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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 北風と太陽

 水国の次は風国シュトルムスルフト。

 ここでの仕事が終われば、後はホームとも言えるアルケディウスと、大神殿の礼大祭だけになるのだけれど。


「まったく、しつこい。というか諦めが悪い!

 マリカ。申し訳ありませんが、この文書にサインを。

 そして風国に行った時に、文書を届けてくれませんか?」


 大神殿に戻った私は、戻って来て直ぐ、リオンと共に執務室に呼ばれ、フェイから一通の書類を差し出されたのだった。


 一応、名前だけの大神官と神殿長で、実務の殆どはフェイがやってくれるとはいえ、目くら判はよくない。

 むこうで真理香先生は、それによく悩まされていた。


 だから、しっかりと目を通す。

 リオンも後ろから覗き込んでいる。


 えっと、なになに?


「抗議文?

 副神官長フェイは既にシュトルムスルフトの王位継承権を放棄した身である。

 故に、その子に関しても王位継承権は消滅している。

 この件については国王アマリィヤ様からの承認済みである。

 国王の意に染まぬ働きかけは厳に慎まれたし……。

 また来たの?」

「はい。お祖母様から。

 大量の出産祝いと一緒に、長文の恨み言めいた要請がみっちりと」


 フェイはシュトルムスルフトの現女王アマリィヤ様の妹の子だ。

 つまりは甥っ子。


 現在、前国王陛下や親戚筋は、色々と問題があって禁固刑に処せられていた。

 故にアマリィヤ様は周囲に味方や先達が殆どいない状態で、国の統治を行っている。


 母方の御実家は代々、王族の花嫁を輩出してきた家系で、バックアップは完璧なのだけれど、それだけに力も強いわけで。

 典型的な貴族として、色々と悪事にも手を染めてきたらしい。


 フェイのお母さんは王女だったけれど、身分違いの結婚を認められず、駆け落ち。

 その過程で命を失った。


 彼女が命を賭けて守った子は、精霊の獣(アルフィリーガ)に拾われ相棒となり、魔王城で故国の王の杖に選ばれた魔術師となった。


 運命という言葉で単純化してしまうのはイヤだけれど、ある意味必然だったのかなあ?


 伯母上である女王陛下はフェイを可愛がっているけれど、あくまで本人の意思を尊重すると主張。

 国に来る気はないかとアプローチはかけてくるけれど、強引な言動はしてこない。


 けれど、女王陛下のお母上。

 フェイにとってはお祖母様にあたる方は、繰り返し、繰り返し国に戻るように要請して来る。


 フェイと奥方。

 そして今は、息子レオン君にも。


 こうなることを見越して、フェイは国で正式に女王陛下と精霊神様の承認の下、王位継承権を放棄していた。


 でも、風の王の杖はフェイを選んでいるし、男子だし。


 中東風で男尊女卑の性質が強かった土地柄では、今なお、フェイに国に戻って欲しい。

 王のサポートをして欲しい。

 あわよくば王になって欲しい、って声が高いらしいんだよね。


 フェイのお祖母様、王太后様はその筆頭だ。


「伯母上も母親には強く言えないのでしょうね。僕の王位継承権放棄を認めたことも、かなり厳しく責められたようだと後で、風の精霊神様(ハジャルヤハール様)が話して下さいましたし」

「加えて、女王陛下がまだ未婚ということもあるだろう。後継者が生まれるのはかなり先。

 不安定な国を女王がほぼ一人で支えている。

 そこにひ孫の誕生だ。なんとしても手の中に入れたい、という思いは、解らんでもない。

 フェイもレオンハルトも渡すことはできないが」


 フェイは勿論、風の王の杖に選ばれた最高位の魔術師だし、レオン君もほぼ精霊って言ってもいいんじゃない? ってくらい魔術師適性が高いのだそうだ。


 全ての精霊を杖無しで使えるかも、と聞いている。


 私やリオンの簡易版?


