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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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魔王城 地球移民達の今までとこれから

 アマンダは、俺の彼女だった少女だ。


 同じ学校の一つ年下。

 移民として選ばれて船に乗ったのは、彼女の方が先だった。

 若いということもあったけれど、市長の姪だったから。


 自由の国と言われたアメリカ。

 けれど、命の順番にも明確な基準があった。


 白人、それも上流階級の者が最優先。

 次に一般市民の白人、黒人、有色人種。

 移民の子などは、かなり後回しだったと思う。


 それでも、俺達は確定圏内の年齢だったから、先か後かの違いはあっても、移民船に乗れる順番は回ってきた。

 ボーダーライン上にいた連中とは違って。


「大丈夫。必ず、また会えるわ」

「移民先で会ったら、また一緒にチームを組もうぜ」


 今思えば夢のような約束を交わし、人種や出身国ごとに別の移民船へ分けられ、冷凍睡眠に入った日のことと、仲間達の顔を思い出す。


 一年前までは、SFの中の話でしかなかった宇宙移民と冷凍睡眠。

 それを自分が体験することになるなど、思いもしなかった。


 緊張の中、コスモプランダーとウイルス感染の恐怖から逃れるため、俺は目を閉じた。

 置いていく家族や、地球の未来には気付かないふりをして。


 あのまま永遠に目覚めない可能性もあったのだと、今思うとゾッとする。


 それでも、とにかく俺は無事に生き延び、新しい土地での生活を始めた。

 ラールの言う通り、不自由はあっても、安定した生活を送れるようにはなった。

 そして今、他の友人達のことが気になり始めたのは、当然のことだと思う。


 世話役達には聞けなかった。

 彼らは皆、この星の住人だ。地球移民の事情には明るくないことは解っている。


 今日出会った皇女になら、聞けたかもしれない。

 けれど、彼女はあまりにも人気があり、立場も遠すぎて、まともに話をすることさえ難しかった。


 だから俺は、ここにやって来た。

 少なくとも俺よりは事情を知っているであろう、仲間の元へ。

 そして奴は、感情の見えない、いや、感情を抑えたのだろう静かな声で答えた。


「アマンダ達は死んだ。もう、この世のどこにもいない」


 と。

 その瞬間、「どうして!」という思いと、「やっぱり」という感情が、両方一気に溢れ出した。


「もしかしたら、死を司る『精霊神』の元で、新しい命に転生しているかもしれない。

 でも、少なくとも俺達が知っているアマンダやテリー、リチャード。エリックやミオルは、もうこの世にはいない。

 数百年も前。もしかしたら、千年も昔に生きて、死んでいったんだ。

 この星の礎となって」

「千年……って、まさか?」


 ラールは静かに、諦めたように口にする。

 奴の言葉に嘘は無いと解るからこそ、手が、声が震えた。


「俺達の移民船は、事情があって船団から離れてしまったって聞いた。

 船と俺達を預かったレルギディオスは、必死に合流を目指して、やっとの思いで俺達をこの星に連れて来た。

 けれど、先に新しい星を見つけた移民船団が到着してから、既に何百年も経っていたんだってさ」

「嘘だろ?」

「この大陸、アースガイアが七国に分かれているっていうのは習った?

 八機の移民船のうち七つが、それぞれの国になったんだって。ステラの船は、この移民地エルトゥリアになったらしいよ」

「じゃあ、アマンダ達は……」

「俺も、はっきり聞いたわけじゃないけれど。

 船がこの星に辿り着くまでに数百年。

 それから目覚めるまでに、また数百年の時差があったそうだから。

 先にこの星へ辿り着いたアマンダ達、初代移民は、大地を開拓して、家や畑を作って、根を下ろして。

 今、この大陸で暮らしているアースガイアの住民達の祖になったんだと思う」


 もう死んだ。

 この世にはいない。


 ラールの言葉が、重くのしかかる。

 俺が不自由だと愚痴を零した、中世異世界。

 けれど、アマンダ達はその世界を作るために生きて、働き、そして死んでいったのか?


