魔王城 地球移民の子ども達 5
エルトゥリアにできた『神の子ども』、地球移民達の現状確認の続き。
見学の後、お祖父様や他の指導者も交えて色々と話し合った。
学校に通い、自由行動を許されている子どもは、大体四歳~五歳から。
その下、さすがに二~四歳の子には本格的な農作業は難しいし危ないので、中央エリアに向こうの世界の保育園のような場所を作って面倒を見ている。今のところは大体二十人弱。
第一陣として覚醒した子ども達の約〇・五%、五十人くらいが該当年齢なのだけれど、中でも小さい子、記憶が無いとはっきりした子は里親に出したり、各国の孤児院に預けたりしているそうだ。
「幼子達には親の愛情が必要だと判断いたしまして。
里親の選定には王族の権限を活用して、細心の注意を払っておりますので、その点についてはご安心ください」
「助かります」
とは、フリュッスカイトのナターティア様のお言葉。
この方自身、四人の男子を育てた母親だから、とりあえず信用しても良いだろう。
だから、ここにいるのは兄弟がいて、引き離せない子が中心。
夜も目が離せないから、保育園で寝泊まりもしているんだって。生活習慣がちゃんと身に付いたら、共同体に入っていくことになる。
四~五歳になると話も解るし、仕事もできる。
草むしりとか、収穫してきた野菜を並べるとかはできるので、無理のない範囲でできることを割り振る。自分達の仕事が役に立っていると、子ども達も喜ぶし頑張るから。
ただ、このくらいの年頃はまだ、自由にしていいと言っても何をしたいか解らないところがあるので、自由活動の時間も、自立している子ども達より多めの世話役がついて、遊び方や体験をサポートしているそうだ。木工とか料理とか色々。かるたとか積み木とかを使って。
シュライフェ商会に作って貰ったぬいぐるみや人形は、こちらの世界でも人気らしいとのこと。
乳児院兼、幼稚園というか、児童館みたいな感じ?
砂遊びや、ごっこ遊びの為の遊具も揃えてあるので、遊びを通し、生活の真似をしながら訓練をしていく。
人生に必要なことは全て砂場で学ぶ。なんて言葉が向こうの世界ではあったくらいに、砂場やままごとは重要。
モノを作る楽しさ、工夫する面白さ、友達と道具を貸し借りする社会性。力を合わせて同じことをする協調性と達成感などなど、いろんなことを学んでいく。
ちなみに男の子も、女の子も十歳くらいまでの子は、けっこう一緒に遊んだりしている。
そういう姿を見ていると、子どもの本質は何年、何十年経とうとも、何処に行こうとも変わらないんだなって思う。
掃除や片付けは、基本的には子ども達が行う。自分が使ったものは自分で片付ける。
大人もサポートするけれど。
エルトゥリアでは、個人の品物って衣料品以外は無くって。おもちゃも学用品も、自分で頑張って購入しない限りは共通資産。不自由はしないけれど、自分のものじゃないから、丁寧に扱わないと次の時には使えない。
そうなると人間って不思議なもので、物を丁寧に扱うようになるみたいだ。
特に苦労してコインを貯めて自分のものを購入した子は、愛着を持って道具に接している。
まあ、自分のものじゃないからって、共同遊具を荒く扱う子もいるけどね。
仕事と学習以外の自由は担保されているが、十二歳以上の子達に関しては、自分の進路について考えるようにも指導されているんだって。さっきの食堂での会話は、その関係があるから出てきた悩みだと思う。
