魔王城 地球移民の子ども達 4
見学中、体調を崩してしまった私は、アルケディウスの一区画の食堂にお邪魔していた。
軽いお茶休憩だけのつもりだったのだけれども、丁度夕ご飯が始まる時間だったらしく
「え? クラージュ先生が女の子連れてきた? 奥さん?」
「私は違いますよ。奥さんはこちら」
「マリカ様!」
「マリカ様って、コスモプランダーやっつけた大神官様?」
「うわー、本物がキタ~」
「クラージュ先生の奥さんも可愛い!」
少しずつ集まって来ていた子ども達が私達に気付いて、あっという間に大騒ぎになってしまった。クラージュさんと世話役さんが間に入ってくれたので、もみくちゃにされるようなことは幸い、無かったのだけれども。
テーブルを一つお借りして、そこで挨拶を受けるような感じにした。
周囲には話を聞きつけた子ども達や、大人の世話役達も集まって来て。
五歳くらいから十八歳までの子ども達が、周囲を取り囲み、キラキラした目で私を見ている。
またもなんかアイドルとの交流会のようだ。
「マリカ様って、アルケディウスの皇女様なんでしょう?」
「はい。そういうことになっています」
「でも地球の真理香様とよく似てる気がする」
「写真で見たティエイラより、美人だけど」
うーん、嬉しいような複雑なような。
地球時代の真理香先生は、ごく普通の外見の女性だったからね。
『精霊』になってから外見は同じパーツでも、磨き上げられたような感じで綺麗になっておられたけれど。あれはデフォルトなのか。女心なのか?
『精霊神』様や『神』『星』様達は詳しく教えてくれなかった、というか知らなかったのかもしれないけれど、地球時代。
生き残った人類は、コスモプランダーの力を奪い取り、人々を守る『能力者』を地球の希望。ヒーローのように扱っていたようだ。
子ども達の様子からすると、リアル特撮戦隊かウルトラマンかって感じ。
「『能力者』がいるから大丈夫」
「地球は簡単に滅びない」
そんな希望を子ども達に伝えて、一種の戦時下を耐えていたらしい。
特に記憶の残っている子は真理香先生、ティエイラを地球に防御壁を貼って守ってくれた恩人として知っている子が多かった。
地球のお偉いさん達も『能力者』をただの道具として見たり、扱ったりはしていなかったのだということが解ってちょっと嬉しい。
「地球の真理香様は、私のお母さんなので似ているかもしれませんね」
隠したり、否定する事ではないのでそこは肯定しておく。
別の所でもはっきり言っちゃったし。
「え? でも……」
「生まれ変わり、とか転生のようなものだと思っておいて下さい。
私は地球の記憶も持っていますから」
「転生? 真理香様が、アースガイアに生まれ変わったとか?」
「本人では無いですが。
私は真理香様と能力者の子、なんです」
「真理香先生の子どもが、アースガイアに生まれた、とか?」
「はい。そんな感じです。これ以上はないしょ、ということで」
アルケディウスのお父様とお母様の娘であることは否定したくないので、詳しい所は濁して、唇に指一本&にっこり。
お姫様オーラで、シャットアウトする。
「あと、私の旦那様のリオンは『神』と『星』の子なんですよ。
彼とアースガイアの人達が力を合わせたので、コスモプランダーは倒しました。
ですから、皆さんのこれからを脅かす者はいませんから心配なく……」
「え? マリカ様結婚しているの?」
私がそう口にすると、周囲の子ども達の目に驚愕が浮かぶ。
コスモプランダー討伐の話を聞かれるかと思ったのに気になるの、そっち?
