魔王城 地球移民の子ども達 1
ラールさんとエリセの話の区切りがついた後、私はエルトゥリアの城下町に足を向けた。
今まで、ずっと気になってはいたのだけれど、機会が無かったから。
今、目覚めている『神の子ども』地球移民の子達は千人強くらいだと聞いた。
この移民地が正式に運用を始めたのは、コスモプランダー撃滅以来からだから約三ヶ月くらい。まだ九万人の子が眠っている状態なので多いとは言えないが、少ないとは言い切れない。実際に見てみたいと思ったのだ。
何か所かある学校のような場所の一つに案内してもらった。
丁度、午前中の野外での栽培作業が終わり、勉強の時間だった様子。
大きな貴族館のような場所に集まって勉強をしていた子ども達は、突然の来客にビックリしている。
「こ、これは! マリカ様!」
「勉強の邪魔をしてごめんなさい。
少しだけ、ご挨拶をしてもいいでしょうか?」
私を見止めて、膝を折る教師役の人達を手で軽く制して子ども達の前に立つと
「初めまして。地球移民の皆さん。アースガイアへようこそ」
目を丸くする子ども達に挨拶をした。
令嬢らしく、皇女らしく、優雅に、できるだけ美しくお辞儀をする。
「あなたが……マリカさま?」
「はい。そうです。私のことを聞いているのですか?」
「あ! こら、バカ止めろ! お姫様だぞ!」
たまたま、後ろの方にいたおかげで、私の近くになった男の子の一人が丸い目をさらに大きくして、私の服を引いた。
年長で、多分リーダーっぽい子が止めようとしてくるけれど、「大丈夫」と笑って、近寄ってきてくれた子の手を握る。小学校低学年っぽいな。
「ちきゅーの『真理香様』みたい」
その言葉に少し意外に思いながらも、嬉しい気持ちも感じた。
『能力者』達のことを、恩人としてちゃんと教わっているのか。
「貴方は地球の記憶があるのですね。地球の真理香様は私のお母さんなので、似ているかもしれませんね」
「お母さん? じゃあ、マリカ様も能力者なの? 僕達を守ってくれる?」
「はい。コスモプランダーはもうやっつけたので、この星には貴方達を脅かすものは誰もいませんけど。いたとしても、『精霊神様』達も『神』も、そして大人達もみんな、貴方達を守りますから」
優しく頭をなでなで。
すると近寄ってきた男の子も、止めようとしていた男の子(こっちは中学生くらいかな?)も、他の子ども達もみんな安堵したようだ。
ホッとしたような笑みを浮かべている。
「皆さんにとっては、いきなり知らない外国に連れてこられたようなもので、大変かと思いますけれど、この星で、皆さんはきっと何でもできます。だから、今は心と体を休め、勉強をして、自分が何をしたいか考えて、力を蓄えて下さい。
私達は、皆さんのやりたいことを応援しますから」
わあっ!
