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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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火国 プラーミァケース検討会 前編

 結論から言うと、大祭は無事、人々の熱気と大歓声と共に幕を開けた。


 私の舞を捧げた後に生まれた幻影の樹は、舞と共に大きくなって、私が舞を終えると直ぐに消え失せた。ピークは回転の時だったらしい。


 王都全体、いや、後で聞いたらプラーミァ全体に朱金の粉をまき散らして、あっけにとられる私達の目の前で、まるで風船が弾けるように消えた。

 残ったのは小さな、小さな光の双葉のみ。


「アレはなんだ?! マリカ!」

「知りません。多分、精霊神様が下さった石が、守りの力として育ったものだと思いますけれど」


 アイトリア宮、謁見の間。

 王座から兄王様、ベフェルティルング国王が眉根を上げて怒鳴るけれど、私は首を横に振る。


 知らないものは知らない。

 舞舞台の後ろに聳え立った大きな木。アレがなんだったかなんて、私の方が知りたい。


 精霊神様は、守りの力を育てる為のもので、私が舞うことで力も育つだろう、とはおっしゃっていたけれど。

 あんなになるなんて聞いてなかった。


 民が大興奮だったので、私はそのまま宮殿に退去。

 戻ってくる時に見た楔石を埋めた場所には、花の芽のような双葉が生えていただけだ。


 こういう時に限ってピュール(精霊獣)はいない。

 詳しい話を聞きたかったのに。


「コスモプランダーとの戦いの時に散った銀の雪のように、悪いモノでは無いのは確かですから、あまり心配しなくてもいいのでは?」

「そうだな。確認できている限りで、朱金の雪が悪影響を及ぼした事例はない」


 王様は不機嫌を絵に描いたような表情のまま、お付きのカーンさんを見やる。

 と同時に書類を差し出すカーンさん。

 二人の呼吸はピッタリで、正に阿吽の呼吸だけれど、今はそんなことに気をとられてはいられない。


「むしろ、あの場で舞を見て、雪に触れた者は皆、身体の調子が良くなったと喜んでいたし、宮殿の花壇の花も農作物も元気になっているという報告がある。

 今、情報が届いているのは王都近辺だけだが、調べさせれば国全体で同じような結果が出るだろう。精霊神様のお力と祝福であるのは間違いない。

 残された芽は保護を行い、大切に育てる」

「ありがとうございます。

 なら、問題はないですよね。

 そろそろ退室して、着替えても良いでしょうか?」


 静かに頭を下げる。

 フィリアトゥリス様との約束の時間に遅れてしまう。


 今回の件については後で、アーレリオス様に確認すればいい。

 それよりも今は、ガルディヤーン君の事が心配だ。


「疲れているんですけど。舞踏会前に約束もありますし」

「その約束とやらは舞踏会の後にしろ」


 けれど、そんな私の思いを兄王様は粉砕するように命じてきた。


「え?」

「話は聞いた。私も話し合いに参加する。ガルディの教育計画を立てているのは私だからな」

「そう、なんですか」


 思わず口ごもってしまう。

 国王陛下直々の差配という事になると、ちょっと厄介かも。


「でも、あんまり手荒な真似はしないで下さいね」

「善処する」


 そういう訳で、大祭始まりの宴の後、私達は小応接室へと集まったのだ。


 幸い、舞踏会は特筆するようなことはあんまりなかったから割愛。

 私は国王陛下と王妃様の横の椅子に座って、貴族達の挨拶を受けていただけだし。

 リオンや私を見る目が、今までどこか獲物を狙うようだったのが、完全に敬服モードになっていたことくらいしか、気になる所もなかったしね。


 で、祭りの後の三者風面談。


 私とリオンとガルディ君。

 お父さんとお母さんであるグランダルフィ王太子とフィリアトゥリス様。

 そして国王ベフェルティルング様に王妃様。おまけに王太后様までいる。


 まあ、家族の話だから、当然と言えば当然だけれども。


 ガルディ君はリオンの横で、ずっと俯いていた。

 少し時間が遅くなって、眠くないかなと心配したけれど、舞の興奮と緊張からか、しっかり目を開けている。


 私が戻った時には、


「すごいです! マリカおばさま! あんなにせいれいがあつまって、よろこんでいるまいを、はじめてみました!」


 と褒めてくれた。

 でも、開口一番。


「ガルディ!」


 兄王様が怒声を上げた瞬間、ピクン! と身体を震わせて縮こまる。


「務めである勉強をさぼり、部屋を抜け出し、挙句の果てにマリカの部屋に潜り込んで密入国を企てた、だと!

