皇国 大祭に向かう家族
お母様達は、私達が大祭を楽しめるように、本当にあちらこちらに手を回し、準備万端整えて下さっていたようだ。
「これは、貴方の為に誂えたドレスよ。
妊婦用であっても優美なデザインで、と頼んで作って貰ったの。
大祭に使わない分は持って帰って、謁見用や普段着などに使いなさい」
「いえ、謁見用はともかく普段着にはちょっともったいないです」
お母様が用意して下さったドレスはおっしゃる通り、優美で繊細で手が込んでいて。
それでいて華美な印象があまりない。
はっきり言って、私の好みにストライク。
きっと、フェリーチェとお母様が今までの私のドレスの傾向などを考慮して作って下さったのだろう。
胸元切り替えのプリンセスライン風で、お腹を締め付け過ぎないのもいい感じだ。
「夏ですからね。青系統がいいんじゃないかと思うのよ。
貴方の髪の色や、瞳の色にも似合うし」
そうおっしゃってお母様が差し出したドレスは、アルケディウスの民族衣装カートル風。
インナードレスに長袖のコートを羽織るタイプだ。
鮮やかな蒼は夏空を想わせて爽やか。インナードレスは薄水色で、お母様の瞳の色と似た感じなのが嬉しい。
コートと言っても比較的薄手。
初夏のアルケディウスならそんなに暑くも無い。
悪目立ちもしないと思う。
「どうせ、貴女であることは直ぐにバレるのだから。皇女として大神官として恥ずかしくない格好をなさい」
今回は最初からバレる前提なのだな、と思うけど仕方ない。
妊婦だし。
お父様やお母様、リオンだけならともかく、フォル君やレヴィーナちゃんも一緒だ。
去年の騒動と合わせても、第三皇子家一行だとすぐ分るだろう。
お忍びも何もあったものじゃない。
でも、だからこそ、みんなはそっとしておいてくれる。というお母様の説に、私も同意する。
元々、アルケディウスは下の身分の者が上の者に直接話しかけることが原則禁止されてもいる。以前、お父様がふらふらと出歩いていた時も、人々は会釈するくらいで話しかけてくることは無かった。
後は、本当にアルケディウスの人達の民度と、私達王家の人間がどれだけ慕われているか。愛されているか。
大事だと思って貰えているのなら、その人達が困るようなことはしないと思う。
そう信じる。
私が準備をしている間に、レヴィーナちゃんもお母様も準備を整えていた。
お母様はいつもの通り、颯爽とした女騎士の服装。
「あ、それって……」
「あら? 気付いたのかしら? そうよ。貴女と最初に出会った時に着ていた服。
勿論、そのものではなく、同じに作り直して貰ったものだけれど」
白シャツに膝上のミニスカート、薄くてピッタリとした黒タイツに膝まである長い白なめし皮のブーツ。
絶対領域、という言葉が頭を過る。
動きやすさ優先、なんだろうな。
カートルに似たグレーのコートは銀にも見えて、シンプルだけれど上質。
凄くお似合いだ。
「おねえさま。みてみて!」
「わあ、可愛い。お母様とお揃いね。とっても似合っているよ」
「ありがとー♪」
レヴィーナちゃんの装束はお母様の騎士装備をそのまま子ども用にした感じ。
元々レヴィーナちゃんはお母様似だから、並び立つと、剣こそ帯びていないけれど、絵に描いたような親子。
フェイと伯母上であるシュトルムスルフトの女王陛下程じゃないけど、拡大、縮小コピーだ。
「わたし、おおきくなったらおかあさまみたいな、カマラみたいなきしになるの。
フォルよりつよくなって、おねえさまと、あかちゃんをまもってあげるね~」
「ありがと。頼りにしてる」
「最近、レヴィーナもフォルと一緒に剣の訓練をしているのよ。親の欲目もあると思うけれど、才能があると思うわ」
「お父様とお母様、どちらに何が似ても文武両道間違いないですもの。
何にでもなれますよ」
王族であるレヴィーナちゃんが騎士になれるかどうかはさておき、子どもが夢を持てるようになってきたことは良い事だと思う。
大きくなるということに希望を抱けるようになった証拠だからね。
私の夢、子どもの頃の目標は、お母様のようなステキな大人になること。
だったけれど、叶っているだろうか?
まだまだお母様に甘え、頼ってしまう『子ども』が抜けてない気がする。
結婚して、もうすぐ母親になるのに。
気合を入れて行かないといけないね。
衣装の準備が終わってからは軽くお化粧をしあって、男性陣と合流した。
「うわ~。リオンにいさま、かっこいい! おとうさまも!」
「おれは?」
「フォル君もカッコいいよ」
双子だけあってか、レヴィーナちゃんはけっこうフォル君に対して辛辣だ。
ワザとらしく無視しているので、私が代わりに褒める。
実際カッコいいし、可愛いしね。
子ども用のチェルケスカはお父様とお揃いで黒。
お父様とお母様、フォル君とレヴィーナちゃんが並ぶと、見事な一対だ。
そしてリオンが身に着けているのは、同じチェルケスカベースではあるのだけれど、意外にも白。
帽子も手袋も、タートルネックのインナーも白で、どこの王子様か。騎士か。って感じがする。
なんとなく懐かしい感じがするのは多分、一番最初にリオンにお父様が作って下さった服と似ているから。かな?
魔王体になったリオンだけれど、黒以外もちゃんと似合う。
見惚れるくらいに。
刺青が消せない右目に向けて髪の毛を流し、羽帽子を目深にかぶっているので、意識してその顔を覗き込みでもしなければ、角や耳、顔の刺青に気付きはしないだろう。
「どうだ? マリカ?」
「とってもよく似合っているよ。
思わず、ぼーっとしちゃったくらい」
「ほら、だから言っただろう? 黒以外、似合わないなんて言ってないで試してみろって」
「にいさまとねえさま、ならぶと、なんかすごくいい!」
私の服の色目が濃いせいか、確かに二人並ぶと映えそうだ。
「今回は、あんまり隠れようとか、お忍びとか気にするな。
どうせすぐバレる。
気負わず、堂々と。でも王族だとひけらかさずに、一人の人間として、家族として楽しめばいい」
「はい」
「じゃあ、行こうか。マリカ」
「うん。お願いします。リオン」
リオンが差し出してくれたエスコートの掌に、私は自分のそれを重ねた。
それに合わせるようにお父様とお母様。
フォル君とレヴィーナちゃんもペアになる。
楽しいお祭りの始まりだ!