子ども達から炭酸水の泡のような、明るく爽やかな喜びが弾ける。
それから、子ども達が皆、私の方に集まって来た。
「マリカ様。私にも頭なでなでしてくれる?」
「僕にも!」
「いいですよ。でも、私の身体は一つしかないので、順番に並んで貰ってもいいですか?」
「マリカ様は、妊娠なさっておいでなので乱暴にされたり、ぶつかったりされると体に障る。丁寧に挨拶できると約束できる者は並ぶがいい」
「小さい子から先にお願いします。年長の者は先に譲ってやれるな?」
カマラが止めてくれると、子ども達はみんな、素直に応じて並んでくれた。
世話役の言葉に従い、小さい子達が先に前へ出てくる。
優しい。
「マリカ様! ぼくはアレックスっていうんだ!」
「私は、ミオ。日本人よ」
「そう。何か困ったことがあったら、いつでも周りの大人を頼って下さいね」
一人一人に声をかけながら、頭を撫でたり握手したり。
なんだかアイドルの握手会みたいだなあ、とちょっと思う。
「うわ~、凄い。本物の女騎士だ。剣持ってる」
「ねえねえ、お姉さん。その剣見せて!」
「まほーできる?」
気が付けば、カマラも子ども達に取り囲まれている。
現代の記憶を持つ子ども達は、本物の騎士や剣士に興味津々なのかも。
「え? あ、その剣は危ないからダメだけど……。マリカ様。どうしましょう?」
「魔法ちょっとくらいならいいんじゃない?」
「解りました」
チェルケスカの胸飾りから、水の小瓶を出したカマラが蓋を開けて呪文を唱えると、室内にぱあっと水のしぶきが霧のように散っていく。部屋中に雪か霧が降ったみたいでとても綺麗だ。
子ども達も
「すげえ!」「ホントのまほーだ」「俺達にもできるようになるかな?」
って歓声を上げながら見ている。凄く嬉しそう。
「ここは、精霊の力が生きる世界です。
多分、皆さんも頑張れば精霊の杖と契約して、魔法が使えるようになるかもしれませんね」
「俺、魔法使ってみたいな!」
「私、カマラさんみたいな騎士になりたい」
「私みたいに?」
「騎士になるのにはどうしたらいいの?」
「俺達も騎士になれる?」
「えっと、それは……」
思わぬ形で子ども達の新しいアイドルになったカマラは少しびっくりしながらも満更でもない様子だ。集まってくる子ども達と丁寧に話をしてくれていた。
「マリカ様がおいでになって下さったおかげで、子ども達にも良い目標ができたようですな」
「勉強の邪魔をしてしまったのなら、すみません」
世話役の一人の男性が、声をかけてきたので私は頭を下げるけれど、「いやいや」と、彼は首を横に振った。
「ここにいる子ども達は、まだ目覚めて二週間ほど。
新しい生活に戸惑っているところでしたから、マリカ様というこの星でも最高位に近い存在であるマリカ様を見て、良い目標ができたのではないかと思います」
「目標、ですか?」
「はい」
初老の男性はエルディランドで昔、学び舎の教師をしていたそうだ。
かつての経験を見込んでホワンディオ様がここに引き抜いてきたのだとか。
「『神の国』の子ども達はこの世界の言葉や基礎知識を、あらかじめ授けて下さっているので、基礎学習などはあまり意味がありません。
学業の面でも、半数以上の子は我々から見てかなり高度な教育を受けており、こちらが教わることの方が多いくらいです。
ですから、ここで教えられるのは、新しい国、新しい世界でどう生きるか。何をしたいのかを見つけるための道筋くらいです。
そこで出会った、マリカ様という最高位の輝きは今後、今までとは違う国、世界で生きる彼らの道しるべとなることでしょう」
そっか。何にもモデルがない状態で、何かをやれっていうのは子どもには難しいよね。
流石、元先生。的確な判断だ。
私も、真理香先生の記憶がなければ、きっと何をして良いか解らなかった。
憧れ、というかこうしたい、こうなりたいという目標があって。
そうして初めて、どうすればそうなれるか、って考えられるようになるのだ。
私が、そのモデルというのは、恐縮に過ぎるけれど。
例えば、向こうの世界で成功した人物が、母校などで講師をして体験を語るように。
全くの異世界に転生させられたような子ども達の、心の支えになるのなら、それはそれで、アリなのかもしれない。
「先生。
交代で各国の王子や騎士達に、ここに来て貰って色々と教えてもらうとか、どう思われますか?」
「それは、ありがたい話ですが、可能なのでしょうか?」
「今、七国は深刻な人手不足なので、優秀な人材を確保する機会になると伝えれば、協力して下さる方は多い気がします。子ども達の就職先を広げることにもなりますし」
「そういうことでしたら、ぜひご検討いただければ幸いです」
永い氷の眠りから目覚めた子ども達の未来。
それが少しでも早く、少しでも輝くように、私はできるだけのことをしていきたいな、と思ったのだった。
その後、案内を頼み、私は他の学校にも挨拶に回った。
どこでも大歓迎して貰えたのは有難くも嬉しい話だ。




