魔王城 新しい夫婦への祝福
皇女として、エリセの保護者として。
冷静に、表情を崩したりはしないつもりでいたけれど。
実はポーカーフェイスに隠した心の中は派手にときめいていた。
うわ~、うわ~。うわあ~~♪
なんだか、ドキドキする。
人のプロポーズを目の前で見たのは初めて。違う。
フェイの時とこれで二回目だ。
お祖父様や、ナターティア様。ホワンディオ様やお母様達も凄く、楽しいモノを見る眼差しで二人を見つめている。
暫くの間、腕の中のエリセの温もりと愛らしさ、そして幸せを堪能していたらしいラールさんだけれど、我に返った後は、スッと身を返し膝を付いた。
未来の妻の右手を、しっかりと握りしめて。
「マリカちゃん、じゃなかった。皇女。
その……エリセちゃんの保護者にして家族である、貴女にお願いいたします。
エリセちゃんと、結婚する許可を頂けませんか?」
「覚悟は決まったのですか? ラールさん?」
「正直、完全に決まった。と胸を張ることはできません。
Chicken、と笑って頂いても構いません。
今も心臓バクバクいっていて、これでいいのか、良かったのか。悩んでいます」
「!」
本当に正直なラールさん。
一瞬、エリセが目を見開き不安げな表情を見せたけれど、直ぐに落ち着いて彼の隣から私を見る。ぎゅっと、今も握りしめられている手から、思いが伝わったのだろう。
彼の、海のような瞳にも言葉でいう程の弱さや迷いはない。
「ですが、女の子にここまで言って貰って、それで断ったら男が廃ります。
俺は、俺にできる全てでエリセちゃんを大切にして、守りますから!」
「マリカ姉! 私、ラールさんと結婚する!
止めないで! ダメだって言っても聞かないからね」
「言わないよ。さっきも言ったでしょ。二人の気持ちが決まっているなら反対はしないって」
「ホント?」
「うん。止めないし、二人の結婚を祝福する。
式はフェイの時みたいに、私が司式してもいいかな?」
「やった! 勿論、いいよ」
ある意味、ラールさんよりもはっきりと。強い決意に目を輝かせるエリセに、私は頷き答えた。
「大神官にして精霊女神御自らの祝福とは。果報者だ。
王族ですらなかなか得られぬ栄光であろうに」
「あの少女は、マリカにとっては孤児だったころから共に育って妹のように可愛がっている存在なのです。ラールもゲシュマック商会で働いていた頃からのなじみです。
多少、贔屓が過ぎるとは思いますが、まあ、あまり派手にしなければ良いでしょう」
ホワンディオ様と、お祖父様が顔を見合わせて笑う。
ここまでお互いの気持ちが固まっているのなら、これ以上の横やりは野暮に過ぎるからね。
それに、エリセとラールさんが結婚して、家族になるのだとしたら。
私にとってはお祖父様が言った通り、どっちも大事な人。
かなり嬉しい。
「じゃあ、ゲシュマック商会辞めてもいいかな?」
「それは、ガルフと相談してからね。
でも、ラールさんはゲシュマック商会に籍を置いたまま図書館の仕事をしているから、多分、ガルフは無理に辞めなくてもいいって言うんじゃないかな?
エリセの魔術に助けて欲しい時もあるだろうし」
「そっか……。いきなりだと迷惑かけちゃうかな?」
「結婚して、大人になるんなら、周りの事も良く考えて行動できるようにしようね」
ププッ、と私の背後で吹きだすような笑い声が聞こえた。
多分、お母様とお祖父様だ。
フーンだ。解ってますよ~。
自分の事を思いっきり、棚の上に置いたブーメランだってことくらい。
でも、妹の前だもん。少しはカッコつけないと。
「ラールさん」
私は改めてラールさんの方を見た。
今の私は皇女であると同時に、エリセの保護者でもある。
エリセには両親がいないから、私がしっかりと目を光らせておかないと。
「は、はい。マリカ皇女」
「エリセをお願いします。明るく見えて結構な寂しがりやですから。
私もリオンとの生活が始まって、以前ほど気にかけてあげられなくなっているし。
私の分まで、エリセを大切にして頂けると嬉しいです」
「必ずや!」
「それから、結婚は許可しますけれど、身体的なことはもう少し我慢して貰えますか?