 お前は一体、何を考えているのだ!」

「ごめんなさい。おじいさま!」

「お前は、次次代を担うプラーミァの後継者なのだぞ。

 今後育ってくる新時代の子ども達の手本になり、率いて行かねばならぬ。

 甘えたことなど言ってはおられず、王になる者として学ばねばならぬことがたくさんあると、何故解らぬ!」


 怒り心頭といった感じで孫に怒鳴りつける兄王様。


 距離は離してあるし、机もある。

 手を上げることはないだろうけれど、子どもにとって大人からの怒声は、それだけで怖いものだ。


「お止め下さい。国王陛下。

 手荒な真似は御遠慮下さいと申し上げた筈です」


 だから、私はきっぱりと制止して睨みつける。


「部外者は黙っておれ。これはプラーミァ王家の問題だ」

「いいえ。黙りません。

 今、兄王様がおっしゃったとおり、新時代の子ども達のこれからを左右する重要な話し合いなのですから」

「陛下。ここはマリカ皇女が求められた話し合いの場です。

 いかに陛下が王族の行動、教育に責任を持つ立場であらせられるとはいえ、まずはマリカ皇女のお話を聞くべきではないでしょうか?」


 賢夫人と名高い王妃様は、そう言って陛下を宥めて下さる。


 微かに鼻を鳴らし、椅子に腰を下ろし直す兄王様。

 少しは話を聞いて下さる気になったのだろうか?


 でも、そうか。

 基本的に王室の子どもの教育や行動は、親よりも当主である国王陛下の意見が優先されるのか。


 さっき、ほんの少しだけフィリアトゥリス様に伺ったけれど、三歳になって王族としての教育が始まってからは両親と引き離されていて、朝の食事の時と夜の就寝の挨拶の時以外は、殆ど会えないんだって。


「ガルディがそこまで思いつめ、苦悩していたとは知りませんでした」


 フィリアトゥリス王太子妃、グランダルフィ王太子も、心配そうな表情と共に兄王様や王太后様の顔を窺っている様子が見える。


 アルケディウスは皇王陛下がそういうことにあまり口出しをされない方だったので、中世異世界における家長の権力というものを、私はあまり実感していなかった。


 私は横に座り、小さくなっているガルディヤーン君を見る。


 本当に自由奔放。

 元気で良く跳ねまわる、スーパーボールみたいだった半年前とは別人だ。


 王族としての教育方針とか、未来の国王として学ぶべき事があるのは解る。

 でも。


「ガルディ君の教育方針は、今後のプラーミァのみならず、不老不死後の王族の指標となることが考えられます。

 どうか、冷静な判断をお願いいたします」


 ガルディ君が厳しい教育に耐えられ、優秀で我慢のできるいい子であっても、今後生まれて育つ他の子はそうとは限らない。


 ううん。

 ガルディ君にだって、もっと年齢に相応しい教育というものが必要な筈だ。


 無理をして心が壊れてしまったら、取り返しがつかない。

 だから今、ここでちゃんと勝ち得ておかなければならないと思う。


 子どもの人権を。


 兄王陛下がとりあえず黙って下さったので、説明を始める。


「ガルディ君は今朝、私の寝室に置いてあった荷物の中に忍び込み、隠れていたところを発見しました。

 お話を伺ったら、双子ちゃんに会いにエルトゥリアに行ってみたかったから。

 自分と、お友達で世話役のドゥルーディーク君以外の子どもに会ってみたかったから、ということでした」

「何故、ガルディヤーンが王子の部屋を抜け出し、其方の部屋に行けたのだ? 男子禁制だぞ」

「三歳なのに、もう男子棟で生活しているんですよね。ガルディ君」

「一人ではなく、世話をする侍従やメイドは多く付けているがな」

「その件については後で。

 色々な問題点が関わって来そうですから」


 私もグランダルフィ君から話を聞いた時には、なるほど、と思った。

 意外な盲点だったから。

 三歳でそれを利用する頭の良さと胆力は流石だと思うけれど。


「リオンがガルディヤーン君と話をして、私も事情を聴いた結果、別の問題も浮かび上がってきました」

「別の問題、だと?」

「はい。はっきり言って、幼児教育に関する意識と認識の違いです。

 三歳になったら、王族の一員としての教育を始める。

 それはまあ、問題ないと思います。

 今までの乳児、所謂赤ちゃんの時期から成長して、様々な知識や社会性を獲得し始めるのは、確かに三歳前後からですから」


 個人的には、もう少しゆっくり始めてもいいとは思う。

 せめて五歳とか七歳とか。


 それくらいになると自意識もしっかり育ってきて、自分の気持ちを言葉に出せるようになる。

 三歳だと、まだその辺は難しい子も多いから。


「ですが! その量とやり方が問題です!!」

「量とやり方?」

「そうです! ちょっとこれを見て下さい!

 ガルディ君、ちょっとごめんね」


 私は綺麗なテーブルに申し訳ないと思ったけれど、ガルディ君を抱き上げると、その上に立たせて服の背中を捲り上げる。


 そこには、薄いけれど、良く見れば解る赤い筋。

 鞭打ちと思われる跡が、はっきりと何本も残されていた。


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