皇国 幼子たちへのおくりもの
無事にアーヴェントルクでの大祭を終えて来た私は、出発前の約束通り、明後日からのエルディランドの準備その他を一部、側近の皆に任せてアルケディウスの子ども巡りをさせて貰った。
これも、大事な仕事だから!
サボってるわけじゃないよ。と力説。
まずは王宮。
新皇王陛下ケントニス様にご挨拶しに行く。
「回復し、公務に復帰できるようになったのは喜ばしい事だが、無理はするなよ」
「貴方は身重なのですから、あまり激しい振り付けは避けて、ゆったりと。でも技術で魅せなさい。今なら、それができる筈です」
皇王妃アドラクィーレ様からも、優しく適切なアドバイスを頂いた。
「それで、各国の様子はどうだ? 精霊国で父上達はどうしておられる?」
と、各国の情報にも興味津々の御様子だったけれど、今、私は大神官だし。
アルケディウスだけ贔屓はできない。
「上皇王陛下は、毎日を楽しんでおいでのようです。
その他、各国についてはおいおい。でも、それぞれ様々な工夫や次世代への取り組みをしておいでです。うかうかしていると置いて行かれるかもしれませんよ」
と、発破だけはかけておく。
詳しい話は後でレポートを提出するということで許して頂いて、それから私的な今日の目的地の一つ、保育室へ。
「「マリカねえさま!」」
子どもがいれば、人数は少なくても部屋の中は賑やかだ。
楽しそうな笑い声が弾けている。
一緒に積み木遊びをしていたらしい双子ちゃんが、私の訪問に同時に気付いて駆け寄ってきてくれた。
その後にトコトコ近づいてくるのは、ケントニス皇子の息子、ラウル君。
ガルディヤーン王子とは、生まれた時期が数か月くらいしか変わらないから、月齢的には三歳丁度くらい?
でも、大人や従兄妹に囲まれているせいか言葉も早いし、頭も良さそうだ。
「マリカさま。おひさしぶりです!」
「丁寧なごあいさつをありがとう。ラウル君。
楽しく遊んでいますか?」
「はい。まいにち、フォルにいさまと、レヴィーナねえさまがきてくれるので、うれしいです。あと、リグや、今日はレオンも」
「ああ、ティーナが入ってくれているのですね。ソレルティア様も」
子ども達と一緒に遊んでいた女性二人が、こちらを見る。
立ち上がって礼を取ろうとしたのを手で制して、私が膝を付いた。
「レオン君、フェイが言っていたとおり、首回りがしっかりしてきましたね。
頬も薔薇色で」
フェイの子ども。レオン君。
もう生後四ケ月は過ぎている筈だ。
人見知りが激しくてよく泣くと聞いていたけれど、お母さんに抱かれているせいか、ニコニコして機嫌がいい。
ぷくぷくした頬っぺたをつん、と指で突くと、心地よい手ごたえが返ってきた。
ああ、子どもって可愛い。
色々とささくれ立っていた心に、可愛さ成分が染みて来る。
「今はまだ一緒に遊べるわけではないので、そんなに頻繁には来ないのですが、マリカ様がいらっしゃるとフェイに聞きまして。
それに、ここに来ると大きい子達に構って貰えるのが嬉しいのか、寝つきなども良いのです」
ソレルティア様はそう言って、我が子を愛しげに見つめながら微笑する。
その横ではティーナも。
「ぼく、もうレオンをだっこできるんだよ! ほら!」
「ああ! 気をつけなよ。フォル。また、おっことす!」
「大丈夫ですよ。リグ。フォル様は気を付けて下さっていますから」
私に良い所を見せたいのか、ソレルティア様の抱くレオン君に手を伸ばすフォル君。
子どもの中で最年長のリグが少し困った顔で諫めるけれど、ソレルティア様は笑顔でフォル君に応じ、レオン君を渡してくれる。
絨毯の上でクッションも敷いてあるし、いざとなれば助けられる距離だからかな。
フォル君はお尻をちゃんと手で押さえて、思ったよりもしっかりした手つきで抱っこする。
子どもって、赤ちゃんが好きな子が多い。
普段は乱暴な男の子も、ここまで力の差があると、幼くか弱い存在に対して自然と優しく接するものだ。
レヴィーナちゃんも抱っこしたそうだったけれど、我慢している感じ。
