皇国 祭りの始まり
アースガイアの夏は大祭で始まりを告げる。
七国は大陸に咲く雛菊の花びらで。
その一番上、最北に位置するアルケディウスは冬が長く、夏が短いのが特徴。
だからこそ、一番輝かしい季節。夏の大祭は、国の全ての人が一年で一番楽しみにしている行事なのだ。
そして、今年の大祭は王都に住まう人全員が見た、という新緑の幻影樹と私のアルケディウス最後の舞で無事、幕を開けることができた。
「マリカねえさまのまい、とってもキレイだった!」
舞を終え、大祭の開幕が宣言された後、王宮に戻り、皇王陛下にご挨拶。
その後、私は馬車で実家第三皇子家に帰ることになったのだけれど。
一緒の馬車に乗っているレヴィーナちゃんはホント、興奮冷めやらぬ、という様子だった。
ちなみに今年も貴賓席が用意されていて、希望者の王族貴族の御婦人達が見ていた。
男性達は会議中なんだって。子どもだから特別に許可されたフォルトフィーグ君とラウルトリス君、それからリグは、お母様達と一緒に見てた。
あ、レヴィーナちゃんは元から『次期聖なる乙女』として見る予定だったんだけれど、フォル君が自分達も見たいと言い張って、リグとラウル君も連れて来たのだ。
劇場とかで子どもが騒いでしまうのは、集中力が続かないからと、見えないからが多い。
10分程度くらいなら、子ども達は十分集中できる。
むしろ大人より真剣に見るよね。
「わたしも、はやく、あんなふうにまいたい!」
「ありがとう。レヴィーナちゃん。
次はまだ早いかもしれないけれど、もうすぐレヴィーナちゃんが舞うことになるかもしれないね」
私は馬車の中でなければ飛び跳ねていたであろうレヴィーナちゃんに笑いかける。
ちなみにフォル君とリグはリオンと一緒の馬車だ。
「そうね。頑張り次第では来年の夏か秋の大祭では舞えるかもしれないわね」
一緒の馬車でレヴィーナちゃんを宥めるお母様も、満面の笑顔。
大体、七歳くらいが初舞台になることが多いんだって。でも五歳くらいになるとできなくもないかな?
幼稚園時代にキレイな日舞を披露した子もいた気がするし。
「良い舞だったと思うわ。優しさと気遣いと感謝に溢れていて、とても貴女らしい。暫く見ることができないのが残念ね」
「ありがとうございます。私も、ちょっと寂しいです」
基本的に精霊神様に感謝と『気力』を贈る『聖なる乙女』の舞は、未婚の王女、皇女が舞うもの。
結婚した人物だと純度が下がると言われていたけれど、実際はそんなこともないらしい。
本人の術資質と真心が重要なんだって。
「現状『私』と、『それ以外』」
と懇願されているので、できる限りはやり続けたいけれど、いつまでも一人が出張っているのもよろしくないし、世代交代は重要だ。私もいつまで七国を巡れるか解らないし。
一年間の産休は、そのきっかけになるだろうか?
まだ新世代の女の子王族は、四歳のレヴィーナちゃんと三歳のベアトリーチェ様。アーヴェントルクの皇女様は、多分ベアトリーチェ様より小さくて、それに生後四か月のシュルティヤンカちゃん。計四人。
彼女らが本格的に舞うのは、まだ先の話だろうけれど。
私の出産予定日は木の一月の始め。新年の会議の日から約三十八週。
風の一月から二月頃になりそうだと見ている。
どうあっても秋の大祭には出られないので、最低一年間。二回分の大祭はお休みを頂くことになっている。所謂、産休、育休。
その後は、国と、子どもと、私の体調を鑑みて。かな?
「お母様。今日は泊って行ってもいいですか?