「ええ、お腹の中に子どももいます。
今、五か月くらいでしょうか?」
「私と同じくらいの年なのに……」
「お姫様も結婚するんだ」
なんか、ちょっと意外、って感じで私を見る子が多い。年長の子は私より年上だしね。
「大好きな人と、結ばれて、未来を繋ぐのは、幸せであり、希望、ですからね。
能力者も人も、精霊も、異世界も別の星も。それは変わりませんよ」
結婚や妊娠・出産が生きる全てではもちろんないけれどそれが一つの幸せの形であることは確か。私はお腹に両手を当てながら大事に頷いた。
「じゃ、じゃあ、私達も結婚していい? できる? この星で」
身を乗り出すように問いかけて来る女の子に私は目を瞬かせた。十五歳くらい。
私と年齢的にはそう大差無さそうな金髪の少女だ。
「勿論。この星の人達の先祖は、皆さんと同じ地球移民です。種も同じですから何の心配もありませんよ。一緒の船で来た地球移民と結婚するのもありですし」
「そっか。よかった~。地球では、ナノマシンウイルスが子どもにどんな影響を齎すか解らないから、子どもは作らない方がいいかも、なんて言われてたから」
「…………そうなんですか。大変でしたね」
昔の事を思い出してか、少し寂しそうに微笑む少女。
宇宙人の襲来、地球規模の大気汚染、未知のウイルスの蔓延は、少女の心に深い傷を残したのだ。
数百年、いや千年の彼方の異星にまで続く……。
予想外の事態と恐怖に必死に対応していた当時の大人達を責めたくはないけれど、きっと不安で眠れない夜もあったことだろう。
「でも、心配しないで下さい。
皆さんの未来にもう『やってはいけないこと』は、自分と他の存在に傷をつけること以外は何もないのですから」
だからこそ、私はそんな不安を吹き飛ばすように微笑む。
子どもの不安や、悩みを払うのは保育士の仕事だ。
「この星で、皆さんは何でもできます。頑張れば、地球の文化を再生させることもできます。そういう動きも今はあります。
だから、今は自分の目指す未来を見つけ、その為に力を付けて下さいね。
私も、私達も応援します」
「じゃあ、さ。私、歌手になれるかな? 夢だったんだけど。歌やダンスでみんなを喜ばせること!」
目を輝かせるさっきの少女に、私は大きく頷いて見せる。
「地球と同じ形ではないかもしれないですけど、できると思いますよ。
吟遊詩人として楽器を学んでみたり、踊り子として向こうのダンスをアレンジして皆に見せてみるのはどうでしょう? 劇団はこの世界にもいくつかあって、旅芸人と侮るなかれ。なかなかの人気です。
あと、地球で歌手として活躍していたマルガレーテ様は、今、七国の一つの公子妃様で音楽教育に力を入れていますよ」
「わあっ! それ、いいなあ」
私の少女へのアドバイスを聞きつけてか、少年もおずおずと前に出て来る。
「僕は……野球の選手になりたかったんだけど、無理だよね」
「無理じゃないですよ。遊び道具にゴムボール、ありましたでしょう? サッカーは最近アースガイアでも再生されて、人気が出てきていますし。それに比べると野球は道具や場所、人集めが大変なので、時間はかかるかもしれませんがいつか、復活させられると思います」
「小説家とかは? 難しい?」
「本人の実力次第、でしょうか。印刷技術、製紙技術もありますから。
勇者伝説は文字が読める層に娯楽として人気です。舞台を小説にして出版する作家もいます。
逆もあり。さっきも言いましたが、オリジナルの話を作って、舞台劇に仕立てる劇作家の中には王宮に招かれた人もいて。
人々に受け入れられる小説が書ければ、というのは向こうの世界と同じですよ」
「あの……宇宙飛行士、は?」
「皆さんも冷凍睡眠で、とは言え宇宙を旅してきたわけですし、私達もコスモプランダーを宇宙で倒しました。『ノア』は役目を終えたので、今は使えませんが自分達の力と努力で新しく作れば、宇宙に飛び出すことだってきっとできます」
地球からの夢を継続して持っている子が多いけれど、
「俺は、せっかく中世異世界に来たんだから、騎士になりたいな。クラージュ先生みたいに、剣で悪い連中をやっつけたい!」
「私、魔法使ってみたいな。そうして世界を旅するの!」
「この世界にも洋服屋さんとかある? 私、デザイナーになりたかった。
ステキなお姫様のドレスとか作ってみたい!」
異世界ならではの夢を持っている子もいるようだ。
デザイナーになりたい、と言った女の子は制服の胸元に綺麗なバラの花を刺繍している。
子ども達の服は基本的に制服だけど、中には着方をアレンジしている子もいてスカートが短かったり、腕まくりしていたり。リボンやスカーフ、彼女以外に刺繍で服を飾っている子もちらほら見受けられる。夢も、個性も人それぞれということだろう。
「こら。そんなに一気に言われても、マリカ様が困るだろう?」
「いいですよ。私ができることなら相談に乗ります。順番に、でいいですか?」
数千年越しの夢。新しい夢。
その夜、私はそんなたくさんの夢を抱える子ども達と話し合いながら、彼らの願いをどうすれば叶えられるかを一緒に考えて過ごした。




