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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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風国 王子の行く末

 シュトルムスルフトは風の国。


 国を守る精霊神であるハジャルヤハール様が、トルコ近郊のお生まれらしく、風土も景色も、建物や装束も全体的に中東風味だ。


 かつては砂漠が多く広がっていて、本当に荒々しいイメージだった。

 けれど、精霊神様の怒りが解けて徐々に砂漠域にも緑が広がるようになってきたし、石油の産出と、風の魔術。

 転移陣というインフラの発達で、かなり元気を取り戻していた。


 そしてここ数年で一番変わったのは、女性の進出。


 四年前、私が初めて来た頃は、女性は殆ど外に出ない、男性の従属者みたいな感じだったのだけれど、今は町の中で明るい色合いのスカーフやウィンプルをよく見かける。


 暑さと習慣から、頭を隠す風習はまだ消えてはいないけれど、華やかに頭部を彩るそれらは、まるで砂漠に咲いた花みたい。


 神殿から王宮に向かう馬車に向かって一生懸命手を振ってくれるので、私も出来る限り応じたつもりでいる。


 白亜のムスタクバル宮殿。

 馬車の降り口に銀の光が見えた。


「ようこそ。マリカ皇女。アースガイアを導く宵闇の星。

『神』と『星』と『精霊』の寵愛を受けし『精霊女神』」


 青銀のサークレット。

 流れる銀の長髪。

 アメジストの瞳が知的に輝いている。


 白と銀の刺繍が施されたドレスを身に纏った、正装の女王アマリィヤ様だ。


「シュトルムスルフトへのおいでを心よりお待ちしておりました」


 女王アマリィヤ様直々の玄関でのお出迎えに、私は緩やかなカーテシーで返す。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。精一杯努めさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」

「マリカ様のご負担にならないように、大貴族達との会食や舞踏会は取りやめました。

 今日は軽く明日の儀式と、シュトルムスルフトの産業について話し合いの時間を取ったあと、ご要望の面会を行いたいと思います。

 ですが……本当によろしいのですか?」

「はい。フェイからくれぐれも、と頼まれておりますから」


 気遣うようなアマリィヤ様の問いに、私はこくりと首を前に落とした。


 私がシュトルムスルフトに事前にお願いしたのは、王太后であらせられるアズムラクァ様との面会だ。

 フェイとの関係を、適切なものにして頂けるようにお願いしないといけない。


「母上がアルケディウスと大神殿に連日手紙を出していた、ということは聞いております。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 王妃様は基本的に後宮から出てくることは無いし、政務に関わることも無い。


 不老不死の時代は公式の場。

 他国だったら王と王妃が並び立つような場であっても、王の隣に立つことは無かったという。

 前にフェイが国を訪れ、シュトルムスルフト籍を返上した時も、殆ど姿を見せなかった。


「あの時は大伯父上の背後に睨みを利かせて貰った事もありますが、私が半ば軟禁したのです。フェイのシュトルムスルフト籍を廃することに、最後までとても反対していたので」


 王城の応接室に招かれ、詳しい話を始めると、アマリィヤ様はそう切り出した。


「フェイの意思を優先していたとはいえ、どうして認めた、と、それはもう怒られました。

 シュトルムスルフトは先のコスモプランダー襲撃の時に、王族を送ることも叶いませんでしたからね。早く結婚し、子を設けよと煩いのなんの」


 王配となる人物は決定したので、新年の国務会議で報告、承認を受けて、私の結婚式の後、国で披露を行う予定なのだそうだ。


 正式な王位継承者がいない今の状態は、王国として本当にヤバいらしいけれど、いざとなればフェイがいるという楽観モードも国にはある。


「私がいなくなればフェイが戻ってくるのでは、と思う人物もまだ少なからずおります。

 幸い、風の精霊神様の加護もありますので簡単には害せず。また、私が喪われ、フェイが戻ってこないとなれば最悪だと、実行に移すには至っていないようですが」


 フェイのシュトルムスルフト籍離脱の時に、同じことを考えた現国王の大伯父である貴族が、女王暗殺とフェイの担ぎ上げを計画したが、粉砕された。

 国の最上位の貴族がやっても無理だったことは、他の誰がやってもダメだろうと、今は静観されているらしい。


「ただ、母は純粋にフェイと、その子に強い愛着を持っているようです。

 不老不死の五〇〇年、私に向いていた重く、強い愛情が、私が国王になる、という形で行き場を失い、唯一の孫とひ孫、フェイとレオンハルトに向かった、というところでしょうか?」