不老不死世のせいで、七国全体に子どもは少ないけれど、中世では十二歳なんて立派な働き手の一人としてみなされて、大人に混じって働くのが普通だ。良くも悪くも。
ゲシュマック商会でマネージャーをしていた私は例外だけど、リオンは騎士団の一員として貴族になっていたし、フェイも魔術師をしてたし、アルはゲシュマック商会の部門長だし。
不老不死前の時代には、親同士が決めた結婚をする子も少なくなかったそうだ。
子どもの人権はだいぶ取り戻してきたつもりだけれど、子どもも大事な社会を構成する一員で、戦力だからね。そこはまあ、まだ仕方ない。
その代わり、可能な限り、職業選択の自由を与えてあげられるようにしてほしいと願っている。
「子ども達の希望を元に、新しい産業を興していくのはありだと思いますわ。
不老不死時代は、あまりにも長く同じ日々が続くので退屈してしまい、逆に伸びなかった『人を楽しませる』産業。
印刷、出版。演劇、音楽、芸術などには力を入れていきたいところです」
「他に伸びしろが高そうなのは『生活を豊かにする』産業ですかな? 飲食と工業。
新しい味、新しい道具の発明・発見などに、『神の世界』を知る子ども達の知恵や発想は求められることでしょう」
エルディランドは農業国だから、少しでも苛酷な農作業を楽にすべく、ヒンメルヴェルエクトと一緒に共同開発研究を進めているのだそうだ。
「歌手を目指したい子には、この世界の音楽を教えてからグローブ座に預けるとか。
小説家を目指したい子には、印刷業を行っているクリーニチカ商会に就職を斡旋して、書物販売を学んでから小説を書いてもらうとか、どうでしょうか?」
「国会図書館の手伝いをしながら、向こうの世界の小説を翻訳していく、とかもありだな。
ただ、まだ民に『本を読む』という習慣があまりない。ラールにマンガというものも見せて貰ったが、絵から情報を読み解く能力が無いと、逆に理解が難しいな。『神の世界』の常識で描かれてもいるし」
「あ~。なるほど。そういう問題が……」
「どの分野も人手不足ではある。
子ども達は今後、引く手あまただろう。
希望に沿いつつ、この世界の文化をどう豊かにしていくか、できるか。考えていきたいものだ」
人の生活に関わる産業は今後、伸びていくことが間違いないのだけれど、逆に斜陽が決まっている分野もある。
「騎士や剣士を目指す子達は、今はまだ体力作りから始めているところです。長年の冷凍睡眠で体力が衰えていますし、スポーツをするための身体と、戦うための身体はまた別のモノですからね」
それは、騎士や戦士といった軍事産業。
精霊神様達がにらみを利かせているので、国同士の戦争は基本的には今後、発生しない筈だ。
特に外敵コスモプランダーの脅威は消滅した。
魔性も魔王も、今までのように積極的に人や精霊を傷つけることは無くなる。
そういえば、エリクスは魔王を退いたようだけれど、今は何をしているのかな?
後で『神』に確認してみよう。
軍事産業は無論、無いに越したことはないのだけれど、それに命を賭けてきた人達を知っているからね。少し心配。
「今後、魔性が緩やかに消えていったら、戦士や騎士、剣士などの役割も終わっていきませんか?」
私の疑問に、生粋の戦士の一人であるクラージュさんは小さく肩を竦めた。
彼は今、地球移民の希望者に剣道や、戦士としての戦い方などを教えている。
クラージュ先生、の名の通り。
男の子達って、自分の憧れの分野の第一人者には、日常を面倒見てくれる保育士や学校の先生より、尊敬の目を向けることが多いんだよね。カリスマってやつ?
