火国 精霊神達からの感謝と依頼
私が、疑似クラウド。
薄紅色の無重力空間にて神々の居場所に招かれた時、そこには七精霊と呼ばれる方達が全員揃っていた。
「皆様、お揃いだったんですね」
プラーミァの精霊神アーレリオス様は、この領域の主だから当然だとしても、木の精霊神ラスサデーニア様、水の精霊神オーシェアーン様、地の精霊神エーベロイス様、風の精霊神ハジャルジャハール様、光の精霊神キュリッツオ様、夜の精霊神ナハトクルム様。
全員がアーレリオス様の背後でふわふわと浮かんでいた。
満面、ではないけれど、穏やかで確かな笑みを浮かべて。
「ああ。宿敵であるコスモプランダー殲滅を為しえた功労者に、どうしても一刻も早く礼が言いたい、とな」
「むしろ、こちらからお礼を言いに行くべきだと思っていたんですけれど」
私が七国の大祭の舞を引き受けたのは、その為もある。
でも、精霊神様達は一様に優しい眼差しを向けながら首を振る。
「君が来てくれて、舞を捧げてくれるのは勿論楽しみではあるけれど、それと礼は別の話だからね。
マリカ。ありがとう。コスモプランダーを斃してくれて」
そう言って、私をぎゅっとハグして下さったのはラス様で、他の皆様も口々に言葉と思いを繋げていく。
「失われたモノは戻らないけれど、少し、スッキリした。僕達にとって一つのけじめはつけられたと思っているよ」
「本当は、俺達自身が止めを刺してやりたかった。けど、今は一番のやり残しが終わって爽快な気分だ。まるで、何の障害物も無くなった空を飛ぶような」
「真理香の最期を看取ってやれたことも、嬉しかった。もし、お前が最後まで彼女を守る事を諦めずにいてくれなかったら、きっと彼女は孤独のまま滅んでいただろう」
「彼女の魂はカサルティオルよりももっと高くて、遠くに上がって行った。それは、とても誇らしいことだ」
「不老不死世も終わって、生命の循環も回り始めた。これからアースガイアは本当の意味で新しい歴史を紡ぎ出して行く。我らの想像を超えた『星の娘』に、心からの感謝と敬意を捧げよう」
精霊神様達の感謝の言葉に、私はようやく実感が湧いて来た気がした。
コスモプランダーを斃せたことに対する喜びと安堵が、胸の中に広がっていく。
だから、同時に心の奥にもやもやっと沸き立つ、不快感というか、苛立ちは……多分、私のものではないのだろう。
「マリカ。お前の能力者としての力は、既に我々が生身の身体を持っていた時のそれを超えている。生来の力もある。
望むなら、神々を含むアースガイアの全てが、その足元にひれ伏し、思いのままに動く。その力を、お前はもう持っている」
「神々って、『神』や『星』も入るんですか?」
「おそらくな。今の精霊の中で、お前の要請に逆らえる者はいない。
借りがあるという心理的なモノも理由になるが、物理的にもお前は我々の上位者であると言える。
望みと願いがあるのなら、我々の力で為しうる限り叶えよう。
子らの命を奪う。それ以外であれば」
「……別に、今は何も望むことはありません」
大きく深呼吸。
口から零れそうになる何かを呑み込んで、私はそう告げた。
告げることができた。
良かった。
「皆様には、叶うなら、いつか来る終わりの時までアースガイアに生きる地球の子ども達に力を貸して頂ければ」
「ああ、解っている。真理香とも約束したしな」
噛みしめる様なアーレリオス様の返事に、私はふと、思う。
「真理香先生は、役目から解放されて彼方へ旅立たれました。
……もしかしたら、皆様もそれをお望みなのでは?」
肯定の意思はない。
けれど、明確な否定の言葉も無い。
微妙な空気と笑みは、私の問いに対する精霊神様達の思いを告げていた。
皆様も、きっとお疲れなのだ。
生まれながらの神、神話や伝説の存在だったらまた違うのだろうけれど、この世界に人として生まれながら、自ら望んだのでもないのに運命に繋がれた皆さんには、きっと『神』と呼ばれる地位は重責なのだと解る。
解放されたい、終わりたいと心の奥で願うくらいには、きっと。
役目を終え、自由の空に飛翔していった真理香先生を見送った今は尚更。
でも、私は皆様を失いたくないし、この星の子ども達には、まだもう少し『保育士』の助けが必要だと感じる。
「でも、まあ。真理香先生の飛びっぷりがあんまりにも見事だったから、羨ましいと思う反面、まだまだ俺達には届かないな、って解ったんだよな」
「少なくとも、もう少し、この星の子ども達が精霊の力無しに生きられるようになるまでは頑張るよ」
「よろしくお願いします。これから、本格的に地球文化も復活していくでしょうし」
「そうだな。最終目標は、子らが『自分の力』で宇宙に飛び立つまで、かもしれん」
アースガイアは、地球よりかなり有利なスタートから始まっている。
精霊古語の書物などでヒントは残されていたし、今回の襲撃で宇宙船や人型ロボなども見る機会が生まれた。
宇宙船を見て、自国での再生を誓ったというフリュッスカイトの大公閣下は強火だとしても、車の試作品もでき、ゴムも流通し始め、通信鏡も徐々に広がりつつある今。
生の記憶を持つ地球移民達が増えるに伴い、地球文化復興を求める動きはますます増えて来るだろう。
地球では、ナノマシンウイルスが無くても、人は科学や化学でそれを補って生活を豊かにしていた。
最低でもそこまでに届けば、『神々』に頼らなくても生きて行けるだろうか?
