皇国 お祭りの美味しさと楽しさと
新しい食が広まり始めて約5年。
ゲシュマック商会は今も『食の舵取り』と呼ばれる、アルケディウス食品取扱い第一位の地位を守り続けている。食事処として規模は縮小しているが、その代わり食品の小売と卸に力を入れているのだそうだ。
私が初期からガルフにお願いしているのは、食材関連の清浄&適正販売。
欲に駆られた権力者が食材を買い占めて独占したり、高値で販売したりすることのないように、ゲシュマック商会が管理して欲しい、と頼んである。
特に砂糖とハチミツに関しては、皇王陛下から最初期に出して頂いた勅許のおかげで、アルケディウス国内ではほぼ独占販売。王侯貴族でさえゲシュマック商会から購入しないと入手できない。
当時プラーミァからの砂糖の流通を管理していたお母様から、ハチミツシャンプーの作り方と引き換えに権利を譲渡して貰った。その後、カエラの樹から向こうで言うところのメイプルシュガーが獲れるようになったけれども、その権利も私が所持してゲシュマック商会に丸投げしたから、国内の砂糖は独占状態だ。
全世界で見ても産出国プラーミァを差し置いて、砂糖のほぼ四割を管理している形になる。残りの五割はプラーミァ王家。残りの一割はエルディランドとフリュッスカイトだから、だいぶ手に入れやすくなったとはいえ、一般の商人にはなかなか扱えない貴重品だ。
だから、その砂糖をふんだんに使った料理が年に一度、庶民にも手に入りやすい価格で食べられる大祭は、人々にとっての大きな楽しみになっている。
「おかあさま! ゲシュマックしょうかいのクレープ、ことしもたべたい!」
「わたし、ピアンのさとうにのクレープ、ぜったいたべるの!」
と、王侯貴族の子どももそれはそれは、楽しみにして来るくらいには。
「頼めば、おうちやお城で作って貰えるんじゃない?」
「ゲシュマックしょうかいでたべたいの! すきなのえらべるし」
「おまつりでたべるほうがおいしい!」
そうこぶしを握り締める双子ちゃんの言い分もよく解る。
「今年の屋台の目玉は、アイスクリームでしたよ。ようやく試行錯誤していた持ち運び用の固焼きワッフルが成功しましたから。
少額銀貨一枚ですが、夏なこともあり飛ぶように売れて、一刻持たずに完売御礼。
バニラアイスが人気だったそうです。
本店のクレープ新作はそれを受けて、プラーミァ直輸入のチョコナバナと、アイスクレープです」
「アイス!」
「アイスとクレープがいっしょにたべられるの?」
双子ちゃんの眼の色が変わったのが解る。
子どもはみんなアイスが好きだよね~。
でもやっぱり魔術師を抱えていたり、特別な設備があったりする貴族の家以外では、普通はなかなか口にできない。
ゲシュマック商会は、クレープの通常販売を止めて本店の大祭限定メニューにしたのだそうだ。おかげでアルケディウスではクレープといえば、大祭。みたいになっている。
商売が上手いねって褒めたら
「マリカ様のご提案ですよ」
って言われた。そうだっけ?
