの胸に共通して煌めく花のペンダントと、ガラスの髪飾りに、フォル君が少し悔しそうに俯く。
お祭りの楽しさに浮かれて、そこまでは気が回らなかったようだ。
「出し物が終わってからは、ちょっと買い物する時間はなさそうだから、また次の機会、だな」
「う~、でも、あきのたいさいはマリカねえさま、あかちゃん、うまれるからむりじゃん。
リオンにいさまも、来ないでしょ?」
「まあ、マリカを置いては来ないな」
「じゃあ、やっぱりおそろいむりだ。っていうか、おれたちもこれないかもしれないし」
「お父様とお母様にはお話しておくから、二人は秋も祭りを楽しんで。
そして、赤ちゃんに何かおみやげと、楽しい話をもってきてくれるとうれしいかな」
「あのねえ! シュウおにいちゃんのこうぼうに、マリカねえさま、あかちゃんのゆりかご、たのんでたのよ」
レヴィーナちゃんが、しゅんとした様子のフォル君に、ちょっとドヤ顔混じりで言い聞かせる。
ちなみに、付き合いの長い魔王城の子ども達の事を二人はおにいちゃん、おねえちゃんと呼ぶ。
互いに人がいる前では知らんふりをするように伝えてあるけれど。
「シュウおにいちゃんのこうぼうのおじさんが、『さいこうのものをつくっておめにかけます!』っていってたから。そしてシュウおにいちゃんも。
『あかちゃんのために、あそべるものをかんがえてつくります!』って。
だから、いっしょにかいにいけばいいじゃない!」
「そっか。そういうてがあったか!」
普段、あんまり仲が良くないように見えても、やっぱり双子。
気持ちは通じ合っているようだ。
「よーし。らいねんもおかねをふやして、あかちゃんにすっごいのをかってやる!」
「バカ。らいねんはリオンにいさま、いないのよ。フォルがひとりであてるなんて、できるわけないじゃない。
むだづかいしないで、さいしょにあかちゃんのぶん、かうの!」
「う~ん。れんしゅうしたらだめかなあ」
「しまった。悪い事を教えちまったか?」
フォル君の様子に、リオンが困ったように頬を掻く。
この世界の的当てはギャンブルみたいなものだからね。
子どもの頃から一獲千金を覚えて狙うのは、あまり良くないかもしれない。
レヴィーナちゃんがしっかり諭してくれてはいるけれど、まだ諦めがつかない様子だ。
流石に二度も釘を刺されて、店主も同じ商売はしないだろうし。
「無理はしなくてもいいよ。お祭りいっぱい楽しんできて、その話を聞かせてくれればうれしい」
「あ、ううん。ちゃんとおみやげはかう。じゃあ、レヴィーナ。そんときはいちばんさきに、かいものしような」
「りょーかい。ひつようなものがさき。あそぶのはあと! いいよね?」
「わかった」
「わたしがいないとダメなんだから。フォルは」
小さい子どものやりとりは見ていて飽きない。
行動力のあるフォル君と、おませでしっかりもののレヴィーナちゃん。
二人は本当にいいコンビだ。
たのしい。
そう思った瞬間、私に頷くようにお腹の中の子どもが動いた。
にぎやかな雰囲気を感じたのだろうか。
ふと、思う。
いつか、私のお腹の中の子も、この中に混ざって笑い合う日が来るのだろうか?
それを見ることができるのだろうか?
「マリカ」
「お母様。お父様も。お帰りなさい」
気が付けば、少し離れた所から私達の様子を見てくれていたお二人が、升席に入ってくる。
『お帰りなさい』は少し違うかもしれないけれど、私達は少し身体をずらしてスペースにお二人を促した。
「おとうさま、おかあさま。おそーい」
「もうすぐげき、はじまっちゃうよ!」
見れば、確かに劇用の舞台設営が整ったようだ。
開演まであと少し。
「今年の劇は、また一味違う、という話だな?」
「はい。魔王と聖なる乙女の恋愛物語だそうです」
「ほほう?」
お父様は何か言いたげにリオンを見るけれど、リオンは何も言わない。
ちなみに、今回の話。
私は内容を知っている。
エンテシウスからは舞台内容の許可を願い出る申請と、初演の台本が事前に届いていたからね。
ちょっと新解釈だった。
でも、面白かったし。
何より、リオンの為になると思ったから、許可を出したのだ。
「詳しくは後で。
ほら、始まりますよ」
中央広場の店々の灯りが落とされた、紫の宵。
「あっ!」
舞台の上に、星が煌めいた。




