皇国 大祭の優しい計略
ゲシュマック商会で食事をした後、私達は一緒に街に繰り出した。
はっきり言って、目立っているな。
とは感じてる。お父様達や私達の男女ペアだけだったら多分、そんなに目立たなかったと思うけれど、双子ちゃんが一緒だから。
でも、ちょっとした囁きや遠巻きに見る視線は気になるけれど、大騒ぎしたり私達に声をかけて来る人は今の所いない。
なので、このまま散策を続行することにする。
「二人共、俺達から離れるんじゃないぞ」
「しっかり手を繋いで。逸れないようにね」
「「はーい」」
フォル君はお父様達と、レヴィーナちゃんは私達と手を繋いで、かなりごったがえしてきた街並みを歩いていく。
時々、組み合わせを交代しながらね。
ゲシュマック商会から、城壁沿いをぐるっとまわって、中央広場まで。
中央広場でグローブ一座の新作舞台を見て、可能だったらちょっとダンス。夜の刻には戻ってくる予定だ。
城壁沿いに屋台が店を連ねる城壁市場は、アルケディウスの大祭の見所の一つだから、ぜひ見ておきたい。
一つの区画は決して広くはないけれど、それぞれの店が工夫してディスプレイを凝らしている。不老不死前も華やかだったけれど、最近は特に艶やかになった気がする。
まるで花が連なる冠。
外国からの輸入品が主なので、アルケディウスとは少し違う珍しい品物が並んでいるのも面白い所で、何度来てもワクワクする。
「マリカねえさま。アレ、なあに?」
レヴィーナちゃんが指さす先には、大きいのや太いのや小さいのや、箱に入ったのや。
様々な形の蝋燭が鮮やかに並んでいる。
「蝋燭。火を灯して灯りにするものね。
あれはアーヴェントルク産かな? 最上のものは真っ白なんだけれど、一般売りのものは少し黄色っぽくなっちゃうから、絵を描いたりしているんだって」
以前、アーヴェントルクに行った時に、養蜂を行っている皇子妃様から教えて貰ったことがある。高原の草花が生き生きと美しく描かれていて、立派な芸術品だ。
中にハーブや染料などを入れて、香りや色などに拘ったものもあると聞いた。
「あっちは? ガラス?」
「そう、フリュッスカイトのステンドグラスね。
向こうは、シュトルムスルフトのスカーフかしら?」
小さくても女の子。可愛いものや綺麗なものが大好きなレヴィーナちゃんは、色鮮やかな各国の民芸品に目が行くようだ。
一方フォル君は、というと。
「にいさま、アレなあに?」
「射的、的当てだな。的に当てると賞金が貰えるんだ」
「おもしろそう! やっちゃダメ?」
「あれは、簡単には当たらないようにできてる。
弓を習いたてのフォルじゃあ、まず当たらない」
「え~、そんなのズルじゃん」
「そう、だから手を出すな。やるんなら、あっちの輪投げとかの方がまだアリだ」
ゲームコーナーなどに興味津々っぽい。
私達が数年前、最初に来た時からテキヤまがいのゲーム屋台は見かけていた。
お祭りだと定番なのかな? こういうの。
基本的に賭け事というのは胴元が損をしないようになっている。
弓矢だったら照準をずらしてあったり、輪投げも微妙な大きさや高さで取られ辛くしてあったり。そういや、フェイが昔インチキを見破ったことがあったっけ。
こういうのは完全撲滅が難しいけれど、やっている方も祭りの雰囲気の中、ある程度解って楽しんでやっているわけだから、あんまりあくどい事をしてなければ、お父様も無理に取り締まることはしないって言ってた。
「なにか、かっちゃダメかな?