現在、市民街に唯一残ったゲシュマック商会本店の食堂は、大祭の特設店舗に改造されている。
外の道というか、広場に小テーブルや椅子を出して食べるスペースを作って、店の入り口をカウンター代わりにしてクレープのお店を出していた。去年も見たけれど。
こうすると店の調理場を使えるから、キッチンカー方式と違って料理の質も安定するし、大量供給が可能なのもいい。
お揃いの衣装の店員がみんな、くるくると大忙しで働いている。
「お! いらっしゃい」
「あ、マリカ姉。お祭り来れたんだね!」
本店のあるアルケディウスの大祭。
大聖都支店の皆も手伝いに駆り出されているようだ。
アルやエリセが出迎えてくれた。
「外で食べてもいいけど、どうする?」
「あんまり騒ぎになると店の迷惑になっちゃうから、食事は中でしましょうか?」
「そうね。食事をして座っている時は、やはり無防備になりがちですから」
「了解。じゃあメニューをどうぞ」
私達が食べに来るのを想定して、ちゃんとメニューを作ってくれていたようだ。
綺麗な花の縁取りで飾られた紙には、喉が鳴りそうな程、美味しそうな名前が並んでいる。
定番のフルーツの甘煮やジャムのクレープ。
ポテトサラダや魚のフレークをマヨネーズで和えた所謂ツナマヨ風、それからハムやベーコンなどを挟んだ食事クレープ。
去年食べて美味しかった、メイプルシロップを使ったフィリングのクレープなど、バラエティ豊かだ。
クレープは生地の作り置きができるし、中身を色々と用意しておけば早く提供できる。
まず無いと思うけれど、余ったら別の料理に流用もできるしね。
「俺は生ハムとチーズのクレープと、チョコナバナのクレープを頼む」
「私はハチミツキトロンのクリームクレープとバニラアイスでお願いします」
お父様、お母様はあっさり決めちゃっているけれど、難航しているのは双子ちゃん。
「う~ん。あれも、これもぜんぶたべたい」
「まようよね~」
大人の真似をしてメニューを見ながら頭を抱えている。
もう文字の読み書きも完璧だから、自分で読む、と言って大人の手助けは断っていた。
可愛い、可愛い。
「おとうさま、さんこ、たのんだらダメ?」
「ダメ。二個だって多すぎる」
「うわ~」
「それじゃあ、アイスははずせないから、えらべるのはいっこだけだ~」
「アイスもさんしゅるいあるんだって、どうしよう??」
確かに子どものお腹では、そんなに何個もクレープを食べられないだろう。
ふむ。それじゃあ。
「私の半分、二人に分けてあげようか? そしたら色々な味食べられるでしょ?」
「え? ホント?」
「いいの?」
「うん。その代わり、二人のも少し分けてね」
「いいよ!」
「やったああ!」
「じゃあ、俺のも食べるか?」
「リオンにいさま!」
「ありがとう!」
結局、四人で8個のクレープをシェアして食べることにした。
貴族としてはお行儀が悪いかもしれないけれど、家族だし、お祭りだし。
アルも私達の様子を見ていたのか、厨房と相談して、外の持ち運び用に供される所謂円錐形のクレープではなく、切り分けやすい筒型にして、お皿に乗せてもってきてくれた。
手に持って立ち食いで食べるのも楽しいし美味しい。クレープの醍醐味ではあるけれど、今回は家族みんなで室内で食べたから。
フォル君は、生クリームとグレシュール(野イチゴ)のクレープにバニラアイス。
レヴィーナちゃんはサフィーレの甘煮のクレープと、オランジュのアイスクリームを選んだ。
私はオランジュとカスタードのクレープと、去年食べて好きになったベーコンポテトメイプル(カエラ)で、リオンは甘いものも嫌いじゃない筈だけれど、私達が選んだのが甘い系ばっかりだったせいか、腸詰とポテト、それから焼き肉とサーシュラのクレープというおかず系を選んでくれた。
だからトータルで8種類の味が楽しめた訳で
「どれも、すっごいおいしい! アイスクリームとクレープいっしょにたべると、とろけるよ!」
「そうだね。美味しいね」
「ねえさま。にいさま。つぎのたいさいもいっしょにきて、はんぶんこしよ」
「そうできたらいいね」
私も双子ちゃんも大満足したのだった。
私としては絶対美味しいことが解っているチョコナバナのクレープも気になったのだけれど、流石にお父様の皿からいい大人がかすめ取れなかったし。
後で聞いたら、私達の様子を見ていたガルフはその後、本店や屋台で、ピザや料理のハーフ&ハーフ展開を始めたそうだ。腸詰とベーコンをサイズ半分で一本に刺して食べられるものとか。
一つの値段で二種類の料理が食べられる、とけっこう好評の様子。
多くの味が早く広がるというメリットもあって。
「やはりマリカ様は、ゲシュマック商会の女神ですな」
と笑っていた。
少しでも店の役に立っているのならいいのだけれど。




