火国 大祭前の訪問
夏の大祭は、社交シーズンの開幕。
各国とも、できれば早く行いたかったろうな、と解っている。
あと一週間、復帰が遅かったら私抜きで始めなければ、と準備をしていたのも。
だから、私の予定を確保した時点で、各国本格的に日程を決め、大貴族達に連絡を向けたのだという。
職務復帰翌週の火の日。プラーミァ。
「改めて。ようこそ。プラーミァへ
待ちかねていたぞ。マリカ大神官。リオン神官長殿」
「この度はお招きいただきまして、ありがとうございます。
プラーミァ国王ベフェルティルング様」
久しぶりのプラーミァ。久しぶりのアイトリア宮殿。
心地いい暑さと輝ける宮殿の来客用玄関広間、
私が挨拶すると御自ら出迎えに来て下さった国王陛下は嬉しそうに、うむ。と頷いてくれた。リオンは私の後ろに立つ。今回のリオンの立場は私の夫兼護衛騎士だ。
黒の騎士装束が良く似合っている。
魔王体のままだけれど、角を頭巾で隠しているので、目元の刺青模様以外は、そんなに悪目立ちはしない。と思う。各国王様達には王子様達から話が通っているし、神官長として『神』の代行者として、もういくつかの儀式も取り仕切っているから、外見の変化に後ろ指をさされたり、怯えたりも、少なくとも王家の方達には無さそうだ。
「本当は、全ての憂いが消えた今年こそ、プラーミァの祭りを楽しんでほしかったのだが妊娠中とあれば仕方ない。
其方にはいつも負担をかけるばかりで申し訳ないが、星を救った精霊女神の顔を、どうか民にも見せてやって欲しい」
「精一杯努めさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」
今回の大祭、各国への滞在予定はほぼ日帰りなのだけれど、プラーミァには最初という事もあり一泊の滞在許可が最初から下りていた。プラーミァに許可を出すと他の国も、と言う事になるのは解っている。でも、日帰りの日程は基本、私の負担軽減の為のものなので、私が泊ってきたいのなら泊っていい、と言われた。
一泊でも夜をその国で過ごす、というのはやはり親密度がアップするし時間に余裕もできるから。軽く打診したら各国とも乗り気なので、多分、アルケディウス以外は全日程、一泊二日になることだろう。
「宙での戦い以来ですね。お元気になられたようで何よりです」
「グランダルフィ様。その節はお世話になりました。ちゃんとした挨拶も御礼もままならない状況で、帰国させてしまったことを心からお詫び申し上げます。
本来でしたら、せめて何か、感謝の意を示したかったのですが」
「いえ。感謝を示すべきは、むしろ我々の方。
星を救った真の英雄はマリカ様とリオン殿、そして叔父上だというのに凱旋の栄光も、民の喝采も我々が横どったようで、居心地が悪かったですね」
「皆様は、喝采を受けるに相応しい活躍をなさったのですから、遠慮などなさらずとも」
「でも、この大祭でやっと皆、マリカ様達に感謝の気持ちを表せると喜んでおります。
民の、そして我々の感謝をどうか、お受け頂ければ幸いです」
「ありがとうございます」
まったく未知の技術体系で作られた宇宙船を操り、宙に行ったのだ。胸を張っていいと思うけれど、王子様達も色々と思いがおありのようだ。
私も、精霊女神だ、なんて過分な名前を貰って称えられるのは居心地が悪いから同じなのかもしれない。でも、民にはやっぱり解りやすい『英雄』が求められるのも理解できるので……。難しいね。
「マリカ様」
「フィリアトゥリス様。お久しぶりでございます」
「本当に。待つだけの日々は、とても長く感じました。
ご無事のお戻りと、プラーミァへの来訪。心より嬉しく思います」
グランダルフィ王太子様の横で王太子妃フィリアトゥリス様が微笑する。