なんだかちょっと疲れちゃいました」
王宮での挨拶が終わった帰路の馬車で、私はお母様に問いかけた。
大祭での私の仕事はこれにて終了。
明日は一日、お休みを頂くことになっている。
いつもなら魔王城に帰る所だけれど、魔王城も今はもう、私の家、じゃないからね。
人が多くて、のんびりしようと思えば結界が貼られた三階か裏に行くしかない。お祖父様達にも気を使わせちゃうし。
ヨハンとジョイはいるけれど、ゆっくり休めるのは大聖都か、第三皇子家かな? なんてことを考えていると、
「あら? 今年は大祭に行かないの?」
「へ?」
お母様が当たり前のように笑う。
楽し気な瞳に、陰はこれっぽちもない。
「え? いいんですか?」
「秋の大祭は出産直後で、絶対に無理でしょうから、今年最後の祭りを一緒に楽しんではどうか、と思ったのだけれど」
「でも、私、妊娠中で……」
「安定期、というものに入っているでしょう? あまり酷く転んだりぶつかったりしなければ大丈夫だろうと、ステラ様はおっしゃっていたわよ。
私とリオンと、皇子が付いていれば凡その危険は退けられますし、それにそもそもそんな人込みにも行きません。ゲシュマック商会で料理を食べて、中央広場で劇を見て、少し買い物をするくらいかしら。
大祭の精霊としてお忍びで歩いていた時のように、自由にデートを満喫、は無理で、祭りの雰囲気を楽しむだけ。少し物足りないと思うけれど……」
「い、いえ。十分です。でも、本当にいいんですか?」
結婚して大祭に行くことは、もう無いだろうな。と完全に諦めていた。
妊娠もしているし、顔バレもしちゃったし。
でも、私はアルケディウスの大祭が大好きで。
できれば、もう一度。
嘘だ。何度でも行きたかった。
「貴女が、アルケディウスの民の民度を、信じられればね。
昨年のように、貴方達が来たと思っても、民は私達の為に知らんふりしてくれる。
当たり前の家族が大祭を楽しみに来たと、邪魔しないでくれる。
私は、去年の大祭を経て、そう信じられるようになったから。
あの人も、同じ考えよ」
「お母様……」
「それに、もし、どうしようもない騒ぎが起きたら貴方とリオンなら転移術で逃げて来られるでしょうしね?」
「ねえ、おねえさま。いっしょにおまつりいこー!」
レヴィーナちゃんが、私の手を促すように優しく引っ張った。
「レヴィーナちゃん……。あ、リオンは?」
「一応、数日前、あの人が伝えていた筈です。
フォルが今頃、向こうの馬車で一緒に行こう、と説得しているわね。
顔の刺青は髪か帽子で隠してはどうかって」
「知っていたんですか? ああ、昨日のアレはそういう」
昨日、精霊神様達との面会の後、リオンが何か言いたげだったのはそれ?
そう思って考えると、皇王陛下や精霊神様も私に『大祭を楽しめ』とおっしゃっていた。
お二人ももしかして、グルというか、協力者なのかも。
「マリカねえさまたちがいくなら、わたしたちもおまつり、いってもいいって。
ねえさまたちがいかないときには、おるすばんなの。
ね。だから、おねがい!」
目元を潤ませて私を見るレヴィーナちゃん。
私達が行かない時は、行けないってこと……。
用意周到。断り辛い。
きっと、私達に言い訳を用意して下さっているのだ。
「本当に、いいんですか?」
「ゲシュマック商会は、去年のように本店の中の席を予約しているし、グローブ一座には有料席を作ることを提案して一区画確保して貰っているわ。
安定期に入ったとはいえ、あまり長く立ち続けたり、地べた座りは良くないでしょうからね」
「ドレスもよういしてあるよ! フェリーチェが、おなかおおきいようのおようふく、いっぱいつくってた」
「いっぱい?」
「これから、どうせ必要になるでしょう?」
いたれり、つくせり。その上で、
「あとは、貴方達次第。どうしますか?」
最終決断は、私達に委ねて下さる。
なら、答えは決まっていた。
「行きたいです。お願いします」