「ソレルティアとレオンハルトは、アルケディウスの宝。

 決してシュトルムスルフトには渡すことはならぬぞ」


 と皇王陛下、現皇王ケントニス様にも前々から釘を刺されているし。


「初のひ孫、嬉しいのは解るから、お祝いだけでも受け取ってあげたら、と言いたいところだけれど、これだと下手に受け取ったら自分の気持ちを汲んでくれた、と思ってまた暴走するかな?」

「はい。だから、怖くて受け取れないんですよ。高価な宝石や細工物はともかく、衣類などは使ってあげてもいいかと思うのですが……」


 ついでなので、フェイのお祖母様。

 王太后アズムラクァ様からの手紙も拝見させて頂く。


「うわっ、細か!」


 フェイがみっちりと、と表現した通り。

 王族が他国の貴族、王族にしたためる手紙の形式は守りつつも、結婚式に何故呼んでくれなかった。

 帰ってきて欲しい、いや帰って来るべきだ。

 ひ孫の顔が見たい。

 家族みんなで戻って来て一緒に暮らそう。

 それがダメならせめてレオン君を養子に、と。


 懇願というか、脅迫めいた文章が何枚も、隙間なく綴られているのだ。


 サイコめいててちょっと怖い。


「うーん。これだとレオン君と会わせたり、むやみに写真を撮って渡すのも危ない気がするよね」

「はい。結婚式に伯母上を招いたことは知られていないようで良かったのですが、知られていたら多分、これでは済まなかった気がします。そして一度、レオンを見せたら執着はさらに増しそうで……」

「そうだな。レオンは銀髪、蒼い瞳。高い魔術師適性も、全てフェイにそっくりだから」

「確か、ご子息を幼い頃、病で亡くされているんだよね。で、アマリィヤ様は双子でそっくり。ということは御子息が生きていたら、フェイやレオン君にそっくり、ってこと。

 執着される可能性、かなり高いかも」


 嫁姑問題や、我が子に執着する義母とか、向こうの世界でも漫画やドラマでよく見た。

 それだけ身近にある問題だった、ってことだよね。


 権力を持っている相手だから強いし、命令し、人が従うことを当然と思っている。

 今は一応お願い、という形で下手に出ているけれど。


 何より、シュトルムスルフトは、女王陛下御自らがフェイを溺愛していて、王位を譲りたいと今も心の奥で願っている。

 だから本気で止めにかからない。


「解った。とりあえず、私が仲介する。でも、文章はもう少し厳しく、大神官名義ではなく、あくまでフェイからのものにして。

 私が直接会うのなら、文書で抗議するのはちょっと違うと思うから。

 あと、困っていることを前面に出して、シュトルムスルフトに所属する気はないとはっきり主張する」

「いいんですか? これでもかなりキツめにしてありますが」

「厳しくても優しくしても、多分、人の話を聞かない人は聞かない。

 自分の見たくない文章は読まないし、理解もしない」

「おい?」

「フェイとレオン君は、とりあえずシュトルムスルフトには入国禁止。

 私とリオンが、その文書を持っていって話をしてくる」

「それで、引いてくれるでしょうか?」

「まあ、多分無理かな」

「マリカ!」

「詳しくは王太后様に直接会ってみないと解らないけれど、難しいと思う。でも、今は多分、頭に血が上っているから、少し冷静になって頂かないと」


 歳を取った人ほど、失礼ながら頭が固くなるからね。

 自分を作ってきた考え方に囚われ、人の話を聞きにくくなる。


 でも、王族だし、人の話は聞ける。

 孫、ひ孫可愛さに暴走しているだけだと思いたい。


「駆け引きと話の持って行き方次第だと思う。

 譲れない所と譲れる所を上手く割り振って、少しは妥協してあげれば、引きどころを弁えて下さるかも。魔境ともいえる王宮で生きてきた方なら……。

 後は、リオンにも協力して欲しい」

「俺?」

「うん。

 この作戦にはどうしても二方向からの対応が必要なの。

 名付けて北風と太陽作戦」

「北風と太陽、ですか?」

「フェイ、ソレルティア様と話し合って……」


 私はフェイとリオン、アルにも力を貸して貰って、準備、手筈を整えた。


 今回の作戦の要はレオン君とソレルティア様。

 レオン君の愛らしさがきっと鍵になる。


 フェイも、ソレルティア様も。

 シュトルムスルフトに行くことを望んでいない。

 王族になりたいとも思っていない。


 だから最初から王太后様の要請には応じられないと、マジシャンズセレクトよろしく答えは決まっている。

 でも。


「家族が大事、会いたいって気持ちは解るんだよね。だから、少しは……ね」


 そうして、私はできる限りの手を打って『お土産』も用意して、風国シュトルムスルフトに足を踏み入れたのだった。

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