夜国 『新しい』金属
それは、画期的な提案であった。
カレドナイトと金属を複合させて、嵩増ししつつ加工しやすくするというもの。
実際、精霊国や各国に伝わるサークレットなどには、カレドナイトと金属、多分プラチナか銀との合金などが使われている。
私も宇宙空間で使える『星の翼の剣』を、『神』の指示で作ったりもした。
むしろ今まで、そういうことを誰も考えなかったのか? と不思議に感じるくらいだけど。
「最初期は国王一族以外に『魔術師』がいなかったし、カレドナイトは美しすぎて宝石としか思われていなかったし、疑似精霊石としての需要も高かったし。
色々思いついたとしても、試すことはできなかったんだろうね?」
カレドナイトの工業的利用は、アルケディウスの通信鏡が実は初めてであったという。
古代精霊国の技術書をフェイが見つけ出し、作り上げた。
今だったら、カレドナイトはナノマシンウイルスの超密度結晶体であり、向こうの世界でいうコンピューター。
データ処理機能を持つ装置であるという事が解っている。
その元は、『星』がこの大陸を作る時にマグマに混入したナノマシンウイルスで、大陸が生まれた時の火山性爆発で圧縮され、結晶化したもの、と定義されるだろう。
けれど、そもそも一般の人が簡単に手に入れられるものではない。
希少で美しい宝石として、上流社会において持つことが一種のステータスになっていたそうだ。
精霊の力を伝える疑似精霊石としての使い方が認識されたのは、不老不死社会になり、魔術師が激減してからのこと。
魔術師が使う精霊石程ではないけれど、カレドナイトを介して術を使うことができる人もいて、より重要性を増したと聞く。
確かにそんな感じだったら。
そして、カレドナイトの性質を理解していなかったのなら、工業利用とかは考えられない事だったのだろうか。
「カレドナイトは基本的に、結晶体で採掘される。
鉱山で石を砕き、纏まった大きさの原石が出るのをひたすらに探す。根気のいる作業だ。
そして結晶体は加工、研磨し、形を変えることはできるけれど、切り分けたものは再接続できないのが常識だった。だから小さいモノでもできる限り加工して、最終的には砕いて染料などに使うんだよ。
だからエルトゥリアで君の魔術。『神の指示』による剣の作成を見た時には驚いた。
カレドナイトを液体化した上で、他の金属と混ぜることができるなんて」
私は鉱石の中の微量なカレドナイトを『形を変える能力』で取り出したり、融合させて液体化することができるけれど、それは今までの各国の常識から考えると、あり得ないくらい珍しい魔術なのだそうだ。
普通、出来るのは高位の魔術師が頑張っても液体化まで。
そして、その後は固体化させることができない。
「国に戻ってから色々と研究して、宇宙空間での戦いとコスモプランダーとの戦いにおける話を聞いて。
そして、僕は一つの結論に辿り着いた」
「それは?」
「説明する前に君に頼みたいことがある。もう一度だけ、カレドナイトと金属の結合加工術を見せてくれないか?」
「ここで、ですか?」
「勿論、代金は支払う。金貨十枚を用意しているよ」
「別に、お金がどうこうという話では無いのですが……」
私の顔を真剣な眼差しで見つめる技術者さんと、魔術師さん達。
これは、断れない流れっぽい。
「ヴェートリッヒ」
今まで沈黙を守っていたリオンが、私を守るように前に出る。
神官長にして『魔王』の威嚇は、後ろに庇われている私からしても圧がスゴイ。
でもヴェートリッヒ皇子は、さして気に留めていないようだ。
「マリカの力で作った新素材を工業に使いたいのかもしれないが、それだと継続的にマリカの力を必要とすることになる。
大神官にして精霊女神たるマリカの助力を継続的に使用することが前提では、いかに通信鏡に対する新技術であっても、夫として、神官長として許容はできないぞ」
「解っているよ。勿論。
むしろ、皇女の力を使わない為に、見本であり手本が欲しいだけ。