エリセはまだ十二歳になったばかりですし。
正式な式と夫婦としての生活は、成人式まで待って下さい」
「解りました。流石に今のエリセちゃんに手を出すのは犯罪ですよね」
力強く頷くラールさんは頼もしいけれど、エリセはちょっと不服のようだ。
頬っぺたをリスのようにまん丸に膨らませている。
「え~。長すぎるよ。あと二年もある~~」
「だって、私もまだ結婚式してないし。
二年くらい待てない?」
「でも、早くマリカ姉とリオン兄や、フェイ兄とソレルティア様みたいに、ラールさんといちゃいちゃしたい」
「時間が経ったら、気持ちは薄れちゃうと思うの?」
でも、エリセの扱いには慣れている。拗ねた子どもの対応も。
「! 薄れないし、変わらないよ。私は四年間、ず~っとラールさんのことが好きだったんだから」
「エリセちゃん!」
純真で無垢なエリセの好意にラールさんの顔が真っ赤に染まる。
「なら、その間に色々と準備しよう。
ステキなお嫁さんになる為に、花嫁修業をしながらね。
ラールさんの義手も手配するし、そうだ。
頑張ったら、エリセにもステキな花嫁衣裳、作ってあげる」
「花嫁衣裳!
マリカ姉の舞ドレスや、ソレルティア様のドレスみたいなの?」
「そう。プリーツェなら、張り切って作ってくれると思う。二年あればじっくり布の準備とかもできるから、きっとステキなのができるよ」
「なら、我慢して待ってる! あ、そっか。
その間に頑張れば、私もマリカ姉みたいに胸もおっきくなるよね!
ラールさんを誘惑できるくらいに!」
「エリセ!」
ブッハ!!!
今度は部屋の中の皆が吹き出した。
はっきりと笑ってる人もいる。
あー、もう!
エリセには二年間の間に、もう少しレディとしての教育をした方がいいかも。
ラールさんの奥さんということはアースガイアの要職者の妻ってことになるから、各国王族とかと付き合う場面も増えて来るし。
今は、私の妹分。可愛い子どもで通るけれど、それにいつまでも甘えてもいられないよ。
大人になったら、色々と汚い世界もある。
でも。
六年前。魔王城に来た時はボロボロに傷ついて。
男性どころか人間不信だったエリセがこうして笑えるようになり、自分の伴侶を決めたのはとても喜ばしいことだ。
その後、ラールさんと改めて話し合い、レルギディオス様が持ってきた、国会図書館付属の職員寮で二人は新婚生活を始めることになった。
内部の家電などはリソースとして使われてしまったようだけれど、二人で一から家具やその他を選ぶのも新婚さんの楽しみの一つ、だよね。
二人は相当な給料を貯めている筈だし。
職員寮は、近代地球の大きなアパートのような建物だ。
今は二人だけだけれど、今後、職員とか留学生が増えたら寮に入りお隣さんになるかも。
そしてラールさんは終身雇用の国会図書館長。アルケディウスではなく『神』管轄の植民地エルトゥリアの貴族扱いとなる。身分保障は、しっかり整えておこう。
当面はアルケディウスの希望者や留学生に日本語指導を頼み、彼らが育ってきたら、図書の管理と翻訳に専念してもらうつもり。
「あまり新婚のところに入り浸るでないぞ。タートザッヘ」
「ですが、私が早めに神の国の言葉を覚えれば、新人の教育や翻訳などを手伝えるのではないですかな?」
「それも一理あるが……」
「コッカイトショカンに住み込めば、館長の面倒な仕事をかなり軽減して差し上げられる自信はありますが、それはまあおいおい」
タートザッヘ様は遠くない将来、国会図書館に住み込む気満々の様子だ。
因みにお祖父様は
「住み込まれたらタートザッヘは一生図書館から出てこない」
と渋い顔してたけれど。
みんなから祝福され、幸せそうな二人を私は、ほんの少しの寂寥感と共に黙って見つめていた。
娘を嫁に出す親の気持ちって、こんな感じなのかなあ?
いつか、お母様に聞いてみよう。




