夜国 輪廻と誕生
思わぬ人との出会いはあったけれどアーヴェントルクでの大祭は無事に終わった。
舞も無事に納める事ことができたし、精霊神様からの祝福。
絆石も無事に植えてプラーミァと同じように発芽させることに成功し
「祭りの幕開けとしては、最高だったな。
秋からはこの舞がしばらく見られなくなるのは残念だ」
「本当に。マリカ様の後で舞を納めるのは見劣りがしますもの。
久しぶりに錆びた身体を整えないと。アドラクィーレに私も舞の極意を習おうかしら」
と皇帝陛下、アンヌティーレ様に褒めて頂いたのも地味に嬉しかった。
っていうか、アンヌティーレ様もアドラクィーレ様の舞を認めていたんだね。
まだ完全和解したわけではないけれど少しずつ姉妹関係の改善が進んでいるのは良い事だ。
あとはプラーミァで提案した王族の教育についても興味を持って頂けたようで、アーヴェントルクからの留学生も早々に派遣する、とのこと。
一男一女のアーヴェントルク。まだ長男君も2歳になったばかりだからガルディヤーン君以上に本格教育は早いと思うけれど
「親バカかもしれないけれど、好奇心旺盛で頭のいい子達でね。
次代の王だから、聖なる乙女だから、以前に僕の、子。大事に育ててやりたい」
とヴェートリッヒ様は強い眼差しでそうおっしゃっていた。
自分の父親が、本当の親ではない。むしろ、仇だった。という複雑な生まれを抱えておいでだから『親子』という関係には色々と思う所が御有りなのだと思う。
でも最終的には兄王様がおっしゃったとおり、七国全部から教育留学生が派遣されてきそうだ。祭りが終わったら保育要領と幼稚園教育指針だけでも翻訳しておいた方がいいかな。
そうして、一通りの仕事を終えた私は、後の細かい事をリオンに任せて聖域に向かう。
ピュールと一緒に。
もう驚くことも無く、自動ドアが開くように気が付けば、私は疑似クラウドの中にいた。
「今回は特に世話をかけたな。マリカ」
「いえ、私も色々と勉強になりました。ナハトクルム様」
薄紫の空間の中、闇と夜を司る精霊神、ナハトクルム様が現れた。
「ヴェートリッヒ皇子は、本当に凄い方ですね。
今、あることに満足せず、常に前を向き新しい事に取り組もうとされる。
次代の七国を間違いなく牽引される方だと改めて実感いたしました」
「うん。私、いや僕に似ることなく頭のいい子に育ってくれた。ひねくれているように見えるけれど基本的にはいい子で、アースガイアを大切に思っているから、悪い事はしないだろう」
「それは信じていますけれど、あそこまでこっちが思ってもいなかったカードを次々切られるとちょっと怖くなりますね」
「本来の『魔王』が今回の件で完全に消えたから、次代の魔王を目指したいと言っていたよ」
「え? ヴェートリッヒ皇子が魔王?」
思わぬヴェートリッヒ皇子の『目標』に目が丸くなる。
この世界における『魔王』とは……
「改造体云々では無く、七国を纏める脅威って意味で。
勿論、比喩的な意味だろうけどね。
ほら、強い敵がいると他の者は結束するから」
「ああ、そういうことですか? でも……損な役目ですよ」
「不老不死時代の退屈していた時よりもずっといい、って言ってた。
今は政治や経済、科学などで全力を出せるのが楽しいみたいだ」
「まったく、とんでもない傑物だな。お前の流れを汲んでいるとは信じられない」
「僕もそう思う。聖なる乙女、あと父親似だね」
火の精霊獣と夜の精霊神様が顔を見合わせて笑いあう。
ナハトクルム様の聖なる乙女は解らないけれど皇帝陛下似なのは確か。
そういうとヴェートリッヒ様は絶対に怒りそうだけれど。
頭が良い所とか、素直じゃない所とか、厳しい割に情愛深い所とかよく似ている。
「そういえば、ステンレスとカレドナイトの合金を疑似SIMカードにするアイデアはナハト様が教えられたんですか?」
カードを入れ替えて通信鏡を複数接続可能にするのは前の訪問の時にヒントを貰いながらもアルケディウスでは実現できなかった工程だ。
今回、アーヴェントルクが実用化にこぎつけた背後には、技術者としての知識を持つナハト様のアドバイスがあったからだろう。
「発案はね。でもカードにナンバーを記録する方法とかはヴェートリッヒが自分で考えたものだ。僕も夜の精霊術でカレドナイトに命令をかけるなんて使い方は思いもしなかった」
「主に生物の精神や魂に働きかけるのがお前の得意技だったからな」
「僕は死者を主に操っていたけれど、ナノマシンウイルスを持ち、生存する生き物には通じるから。
夜の力はジェネリックエルトリンデ、って感じ?」
「ジェネリック……」
「まあ、王の杖が返却されたら返してもらった精霊を入れて監視に付けとくよ。暴走しないように見張っておくから心配しないで」
苦笑いとしか言いようのない顔でナハト様は哂う。
「ナノマシンウイルスって、肉体を作り替えるだけじゃなくって、精神や魂にも影響するんですね?」
「うん。原理や仕組みは謎だけれど。
こんな風になっても、生命の摂理に関しては解らない。
人の魂や精神がどこから生まれて来るか、も」
ナハトクルム様は死と再生を司ると言われているけれど、その方でも命の仕組みは解らないんだ……。
「あれ? でもこの世界にも死の国があるんですよね? それから転生も」
「いや、だって死んだ人間の魂を、そのままにしておくのは可哀相だろう?
