皇国 楽しい大祭 女の子編
子どもの笑顔には、周囲の澱みを中和する力があると常々思っている。
なんとなく。
気まずい、というわけではないけれども、私達の正体に気付きつつどう関わっていいか考えあぐねていたような周囲の人々が、双子ちゃんに引っ張られてあちらこちら連れまわされる私とリオンを見て、明るく笑いかけてくれるようになったのだ。
確かに。
自分で考えても、微笑ましいって思うもの。
大好きな兄姉と一緒に祭りを満喫するべく駆けまわる子どもの姿って。
お小遣いを貰ってから、私とレヴィーナちゃん。リオンとフォル君は別々に分かれて行動することにした。レヴィーナちゃんとフォル君。女の子と男の子は好みがやっぱり違うから。
「おかいもの! するの!」
「あそびたい! まとあてやるんだ!」
なので、それぞれについて付き合うことにしたのだ。
舞台開始前に中央広場の舞台、有料マス席で落ち合うと決めて、それぞれに動き出す。
多分、お父様とお母様も二手に分かれているかな?
せっかくのデート邪魔したのだったらごめんなさいです。
心の中で拝んで謝っておく。
レヴィーナちゃんとの大祭は楽しい。
間違いなく楽しいんだけれど、
「マリカねえさま。
わたし、さっきみたいなキレイなガラスのアクセサリーがほしい!」
「ちょっとまって。レヴィーナちゃん。も、もうちょっとゆっくり」
しんどい。
子どもの遠慮のない力って結構強い。
いつもなら、どってことはないのだけれど、今の私はお腹が重いのもあって、息が切れてしまう。
でも。
「あ、ごめんなさい。だいじょうーぶ?」
そんな私の様子に気付いたのか、レヴィーナちゃんは足を止めてくれた。
「大丈夫。でも、あんまり走っていくと、見落としちゃうよ。
せっかく素敵なお店がいっぱいなのに」
「そっか」
「いろんな所を見て、いいものを探す意味でもゆっくり行かない?
お店は逃げないよ」
「うん!」
私が手を差し出すと、レヴィーナちゃんはしっかりと握り直してくれる。
よかった。
今度は手を繋いでゆっくり、路地を歩いていく。
「いつもだったら、城壁の市場の真ん中くらいにフリュッスカイトの出店が出ていたんだけど……」
城壁を背後側の壁に見立てて、ずらりと小型のテントや屋台が軒を連ねるのが城壁市場。
基本は数坪のエリアにテーブルや棚を置き、商品を並べる。
頭の上には埃や雨、風よけのテントや木の屋根。
そして看板などがない代わりに、色々と工夫を凝らして飾り付けをして、客を呼び寄せるのだ。
商品を並べられるエリアが限られているので、所せましと並べているお店が多い。
布を貼った屋根の手前にも、洗濯ばさみもどきで商品を吊るしたり。
「あ、あったあった。あそこ!」
夏の長い昼とはいえ、もう時間は火の刻を回っている。
少しずつ落ち始めて来た日の光と、闇の広がりに人々が気付き始めて来た頃だ。
各店がそれぞれにランプや蝋燭などで灯りを灯し始める中、その店はきらりと、ひときわ輝く星のような光を放っていた。
「こんばんは。ちょっと見せて頂いてもいいかしら?」
「いらっしゃ……いっ!! あ、はい。どうぞ、どうぞ!!」
私の顔を見て、店主が驚きに目を見開いたのが解った。
久しぶり、という挨拶は流石にしない。国家お抱えの商人は空気を読む力くらいは備えている筈だ。
この店はフリュッスカイトの仲買人、レフィッツィオ商会の出店。
ゲシュマック商会と直接契約を行う食料品取扱店でもあるけれど、本業は装飾品関連なのだって前に聞いた。
特に実力のあるガラス工房と懇意な事もあり、ステンドグラスやガラス細工の工芸品を扱っている。
この店の場所を教えたのは、特別製のステンドグラスのランタン。
工房では神殿や貴族家などでステンドグラスの窓を作った後の残りのガラス片を無駄にせず組み合わせたり、溶かしたりして、土産物やアクセサリー、ランタンなどに加工して売っているのだ。
ランタンの中に蝋燭を入れると、ステンドグラスのフレームが光を弾いて、夢のような色合いを見せる。
「キレイね~。おねえさま」
「ええ。でも、ランタンはお祭りで持ち歩くにはかさばるから、後で注文するとかにして、今日はアクセサリーを選んだら?」
「うん! これ、みてもいいですか?」
レフィッツィオ商会はフリュッスカイトの有力な店なので、大祭の出店は一種の余技らしい。
情報収集と人脈作りが目的みたいで、他の店のように商品を売ることにあまりがっつかない。
上質な黒布を敷いた上に並べられた品々は、盗難防止の為かガラスケースのようなものに入っていて、頼むと出して見せてくれる。
「どうぞどうぞ。お目が高い。これは高価なステンドグラス用の色ガラスの端材を、金や銀で繋ぎ、焼き締めたものです。淡色のものや雫型のもありますが、オルテンシアの花を象ったこのペンダントは、特に工房の職人が力を入れて作ったものでございます」
レヴィーナちゃんが目を止めたそれは、四枚花びらのペンダント。
オルテンシアって、紫陽花種かな?