 俺達の面倒を見ている世話役達は、もしかしたら、アマンダ達の遠い子孫なのかもしれない。


「冷凍睡眠に耐えられず、旅の途中で死んだ者もいる。

 先に目覚めて、アマンダ達のようにこの星で生きて、死んだ者もいる。

 俺が知っているのは何人かだけだけど。

 エリックは、宇宙での旅の途中で。

 ミーナは、俺よりも早く目覚めて。

 そしてミオルは……この星で、勇者を守るために死んだ」

「それ……じゃあ……」

「ああ。

 今ある、この穏やかで豊かなアースガイアは、それを築き、育て、守るために努力し続けた人々の、血と命でできているんだ」


 頭の中が、真っ白になった。


 幾度となく地球と比べ、不便だと思った新世界。

 与えられることを甘受していた、平穏な日々。

 それは、かつて仲間だった者達が積み上げ、努力の果てに築き上げてきたものだったのだ。

 永い冷凍睡眠の果てに、俺は忘れていたのだろうか?


 いや。

 気付いていた筈だ。知らされていた筈だ。


 あの、コスモプランダーの襲撃の時に。

 当たり前の日常というものは、当たり前ではない。


 ちょっとしたことで、儚く壊れるガラス細工。

 失った時に初めて気付く、美しく、かけがえのないもの。


 一度壊れれば、取り戻すのは容易ではない。

 それは、多くの人間が努力と叡智を結集し、勝ち得てきたものだから。


「……はっ。結局、俺は向こうでも、こっちでも、与えられたものの価値も解らず、甘受して、不平不満を零しているだけの子どもだったってことだ」


 思わず自嘲の笑みが零れた。

 そんな俺に、ラールは小さく首を横に振った。


「うん。そうだね。

 でも、子どもであるうちは、それでいいとマリカちゃんは言ってたよ。

 愛情や豊かさに包まれて、自分を育てるのが子どもの仕事だって」

「マリカ皇女……が?」

「地球の、ティエイラの記憶と知識があるんだってさ。

 だから彼女は、本当に骨の髄まで保育士で、子ども達を守る。

 そのために特化している」

「……彼女も、能力者なんだよな」

「能力者同士の子どもだって聞いた。

 親の意思を、知ってか知らずか受け継いで。

 アースガイアに現代食や科学を復活させ、『神々』の代理人として人々を導き、仲間と共にコスモプランダーまで倒した。

 この星の子ども達を守るために、小さな身体で全力疾走してきた頑張り屋さん。

 俺達より、ずっと大人だよ」


 食堂で遠巻きに見た姿を思い出す。

 小柄で細身で、アマンダよりも小さな女の子。

 あの少女が、アースガイアを導いてきたのか。


「この星を守る『神々』は、『能力者』達が生身の身体を捨てた姿だ。

 僕達は何も知らず、眠っていただけだけど。

 子ども達を守り、この星を見つけ、何も無いところから新しい文化を作り上げるなんて、どれほど大変だったんだろうね」


 遠い記憶が蘇る。

 移民のためにオーストラリアへ避難した時、遠巻きに見た『能力者』達。


 警備が厳しく、話をするどころか、近付くことさえできなかった。

 けれど、星の命運を背負わされた彼らのうち何人かは、自分達と変わらない子どもに見えた。

 あの時は、どうして彼らだけに戦う力があるのかと、羨ましく思ったものだ。


 けれど、もし自分がその立場に立たされたとしたら。

 同じことができただろうか?

 永劫の時を、ただ自分ではない誰かのために捧げることが。

 子ども達を守る。

 そのためだけに、生き続けることが。


「別に、そこまで深く意識して決めたことじゃないけれど。

 だから俺は、俺なりにマリカちゃんや彼らを助けて、この星に地球文化を取り戻す手伝いをすると決めたんだ」


 遠い昔、マンガやアニメ、パソコンにしか興味がない、典型的なgeekだと侮っていた同級生。


 そいつが見せた強い眼差しに、息が詰まった。

 まるで、長い、長い間、自分の知らない世界を見続けてきたような、遠い大人の目に思える。

 正直に言って、素直に悔しい。

 今はもう届かない、遠くへ行ってしまった仲間達のように。

 たった一人残った同胞にさえ、置いていかれそうで。


「生意気言ってるな。ラールのくせに」

「ああ、俺は……いや、僕はラール・スチュワート。

 アースガイアの図書館長にして、精霊国エルトゥリアの貴族だ。

 君は、どうなんだい?

 このまま名も無き子どもAで終わるつもりなら、構わないけど」

「ふざけんな! 今に見てろ!

