火国 精霊神の願いと依頼
まるで、ファンタジー世界のミラクルアイテムのように、私の目の前でくるくると七つの宝石が躍っている。
いや、この世界も中世で剣と魔法のファンタジー世界ではあるけれど。
緑、青、水色、黄色、赤、橙、紫。
ほぼほぼ虹の七色の石が煌めく様は、まるで万華鏡を見ているようだ。
やがて石は私の掌にスーっと降りて来る。
両手で器を作って受け止めると、かちゃりと軽い音を立てて、間違いなく宝石になる。
「なんですか? これ?」
「楔石だ。各国の精霊の力を高める力がある」
ずっと見ていたいけれど、見惚れている暇はない。
私が顔を上げて問いかけると、いつものようにアーレリオス様が代表して応えてくれた。
「楔石?」
「ナノマシンウイルスの結晶石、カレドナイトの親戚だと思えばいい。方向性を与えられる前、ステラの精製したナノマシンウイルスの高密度結晶体がカレドナイト。我々の力の結晶がそれだ」
「人間社会に残されていた魔法石と似た感じですか?」
今現在、アースガイアには電球がない。
電気そのものはキュリッツオ様が復活してから少しずつ生み出されるようになってきているけれど、電球を向こうの品質で作ろうと思うと工業的にかなり難しく、まだ大量生産もできないので実用化はかなり遠そう、という話。
その代わりに人間社会にあるのは、火や光の魔法石。
人間が姿を変えて、杖やアイテムに取り付けられた精霊魔術の媒介、精霊石とは別物。
便利なファンタジーアイテムだ。
古い、精霊神様が人型をとって人間社会に降りたり、王族魔術師や魔術師が多くいた時代、魔法石が作られて人々の生活を助けたという。
各国王城にあるエターナルライトの魔術のかかったシャンデリアや、カンテラなど。
新しく人間が作ることはできないけれど、それなりに数があるから、一般にも持っている人が多い。
力が無くなったら、例えば水の魔法石なら水の中に。火の魔法石なら火の中に入れておけば、また使えるようになる。
繰り返し使えるので、代々、財産として大事に使っている家が多いそうだ。
お城のように大掛かりな魔法の品は魔術師がスイッチを入れる必要があるけれど、小さなものなら人が念じれば使えるのでお手軽だし。
私は持っていないけれど。
「一緒にしてもらっては困る。あれはおもちゃのようなもの。これは我々自らが、力を結晶化させた高密度結晶体だ。ある意味、我々の身体を切り分けたようなものだな」
「身体を!」
「別に腕を切ったとかそういう訳じゃないから、心配しないで。
言ってみれば切ったのは髪の毛? 直ぐにまた補充されるから」
「それならいいですけれど、なんでこんなものを?」
「万が一かもしれんが、またアースガイアを襲うような脅威が現れた時に、押しとどめ、大陸を守る為に用意しておこうと思ったのだ」
「今までは作らなかったんですか?」
「第一に、作るのに時間と手間がかかる。
第二に、作った後、外の大地に埋めなければならない。
第三に、埋めた後、人間の気力を与え、起動させなければならない。
第四に、自国だけでなく大陸全体を守ろうとするのなら、順番を守らないといけない。
発動させられれば効果は高いが、手順が面倒でな。今までできなかったのだ」
「順番?」
「そう。例えばプラーミァを第一の起点にするのなら、次はアーヴェントルク。それからエルディランド、ヒンメルヴェルエクト、フリュッスカイト、シュトルムスルフト、アルケディウスと順番に回る必要がある」
アーレリオス様が指で線を描いて下さったから解ったけれど、要するに二国飛ばしで作る七芒星だ。
魔術結界を作るというのであれば、なるほど効果的なのかもしれない。
それと同時に気付いた。
「……それって、私が去年、回った大祭の順番ですね」
「ああ。各国王族には事前に、その順番で大神殿に要請するように伝えてあった。
実験的ではあったが、精霊の力が活性化され、比較的余裕を持ってコスモプランダー対策に当たることができた。