いつまでも精霊神や精霊に頼ってはいられないからね」
『マリカ』
ぴょこっと、私の肩に、どこから現れたのか黒い子猫が飛び乗った。
アーヴェントルクの精霊神、ナハトクルム様の精霊獣だ。
「リオン、ありがとう。でも、大丈夫。やらせて」
はっきりと声を発した訳ではないけれど、分かってしまう。
力を貸してやれ。
そういう要請だ。これは。
リオンも察したのだろう。
私と皇子を見やり、スッと身を引く。
代わりに、ナハト様と一緒に私は前に進み出た。
「解りました。支払いに関する相談は後で改めて。
新技術開発の為、ということであるのなら一度だけお見せします。口外はくれぐれも禁止でお願いします」
「無論。万が一外に漏らしたら極刑もあると、ここにいる者達とは契約を交わしている」
「では……」
精霊獣が私の肩から降りたのを合図に、手をテーブルの上に差し伸ばす。
示された台の上には、大きめのシャーレのようなガラス容器。
中には親指くらいのサイズのカレドナイトと金属片が置いてある。
それに力を送り、両方を液状化。
それから接触させ、混じり合わせる。
自分でも、どういう原理でこうなっているかは解らない。
ただ、そうなって欲しいと願うだけだ。
私の呼びかけに応えてくれて。
二つの物質は不思議な虹色を放って融解し、互いに融合して、固まって水色の金属となる。
技師さんや魔術師さん達は声も無く見つめているけれど、ただ感嘆に息を呑んでいるだけではなく、いろいろと考えておられる様子。
「どう見る? スークル」
「皇子のおっしゃるとおり、皇女のお力は熱や薬品による融解や溶解ではなく、精霊が宿った物質に対して、より上位者の立場から命令するものだと考えられます。
つまり、全ての物質は精霊の宿った、意思の存在する疑似生命体であると仮定できます。
であるなら、皇子の言う通り……可能やもしれません」
「炎熱加工と両方、一度に施してみよう」
皇子は多分、腹心であるところの魔術師さんと何やら話し合ったあと、周囲で見ていた技師さん達に何かを命じた。
部屋の隅にあった炉に火が入り、フイゴなどの機械で赤々と燃え始める。
「マリカ皇女。リオン。そこで見ていてくれ。
精霊の魔術に、人の技術と知恵と工夫がどこまで迫れるか」
皇子の腕で紫水晶のブレスレットが煌めくと同時、彼の眼前に用意されていた二つの物質が不思議な光に包まれ、吸い込まれていった。
一つはカレドナイト。
結構大きな結晶だ。
そしてもう一つは、大きな金属のインゴット。
見た目では解らないけれど、銀色の感じはステンレスとかかもしれない。
二つの物質に薄紫の光が宿したのを確認して、技師さん、鍛冶師さんかな? が火ばさみでそれらを炉の中心、白い石でできた皿のようなものの上に置いた。
と同時、火が一際強く燃え上がる。
魔術師さんが小さく呪文を唱え、多分、風か空気を炉の中に送り込んだのだ。
周囲の技師さん達もフイゴで空気を送り込んだりして、高温にしようと工夫している。
鉱山国だから、金属加工のノウハウはあるのかもしれないけれど、凄いコンビネーションだ。
皆の注目を集める金属の加工は、ある瞬間に変化を始めた。
固体から液体へ。
二つの物質が融解を始めたのだ。
タイミングを見計らって杖を振った魔術師さんの力か、空中に浮いたそれらは接触と同時に結合し、一つに混じり合っていく。
さっき私がやった時のように、美しい虹色の力を放ちながら。
完全に混じり合い、虹色の球体になったところで、それはゆっくりと炉の中央、石皿に戻された。
皿に戻されたと同時に色を失っていく液体を、鍛冶師さん達は急いで皿ごと火ばさみで持ち上げ、金属の薄い箱のようなものに流し込む。
ああ、あれに似たようなものを見たことがある。
彫金の時に、金属のインゴットを作る時に使うものだ。
しゅわああ、と泡が弾ける様な音と共に、金属が固まっていくのが解る。
固唾を呑んで見守る私達の前に、冷却措置の後、それは現れた。
私が作ったものとほぼ変わらない、青銀の光を放つ合金となって。