放っておけば暫く漂って、いずれ風化していくけれどそれじゃあんまりだから、疑似クラウドに彷徨う魂を詰め、死んだ後、記憶を漂白し力を補充して人間の胎児に宿すシステムを作っただけだよ」
この世界の『精霊神様』にかかれば死者の国も疑似クラウド、なんだなあ。ちょっと夢がない。
「人間の胎児に宿すシステム……。じゃあ、この星に生まれて来る子ども達はみんな、死者の転生、なんですか?」
「そうだけど、それだけじゃない。
人間の胎児が女性に宿って数か月はただの物体で、死んだ人間の魂を宿せば、新しい生命として生まれて来る。記憶は漂白してあるけど、魂を受け継いだ転生、と言えると思う。
でも漂白した魂が宿らない場合には、どこからか新しい魂が胎児に生まれ宿る。死者のではない魂がどこからくるかは僕も知らない。僕には新しい何かを生み出す力はないから」
ナハト様がおっしゃるには、ナノマシンウイルスに感染して以降、今までは見えなかった生物の魂がマーキングされたように見えるようになったんだって。
身体を失っても地球の為に力を貸したいという彼らの声を聴き、仲介をしているうちに、死の神みたいに言われるようになったとか。
アースガイアでは地球移民の死者の魂を集め、疑似クラウドで保管。記憶を消して新しく生まれる生命に宿るようにした。だから、アースガイア人のけっこうな数が、元地球移民の転生ではある。でも最大で80万人だから、それ以外は新しく、どこからか生まれてきた魂なわけだ。
「私は、お母様とお父様の娘の魂が、真理香先生の子どもの卵子に宿った存在、なんですよね?」
「うん。その魂にステラが真理香先生の記憶をインストールしたと聞いている」
「じゃあ、もし、私の魂が真理香先生の卵子に宿らなければ生まれたかもしれない魂。
本当の真理香先生とシュリアさんの子、とかがいたんでしょうか?」
ラノベ系にはたまにあった。転生系で、元の魂が死んだ身体に入ったとか元の魂を押しのけて地球人の記憶を持つ存在が身体を乗っ取ったとか。そんな感じで私は、本来生まれる筈だった誰かの魂も、押しのけてしまったのだろうか?
「それは、気にしても仕方ないと思うよ。
転生した魂が宿った時点で、その生命の魂となるんだから。
魂が既に生まれている身体には通常、転生の魂は宿れないしね」
この世界の転生者は、二つの魂を持つとかはないらしい。
私が特例というか、異例?
「あ、じゃあ、お伺いしたいんですが、私のお腹の中にいる子は、誰かの転生、なんですか?」
少し膨らみを帯びてきたお腹にそっと、手を触れる。
この子は、多分私とリオンが結ばれた、その時から何か意志のようなものを持っていた気がする。記憶はおぼろげだけど、何度も励まし、助けてくれような……。
「それはない」
ナハト様から返ってきたのは一瞬のシークタイムも無い否定だった。
「別に僕はどこに誰を転生させよう、なんて介入は滅多な事ではしないし、君の子どもとなれば、並の人間の魂では力や宿命に潰されてしまう可能性がある。
どんな仕組みかは解らないけれど、宿るべくして君の元に来た、運命の子だと思うよ」
「そう……ですか」
なんとなくお腹から手が離せない。
運命の子。
やっぱりどうしても、この子も精霊の定めからは逃れられないのかな。
「心配しなくても、君達の子は精霊神にとっても家族であり、娘。
何があろうと、誰があろうと絶対に守るから」
俯く私を宥める様に、慰めるようにナハト様は微笑む。
私の複雑な思いやオリジンがらみの騒動を知ってか知らずか。
「そうだな。余計な事は考えるな。
お前は、自分を母に選んでくれた魂を信じ、慈しめばそれでいい」
ぴょこんと、私の肩に飛び乗る火の精霊獣もその肉球で頭を撫でてくれた。
「お父さん……」
「私と真理香の娘はお前だ。もし、外にそうなるべき魂がいたとしても、今、ここにいるのはお前だけ。
世界を救い、導いてきたのもお前しかいない」
「ありがとうございます。お父さん」
生命は不思議で、謎が多い。
神となった方達にも解らないことがあるように完全に解明することは難しい、というかできないのだと思う。人の人生とはきっと、その不思議に挑む旅。
いつか、答えに辿り着くその日まで。
そして、どんな過程を経ても生まれた命が正義だ。
私は改めて決意を固め、心に誓った。
譲らない。私も、リオンも、お腹の中の赤ちゃんも。