で、ふと、思った。
「今のアースガイアのナノマシンウイルスって、『星』様が生み出しておられるんですよね? 自己増殖とかはできないんです?」
「人や生物に取り込まれた分は、『気力』を消費して体内で維持されている筈だ。
ステラが生み出すのは、待機中に生まれる無色の力。人々の生活を豊かにする為の、言わば魔法の力、だな」
「無機物に宿ったり、指向性を与えられていないウイルスはそう長くは持たないんだよ。
だから、ステラは常に新しいナノマシンウイルスを生み出して、星に放っている」
基本的に、生命の中にあるナノマシンウイルスは、その生物の『気力』を使って有り続け、宿主を守る。
体内でどんな仕組みで維持されているのかは、精霊神様達にもよく解らないんだって。
「アースガイアで今まで、病気とか目にしたことが無かったのは、体内のナノマシンウイルスが補助しているからなんでしょうか?」
「多分ね。ただ、これからは軽い病気とかは出て来るかもしれない。
ナノマシンウイルスを維持する『気力』があれば、病原菌とかは弾き返せるけど、加齢や外傷によって生命力が低下すれば、体内でナノマシンウイルスを維持できなくなる可能性があるから」
「我々の力では傷を治したりすることはできない。体内にあるナノマシンウイルスの維持はともかく、精製も増幅も、質が違いすぎて不可能だからな」
「レルギディオスも、子どもの気力、言わば生命力の低下によるナノマシンの機能不全は、多分どうしようも無かったと思うよ。
『星』と和解して、精製と増幅のコンボが可能になって、ようやく回復魔法をこの世界に生み出せるようになったわけだから」
精霊神様達は、完全にロックが解けたのか、色々と精霊についても秘密を話して下さる。
基本的には理解できるし、筋は通っている。
でも。
なんだか何かが違うような、見落としているような、そんな気がしてきた。
「前にも言ったけど、僕達もナノマシンウイルスがどんな仕組みで、どういう風に生まれて来るのか、はっきりと解っている訳ではないんだ。
ただ、操ることはできるから、そうしているだけ」
生物の体内におけるナノマシンウイルスの仕組みは、向こうの世界の免疫とかと似た感じで、元の生命体の力がナノマシンウイルスによって、より強化されている感じ、なのだろうか?
不老不死世は、ナノマシンウイルスの混じった人の身体そのものが、『神』の力でコーティングされていた感じで、傷ついたり衰えたりすることが無かった。
今は、そのコーティングが取れて生身に戻った。
だから、自分の身体をフォローするのは自分自身だけになったのだ。
今後、人の力でなんとかできる範囲を超えた傷などについては、『神官』に『神』が与えた増幅の力、回復魔法でフォローすることができる。
フォローが無ければ、その人間の持つ力のみで対処するので、気力、体力が失われたり、限界を超えたら死亡する。
基本的な生命の理については、向こうも、こちらも変わらないということなのかもしれない。
同じ種なのだし、納得はできる。
でも。
明確に言葉にはできないんだけど、なんだろう?
このモヤモヤ感は。
私の中にいるというオリジンが、違う、とでも言っているのだろうか?
呼びかけたりはしないけど。
口に出しもしない。
刺激するなと言われているし、精霊神様達に気付かれたと思ったら、何かしでかしてくるかもしれないし。
こうして私が思って警戒している事自体も、オリジンにはお見通しなのかもしれないけれど……。
う~ん。
「それで、マリカ。頼みがある」
「はい。なんでしょう?」
悶々と悩んでいた私は、アーレリオス様の言葉に顔を上げる。
一度、気持ちを切り替えよう。
どうせ答えは出ないのだ。
「これから、お前は七国の大祭を巡って、舞を奉納するな?」
「はい」
「ならば、各国にてやって欲しい事がある」
「やって欲しい事? なんでしょう?」
「舞を舞う前に、その地にこれを埋めてきてくれ」
「これ?」
小首をかしげる私の前に、投げ渡されるように飛んできて浮かんだのは、不思議な色合いを放つ、七色の宝石だった。