それを読み取ってか、ソレルティア様が、フォル君がレオン君を返した後に、レヴィーナちゃんにも抱っこさせてくれた。
柔らかく抱き方を教えてあげる様子は、本当にお母さん、だね。
「あかちゃんって、やわらかくって、あまいにおいがするよね」
「乳の匂いでしょうか? あまりにも近くにいるためか、私は気にならないのですが」
「そうかもしれません。
愛された子どもの、幸せな香りです。
ソレルティア様。レヴィーナちゃん」
どこか懐かしい空気を吸いながら、私は二人に問いかける。
「私も抱っこさせて貰っても良いでしょうか?」
「もちろんでございます」
「どうぞ」
膝立ちして、レヴィーナちゃんが手を伸ばして渡してくれたレオン君を受け取る。
次から次へと抱っこをリレーされているせいか、私の手に渡った時もぴくり、と身を震わせたレオン君。
でも、泣いたりはしない。
逆に、ふにゃっと身体の緊張を解いた気がする。
「すごい。レオンがなかない!」
「なんだか、うれしそうね?」
「そうだったらいいけれど。
改めまして、初めまして。レオン君」
出産に携わり、顔は見ていたけれど、抱っこするのは初めて。
フェイの子ども。
お父さん譲りの銀の髪。
ぱっちりと開いた瞳は空の青。
まだそんなにはっきりとは見えていない筈だけれど、周囲の様子を感じてはいるようだ。
両親から精霊の力を受け継いだ、生まれついての能力者。
でも、そんなのは関係なく、ただ、もうひたすらに可愛い。
フェイが親バカになるのもよく解る。
ぎゅっと握りしめられていた手が、ひらひらと空を彷徨うように開き、私の髪を掴んだ。
把握反射かな。かなり強い。
髪の毛をそっと外し、指先を当てると、私の指を掴んでくれた。
生理的な反射であるとは解っていても嬉しいね。
「レオン。貴方にいつも精霊の恵みと祝福がありますように。
ありがとうございます。ソレルティア様」
思いっきり赤ちゃんを吸って、私はレオン君をお母さんに返した。
やっぱり、お母さんが一番みたい。
レオン君も目に見えて身体の力を抜き、安堵の様子を見せている。
「ああ、そうだ。
これ、みんなにお土産です。新しい玩具とゴムボール」
「ボール、すきです!」
「ゴムボール? でも、まえのよりやわらかいね?」
「アルのゲシュマック商会が研究を重ねてくれて、中の空気が増えましたから。
ぶつかっても痛くありませんよ」
「わあ、ありがとう! ねえさま! リグ、ラウル。これでもっとボールあそびたのしくなるよ!」
「お部屋の中でボール遊びする時は注意して下さいね」
「わかってる! リグ、ラウル! むこうの運動部屋で遊ぼう!」
「うん」
「フォルにいさま!」
「ああ! 私もいれて!」
本当の兄弟のように、分け隔てなく、身分の差も無く、駆け出して一緒に遊ぶ子ども達。
この子達も、もう少ししたら王族教育とか身分差とかで、こう無邪気に遊んでいられなくなるのかもしれない。
でも。
「子どもは毎日、元気に笑って、遊んで、食べて、眠れればそれで満点ですから。
勉強や礼儀作法は、本人が必要だと思えば自分で学ぶし、勉強に遅すぎるなんてことはないですし」
ガルディ君のような事態は、今後、絶対に防止する。
その為に――。
「隣の運動部屋にも職員がいますよね?」
「はい。男性一人と女性が二人。
マリカ様のおっしゃるとおり、巧技台などを使って体幹の訓練などを始めていますので、人の目は手厚くしてあります」
「じゃあ、少し向こうはお願いして。
プラーミァで新しい王族の教育方針とか、話し合ってきたんです」
「新しい教育方針、ですか?」
「そう。ティーナ。
皇王陛下達から、王族教育についての話や命令は?」
「徐々に礼儀作法や読み書きを、という話も伺っていますが、今は具体的な事まではまだ」
「じゃあ、私が皇王陛下達にお話しするから。
ティーナにも覚えて……ううん、理解して欲しい。絶対体罰禁止と……それから」
「私もお話を聞かせて頂けますか? レオンを育てていく為に、学んでいきたいと思いますので」
「ありがとう!」
子どもを育てる者達に、私はまず教育の手を伸ばすことにしたのだった。