ティーナやソレルティアにもおまつりのはなししてあげたい」
「おれも! ラウルになにか、かってやりたい!」
「ソレルティア様はともかく、ティーナはお店が終わったら自分で買い物に出て来るんじゃないかな? 今年、久しぶりというかほぼ初めての大祭だから、ガルフが見せてあげたいって言ってたし」
元貴族奴隷だった魔王城のティーナは、今年からアルケディウスに戻り、今は王宮の保育室の室長と、次期保育士育成の為の教師をしている。ゲシュマック商会の商会長夫人としてお披露目も済んだという。
因みにゲシュマック商会の大祭の営業は風の刻まで。
従業員にも祭りを楽しませてあげる為の配慮で、ボーナスも出るよ。
祭りの目玉、グローブ一座の舞台も二区画確保された有料席で見ることができる。
アルケディウス一のホワイト企業だ。
「ラウル君に、何かあげる時は皇王妃様に話してからね。
でも、記念になるものを買うくらいはいいと思う。
どうですか? お母様?」
「そうね。……フォル、レヴィーナ。ちょっとこっちにきて」
「なあに? おかあさま?」
「手を出しなさい。いいものをあげましょう」
そう言うとお母様はちょっと、人ごみから外れ路地側の隙間に入り、革袋を二人に手渡した。
ちゃんと用意済みか。流石お母様。
「これなあに? お母様?」
「お金よ。これを使って欲しいものと交換するの」
「うわあ! おかね?」
「おれ、ほんものさわるのはじめてだ!」
どうやらお買い物初体験のようだ。
昨年に引き続き、二人の大祭参加は二度目の筈だけれど、多分、去年はそれどころじゃなかったんだよね。と、少しとーい目になる。
見た所、少額銀貨一枚と高額銅貨数枚。
金貨は当たり前だけどない。
「少額銀貨二枚分入っているわ。
大祭で使っていいお小遣いよ。よく考えて使いなさい」
「それは大人が何日も働いてやっと貰えるくらいの金額だ。
屋台での追加飲食代込み。
心して、そしてよく考えて使え。足りなくなったからもっと、なんては聞かんぞ」
「わかりました」
「やった! ありがとう。おとうさま! おかあさま!」
財布を握りしめた二人は、目を輝かせて私とリオンの方に駆けよってくる。
「ねえ、ねえさま! おこづかいもらった!」
「うん。よかったね」
「ねえさま、おまつり、なんどもきてるんでしょ?
ステキなの、キレイなの。もっとある?」
「おれだって、まけない! にいさま! これで何が買える? 何ができるかな?」
なんだか勝負みたいになってる。まあ、この時期のきょうだいって、ライバルだよね。
「土産にするのなら、あっちの方に動物の細工物とか、あったんじゃないか?
牛の牙で出来ていて、アーサーに昔、土産に買ってやって気に入ってた。今も、ちょいちょい集めてるな。
後は、ココナッツの皮で作った民芸品とか、木彫りの人形とか」
「よし! いこう! あと、わなげもする!」
「おい、こら! フォル!!」
「わたしは、あのキレイなガラスのもっとみたい。
それから、ソレルティアや、ティーナへのプレゼント買うの。
できればミーティラにも。どれがいいか、おしえておねえさま!」
「えっと……」
飛び出して行こうとするフォル君を止めたリオンと、レヴィーナちゃんの視線から目を反らした私が、二人一緒にお父様とお母様を見る。
二人は、と言えばなんだか、完全に保護者の眼差し。
双子ちゃんだけじゃなくって、私達のことも柔らかく見て、笑っている。
「もし、イヤでなければ二人の買い物に付き合ってあげてくれないかしら。
欲しいものがあったら、買ってもいいわよ。はい、貴方達にも」
そう言って、お母様は私達にも小さな財布を下さった。
あ、ちょっと二人のより中身は多い。少額銀貨五枚入ってる。
「いいですよ。私、自分のお財布ありますから」
一応遠慮してお返ししようとはしたのだけれど、お父様に首を横に振られてしまった。
「こういう時、子どもは黙って貰っておけばいいんだ。
俺達は親らしいことなんかなんにもできていないんだから、こういうときくらい父親気分を味わわせろ」
「一緒に遊びに出て、子どもにお小遣いをあげて、買い物を見守る。なんて普通の親っぽいこと、昔から一度はやってみたかったのよ」
そう言われるとちょっと断れない。
私ももう、子どもの歳じゃない。
だからむしろ、こういう親心は解らなくもない。というか解る。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「俺も、いいのか?」
「貰っておこうよ。いいのが見つからなかったら、シュウの親方のお店で使って売上貢献すればいいし」
リオンはちょっと困った顔つきだったけれど、私が首を横に振ると解った、と頷いて財布を服の隠しに入れた。ちょっと嬉しそうでもある。
確かに私達、こういう、子ども扱いされたこと、考えてみればあんまりなかった気がする。
「じゃあ、レヴィーナちゃん。一緒に回ろうか?」
「うん!」
「フォル。付き合ってやるから飛び出すんじゃないぞ」
「わかった~」
満面の笑顔を私達に向けて手を引く双子ちゃんを口実に、私達も祭りの買い物を楽しむことにした。
これも、きっとお父様とお母様の計略だと解っているけれど。