「獣による被害は少ないですが、災害支援や復興の助力もありますし、盗賊などの無頼の輩は、太平の世であれいなくはなりませんので、すぐにお役御免となることはないと思います」
「確かに警察などは、何時の世も無くなりませんよね」
「はい。それに、いかに相手が信用できるとしても、武力を完全に放棄するのは得策では無いですから」
「そうですか?」
「はい。例えば、全ての国が戦力を放棄したのを見計らって、一国が世界征服を企てる、なんてこともあり得ますし」
「『神々』の怒りを買うと解っていても、そんなことをする王族、います?」
「調停役である神殿もある。実際に行おうとする王族はいないであろう」
「お祖父様」
「だが、『神々』に深い敬意を示す王族ではなく、自分に妙に自信のある大貴族がやってこないとは限らぬ。不老不死時代であっても、王族を軽んじて考える者はいた故な」
「あー、いましたね。プラーミァなどは特に」
お祖父様の言葉に、私は七国時代を思い出す。
アルケディウスは、そこまであからさまな人はいなかったけれど、他国には王族に対して色々と意見を言ってくる大貴族はいた。少しでも甘い汁を吸おうとする輩が。
「代替わりした直後は、特に侮られがちだ。ケントニスの手並み拝見、だな」
「お祖父様、ちょっと冷たくないです?」
「あれは、そこまで無能ではない。支える者もいるし、『精霊神』様や王の杖の加護もある。
心配はいらぬだろう」
「でも、王家には『神々』の守護があるのに、そこまで侮ってきますかね?」
「人は火の便利さは知っていても、己が身体を焼かれぬ限りは、なかなかその熱さ、恐ろしさには気付けぬものだ」
「それに、相手を信頼するためにも、相手を疑うことは大事です。
『神々』の威光をお借りするのは最後の手段。
人が解決できる問題は、人の手で処理すべきですから」
「そうですね」
永い不老不死世でも、剣を捨てず、鍛錬を続けてきた戦士、剣士も多い。
彼らの拠り所を奪う訳にもいかない。
護衛や、犯罪者の取り締まり、獣や災害からの守りなど。
抑止力としての戦力は、今後も必要とされていくのだろう。
緩やかに形を変えていくとしても。
「個人的には、アルケディウスの騎士試験のような戦いをオリンピック的にやってはどうかと思いますが、それはもう少し戦後の世界が安定してからの話になりますね」
「はい」
「力は重要です。力の無い者の声は、いつでも届くことなく潰されてしまう。
けれど、誰もが力を手に入れられるわけではないですから。
彼らの声を、思いを守るためにも、正しく振るわれる力。
希望は必要なのです」
あれだけの星の危機、民の総力を挙げた戦だったにも関わらず、火事場泥棒などは出ていたという。哀しいことに、悪事を為す人は何時の世も消えることはない。
ならば、それから人を守る騎士や戦士も残り続けるべきなのだろう。
「『神の子ども達』は、その希望になれそうですか?」
「見込みがある子は多いですよ。後は本人の努力と、気持ちの切り替えですね」
「気持ちの切り替え?」
「はい。今までは、法や親、社会に守られていた。
でも、これからは守られるのではなく、自分が大切なものを、大切な者を守るのだ、という思いを持つことができれば、きっと『子ども達』は強い、本当の意味での戦士になることでしょう」
騎士に、戦士になりたいと、目を輝かせた子ども達を思い出す。
実際に戦士の道を選ばなくても、彼らがこの世界で、守りたいものを見つけてほしい。
そして、それを守りきれる力と、心の強さも身につけてほしい。
どんな世界で、何の仕事をしても、大事なこと。
身体は弱くても、心の強さは持とうと思えば誰でも持てる。
それは新しい世界を生きる子ども達の、きっと力になってくれるだろうから。
「すみませんが、私はまた明日から暫く、七国巡りやその他の仕事で、こっちには来られなくなると思います。子ども達をよろしくお願いしますね」
「お任せください。それこそが片桐海斗の願いであり、本懐です」
深く頭を下げた私に、クラージュさんは笑う。
今となっては偽物であると解っていても、同じ経験と思いを分け合う彼は、たった一人の同志だ。頼りにしている。
「任せられることは我らに任せ、其方は其方の為すべきことを行うがいい」
「ありがとうございます。お祖父様」
信頼できる大人達に子ども達を託して、私はまた仕事に向かう。
世界の環境整備という、保育士の仕事に。