 すぐにお前なんかに追い付いて、追い越してやる!

 お前やアマンダ、ミオル達にできたことが、俺にできない筈なんてないんだからな!」


 クッキーを口の中へ放り込み、ガチャン、とテーブルを叩いて立ち上がった。

 その拍子にグラスが揺れ、落ちそうになる。

 慌てて押さえ、事なきを得た。

 向こうでなら、一ドルも出さずにいくらでも買えたガラスのコップも、今のこの世界では貴重品だと知っている。


 俺達に支給されているのは、木のマグカップ。

 それが、今の俺と奴との差だ。

 グラスを元に戻して立ち上がり、奴に背を向ける。


「帰る」

「了解。そろそろ門限の時間だもんね。

 またいつでもどうぞ。愚痴くらいなら、いつでも聞いてあげるよ」

「うるせえ! 貴様はせいぜい、図書館の中でちまちまやっていればいい。

 それがお似合いだ!

 俺は絶対、その上に行ってやる!」

「当てにしないで待ってる。頑張ってね、エド」


 バタン! と、わざと音を立てて扉を閉め、俺は建物の外へ出た。


 途中で、お代わりの茶でも持って来たのだろうか。

 奴の幼い妻とすれ違ったが、声をかける余裕は、今は無い。


 今日はサボってしまったが、明日からはクラージュ師の訓練に参加して、剣術を正式に学ぼう。

 魔術とやらも勉強する。


 そしていつか、この星を守ることができる戦士。

 いや、大人になるのだ。

 地球の大人達から託され、仲間や同胞達が築き上げてきたアースガイアを守れる男になる。

 そのための第一歩を、俺はこの日、踏み出した。


 そして、これは地球移民の青年と、幼い妻の会話。


「ラールさん。随分、楽しそうな顔をしていますね」

「そうかな? 顔に出したつもりは無かったんだけど」

「あの人、貴族か何かだったんですか? 随分、ラールさんに上から目線でしたけど」

「聞いてたのかい?

 一応、友達。

 貴族と平民みたいな明確な差があったわけじゃないんだけど、うーん、クラスカーストの上位と下位。

 危害を加えられたりはしなかったけど、見下される立場ではあったかな?」

「ラールさんを見下すなんて!


 苦手とか、嫌とかじゃなかったんですか?

 追い払っちゃえばいいのに」

「苦手ではあったけれど、今は懐かしさが勝るっていうか。

 彼も言ってたけど、僕の方が立場が上になったからかもしれないね。

 異世界転生ざまあ、ってやつ?」

「ざまあ?」

「いや、こっちの話。

 それに僕にとっても、懐かしい昔の話や、もういない友人達のことを語り合える、数少ない相手だから」


 今となっては、もう遠い昔。

 覚醒した頃のことを思い出す。

 同期であり、同級生でもあったミオルと共に目覚めたのは、奇跡的だった。


 当時は自分がミオルに、よく今日のエドと同じ立場で愚痴を零していたものだ。

 成績優秀ではあったけれど、アフリカ系移民の子として見下されていたミオルは、外見も移民の血も関係ないアースガイアで期待され、重責を任された。


 そして、託された仕事の最中に死んだ。

 勇者の仲間として旅をし、最後には友を守るため、自ら命を捧げたと聞く。

 いつも人の顔色を窺っていたミオルが、自分の意思で選択した結果であるのなら、尊重してやりたいと思う。


 けれど。

 もしも。

 もしも、自分が逃げ出さず、大神殿に居続けていれば。


 奴を一人にせず、話を聞いてやっていたら。


 彼の決意を。

 死の運命を、変えてやることはできたのだろうか?


 もしもや、ればたらに意味は無いと解っているけれど。

 異世界で初めて得た『親友』に、ミオルが救われていたらいい。

 自分の選択を、後悔していなければいいと思う。


 そして、(エド)も。


「頑張ってほしいと思ってるよ。

 大事な、友達だからね」




 後に、目覚めた地球移民の何人かは頭角を現し、武術に、科学に、文化に、そして後世へ広がるスポーツに、その名を残すことになる。


 その中に、エドアルドの名があったかどうかは定かではない。

 ただ、移民達の多くは新しい環境に腐ることなく、そこへ根付き、やがて花を咲かせた。

 それだけは、確かな事実である。


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