 フェイの結婚が、公式にシュトルムスルフトに伝えられたのは、結婚式が終わって暫くしてからのことだった。


 アマリィヤ様はこっそり招待したけれど、その事は当然、王太后様には内緒。

 連れてきたら、どんな騒ぎになっていたことか。


「アルケディウスから結婚の報告に添えられていた、ギル少年の着色された絵がさらに母上の琴線に響いたようで。死んだファイルーズ、さらには兄を思い出したのかもしれません」


 フェイの結婚式の時は身内だけの試験的なものもあって、色々な形で記録を残した。


 一番はやはり、写真と結婚式の記念絵だろうか?


 魔王城のギルは絵が得意。

 結婚式の時、ラールさんの指導の下、家族みんなが一枚の絵に収まった夢絵を描いてくれた。


 ただ、それには顔を知らない王太后様は描かれていないし、その絵はアマリィヤ様の密入国&抜け駆けの証拠だから、誰にも見られてはいない筈で、見せられないもの。


 だから、結婚の報告の時には写真を元にした普通の絵を贈った。


 ギルの絵は、本物にそっくりの写実が特徴。

 確かに、娘達に瓜二つで、死んだ息子が成長したようなフェイの結婚式姿を見たら……。


 うん。私でも泣いちゃうかもしれない。


「大陸に平和が戻ってから、フェイが、息子が生まれたことを手紙で知らせてくれました。

 それからは、もう歯止めが利かなくなったようで、フェイ達一家と何とかして繋がりたい……と」


 現王の母。

 実家も国一番の力を持つ大貴族で、太いパイプと権力を今も握る女性。


「今は、まだ古い慣習が何より本人の中に残っているので後宮に留まっていますが、シュトルムスルフトの準最高権力者です。私以外の人間には止められません」


 今までは女性の身分が低く、王太后であってもできることは限られていた。


 けれど徐々に男女平等が広まって来たし、後宮に縛られることも無くなった。

 そのことに本人が気付けば、後宮を出て直接アルケディウスに吶喊する、なんてこともできなくはない。


 それに……。


「アマリィヤ様も、本当はフェイに戻ってきて欲しいんですよね。

 レオン君にも会いたいし、できれば養子に迎えたい」

「…………」


 私の言葉に口ごもり、俯く女王陛下の態度は、すなわち肯定だ。


 無理だと解っていても、微かな希望があるのなら、と。

 だから、本気で止めることもできない。


「フェイも困っているようです。このままのシュトルムスルフトの態度では、少しでも関係の糸を残したくても、繋ぎたくても、それさえできないと」

「彼らの一家と繋がることができるのですか?」

「はい。ですから、それはシュトルムスルフト次第です。フェイとしては、多少の荷物や手紙のやりとりなどまでは断絶するつもりはなかったようですよ。

 お祝いも困っていただけで、決して嫌がってはいませんでしたし」


 そう。


 フェイは今回の件まで、シュトルムスルフトのアマリィヤ様も、王太后様も。

 お祖母様も嫌ってはいなかった。


 いや、今だって嫌ってはいない。

 あくまでも、今まで経験した事の無かった重い愛情と執着に困っていただけ。


「なので、今回の件は私達に任せて頂けませんか? 実は……」


 そうして話した私達の提案に、アマリィヤ様は頷いてくれた。


 後は、本命にして難関。

 王太后様の対応。


「リオン、ごめんね。悪役をさせちゃうけど。

 私がやろうか?」

「気にするな。

 フェイの一家の為だし、俺は元々、こういう役割の為に生み出されたものだからな」

「ありがと。必ず、皆が幸せになれる道を探してみるから」


 そうして迎えた、王太后様との謁見。


 リオンは厳しく、鋭い眼差しを、居並ぶシュトルムスルフト重臣と女王様。

 何より最前に在る王太后様へと向け、圧力をかける。


「いい加減、諦めろ。フェイはもうお前達のものではない」


 神官長、いや魔王として。

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