淡く透き通るような色合いで、真ん中にはぽっちり、まん丸の銀の粒。商会長さんが力を入れてセールスする通り、まるで水晶のように煌めいて、小さな乙女の心を擽ったようだ。
「あ、はなびらのいろがぜんぶちがう!」
「よくお気付きで。微妙に変えた色配置を行う事で、より生き生きとした花になるのだと作った職人は申しておりました」
パッと見てピンクだと思ったその花は、よく見てみれば、美しい薔薇色をメインに薄桃色やオレンジがかったパパラチアイエローのガラスが微妙なバランスで互いを引き立て合っている。
一枚だけ薄水色をあえて使っているのも、個人的にポイントが高い。
真ん中にはつるんと鏡面仕上げに加工された銀の球が花芯に見立てられていて、本当にアジサイの花のようで可愛く作られていた。
「どう? マリカねえさま?」
「とってもかわいい。にあうよ」
ペンダントを胸に当てると、嬉しそうにはにかむレヴィーナちゃん。
冗談抜きに可愛い。
イヤ、ホントにマジで似合う。ペンダントの鎖がちょっと長めではあるけれど。そこはそれ、装飾品が専門のお店だから、ペンチのようなものでバチカンを付け替えてくれた。
白いシャツの間、滑らかな肌の上に咲く紫陽花の花。
フリュッスカイトの細工技術、上がってるなあ。
「これ、おいくらですか?」
「気に入ったのでしたら、献上させて頂きますが……」
「それは、ダメです」
レヴィーナちゃんが購入を決めたようで、財布を大事そうに取り出す。
私達の正体に気付いたらしい商会長はそう言ってくれるけれど、私は頭を振った。
「今日は大祭ですし、私達はアルケディウス市民で、お客です。
正当にお金を取って貰えますか? 祭りにお金を落として活性化させるのも役割ですから」
すると、商会長は頷くと嬉しそうに微笑む。
「では、少々お値引きさせて頂いて……少額銀貨1枚ではいかがでしょうか?」
「レヴィーナちゃん、どうする?」
「……かう!」
モノは間違いなくいいから、確かにそれくらいはするだろう。
貰ったお小遣いの半分近くにはなってしまうけれど、かなり気に入ったらしいレヴィーナちゃんは決心したように財布を開いた。
足りないなら、私が助けてあげようかと思ったけれど、初めてのお買い物。
それも自分が気に入った一目惚れのアイテムなら、自腹を切るのも大事な事だ。
名残惜しそうに銀貨を取り出して、商会長に手渡すレヴィーナちゃん。
「はい、確かに。包みますか? それとも着けていかれますか?」
「つけていきます。おねがいします」
「かしこまりました。それから、これはおまけという事で。
ちょっと傷ついた、売り物にならない品ですのでお持ちください」
「いいんですか?」
「はい。そのむかし、大祭の精霊に贈った縁起のいい品ですよ。アルケディウスでも流行した時があって、ほら、お姉さまも付けておられるでしょう?」
そう言うと商会長は、何故か私の顔を見ながらにっこりと微笑んで、小さな蒼い花ガラスの髪ピンをレヴィーナちゃんに見せて、夫人に渡す。
「わあ~。キレイ」
「ちょっと動かないで下さい。……お姉さまと髪質は違いますけど、キレイで滑らかな髪ですね」
ペンダントと一緒に髪飾りも、夫人は微笑みながらレヴィーナちゃんに付けてくれた。
これ、多分、髪飾りの方は傷ついてないと思うけれど、せっかくの御厚意だから、それは口をつぐんでおこう。
「マリカねえさまと、おんなじ! おそろい!」
「そうだね。ねえ、レヴィーナちゃん。私も、同じペンダント買ってもいい?」
「いいよ~。こっちもおそろいになるね♪」
「そう言う訳なので、こっちの水色の花のペンダントも下さい。こっちは値引きしないでいいですからね」
「ありがとうございます。……では少額銀貨一枚と高額銅貨二枚で」
定価は、もうちょっとするんじゃないかな、と思ったけれど、あんまり言うとレヴィーナちゃんも気にするので素直に支払いをした。
お揃いのペンダントに、髪飾り。
本当の姉妹みたいだね。光が煌めいた。
「ふふふ。うれしいなあ~」
「あ、そうだ。レヴィーナちゃん。ちょっと、相談があるんだけど……」
「なあに? ねえさま?」
「あのね……」
「それいい! わたしもだす!」
「了解。ちょっとだけ手伝って」
そうして、私達はお店でもう一つだけ買い物をして、店を出た。
気が付けば、商会長さんの後ろに見覚えのある某大公妃様が立っていて、私に会釈していたけど、気付かないふりをする。
今日はお祭り、だからね。
「レヴィーナちゃん。あとは、ゆっくりお店を見て回りながら中央広場に行って、木工細工を見ようか? 私、頼みたいものがあるの」
「うん。マリカねえさまのもっている、かおりのペンダントもほしかったから」
「ありがとう。木彫りのペンダントはそんなに高くなかったから、ティーナ達の分、残りのお小遣いで多分買えるよ。
あと、喉乾いたから、屋台で何か飲んでいこうか? 私が驕ってあげる」
「いいの? ありがとう。ねえさま!」
こうして、私達女子組は、お祭りをおしゃれに楽しく満喫した。
リオン達は、どうしているかなあ?