腕には本当に生まれたばかりの赤ちゃんが抱かれていた。
そして足元には燃える炎のような赤毛の男の子。三歳~四歳くらい。
こっちは覚えている。
「ガルディヤーン様。お久しぶりです。私の事を覚えておいでですか?」
「ほら、ガルディ……」
膝を折り、目線を合わせたガルディ君は、可愛らしくも丁寧なお辞儀を返してくれる。
「マリカおばうえ、プラーミァへようこそ」
「まあ、上手な挨拶ですね。最後に会った時は、まだこんなに小さかったのに」
確か、最後にプラーミァに来てガルディ君に会ったのは、不老不死解除前だったと思う。その後、秋の大祭に来たけれど、あの時は舞を納めて、会議をして、精霊神様と話して、と大忙しだったから。
あれから一年は経っていないけれど、半年は軽く過ぎた。
あの頃は完全な赤ちゃん、というか周りが見えていない子どもだったけれど、だいぶしっかりしてきたなあ、って思う。
プラーミァの民族衣装を着て、ご挨拶。
ちょっと緊張したような様子がとてもかわいい。
おばうえ、はちょっと引っかかるけれど。
従兄妹の子どもが従叔母に対して他の呼び方はできないだろうから仕方ない。
お姉さん、って呼んで。なんて言わない理性は私にもある。
「そちらが、第二子でいらっしゃいますか?」
「はい。王子が戻って来て間もなく、木の二月に生まれました」
「可愛いですね。女の子ですよね?」
「はい。シェルティヤンカと名付けました」
まだ、三か月。首も座っていない小さな赤ちゃんは触ると壊れそう。
でも、とても愛らしくて、見ているだけで幸せな気持ちになる。
「世継ぎの王子に、聖なる乙女。
後継者もできて、プラーミァはますます安泰ですね」
私がそう声をかけると、どこか照れたような国王陛下が、我が子、孫たちを見つめ頷く。
「ああ。各国世代交代も進んでいるので、グランダルフィに王位を譲り、私も移民地の統治を手伝おうかという事も考えている。そんな直ぐの話でもないが」
外見年齢は不老不死のせいで二十代のベフェルティルング国王陛下。
七国で一番若いとされていただけに、引退の話はちょっと早い気がするなあ。
「まだ、お早いのではありませんか?」
「若く見えても、なんだかんだで五百年政治を執ってきたからな。
まあ、その辺の話は後にしよう。其方に無理はさせられんし『精霊神』様もお待ちであろうからな。今年は式典の前に行くのか?」
「はい。コスモプランダー討伐後の御挨拶もまだでしたので」
「解った。いつも通り奥の間を使うがいい。『精霊神』様には私からも感謝を伝えて貰えるとありがたい。日々、祈りと感謝の思いは捧げているが」
「かしこまりました」
「夕飯はフィリアトゥリスの産後の初仕事。
料理の差配を行った。妊娠中の其方の為に色々と工夫しているようだ。期待するがいい」
「はい。久しぶりのプラーミァ料理を楽しみにしております」
最近、各国の個性が出てきた料理は実際、訪問の楽しみだ。
つわりが落ち着いたら、最近食欲が凄くなってきた。
プラーミァの料理は、スパイスをふんだんに使うので、少し刺激的だけれどフィリアトゥリス様が差配して下さるのなら大丈夫だろう。
そうしていつもどおり、王族のプライベートルームにある、元お母様の部屋をお借りして一息ついたあと。私は身支度を整えて神殿に向かった。
最奥の精霊石の間に入り、中に入ったとほぼ同時
「わあっ!」
待ちかねていたというように私は穴に落っこちた。
アリスのように。
疑似クラウドの中に引き込まれた私はそこで
「よく来たな。マリカ。
まずは、皆を代表して礼を言おう。我らが悲願を成就させてくれたこと、心から感謝する」
お父さんと、七人勢ぞろいで私を見つめる精霊神様達と再会したのだった。