成果は出たから、今年、楔石と共にお前が舞を捧げてくれれば、大地の精霊の力は活性化され、農作物の収穫も期待できるし、何かあった時に、お前の力になれるかもしれない」
「私の、力にですか?」
「ああ。コスモプランダー討伐で無理をさせた礼をしたいと思っているのだ。
まあ、そなたの力を当てにしているから、完全に礼になっているかといえば、難しい所だが」
軽く肩を竦めたアーレリオス様。
でも、目は真剣な光を宿している。
そういえば『神』様達は言ってたっけ。
オリジンについて、精霊神様達とも相談すると。
相談の結果のお礼がこれであるというのなら、やっておいて損は無いのかも。
私は無意識に石を握りしめた。
かちゃり、と石同士が触れあう音が妙に耳に響いた。
「解りました。石を舞を行う前、仮設舞台の側に埋めて、その上で踊ればいいんですね」
「そうだ。場所も指定して、準備もさせてある。
植えた種に水をやるように、其方が力を送れば石は目覚めて、国と星の護りとして育つだろう」
他の意図があるのかもしれないけれど、今は互いに言わない、言えない。
ただ……。
「私は、いや、我々は、お前を守る」
「あー……いえ、お父さん」
アーレリオス様が、私をその大きな腕で抱きしめる。
リオンと同じようで全く違う、父の抱擁は強く、優しい。
まるで親鳥の羽の下で守られているひな鳥の気分だ。
「必ず、絶対、何があろうとも。
誰を敵に回そうと、お前を守って見せる。
だから、お前は我々と、共に生きて来た仲間達を信じて、今後も輝いていて欲しい」
「はい……ありがとうございます」
他の精霊神様も、アーレリオス様の様子を茶化したりはしない。
温かい家族のような眼差しで、私達を見守ってくれていた。
その後、簡単な打ち合わせと今後の事について話し終わったあと、思い出したので聞いてみる。
「そういえばピュールは? もう出して下さらないんですか?」
「お前が望むなら用意するが、妊娠した者の側に獣を置くのもどうかと思ってな」
「大丈夫ですよ。本物の動物ではないし、今後生まれる私の子どもも、できれば一番に祝福して、守って欲しいですから」
「解った。感謝する」
お父さんの顔に浮かぶ、照れたような、でも確かな喜色が見える。
ちょっと嬉しいかも。
「いいよなあ。アーレリオスは。俺も他国の様子とか見てみたいのに」
「別に構いませんよ。一緒に来て頂いても」
「ホントか?」
「ダーメ。少しは自重しよう。ジャハール」
身を乗り出しかけたジャハール様の首根っこを掴んで止めたのはラス様だ。
アーレリオス様も眉を顰めている。
「子どもみたいなことを言うな。ジャハール」
「ただでさえ、新婚生活にお邪魔ムシは少ない方がいいのに、そんなに何匹も動物を連れ歩いたら、マリカは聖なる乙女じゃなくって、獣使いになっちゃうよ」
「ちぇっ。ラスだって一回は精霊獣作って、マリカと旅したくせに」
「だから、これでも我慢してるんだよ! 解れ!」
弟たちのじゃれ合いと嫌味に、アーレリオス様は頭を抱えているフリをしているけれど、本心では、こんな当たり前の家族のような会話を、きっと楽しんでおられるのだろう。
それは、他の皆様も同じ。
普段は自分の領域で、孤独の中、子どもを守る日々。
その中で、仲間とのささやかな一時はきっと救いなのだ。
「!」
「? マリカ? どうしたの?」
「なんでもありません。皆さんの、こんな姿が見られることが少し嬉しくて」
「ごめんね。君の前ではどうしても『神』のメッキが剥がれてしまうようだ」
「私の前ではどうぞご自由でいらしてください。リオン以外、誰にも言いませんから」
うん。
皆さんは『神』なんか向いてない。
小説やマンガなどでは最高位に書かれているけれど、『神』なんて存在は、幸せになれない代名詞のようなものだ。
今は、この優しい神々が消えることは考えられないし、考えたくも無いけれど。
それでもいつか。
この方達が全ての役割から解き放たれ、真理香先生や海斗先生の元で、幸せに自由に笑える日が来て欲しいと、心から私は思ったのだ。
私の中のオリジンは……反対のようだけれど。




